改憲を議論する場合に必要なもの 2
ん~
何も具体的に書かないのはそれはそれで問題かな?
改憲の議論において何が必要か?
まずはその基礎についていくつか書いておきたいと思う。
まずは、先年の安保法制で話題になった集団的自衛権について。
集団的自衛権とは、政府見解ではぐちゃぐちゃな話をしていて、国際的な解釈や定義とは乖離したものとなってしまっている。
自衛権の三要件とは、本来個別的自衛権についてのみを指すのであって、集団的自衛権とは関係しない。そこに「限定的」なる欺瞞で集団的自衛権を挿入することなど、現代の国際的な解釈においては容認されるべきものではない。
具体的な話をすれば、国際連合が出来、集団的自衛権が明示的に存在するようになって以後、アメリカ合衆国という国家が自国の個別的自衛権による戦争として行ったのはアフガニスタン戦争くらいのものである。
日本はその戦争に際し、支持を表明するに留まらず、この戦争に際して補給艦を派遣し、米艦や集団的自衛権行使を表明して作戦に従事するオーストラリアやNATO諸国の艦船に給油を行っている。国際法において、これは紛れもない集団的自衛権行使に当たる。
それに対して、日本政府は何と言っただろうか?
これはもう、どうしようもなく世界の常識から乖離してしまっていた。
では、集団的自衛権とは何ぞや?
この解釈は1988年という、国連創設からずいぶん長い間曖昧なままであった。この年に、ニカラグア事件裁判の判決が出され、その多数意見で初めて国際司法の見解が示されることとなった。
ニカラグア事件とは、1980年代、中米の多くの国で共産ゲリラが反政府活動をしていたが、そのゲリラの基地となっていたのがニカラグアであるとされていた。
この事態に米国は周辺国を支援するためとしてニカラグアの港に機雷をまく作戦を実行し、ニカラグアがその事態を国際司法に訴えたものだった。
この時のニカラグアの主張は、当然ながら内政干渉であった。方や米国は集団的自衛権と主張している。
結果はどうであったかというと、米国の主張が退けられることとなった。
それはなぜかというのが判決に添えられた多数意見である。
その中で集団的自衛権とは何かという事が示されているが、それによると、被害を受けた国が自ら被害の事実を表明し個別的自衛権行使を行っていることが必要だとされれている。
ニカラグア事件に際してどうかというと、周辺国はニカラグアによる攻撃とは表明しておらず、どこも個別的自衛権行使を表明してはいなかった。
そして、支援しようとする国にも条件が付けられている。
被害国を支援するには、被害国自体が支援を要請している事実がなければならないとされたが、当然ながら、個別的自衛権の表明がないのだから、誰も米国に機雷封鎖という支援を要請してはいない。
米国による集団的自衛権という主張はこのような理由で退けられている。
この事例を参考に、過去の集団的自衛権行使が表明された戦争や事件を見れば、そのほとんどがこのニカラグアの事例と同様に、独断的な表明でしかなかった。
では、安保法制についてみてみよう。
議論の対象となった朝鮮半島有事やホルムズ海峡有事。
朝鮮半島有事では、当然のことながら韓国が個別的自衛権を行使し、日本に支援を求めてこなければ行使する条件を満たすことは無い。
ホルムズ海峡についても湾岸諸国が個別的自衛権を行使し、日本に支援を求めてこなければいけない。
では、日本の議論はいかなるものであっただろうか?
そして、今の行使要件は、ニカラグア判決に示された国際司法の意見に照らして正当だと言えるのだろうか?
憲法九条に自衛隊を明記するんだと安倍総理は言っている。
しかし、安保法案審議の時に岸田外相が表明したように、現在政府は自衛隊による交戦を認めていないので、自衛官には捕虜の権利が存在しないとされている。交戦相手の良心や国際法遵守精神にゆだねるという誠に身勝手は事になっているのだが、自衛隊を憲法に明記するにあたって交戦を認めない限り、ジュネーブ条約が捕虜として保護を求める交戦者の権利が自衛官に与えられる保証はない。
そのため、いくら自衛隊を憲法に明記しても、現状を追認するだけならば、これからも自衛官は山賊や海賊、テロリストのように人権を無視される危険性が付きまとってしまう。
そんなの海外に出なければ関係ない話だって?
日本は海に囲まれている。という事は、まず交戦が始まるのは公海上という事になる。
自国の領土に墜ちる訳ではないので、パイロットも水兵も「敵」に拘束されてしまう危険は常にそこに存在している。
「戦争法さえ廃止すれば必要ない」などという話ではなく、自衛隊に軍隊が行う任務を担わせる以上、国際戦争法規の規定を憲法や国内法で規定しなければ、最低限存在する捕虜の権利すら自衛官が得ることは出来ないというのがそこにある現実だと思った方が良い。
そして、改憲すれば万事うまくいくのか?
そこにも大きな落とし穴が存在している。
憲法に自衛隊を明記すれば尖閣諸島に飛んでくるドローンを撃墜してよいのか?領海を徘徊する中国の監視船や調査船を撃沈できるのか?
改憲だけで喜んでいると、何もできない現実に失望してしまう事だろう。
領空侵犯というのは国際法においても違法であって、許可なく他国領空に侵入すれば撃墜されることもある。留保規定として民間機はその限りではないとなっているが、ハイジャックが日常化している現在、当事国が国際法をそのまま解釈するかどうかは分からない。
日本についてはどうか?
日本では、自衛隊法に領空侵犯に対する措置が規定されているが、そこで自衛隊に出来るのは退去を要請するか強制着陸を行わせる事しか記載が存在しない。
法律上、自衛隊には撃墜が許されておらず、撃墜可能なのは、自衛隊機が攻撃を受けたり、明らかに市街地を攻撃しようとしている場合の正当防衛や自衛隊基地が攻撃される恐れがある場合の武器防護に限られてしまう。
そのため、尖閣諸島上空で旋回されても「お願い」し続けるか、近隣の空港に着陸を誘導するしかない。従わなければ指をくわえてみているしかないのが現状であり、この規定を改正しない限り、憲法を変えても自衛隊には撃墜する権限が与えられることは無い。
それに、現在はご存知の通り射程数十キロ、あるいは百キロという対地ミサイルは常識だが、攻撃の意図を持った機体が日本に接近していて自衛隊機がミサイルの搭載を確認したとしても、敵がミサイルを発射するまで見守るしかない。
当然、発射されたミサイルをすべて撃ち落とせる保証もない。領空侵犯に対処する戦闘機には、1機あたり2発の短距離対空ミサイルと機銃弾しか積まれていないのだから。
領海侵犯はどうなんだ?というと、こちらについては、国際法で軍艦や監視船、政府が雇用した海洋調査船にはその国の法律が適用されるため、領海に侵入したからと言って、漁船や貨物船のように拿捕や臨検する権利が存在していない。
あくまで、外交ルートによる問題解決か体あたりによる進路妨害程度の事しか選択肢はない。
改憲が正しいとか護憲こそ価値があるなどという話はしないが、ここまで述べてきたことが今の日本の現状であり、「矛盾点」として存在している事例である。