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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第5章 ルマニミ王国
95/165

At94.駆け引き

すみません、今回都合によりタイトル変更行いました。

At93公開時:夏の夕日⇒今回:駆け引き

 年下の女の子と手をつなぎながら歩くってどんな気分だと思う?その子がもし、自分と1歳しか変わらなかったらどうだろうか?

 はっきり言って、なに1つ緊張しないわけがない。たとえ、普段から女の子と手をつなぐ機会があったとしても、恐らく立場、状況が全く違えば内心びくつくに決まっている。

 

 「・・・」


 村正は書店を出てからしばらくの間フェアリに手を握られている。あまりに突然のことで村正がフリーズしているのを、フェアリは勘違いして村正が一切動じない男と思ってしまったが実際は違う。

 ただ単に、王女であるフェアリに手をつながれたことにどう反応すれば良いのか焦った。誰も怪しむわけではない。まさか、こんな白昼にインディアル王国の王女様が、同国内にある学園の一学生と手をつないでいた現場を誰が想像するだろうか?


 いや、誰かがフェアリの顔知ってれば普通にまずいよ、この状況。シロとはわけが違う。一歩間違えば僕が死ぬ。たぶん社会的に。社会的で済むかわかんないけど・・・。

 王女様に手を出したって思われたら、どうしよ。


 「村正君、体調優れませんか?」

 「そう、見える?」


 態度に出てしまい、フェアリに気を使わせてしまった。気を使わせるわけにはいかない相手に気を使わせてしまった事で、村正の身に再びスイッチが入る。


 「大丈夫。僕はいつも通りだよ」

 

 頬を両手でパシッと叩き気合を入れなおす。その村正を見たフェアリはどことなく残念そうだった。


 「別に、普段通りでなくても良いのですよ」

 

 ボソッと呟いたフェアリの言葉は風の音と共に村正から遠ざかって行った。

 普段はどんなに強い人でもきっと些細な事で崩れてしまう。そんな人の受け皿になりたいと思うフェアリだが、自分の立場のせいで殆どの人がフェアリの前では毅然とあろうとする。

 「私の前ではそんな事しなくて良い」それを口にするのは簡単だが、実際に行動に移すのは、フェアリより年上の、立場が下の人。簡単に行く話ではない。少なくとも、今後、自分の先輩になる村正にはもっと、自分に気軽に接して欲しいと思っている。

 そんな村正もまた、別の事で悩んでいる。まだこの世界のルールを完全に理解したわけではない村正。彼に取って、何がこの世界の、この国のタブーになるかが分からない。分からないながら、手探りで事の善し悪しを判断しなくてはならない。

 無論、ある程度の知識等を事前に授かったとしても、自分の体で直接体感するまでは実感がわかない。


 「さて、次はどこへ行くん?」

  

 気を取り直した村正が次の行先をフェアリに訊ねる。

 はぐらかされた気持ちになるフェアリ。だが、今は村正と一緒に行動することで満足だ。


 「私は迷惑でなければ村正君のお勧めを聞きたいのですが。」

 「えっ?僕の?」


 予想外の事を言うフェアリだが、村正は昨日年の為とはいえ、この街に視察に来ていて良かったと思った瞬間だった。


 「はい。村正君、昨日、街へ降りてましたよね?」

 「見てたの?」

 「はい。お城を出て行くところをお見かけしましたので。」


 まさか、見られているとはな。しかもよりによってフェアリに見られていたとは。


 頬を赤くする村正は人差し指で頬を掻く。

 

 「お勧めって訳でもないけど、少し離れたところに雑貨屋があるんだけど、行ってみる?」


 そこの雑貨屋はルマニミ王国に来る前にユウキが村正に教えた店。インディアルにも店はあるみたいだが、本店のルマニミの方を見てきてくれとユウキに頼まれており、ちょうど良いタイミングになった。

 その雑貨屋は魔法を使用した雑貨が多く、観賞用や実用系と言った物が揃っている。


 「雑貨ですか。お土産感覚で良いかもしれませんね。」

 

