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プロローグ
それは、とてもきれいな景色でした。
雲一つない瑠璃色の空。見渡す限り広がる翠玉色の水面。
時が止まっているのでしょうか。風も、波も、音もありません。
しばらくすると、どこからともなくあらわれたピンク色の何かが水面を覆うようにもくもくと広がっていきました。それは霧のようでも、煙のようでもありました。ピンクの色味は次第に増していき、やがて目に見える果ては瑠璃色の空とピンク色の何かの曖昧な境界となりました。
水面から突き出ている葉もない太い木の枝たちは色を失いながらも逞しくその存在を誇っていました。そんな枝のひとつにちょこんと腰掛けながら果てを見つめる影がありました。
ピンク色の何かは影の足元まで迫ってきました。でも、その目はすでに果ても足元も見ておらず、静かに、静かに瞼が閉じられていきました。
ニワカトル暦797年2月56日。
この日、世界は終わりを迎えました。