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ニート姉貴の婚約を破棄させた話

作者: 上野篤

姉は新卒として一般企業に就職したが3ヶ月も経たないうちに辞めてしまった。そこから一度転職したがそこもすぐ辞め、無事ニートに降格した。

昼間は15時過ぎまで自分の部屋で寝ており、母親が仕事に行ったタイミングでリビングに降りてくる。夜は父親が仕事から帰ってくる22時前までに夜ご飯、入浴を足早に終わらせ、自分の部屋へ戻っていく。そんな生活を3年送っていたが、両親は仕事をしろと急かすこともなく、ご飯を与えている。母親から聞いた話によると姉自身欲しいものがあるとapple pay等の父親の口座から引き落とされる携帯決済を繰り返していたそうだ。無論父親が怒ることはない。両親にとって初めての子供であり、ましてや女の子だったため過保護に過保護に大切に育ててきたのだろう。

そんな風に育てられた姉は大学生の頃から常々、金持ちの商社マンや金持ちの不動産マンと結婚をして専業主婦になりたいと公言していた。楽して生きていきたいと公言していた。


ニート生活も2年に差し掛かる頃、姉に彼氏ができた。お相手は普通のサラリーマンだった。大企業でも小企業でもない普通の会社員だ。ニートに降格したから理想を低く設定したのだと思っていた。姉は毎週土曜日彼氏さんに会いに行くため電車で片道90分の小旅行を繰り返していた。土曜日だけは朝8時に起床し、気がついたら部屋のドアが換気のため開かれている。終電を逃すと家族からの信頼を失うため必ず夜までに帰ってくる。そんな生活を1年間送ったある日、父親と話すことを拒んでいた姉が父親の部屋へ入っていく。

「結婚を前提にお付き合いしている人が居るから会って欲しい」

過保護に過保護に育てて来た娘のこの提案には流石に怒ると思っていた。しかし父親は怒らなかった。怒れなかったのかもしれない。母親から聞いた話によると彼氏さんは某有名不動産の一人息子で、そんじゃそこらの金持ちとは違うらしい。親から15階建てコンシェルジュ付き高級タワーマンションの最上階と高級外車、高級腕時計を買い与えられ、何不自由なく暮らしているそうだ。結婚を反対する理由が見当たらない。両親も承諾し顔合わせの日程が決定した。


挨拶に来る日が近づくにつれ玄関や応接室が綺麗になっていく。僕以外の家族が盛り上がっている。墓穴を掘らないよう繕っている。挨拶当日は朝から忙しない。

「ごめんね汚くて。遠いのにわざわざありがとうね」

「何の取り柄もない娘やけどを宜しくお願いします」

父親の声音だけが耳に残る。娘の人生を明るくするため深々と頭を下げている。家族一同で不動産息子に媚を売っている。1時間程の談笑が終わり、近くのフランス料理屋へ行くそうだ。弟の僕を置いて4人で行くそうだ。今まで家族で行ったことない綺麗なご飯屋にギコギコしに行くそうだ。姉は箸の持ち方が汚く、幻滅される可能性が高く、箸を使わずに済むフランス料理屋をチョイスしたらしい。

こうして姉は無事ニートから金持ち専業主婦に大昇格した。

姉はフィクションにおける主役にでもなったかの様に、僕に向かって「あんたも早く金持ちになりや」と捨て台詞を吐き実家を後にした。僕は掌に爪痕を作りながら「婚約おめでとう。ありがとう」を送った。


あの言葉をきっかけに、僕はニート姉貴の婚約を破棄させる作戦を熟考した。姉は昔から男癖が悪かった。インターバルが短く取っ替え引っ替え家に彼氏が来ていた。結婚を目前にした今でも粗があると思い家族も知らない姉を調べ上げることに没頭した。姉がよく履く靴の中敷に小型のGPSを埋め込むほどだった。GPSを頼りに外出経路を記録したものの、特に目立った粗はなく、交通機関、映画館、百貨店、飲食店、等々誰もが日常から使用する場所を指していた。

自力での操作では進捗が無いと思い、探偵を雇うことにした。探偵調査がしばらく経った頃、iphoneに1枚の写真が送られて来た。そこには、ホテル街をバックに中年男性と腕を組む姉が写っていた。今更、パパ活ごときでは驚かない。というのも姉は大学生時代、パパ活にガールズバーにリフレといったカネになる仕事をなんの躊躇いもなくこなしていた。しかし写真に写る中年男性に違和感を覚えた。何処かで見たことがあった。



金持ち婚約相手の父親であった。この光景には流石に背筋が凍った。何が起こっているのか理解出来なかった。しかし、そうとした言いようがない。金持ち婚約相手のお父さんとも肉体関係を結んでいたのだ。それからまた、探偵から写真が送られてきた。ホテルに入っていく先ほどの二人の後ろ姿が、パラパラ漫画の様に送られてきた。姉は何が目的で結婚するのか余計に分からなくなった。


その後、両家族集まるご飯会が開かれた。良家で生まれ育った貫禄のある中年男性が、実は息子の婚約相手を寝取っているなんて、誰も想像出来やしない。ましてや、この中で一番の小童に噛みつかれるなんて知る由も無いだろう。ご飯会が終盤に差し掛かった頃、席を立つ。12個の目がこちらを見ている。中年男性の横に立ち、コンビニで事前にプリントアウトした写真を胸ポケットから差し出した。12個の目が写真へ移る。


「え。うん。何だこれは」

「写真です」

「そんなことを聞いてるんじゃない」

「どんな写真なのかも見れば分かりますよ」


「父さん。どういうこと」

「貴方説明して」

妻子が問いかける。

「これは。盗撮だろ。これ」

「僕カメラが趣味なもんで。たまたま映ってまして」

両親は呆然としている。僕に呆れていたのか、姉に呆れていたのか、分からなかったが、そんなことはどうでもいい。姉はこちらを睨んでいる。

「お前やっていいことと。悪いことがあるだろう」

「はい。そうですよね」


「いつから」婚約相手が重たい口を開いた。

「1年前から」姉が返答した。

「でも別に気持ちが変わったわけじゃないから」馬鹿すぎるこの発言に苦笑がこぼれる。

「私から誘ったんだ。許してやってくれ」

「ごめん。意味が分からない」


婚約相手の言葉を最後に、両家族は決別した。こうして姉は、またしてもニートに大降格した。それから僕は家を追い出され、両親とも疎遠になった。両親を失ったのは辛いが掌の爪痕も無くなり晴れ晴れしていた。


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