 フェアリも乗り気になり、2人は現在の書店から通りを抜けた先にある雑貨屋に向かう。

 人通りの多い時間帯になり、通りも多くの人で行き交う。王都と言うだけ会って、様々な人々で入り乱れている。大通りには商人や旅人で賑わっていた。

 文化の街と言うだけあって観光客とみられる人も結構目立つ。


 「やっぱり、人が多いね。」

 「確かに、ネレラルより多いかもしれませんね。」

 「まあ、ネレラルは学園もあるし、それに、僕はあの雰囲気結構好きだよ。」

 「それは良かったです。」


 村正がネレラルの街に好感を抱いたのは自分の持つイメージと会っていたからだ。自分が異世界転生の当事者となる事など本来あり得ない事なのだから。

 村正も異世界はあの街の様子を想像していた。もっと違った雰囲気でも良かったかも知れないが。


 「ここですか?」

 「そ、小さいけど、色々あるみたいだよ。」


 通りの大きな建物に挟まれたその小さな雑貨屋。中に入ると、客は他に見当たらない。

 村正達が入ると、店主とみられる女性が出て来た。


 「魔法使いの雑貨屋へようこそ~。」


 そう言って奥から出てきたのは30くらいの女性。陽気な感じの店主は村正達の元へやって来る。


 「今日は何をお探しですか~。」

 

 何をと言われても、特に目的もなくやって来た2人。


 「そうですね、お土産的な物があれば良いなと思いましてね。」

 「うんうん。お土産ね~・・・。」

 「・・・はい?」


 まじまじと村正の事を見つめる店主。村正に近寄る店主に対し、背を逸らしていく村正。


 「な、何ですか?」

 「へ~、意外。あなた、魔法使いなのね~。」


 驚いたように声を上げる店主。男性で魔法使いと言うのはやはり希少な存在なのか、どこでも珍しがられる。

 いまだに、なれないこのパターンに村正は何度か、学園関係者以外の魔法使いに会うのを止めようかとも思ったことも。中には、その人の前で魔法を使ったことも。


 「あ、あの、どうして僕がそうだと?」

 

 何故男の自分を一発で魔法使いと見抜いたのか気になる村正。その質問に目を丸くする店主。失笑すると、

 

 「っふふ、その制服を着てれば分かるわよ。」


 村正は今まさにクレア学園の制服を着用している。今は、フェアリの護衛と言う役割の為、正装で居なければならないため、私服ではない。そもそも、この世界でまだ学生服以外の物が少ない。


 「ああ、これか。」

 「でも、これだけで足るんですか、僕が魔法使いだと信じるのに。」

 「どういう事かしら?」

 「学園周辺ではまだ普通に疑われることもあるので。」


 クレア学園の学生に向けられる信頼の目は大きい。となれば、それを利用とするものも少なからず存在している。

 村正は男子の為、その分余計に怪しまれてしまうのだが、その点は仕方がない事と割り切っている。一人で出歩くこともあるが、誰かと一緒に居ると、すんなり信じてもらえたりもする。


 「そっか、その制服クレアのだものね。」

 「って事は店主さんはクレア学園ではないのですか?」


 両手を前に併せた店主は「ちょっと待ってて」と言うと奥へと消えて行った。10分程待たされて適当に店内をうろついている所に店主が戻って来る。


 「ごめんなさ~い。待たせたわ。」

 

 現れた店主は先程まで来ていた魔法使いらしい姿から一遍していた。その姿を見た村正とフェアリはその場で凍り付いた。そのあまりの光景に。


 「どおかしら?」

 「どう、と言われましても。」

 

 村正は助言を求める様にフェアリに視線を送る。


 「その制服、ハレル学園の物ですか?」

 「あら~、ご存じだった?」


 店主が着て現れたのは恐らく彼女が学生時代に着ていたであろう制服。それを着て登場した事に驚く村正だったがフェアリはそんな事を全く気にしていない。恐らく、魔法使いは何かしらの制服のような物を着用していることが多いから、そう思っているのかも知れない。

 一方、元の世界の常識で言えば、店主がまさか学生時代の制服を着ていると違和感しか感じな村正。


 「村正君、どうしました?」

 「フェアリは、何とも思わないの?」

 

 村正の質問に首を傾げるフェアリ。


 「別におかしなところないと思いますが。」

 「あ、そう・・・。」

 

 あれ、もしかして僕の感覚がずれてるの?


