五話 父と...
僕は”移動速度上昇”を覚えると家に帰った。これから約二時間後に父からのテストがあるからだ。それまでに魔力を貯めておかなければならないのと、本当に使えるようになっているのか確認しなきゃならない。
僕はルリエを誘って自分の家の中庭で確認することにした。”移動速度上昇”は自分だけじゃなく人にも付与できたはずだから、ルリエにかけることにした。
「...よし。”移動速度上昇”!」
僕がそう唱えると、ルリエの周りにほのかな光が宿った。ルリエが効果を確かめるために中庭を歩き回ると、いつもよりも歩く速度が速くなった。ただ、かけているのを知っていないと気づかないような変化だった。
「すごい!本当に走っただけで使えるようになってる!今までしてた訓練がバカみたいだ!こんなに簡単に使えるようになってるなんて!」
「よかった!これで一緒にお祭りに行けるね!」
「...うん。」
「どうしたの?」
「いや、使えるようになったって言っても意識しなきゃ気づかないぐらいだし、父さんがこれで許可してくれるかなって...。」
父さんは基本的に実力主義だ。こんなわずかな効果の『技能』で祭りに行くのを許可してくれるのか...。僕にはそれだけが気がかりだった。
しばらくして、父さんが帰ってくると、僕の方に歩いてきて、僕に言った。
「できるようになったか?」
「うん。」
「そうか...。まだ早いが...、もし今すぐできるならテストするが、やるか?」
「...やるよ。」
「わかった。使う『技能』はなんだ?」
「”移動速度上昇”だけど...。」
「やってみせろ。」
僕は魔力を込めて唱える。
「”移動速度上昇”」
ルリエにかけた時と同じように、父の体の周りにほのかな光が宿る。父はそれに気づくと、効果の確認なのかそこらを歩き回った。父の顔には驚愕が浮かんでいた。そりゃそうだ。こないだまで『技能』が使えなかった自分の息子が、たかだか一週間で使えるようになっていたのだから。しかもその息子は今まで二年も訓練してきて未だに何も使えない出来損ないだったんだから。
「いつからだ。お前はいつこれを使えるようになった?」
「今日。」
「今日だと?『技能』はそんなに簡単に習得できるようなものではないはずだが...。何をやった?」
「...特訓を...した、だけ。」
「......まあ、そういうことにしておく。よく、やったな。明日は祭りに行ってこい。」
そう言って父は僕の頭を撫でると、歩き出した。
「夕食にしよう。来なさい。」
「...うん!」
珍しく、父と談笑しながら夕食を食べた後、ルリエに明日の祭りに行けることを知らせてから、ベッドに入った。頭を撫でてもらったのなんていつぶりだろう。その日はベッドの中で、頭に残った父の手の感触を確かめながら、ゆっくりと眠りについた。
次回 お祭りです




