カルカとルカル
「もうおめざめだったのね。よく眠れましたか?」
「うん。よくわからないけど、とてもすっきりしてるから、よく眠れたんだと思う」
「わたしはカルカ。あなたのお名前は?」
カルカ、なんて素敵な名前なんだろう、と俺は思った。というか、この女の子につく名前は、きっとどんなのだって、素敵になるのかもしれない。たとえそれが、ハロルド・ジョージ・メイであろうと、違憲立法審査権であろうと。違憲立法審査権ちゃん……うん、かわいい!
わずか二言三言かわしただけなのに、声音だけでなく、彼女の存在全体から、和やかさのアウラが放たれていた。
それは、ショートボブに切りそろえられたきれいな髪だとか栗色の瞳だとか卵型の顔の輪郭だとか信じがたいほどよく似合う桃色の道服だとかいった、各パーツそれぞれの魅力の総和を越えた、全体のもたらす圧倒的な和みの印象だった。
「俺は……」本名を名乗るか一瞬ためらったが「ショーム」と結局本名を口にしていた。
「ショーム……良きお名前ですね」
俺は、たぶん生まれてはじめて自分の名前がショームであることに感謝した。
「では、ショームさんのお姉さん、それか妹さんのお名前は?」
ん? 俺に姉妹のいることがよくわかったな。
「アケノミヤ。妹だよ」
「アケノミヤさん。こちらも素敵なお名前と思いますが、ショームさんとアケノミヤさん、というのは変わった組み合わせの名前のつけ方をされてますね」
「うーん、そうなのかな? まあ変わった名前とはよく言われるけどね。ところで、俺はどうしてここに?」
「おぼえてないんですね?」
「うん」ここでここに来る前の話をしてもややこしくなるだけだし、と思った。
「さきほど窓からご覧になっていたストルの木の果樹園、あそこに気を失って倒れていたのを、わたしがみつけたの」
「そうだったんだ。ありがとう」
「でも、もう元気そうで安心しました。そうなると、お腹すいてませんか?」
言われてみれば。アニメならば、ここでギュルギュルと聞こえよがしの音がなるタイミングだろう。しかし残念ながらここは二次元ではないので、そう都合よく音はならなかったが、腹に手をあてて、空腹であることのジェスチャーはした。
「運動もかねて、あの果樹園まで行きません? 弟のルカルがいま農作業をしていて、お昼の料理をお出しできるかと思います」
カルカとルカル、か。逆から読んでもカルカとルカル、あ、いや、ルカルとカルカ、かな? ん? ビートルズとずうとるび、みたいな関係? ん? いや、ちがうか。
まあ、なんにしろ、そっちの方がよっぽど変わった名前の組み合わせでは、と俺は思ったが、もちろん口には出さなかった。