 状況の整理に悩まされていると、店の扉が勢いよく開く。


 「どもー。店主さん居るー?」


 ――っ!?


 勢いよく入って来たのはこの街で店を開いている少女、リウンだった。


 「あら、リウンちゃんじゃない。」

 「どもー、って何ですかその格好!?」


 リウンも店主の服装を見て驚く。リウンの驚きぶりを見て自分の感覚がぶれていない事を確認する村正。自分と同じ感性の人が居てホッとしている。

 反対にフェアリが驚いていないのはこれがおかしい、と思うような環境に居なかったからかも知れない。王城へ来る人は皆正装をしているので、自然と普段の人の服装を見る機会が少ないと言えるだろう。むしろ、普段着が正装の人はなどそう居ない。

 

 「見せたこと無かったかしら?」


 店主はくるりとその場で一回転する。ふわっと浮かぶスカートが回転の仕方に満点を与える。


 「これは私が通っていたハレル学園の物よ~。」

 「店主さんがハレルなのは前に聞きましたよ。」

 「そお?じゃあ、何が聞きたいのかしら~?」


 リウンは店主に歩み寄ると、


 「良い歳した()()()()がなんて恰好してるのかって聞いてるの!」

 「・・・」


 目頭が微かに動く店主。リウンがおばさんと言ったのを聞き逃さなかった。


 「リウンちゃん。」

 「何ですか?」

 「私、まだ28よ。」


 そうだったんだ。てっきり33辺りかと思ってました。とは、決して言えない。


 店主はリウンに向かってポカーンと背中から取り出した杖で彼女の頭を叩く。

 

 「痛って!」


 リウンの声が店内に木霊する。

 彼女の叩かれた場所は微かに赤くなっていた。このとき村正は誓った。絶対に女性に年齢のことを自分かは言い出すまいと。村正の場合、リウンみたいにとはいかないだろう。イブやほかの女性たちに年齢のことを聞いては毎回のように制裁を受けている村正。

 むしろ、そろそろ学習したほうが良い。


 「やっぱ、どう見ても変だよね?」

 「当たり前でしょ。どこに30手前の人が学生時代の制服を着る。」


 念のため耳打ちでリウンに確認をする村正。彼女に直接確かめないと自分が正しいという確証が持てない。


 「にしてもすごいな。」

 「何が?」


 村正の先には店主の胸が目に飛び込んでいた。学生服がその大きな胸を支えようと必死だ。


 「君、年上が好み?」

 「なななな、何をー!?」


 突然大声を上げた村正に制服の話で盛り上がっていたフェアリと店主が勢いよく首を向ける。


 「どうかしたの~?」

 「こいつが店主さんのことエロい目で見ていたから。」 

 「なっ!?」


 リウンに指摘されて必要以上に困惑する村正と、なぜか急に赤面しだす店主。フェアリに至っては思考が停止したのかポカーンとしている。さらに極め付けとして、シロが一瞬飛び出そうになったのを何とか堪えた。

 村正は慌てて否定するがそれが反って怪しさを増し、リウンが調子に乗り始める。


 「あれれ~。もしかして本当に年上が好み?」

 「違うって・・・。」

 「じゃあ、こっちの()とどっちが良い?」


 こいつわかっていて来ているんじゃないだろうな。

 なんでフェアリもそんな目で僕の事見るの。間違っても僕はフェアリとは答えらんないよ。出ないと、後で何が起こるかわかんないんだから。


 「どっちって、ええ・・・。」


 村正が回答に戸惑っていると、フェアリがずんずんと迫ってくる。店主は村正の正面でじっとしていて、リウンに至っては腹を抱えて笑っている。


 「リウン、わかって聞いたな?」

 「あっははは。うん、やっぱ面白いわ。」

 「村正君は私の事嫌いですか?」


 どうしてそっちへ行ってしまう。


 「い、今ここで僕がフェアリに何か言うのは色々とまずいと思うんだ。」

 

