22人目の家庭教師
「荘夢、新しい家庭教師の先生がこられたわよー」
一階から母親の、来客の際のよそ行きの声がきこえる。
やれやれ、いったい何人目の家庭教師だ、俺は軽くため息をついた。
俺のうちは鏡山県五社市にある、自称吉備王国時代から続く医者の家系で、ここら辺で山梨病院と言えば知らぬ人のいないほどの大病院だ。いわゆる田舎の名家ってやつ。
それだから俺たち兄弟妹は、生まれたときから医者になるよう宿命づけられ、そのように育てれてきた。
ところが、俺は病気診断名に冠されることでおなじみ中2くらいからろくに勉強もせず、父親曰く、益体もない本ばかり読むようになった。高2になった今、特に数学や理科など理系科目の成績は地獄級から壊滅級へと格上げ。業を煮やすに飽き足らず、脳を沸騰までさせた両親が、金に糸目どころかクレカに利用限度額もつけず、お高い授業料を払って家庭教師を呼んでくるが、俺にやる気がないもんだから当然いっこうに成績も改善せず、次から次へと超高級替え玉を注文している、という始末、というか不始末。
「あんたがちっともやる気になんないから、22人目の今度は、ちょっと変わった先生を呼んでみたわよー」
22人目だったんかい! 母親はそういう些末な細部にいやに厳密だったりする。
コツンコツン、コツンコツン、部屋の外からやたらと軽快なノックの音。
はいはい、どうせ最初は「生徒目線」とやらにたって親しげに媚びへつらってきて、徐々に親の意向に沿わせようとするたぐいの、調子の良い、「理解ある人気家庭教師」かなんかだろ、そういうのは俺には通用しないんだ……
そう思いながら無言で部屋のドアを開けると、そこには、なんというか、だいぶ俺の予想と21人の経験則から外れた、細身で長身のUMAが立っていた。