森の怪物。
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まだ、全身が狂いそうになりそうなほど痛い。
もう随分歩いたはずだ。しかし森は終わるどころかますます僕を包み込んでいく。
もう頭の中は空っぽでただ前に進むことしか考えられていない。
前に前に進むにつれて、この十年間城であった楽しい思い出が浮かんではシャボン玉のように何の前触れもなく弾けていく。弾けるたび、涙が流れた。
いくらお父さんやお母さん、オートメータやキュリオベータさん達が僕を魔族として可愛がってくれたとしても、僕はどう足掻いても仲間の大切な人を殺した人間でしかないのだ。
僕なんかがあの空間に入る資格なんて初めから今まで一度としてなかったのだ。
ついに僕は意識を失いその場に倒れた。
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重い瞼をこじ開けると、知らない天井が見えた。ベッドから起き上がってみるが、全身がひび割れているかのように痛い。どうやら僕は今木製の小屋にいるようだ。
折れていた右足は簡易的な処置が施されており、窓からは木々が顔をのぞかせていた。
連れ戻されたのだろうかこれから僕はどうなってしまうのかと思うと少し怖い。
「あ、起きたのね」と柔らかい声のする方を向くと、同じ年くらいの女の子がドアの間からこちらを見ていた。
その容姿はツノも尻尾もない…人間だ。どうやら僕は人間に拾われてしまったようだ。
どこかほっとしたような悲しいような複雑な感覚に襲われる。
「お母さん!お母さん!あの子起きたよ!」少女はドタドタと僕の部屋を出ていったかと思えば、お母さんらしき人を連れ戻ってきた。
「あら、目が覚めたのね、あなたが誰かわかるかしら?」
「し、しぃたー」痛みのせいでうまく喋れない。
「シータって言うのね?」
僕は首を振って否定しようとしたがギブスで固定されていて動けなかった。
人間はどこまでも非情で残酷な生き物だと思っていたが、同族である僕に対してだからか、とても優しく怪我が治りるまでの滞在と食事を約束してくれた。
滞在し始めてから一ヶ月が過ぎると、怪我もある程度回復し、少女カミルとその母ダールアとも仲良くなった。
父親は現在、王都の騎士を務めていていないらしいが、あと一年で人気を満了し、戻ってくるそうだ。
僕は、世話になっているお礼に、魔法を使い畑仕事を手伝ったり、簡単な家事を任せてもらっている。
城があった方向を見ると、父さんやオートメータのことを思い出してしまって少し切なくなるが、今の生活にも随分と慣れてしまった。
ある日、僕とカミルは山へ晩御飯に使うスパイスの材料を取りに行った。
弱い魔物は僕には近づいてこないし、食べられるきのみを知っていた僕は、よくこうやってカミルに色んなことを教えながら、散策しているのだ。
カミルは特に僕がよく使っている魔法に興味を持った。山の中では特にすることもなかったので、一通り必要な材料を手に入れたところで適正のあった光の魔法を練習することになった。
「いいか、周りに漂っているエネルギーをイメージして、それを吸収して光エネルギーに変換するんだ。」
「はいっ!」
普段自分が感覚で行っていることを言語化して伝えると言うのは思っていたよりも難しいもので、カミルも苦戦している。
こんな時父さんはどうしていただろうか、確かこう体に触れてエネルギーの流れを知覚できるように…。
…我に帰ると、僕は、カミルの後ろから密着するように彼女の手を握っていた。
「すっ…すまない」僕は慌てて弁明する。
カミルは顔を赤く染めたまま頷いたが、結果としては、ちゃんと魔力の流れが理解できるようになり、物質照射レベルであればできるようになった。
「そろそろ帰ろうか。」日も落ちかけ、すっかり魔力を使い果たして横になっているカミルを起こしながら言う。
まじめて魔力を消耗した彼女は立ち上がるのがやっとのことだったので、おぶってやることにした。
彼女をおぶると、オートメータに抱きつかれた時の感覚が蘇ってきて鼓動が早くなり全身に血液がどんどん循環されていくのがわかった。
「この森の主の話を知っていますか?」カミルは突然、そんなことを言い出した。
「主?」
「はい、魔王城が近いこのあたりにはかつて勇者様が封印なさったこの森の主がいたんです」
「それで?」
「5年に一度、勇者様が訪れて封印し直すのですが、もう15年たってしまってるんです。それが心配で…」
「勇者は死んだんじゃなかったっけ?」
「はい、でもその子孫が、勇者を継ぐものが現れたんです」
流石の俺も封印魔法は習わなかったのでわからない。新しい勇者か、将来的には父さんたちの大きな壁となるのだろう。もちろん、父さんが負けるわけがないが。
「…明日、見にいってみよう」
この森の主の封印が解けるなんてことがあれば、あの小さな小屋なんて瞬く間に消え失せてしまうだろう。恩人である彼女達には生きていて欲しい。
僕はもう魔族の味方なのか人間の味方なのか分からなくなってくる。
あるいはもう、どちらでもないかもしれない。
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〈勇者視点〉
やあ、俺は勇者ライトの血を継ぐ新しい勇者デメロスだ。
王都での暮らしは最高さ。毎日うまい飯と、可愛い女に囲まれて日々を過ごしている。
生まれてからこれまでずっと勇者の子として育てられてきた。座学や鍛錬は辛くてめんどくさいが、それ以外は俺の思い通りになる。
一年前くらいだっただろうか、ある兵士から魔王城の近くの山のちっぽけな民家に住む奴らを守るためだ何とか、魔神リンカーの封印を依頼されていたのを思い出した。
今まで大丈夫だったんだからもう問題ないだろうと思っていたのだが、一週間後開催されるジュニア大会をサボるにはいい言い訳だと思ったので行くことにした。
「うげっ、先生も来るんですか?」
「うげっとは何じゃ、万が一お前が失敗したら、この国まで滅びかねんからのう」
先生は苦手だ。遊んでいると勉強しろ勉強しろとうるさいし、鍛錬も全力でボコボコにしてくる。
まあ、俺も本気出してないだけだから仕方ないけど。本気を出せば逆にボコボコにしてやれるのに。
「んで、デメロス、お前ももうすぐギフトが贈られるじゃろう?」
「ああ、そうだな。」
ギフトというのは天使から、勇者が10歳になった間、上位5名の子供達に贈られる特殊スキルで回復スキル、崩壊スキル、古代スキル、上位魔法スキル、上位攻撃スキル、料理スキルのいずれかを与えられるというものだ。
そして勇者を筆頭にギフトを得た五人の英雄が成人した時、パーティとして協力し、魔王に戦いを挑むのだ。
「まあ、同年代でこの俺より強い奴なんているわけないだろう」と俺は笑った。
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