二度と撮るな
うちで飼っている猫は、決まって火曜から水曜にかけて、日を跨いで外出する。
もともと放し飼いにしているから、普段も勝手にふらっと出かけて知らぬ間に帰ってくるのだが、火曜日だけは日が落ちても戻ってこない。
夕方ごろには姿が見えなくなり、翌朝には何事もなかったように帰ってきて、エサを催促するのが毎週の流れになっていた。
あるとき不意に、猫がどこに行っているのか気になって、位置情報とカメラ付きの首輪を付けることにした。
誰かにエサなどを厄介になっているなら、お礼をしなければならない。
私は適当にネットで注文した首輪を、猫に付けてやった。
そして、火曜日がきた。
猫は昼頃まで家の中にいたり、屋根に登ったりしていたが、夕方には姿が見えなくなった。
午後6時ごろ、位置情報を確認してみると、どうやら近所の道を歩いているようだった。ただ散歩しているだけらしい。
7時、8時も変わったことはなかった。遠くともうちの1キロ圏内をウロウロしているだけのようだ。
しかし、午後11時ごろ、寝る前にもう一度位置情報を確認しようとした私は、奇妙なことに気づいた。
何度居場所を割り出そうとしても「位置情報を確認できませんでした」。
買ったばかりの首輪が壊れるとも思えない。
不審に思いながらも、猫は毎朝戻ってくるからと思い、眠ることにした。
翌朝、猫は普通に戻ってきた。
私は早速、首輪に取り付けたカメラの映像を確認した。
午後9時ごろまでは特に変わった様子はなく、公園や道路、知らない家の塀を歩く猫視点の映像が続いた。
しかし、午後10時前の映像に、おかしなものが写っていた。
前方から私に酷似した人が歩いてくる。
それに気づいたのだろう、猫も喜んで近づいていくのが分かる。
徐々に近づいていくにつれ、その人の顔がはっきりと見えてきた。
その顔は、似ているというよりも、私本人だった。
髪型、背格好、昨日の服装、どれをとっても私だ。
なんだ、これは―――。
私は唖然とした。
もう一人の私が、私の猫と戯れている。
全身に鳥肌が立つのを感じた。
しばらくして、画面の中の「私」がカメラに気づいたのか、ハッとした顔で手を伸ばしてきた。
どうやら位置情報とカメラの電源を切ったらしい。
映像はそこで終わった。
私は思わず、後ろで水を飲んでいる猫を振り返った。
その首輪に、何か紙が巻きつけてある。
おそるおそるそれを取って開いてみると、中には特徴ある私の筆跡でこう書かれていた。
「二度と撮るな」