 フェアリと知り合ってまだそれほど時間が経過しているわけではない。さらに、今はまだ学生に過ぎない村正。そんな彼がフェアリと関係を持つとなればそれはそれは大きな問題になる可能性が高い。ましてや、村正1人でも抱えている大きな問題が2つもあるというのに、そこに加えるのは大きすぎる。

 今この場を乗り切るための選択肢としてフェアリを選択するのは簡単だが、目の前にその本人がいる以上、ことがこの場で済むとは言い難いのだ。


 「そう、ですか。」

 

 少し、しょげるフェアリ。


 「あーあ、可哀想。」

 「おい、知らん顔すんな、知らん顔。」

 

 横から好き勝手言ってくるリウンに対抗する村正。


 「はいはい。ごめん、ごめん。」


 そっけない感じのリウンに村正は肩をすくめる。

 村正はどうにかして話の話題を変えてこの微妙すぎる空気の流れを変えたいところ。

 

 「てか、リウンは今日何しに来たのさ。」

 「ああ。そうだった、頼んでた物を取りに来たんだよ。」


 そのことに店主も思い出したように手をパンと叩く。

 

 「そうだったわね。取ってくるから待ってて。」


 そう言い残すとまた店の奥に消えていった。


 「何を頼んだの?」

 「君は知らない方が良いかもよ。」


 って事は彼女の仕事の類か。

 そう言えば、この店魔法使いじゃなくても使える物あるんだ。でも、魔法使いじゃない人が使えるようにするのってどうなってるのかちょっと気になるかも。


 「おまたせ~。」


 店主が持って現れたのは小さな箱状の物。見た目はオルゴールが一番近い形かも知れない。

 リウンはそれを受け取ると、その箱状の物を手に取って何かを確かめている。時折、指の甲で叩いている。 

 一通り確認を終えたリウンは満足そうにうなずくと、


 「うん。大丈夫そう。」 

 「そお?なら良かったわ~。」


 店主も満足そうにしている。

 普通ならここで支払いが行われるのだが、ここのやり取りが村正を驚かせた。


 「じゃあ、いつも通りね。」

 「はい。これ、頼まれてた件の詳細です。」


 リウンが渡したのは小さな物だった。見た目は元の世界にあるUSBメモリ。それは店主が作成した魔法道具だ。

 リウンが今でも情報屋をやっている事を知っている店主だからこそ、様々な情報を持てるリウンは大切な客と情報源になる。その見返りに、リウンは店主からほぼ無償で物を手に入れられる。この2人でしか成立しない関係だ。

 リウンが村正に知らない方が良いと言ったのは、誰かが詳細を知ると、情報を持っている人間が他にも寄り付きかねないから。リウンだけを特別扱いしているのがバレたら他の客から苦情が入る。今、こうして受け渡しを行っている様子も村正達からは詳しく見る事が出来ない。彼等には普通にやり取りをしている様に見える。


 「あの子達、知り合いだったの?」

 「うちのお客さんです。」

 「へ~。」


 店主は興味深そうに村正を見つめる。微かに目が細くなる店主。そんな店主の視線を感じ取ったのか、村正は店主の方に顔を向ける。店主も、村正に気付かれたと分かると、すぐにリウンへ視線を戻す。

 

 「リウンちゃん、私よりもタチが悪いんじゃない。」

 「黙ってる貴方よりはましですよ。」

 「へ~。勇気があるのね。」


 店主は村正達がどういう立場の人間なのかをとっくに見抜いている。分かった上で言及しなかったのは、言うまでも無い。本来、ここにはインディアルの王族など居る筈もないから。

 事前の告知がないにも関わらず、人知れずカムタスの街を警護1人付けずに歩いている事を知った上で行動に出れば、自分の立場が危なくなる。

 店主は村正がこの店に来る以前から彼の事は噂で耳にしており、村正が想像している以上に自分の事を知られている。当然だ。魔法使いは女性が9割を占める。その中で大きな原石、それも男子となるのであれば、噂が広まる速さなど、想像するだけ無駄だ。

 リウンと店主はそれぞれの目的があって、村正達と関わる事を選択した。村正は一般人の為、接触に大きな危険は伴わない。が、フェアリに必要以上に接触しようとすれば、その先命が保証される可能性は低い。


