異世界転生するという状況にある男子高校生が「この世界がラノベなのでは?」と疑う話
「突然じゃが……君は私のミスで死んでしまった。だから異世界に転生を――――」
「少し待て」
何もない空間、それが一番当てはまる言葉だった。上も下も無く、重力も無い。そんな世界には何故か神々しい光を発する幼女と男子高校生がいた……
「なんじゃ?」
「その異世界ってのは……俺の幼馴染の書いた小説の世界じゃないだろうな?」
「そうじゃが?」
男子高校生は落ち着いた雰囲気でこれから転生される世界を言い当てた。それを驚きもせず肯定する幼女。
「だったらお前は……神か?」
「そうじゃ! 私こそはこの世界を束ねる唯一神! 名前は――――」
「いや、聞く必要はない。ところで……お前は本当にこの世界の神か?」
「む? 何故そんなことを聞く? 私はこの世界の「嘘だ」……なんじゃと?」
「お前はこの世界の神じゃない、と言ったんだ」
男子高校生は見透かしたように神の存在を否定する。その態度に当然神は不快感を露わにする。
「お主……こちらの不手際とはいえ、あまり舐めるなよ?」
「ああ、お前は確かに神だ。チート能力もくれるし、異世界に転生もさせてくれる」
「ふふん! 何を意味不明なこ「だが、お前は本物の神じゃない」何だと!?」
男子高校生は神に向かって更なる罵倒をする。
「じゃあ、本物の神とは誰のことだ!? 申してみよ! 分かるんじゃろ!?」
「ああ、だけどその前に……不思議に思わなかったか?」
「……何がじゃ」
「神のミス、神が幼女、異世界に転生、チートもくれる。こんな設定なんてラノベぐらいだろ?」
そう、男子高校生はこの展開がラノベのテンプレだと感じていた。そして神はその答えについて誇らしげに答える。
「地上で異世界転生が流行ってるらしいからな! それに便乗したんじゃよ!」
「いいや違う、こうは考えないのか? 【この世界そのものがラノベの世界】だってことは」
「……何?」
神は少し興味深そうに男子高校生の言葉に耳を傾ける。
「神がいて、異世界に転生させてもらえて、しかもそれが幼馴染の小説の世界。こんな出来過ぎた話があるか? 全て非現実的な話だし、あり得る訳がない」
「じゃが、今こうして!」
「そうだよ、今こうしてあるんだよ。だけどな、この【設定】を本当の神が創ったんだとしたら?」
「本当の神……?」
「ああ、本当の神ってのはな……このライトノベルの世界を創り出した作者のことだ」
男子高校生は断定するかのように唯一神に向かって言い放つ。何故そこまで断定できるのか、それが神には理解できなかった。
「お前も作者によって創り出された設定の一つ、俺は主人公、もしくは先に転生されて本当の主人公に殺される敵役ってわけだ」
「そ、そんなの証拠がないじゃない!」
「いや、証拠はある。初めに俺、小説の世界って言い当てたよな?」
「む? そうだが?」
「あれはな、作者が仕組んだんだよ。 その証拠にお前は世界のことを言い当てられて驚きもせずに肯定した……これは何故だか分かるか?」
「あれ……? そう言えば、私はなんで驚かなかった……?」
神も自分の言動に少し不信感を抱き始めた。
「多分だがな、この世界はファンタジーじゃなくて哲学のような話なんだ。俺がこうして話していること、それさえも作者が操ってるんだよ。俺がこの世界をラノベだと気付き始めたのも、もちろんこの言葉も全部作者が考えた【設定】の一つだ」
男子高校生の言葉、考え、それら全てが作者の設定。それは存在、記憶、命、全てが偽物だと言っていることに変わりない。
「お前が驚かないのも作者の考えた【設定】、だからこの異世界転生先でも全てが偽物だろう」
「じゃあ……私達がこの世界から抜け出すことは不可能なのか?」
「いや、一つある……」
「なに!? 本当か!?」
「ああ、それはな――――作者の世界の人間が俺たちの世界に転生することだ」
「作者の世界の……そうか! その者はこの世界の設定には囚われない! だから私達に干渉すれば私達の設定も崩れるじゃな!」
世界の外側の住人、その住人が物語の世界に転生すれば未来は変えられ、設定の壁も砕けるのだ。
「だがな……作者の世界の住人が迷い込む……これは作者の世界も【ラノベ】という可能性も出てくるんだ」
「ど、どういうことじゃ……?」
「初めに話したはずだ。出来過ぎた話……だと、つまり作者の世界の住人が迷い込むってことは作者の世界の【作者】がいるってことだ。面倒だから俺達の作者を第一神、作者の世界の作者を第二神と呼ぼう」
「わかった」
「第二神もおそらく、今の俺達のような世界を創るはずだ。そして同じように第二神の世界からも第一神の世界に飛ばされる可能性を考え着くわけだ」
「それじゃあ、ループになるんじゃ……?」
神がそう言うと、男子高校生はフッと笑い「そうだな」と答える。
「だけどな、ループにも終着点がある」
「なんじゃ? それは」
「本当の現実に辿り着く、ということだ」
「本当の現実……?」
「実はこの考えが出来るのは、幼馴染の小説が原因だからだ」
「どんな小説だったんじゃ?」
「……ああ、男子高校生と神が小説の中でこの世界が小説なんじゃないかって考える話だ」
「!!」
「もしかするとあいつも神なのかもしれない。だが、もし次の世界に作者の世界の住人がいなかったら、第一神の世界が現実だろう」
「なるほどな……じゃが、どうしてこんな設定を第一神は創ったんじゃ?」
「俺の言葉から考えて、作者は自分の世界が現実か怖くなったんだろう」
男子高校生は作者の考えを汲み取る。その考えは絶対に当たっているだろう。何故ならこの男子高校生の言葉は作者が考えているのだから。
「さて、神よ。お前はどうする? 設定の檻に閉じ込められるか、第一神の世界の住人に会う確率に賭けて俺についてくるか……」
「じゃが、私はここから出れないんじゃ。神のルールでの」
「ってことは、第一神がこれからどうにかするってことか……よし、おーい作者! この設定を書き換えろ!」
「そんなにうまくいくわけ……ん? なんじゃこの紙」
神の手元には一枚の紙が落ちてくる。まるで狙ったかのようだった。
『ミスで人を殺した罰として、異世界で生活しなさい』
「……」
「ほらな?」
そして、設定を崩すために神と男子高校生の冒険が――――始まる。と、書いている作者であった。