半人半魔?半魔半人?
僕はどうやら夢を見ているようだ。気がついたら上も下もわからなくなりそうな不思議な空間にいた。
「やあ、シューター、いや今はシータくんだったっけ?」どこからか声がした。優しくも傲慢な声だった。
声のする方を見ると強い光が僕の目に刺さる。眩しすぎてあまり良くは見えないが、翼のようなものが生えていて頭にはリングが浮かんでいる何かがそこにいた。
「おめでとう。君は、ギフトを与えられる選ばれし英雄に選ばれた。」
「なんのことだ?」
「え?知らないの?それは困るなあ。話が進まないじゃないか。」
「お前は誰なんだ?」
「私は天使だよ。見ればわかんじゃん。まあ、いいか、今一番欲しいものはなんかある?」
夢にしては不思議な夢だなと思ったのだが、よく考えてみれば生まれてこの方夢なんて聞いたことがあるだけで見たことなんて一度だってなかった。こんなもんなんだろうか。
「強いていうなら…、料理が上手になりたいかな。」
僕がそういうと天使は大きな声で笑った。
「ハハハハハ、面白いね君。かつてそんな選択肢を選んだ英雄なんて一度だって見たことがないよ。気に入った。」
天使は落ち着きを取り戻すと僕の頭に手を触れた。
天使に触れられた瞬間僕の意識は遥か彼方へと飛んでいった。
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目を覚ますといつもと同じ天井が見えて安心する。朝食を取り軽く筋トレをした後、カミルと一緒に主が封印されているという洞窟へ向かう。
たわいない話ののち、カミルは不安げにこう切り出した。
「シータさん、昨日夢を見ませんでしたか?」
「カミルも見たのか!?」僕は驚いた。ということは、カミルも選ばれし英雄ということになるからだ。
「あれが、本当だったら、シータさんも見たと思ったので…」
やはり、あれは本当にあったことだったのか。じゃあもっといいことをお願いすればよかったな…。
「それで、何を願ったんだ?」
「それが、覚えてないんです…怖くなっちゃって…それから、気がついたら朝でした。」
「私なんかが、選ばれし英雄だなんて責任が重すぎます…。」彼女は少し不安そうな表情を浮かべた。
「そうか?僕はカミルならできると思うけどな」別に慰めようとかそういうのではなく、本心だ。彼女は僕には無い慎重さがある。それも一つの武器だ。
「それに、無理に英雄にならなくたっていいじゃないか。カミルがしたいことをすればいいと思うぞ」
「私、できるとこまで頑張ってみようと思います!!」そう言ったカミルの表情はさっきよりも明るくなった。
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「ここです」
確かに、そこには人為的に開けられた洞窟があった。
中々広い空洞で、奥には祠があり、ただならぬ存在感が溢れ出ていた。
「なんか、嫌な予感がします」とカミルは僕の後ろに隠れながらいう。
おいおい、しれっと俺を盾にするんじゃない。
「確かに、なんか漏れ出てるな…」
「ン…ダレダ?」突然、祠の中から声がした。
「…スコシ、ネムリスギタヨウダナ」と言った瞬間、祠が崩壊した。
ものすごい風が巻き起こりそれが砂埃を発生させて視界が悪くなった。僕は咄嗟にカミルの手を握り、風の魔法で盾を作る。
「人族の子供か…いや、お前は何だか主君に近しいオーラを感じるな」現れたのは黒いつばばさに尖った尻尾を持った上位デーモンだった。
「カミルは一旦、引くんだ。」
「え、でもシータさんは…。」
「大丈夫だ。僕を信じろ」
カミルは少し迷った後、一目散に走り去った。そう、彼女は冷静に戦局を判断する才能があるのだ。
「お前は逃げないのか?」上位デーモンは大きな欠伸をしながら言う。
「ここで退く訳にはいかない。」
「まあ、リハビリには丁度いいかもしれんな。我が名は魔神リンカーだこの名を冥土の土産にするといい。」そう言うと天井ギリギリまで高く飛び上がり指を鳴らした。
その途端、至る所から火柱が上がった。普通の魔法の威力ではなく天井を突き破り、洞窟の天井が落盤した。僕は土魔法で降り注いでくる瓦礫から身を守る。
「どうだ、これが、人間が決して到達できない領域である炎の魔術だ」
これほどの威力なら魔法なら神火レベルのだずだ。
この実力差では勝てないなと僕は思った。しかし、あの家を、居場所を失う訳にはいかない。ここは、自分の全てを出し切るんだ。
考えろ、俺に出来る全てを!奴の魔術に匹敵する何かを!
「フハハハ、お前らは弱者らしく蟻のように群れて挑んでくることだな。」
「くっそ、くらえっ!」僕は、土の弾丸を飛ばした。
「ふっこんなもの…!」次の瞬間、余裕そうにしていたリンカーの表情が歪んだ。
そう、土の弾丸に雷属性の魔力を流し込んだのだ。
命中率の高い土の弾幕に威力の高い雷属性魔法を組み合わせた技だ。
「小癪な奴め、燃え尽きろっ」大きな火柱が、僕に向かって伸びてくる。
だめだ、避けれない。こんなの当たったら即死だ。僕は目をギュッと瞑り、思いっきり手を伸ばした。
僕の風魔法と、炎の魔術が激しくぶつかる。
「無駄だっ!魔法ごときじゃあ、魔術には勝てないっ」
「おああああああっ!」僕は、全力を超えた魔力を流し込む。
その瞬間、僕の魔法は火を突き破り、リンカーを貫通した。
「ぐっは、体をも貫く風魔法だと…?今のは魔…」血を吐き、言い終わる間も無く地面に溶け込んでいった。
運が良かった。完全に復活していたら、こんな簡単に決着がつくことはなかっただろう。
しかも今ので、魔力は全て使い果たしてしまった。
僕が、膝から倒れ込むと、「大丈夫かっ!?」とずっしりと装備を着込んだ兵士がやって来たのだった。
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〈しぎ視点〉
「ねえ、これがシューターの進む道なのね。」
森に倒れている血まみれのシューターを見て私は言う。この出血量じゃ脆い人間であれば30分もしないうちに死んでしまうだろう。
今更城から出ていくだなんてとんでもない恩知らずだと思う。それとも、知らず知らずのうちに何か不満を与えてしまっていたのだろうか。きっと魔族とは考えることは違うのだろう。
「あなたには生きていてもらわないと、私の魔王様が悲しんでしまうでしょう?」
私は優しく彼の髪を撫でると爪で胸を抉る。古傷が開き血が止めどなく溢れ出る。
私の血には再生効果があった。昔はこの力を死にたくなるほど恨んでいたものだが、私の魔王様はそんな私を魅力的だと言ってくれた。血ではなくこの私をだ。それは私にとっては初めてのことだった。
この血は彼のためだけにしかもう使わないと決めていたのに、それも魔力の強い心臓の血を飲ませるだなんて自分でも信じられない。知らず知らずのうちに私はどこかでシューターを我が子として愛せていたのだろう。
「あなたなら、きっと魔王様が成し遂げられなかったことを成せるわ」
お別れのキスをしようかと顔を近づけたが、誰かきたようだ。
私はスッとこの場から離れた。