 「店主さん。」

 「な~に?」


 フェアリが何か気になる物を見つけたらしく、店主を呼ぶ。

 フェアリの元へ向かう店主の背中を眺めながらリウンは貰った箱を服のポッケにしまった。


 「これなんですか?」


 フェアリが見つけたのはフワフワと宙を浮いている太陽。


 「これは、太陽、に見せかけたただ宙に浮く球よ。」

 「ほ~ら。」


 店主が手を触れると、太陽はただの鉄球になった。それでも浮いてはいる・・・。


 「これは、丸い物なら、何でもこの大きさに出来るのよよ。」

 「例えば・・・。」


 店主がもう一度球に触れる。


 「わぁ~。」


 今度はキラキラ光るラメのような物へ変化した。

 

 「この玉は自ら発光するから、少し、暗いところで使うと面白いわよ。」

 「ライト、的な物とは違うんですか?」

 「う~ん、これは遊びようかな。」


 どういった魔法でそのような事を可能に居ているのか村正にはまだ分からない。しかし、これほどのものを作るとなると、それなりの苦労がある。


 「後は、こんな風に。」


 今度は球をつん、と突くと、す~っと移動していく。そのまま水平に移動し、壁に当たったところで少し、跳ね返って止まった。


 「動くんですか?」

 「ええ。上手く使い熟せば色んな使い道があるわよ。」


 フェアリ以上に興味が沸いた村正。


 「これ、買います。」

 「まいど~。」


 フェアリ以上に興奮して、購入した。

 書店に続きここでも即決購入した村正に引き気味のフェアリ。フェアリが引いているとも知らずに村正は会計を済ますと、戻って来る。


 「私はどうしようかなあ。」


 悩むフェアリ。そこに村正が購入した球を入れた袋とは別の何かを手にして戻って来る。


 「これなんてどうかな?」

 「これは?」

 「フェアリの髪留めに丁度良いんじゃないかって思ったんだけど・・。」


 村正が持ってきたのはピンクの髪留め。


 「うん。君、良い趣味してるんじゃない?」


 村正の見つけたバレッタ。妖精の羽のような形をしており、フェアリの名前との相性も良い。


 「これは、何かあるんですか?」


 フェアリの質問に店主は細く微笑む。


 「う~ん。お守りって感じかな。」

 「お守り・・・。」


 魔法使いの作るお守り。どんな力を発揮するか、そして、どう転ぶか。作った本人がどんな意図をもって作成しているかで大きく変わる。

 村正の見つけたバレッタは、常に身に付ける物であるため、悪い物ではない。


 「あなたにこれから先どんな事が待っていても肌身離さず付けていれば、きっと良い事があるわ。」


 村正からバレッタを受け取ったフェアリはそれを見つめている。それを見て満足げな表情をすると、


 「私、これ買います。」

 「は~い。」


 店主に連れられて会計に向かうフェアリ。残った村正とリウンは店の外に視線を送った。


 「なあ。」

 「うん?」

 「2人ってどんな関係なの?」


 リウンと店主の関係が特別な物と感じた村正。突っ込むべきではないと分かりながらも、先ほどの店主の視線が気になる。しかし、店主に聞くのは危ない感じがしたので、リウンに相手を変えた。


 「お互いを必要としている関係、かな。」

 「それは私事で、それとも仕事上で?」


 村正の質問に一瞬顔を強張らせるリウン。そして、その表情を見た村正の顔もまた固くなる。

 リウンがどんな反応を示すのか、ある程度は想像できていた村正。問題は、リウンの仕事の関係かどっちを意味しているのか。だが、それ以上村正は聞くのを諦めた。答えはほぼ出ているに等しい。


 「君、ちょっと聞きすぎだよ。君だって、あの子との関係何とかして頑張ってるみたいだけど。」

 「――っそれは・・・。」


 下手に突っ込みすぎで逆に痛いところを突かれる村正。その時のリウンの表情は、今までの彼女とは全くの別人だった。

 王族であるフェアリと今は必要以上の関係になる事は許されない。恐らく、ギルディスは村正なら多少フェアリとの関係が柔らかくなっても文句は言わないし、むしろ推奨するだろう。しかし、周りの目があることを忘れることがあってはならない。今、村正が最も警戒したいことの1つだ。

