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第3話 ニルルの再会①

どこまでも広がる翠玉色の水面。

これがニルルの知る世界の果てです。


ニルル、いや、ニルルたちにとって世界と認識している境界は遠くに見える水平線で、自分たちが生きていくうえでの生活圏は翠玉色の水面を外側とするなら、足が濡れない内側を指します。

内側がどれくらいの広さか、誰も気にしたことはありません。

ただ、かつて誰かが外側と内側の沿い目をひたすら歩いたら、およそ3日で元の場所に着いたという話があるそうです。


ニルルたちにとって、内側での生活がすべてで、外側には興味関心はほとんどありません。

それもそのはず、内側での生活に不満がないからです。

内側には木の実がたくさんあり、基本的にそのほとんどが容易に手に入るため、食に困るということがまずありません。

食べたいときに食べ、寝たいときに寝る。

誰もがそんな生活ができるため、争いらしい争いも起こりません。

誰もがいまの生活におおむね満足しているので、外に対しての興味が湧かないのかもしれません。


こういった生活はニワカトルによる暦ができるよりずっとずっとずーっと前から続いており、その起源を知ることは不可能ですが、その間文明や文化等の発展はほとんどなかったと思われます。

だって、不満や不足がないから発展のしようがないんですもの。



さて、ハナシをニルルに戻しますね。



ニワカトル歴788年2月のある日。


ニルルはオルーク洗いと水汲みのために川に来ています。


オルークはツルという植物の茎を編んだもので、ニルルたちは普段これを身に着けて生活しています。

表面がツルツルしているため、あまり汚れがつかず、ついたとしても水で軽く洗うだけでかんたんにとれてしまうすぐれものです。

暑くも寒くもないこの世界で身に着けるものがなぜ生まれたのかは分かっていません。

推測するとすれば、何も身に着けていないことに少なからず恥ずかしさを感じているのか、それともオルークを編む等をしないととてつもなく時間を持て余してしまうのか。

まぁ、ニルルたちのなかでそういうことを考えたことがある者は誰もいませんけどね。


水汲みについては、やはり水がないと生きていけないため、ほぼ毎日川に行かなければなりません。

基本的に水は果実を食べるときに飲むくらいなのであまり量は必要ではありませんが、ニルルが住む洞窟から川までの距離はちょっと遠いのでやはりそこそこ大変な作業ではあります。

ニルルはあまり苦にしている様子はありませんが、これも暇つぶしと思っているからでしょうか。


川の深さはニルルの膝くらいで、流れもおだやかです。

ニルルはずぶんと川に飛び込み、父のオルークを広げてばっしゃんばっしゃんと川に叩きつけるように投げます。

つまんでは投げ、つまんでは投げ。

かなり粗っぽいように見えますが、これで汚れは大方落ちますし、ツルの茎はそこそこ丈夫なので問題はありません。

目立つ汚れが落ちたのを確認したら近くにある岩の上に置き、それから母とナオのオルークも同様に洗います。

最後に自分が着ているオルークを脱ぎ、洗います。

全てを脱いで川に入るとちょっとひやっとしますが、とても気持ちが良いようです。

オルークを川に投げつけながら、自身も川のなかでばっしゃんばっしゃんと倒れこみます。


ニルルはふと思い出しました。

最近、ちょっとずつ薄れてきた長い長い夢のことです。


ちょうど今日みたいに川でオルークを洗っていたら、上流からつんぶらつんぶらといままで見たこともないとてつもなく大きい果実が流れてきたのです。

その果実はニルルの目の前を通り過ぎた直後、浅瀬の石にひっかかりました。

興味本位で近づいたニルルがちょっと持ち上げようとしたところ、ずっしりと重かったため持ち上げることはできませんでした。

ニルルはできるだけ傷がつかないように果実を川岸まで引っ張り寄せ、少しかじりました。

ほんの少し甘く、少しかじっただけでじゅるじゅると汁があふれてきて、いままで食べたことのない味に興奮しました。

二口、三口と食べ進め、何口目かで果実のなかは大きな空洞があることに気づきました。

食べてたところを手でこじあけ、中をのぞいてみたところ、なんとびっくり人が入っていたのです。


長い長い夢のなかでは最もわけのわかんない記憶なので、ニルルはついふひひっと笑ってしまいます。

そして何気なく川上のほうに目を向けたとき、ニルルは目を大きく見開き、にょひっと叫びました。


夢と同じ果実が川上からつんぶらつんぶらと流れてきているのです。

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