プロムナード
ストルの果樹園は、徒歩で20分くらいのところにある、とのことだった。
ここは果樹園を中心にした小さな農業村落のようだ。小さい子どもから老人まで見かける。すれ違うと皆おだやかな微笑みであいさつをかわしてくれた。
「さっきすれ違ったのはわたしの両親、ナラとラナなの」
ナラとラナの子どもが、カルカとルカル、か。名づけにそういう法則性でもある村なのかな。夫婦は見た目も似てくるというが、男女の差はあっても、両親のナラとラナの外見も雰囲気も、似通っているように感じた。
「ご両親は、さっきの家に一緒に住んでないの?」
カルカは、この問いに不思議そうな顔でこたえた。
「わたし達はもう自立して暮らせる年齢だもの」
「いまいくつなの?」
「17歳」
「じゃあ、俺と同じなんだ。俺なんて……」ここで前世の自分の体たらくを話すには忍びなかった。「カルカはえらいんだなー」
歩きながら気がついたこととしては、まず、この村は四方を高く急峻な山に囲まれている、ということだった。
「カルカは、この村の外に出たことはあるの?」
「ありませんし、出たいともおもわない」カルカは言いきった。「わたしはこの村が好きだし、いつもストルとともに生きるのが、わたしたちの決まりだから」
美少女の隣を歩いているからか、心だけでなく、身体も軽やかだった。このまま空にも飛んでいけそうな足取りだった。
また、歩いているうち、村外れの山の麓に、数十メートルはあるだろうか、2本の高い塔のようなものが見えた。
「あれは双櫓と呼ばれる、昔からこの村にあるお櫓なの。村の誰かが成人をむかえるとき、あそこでの下の広場で盛大なお祭りをするのよ」
お祭り……前世では陽キャやリア充のためのイベントとして忌み嫌っていたものだが、この村のお祭りだったら、カルカの浴衣姿だったら、見てみたいと切に思った。もっとも、ここのお祭りで浴衣を着るかどうかは知らないけれども。
俺はこのお散歩が永遠に続いても良いと思ったが、カルカの言った通り、徒歩20分ほどであっさり目的地に着いてしまった。