 今は仕事上の関係にある村正とフェアリ。それがもし、プライベートにまでなるとなれば、話は変わって来る。


 「それに今日はこの前とは状況が違うんだろ?」

 「え?」

 「今日は君、制服だし。」

 「でも、偶々ってことも。」

 「男女がこの街をうろつくのにしてはかなりアンバランスだよ。」


 フェアリが街に溶け込めるようにラフな格好なのに対し、正装である村正はフェアリより目立つ。このカムタスにも学校はあるが、制服が違うのですぐに外の人間だと分かる。


 「まだ、私も君の事はよく知らないし、君も私の事を良く知らない。」

 「・・・」

 「お互いまだ、腹を割って話が出来るほど自分の事を話していないでしょ?」

 

 リウンの言う事は最もだ。今、僕はリウンの事を大まかにしか知らない。反対にリウンは僕の事を知らない。だが、リウンには僕の大きな秘密を1つ知られた事になる。情報の周りが早いこの国で、シロの事が漏れてしまった。

 フェアリには悪いが僕の中では最重要事項の2つの内の1つが漏れてしまった。今ここで、リウンに相談を持ち掛けるべきか。否、今リウンにこの話をするのは得策じゃない。余計に情報が漏れる。


 村正は何とかしてリウンから情報が漏れるのを防ぐ方法を模索する。恐らく、今の段階では情報を漏らしては無いと考える村正。その根拠となっているのは今の時点で村正達と王城そのどちらにも異常は無い。

 もし、村正達の周りで怪しい動きをするものが居れば、すぐにシロから反応がある。


 「ごめん。僕が軽率だった。」

 

 リウンの機嫌を損ねないようにするために素直に謝罪する村正。

 

 「否、君があの人を警戒するのは無理もない。あの人は敵に回してはならない存在だと私は思う。」

 「それは、どういう意味で・・・。」

 「ほぼ意味は理解しているんだろう?」


 少し、フェアリが心配になり視線だけをフェアリの方に窓越しに向ける。窓ガラスにフェアリ達が映りこんだのが幸いだ。

 

 「心配しなくてもあの子は大丈夫だよ。店主さんも気に入ったみたいだし。君の事も含めてね。」


 その一言に安堵した村正から僅かに息が漏れる。リウンも表情が柔らかく戻る。


 「リウン、1つ良いかな?」

 「ん?」

 「今日の夜、君の店に行っても良いか?」

 「夕食を食べにって訳じゃなさそうだね。」


 村正の声のトーンから内容を推察するリウン。


 「うん。内容はここでは話せない。」


 村正の中でこの店の店主への警戒は解けていない。店主から感じる底知れない何か。それが何か分かるまでは、村正は店主を警戒することにした。

 リウンは詳細を語らない村正に不信感を抱きながらもそれを了承した。


 「時間は夜の10時以降。それが条件。」

 「ごめん。ありがとう。」

 「これは私と君との間で契約が発生するけど良い?」


 やはりと思った村正。リウンに何かを頼む上で無償はあり得ないと踏んでいた。


 「分かってる。君の望む物を出せるかは分からないけど。」

 「良いよ。その気があるだけで君は合格だ。」


 窓越しにお互いの顔を見ながら会話を進める村正とリウン。2人が話をしている間にフェアリが戻って来る。


 「村正君、お待たせしました。」

 「ううん。あ、つけてくれたんだ。」

 「はい!」


 フェアリの髪には村正の進めたバレッタが光っていた。


 「普通は、君が買ってあげるべきじゃなかったの?」

 「そうかも知れないんだけどね、今日だけは別さ。」

 「なにそれ?」


 今回は村正が何かをプレゼントすることはない。それは村正が予め決めていた事。


 「うんうん。似合ってる。」


 満足そうに笑う村正を見るリウンの目には、村正の事が眩しく映っていた。



次回At95.夏の夕日


次回はこのタイトル通りいきます。

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