At93.カムタスと言う街
「ごめん、ごめん。」
本を買いに行った村正がシロとフェアリの下に戻って来る。今日は、フェアリの護衛と言う役割がありながら自分の気になった本を買いに行っていた村正。戻ると、フェアリとシロに凄い目で見られる。
村正が戻って来ると、シロは村正とフェアリの手を引いて人目につかない場所へ移動した。いきなり、連れて来られた村正とフェアリはきょとんとしているが、そんな村正達を他所に、シロは、
「では、お兄ちゃん。もう、勝手に動いては駄目ですよ!」
「え?」
シロは、そう言い残すと剣の状態に戻った。まさか、今日シロが2人の前から消えるとは思っていなかったため、慌てふためく村正達。さらに、村正に至っては、シギーとシロと言う頼れる2人が揃って村正の下を離れたため、村正は、これから先、何も起こらない事を必死に願った。
フェアリはシロが戻ってしまい残念そうにするだけで彼女には今の事の重大さが伝わっていない様子。村正が頭を抱えて唸っている様子を、シロが居なくなって寂しいのと勘違いしている。
「シロ~、頼むから出てきてくれ~。」
「・・・」
村正の呼びかけに一切応じないシロ。意思は固い。
村正はシロが戻ってこないと見ると、諦めてフェアリと売り場に戻る。
くっそ、シロのやつ。もしなんかあったらどうすんだよ。
どうしようもない事を嘆いても仕方がないので、村正は、ここからは1人でフェアリの警護に当たらなくてはならない。
と言ったものの、下手に周囲を警戒してもただの不審者でしかないので。
「でもま、これはこれで良いのではないですか?」
「良いって?」
「その方が自然に見えますよ。」
確かに、周辺を見渡すと、今の状況の方が割と自然なのかも知れない。男が少女2人を連れているよりかは、少しばかりではあるが自然に見えるだろう。フェアリとシロと村正の組み合わせは、見方によっては、不自然に映るかも知れない。もし、この場にシギーも加わっていたら、この店では浮いた一向になったかも知れない。
村正と1つ下のフェアリと2人だけの方が、この店の雰囲気には似合うかも知れない。
この光景は、元の世界でも似たような感じを見た覚えがあると、思った村正。
「っはは。確かに、そうかも。」
「何か、おかしかったですか?」
「うん。なんか、懐かしくって。」
まだ、この世界に来て半年ほどしか経過していないが、半年間、今までの世界から離れていると、それだけで懐かしくなるもの。
元の世界と似た感じと言うだけで、ここは全く別の世界。魔法があり、精霊が居て、今隣には王女様が居る。これが元の世界では決してありえなかった光景。冷静になると、つくづく運命は単純だと思えて来るから不思議だ。
「村正君は、ネレラルの出ではないのですか?」
「そう、だけど、どうして?」
「簡単すよ。」
フェアリは村正を入り口に繋がる開けた通路に連れて行く。
「ここ、カムタスは、ルマニミ王国の王都と言う政治的中心地とは他に、もう1つ別の側面があるんですよ。」
「別の側面?」
村正の問いにフェアリは「待ってました」と言わんばかりの笑顔を見せると、
「ここ、カムタスは文化の街でもあるんです。」
「文化の街・・・。」
「はい。ここは、このような書店を始め、様々な店が混在している街です。」
「様々?」
「はい。カムタスから生み出される文化や、流行は、ルマニミを超え色んな国に受け入れられます。中には、ルマニミ以外の国にも支店のあるお店もあるんですよ。」
この文化の街。その言葉が持つ意味は村正が想像しているよりも遥かに重い。それは、このカムタスの裏の側面が大きく関わっている。だからこそ、カムタスが文化の街として成り立つことが可能になっているのだ。
ルマニミ王国内だけでなく周辺諸国にまで影響を持つカムタスから生まれる文化。多くの国に受け入れられるような物を生み出すには、それ相応の情報も必要になる。
ルマニミ王国で情報のやり取りが黙認されているのは、そう言った、ルマニミ王国の国上層だけにメリットがあるわけではなく、こうした市民にもメリットが生まれるからでもある。
「そして、この書店は、欲しい本が見つかると、有名なんですよ。」
「へ~、そうなんだ。」
これだけ広ければ確かにそうだろう。ここから、殆どの本が見つかるかも知れない。もしかしたら、昨日の本も、ここに・・・。
ま、伝説・神話の本があっても不思議はないか。
「1つ聞いても良いかな?」
「はい?」
村正は書店全体を見渡しながら話を続ける。
「ここに無い本を探そうと思ったらどうしたら良いかな?」
「・・・」
フェアリは村正の質問に表情を硬くする。村正の聞こうとしている事を察したから。それは、村正がフェアリに目を併せずに質問をし、その表情が無い物を探す方法、ではなく、ここに置くことが出来ないものを探そうとしているから。
たった一言で村正の真意が見抜かれた事に、村正はフェアリに感服する一方、理解が早くて、周りに余計な事を聞かれずに済んだという安堵感に挟まれる。
「基本的にはどこの国も同じですよ。」
「って事は、やっぱり王城?」
「ええ。インディアル王国の図書館が王城と隣接しているのはそのためです。」
インディアル王国の図書館は一般の人が立ち入れる場所の他にも、立ち入りが禁止されている場所もある。そこに、持ち出し禁止や閲覧禁止の本がある。種類は多岐にわたるが最も多いのが、魔法関係。それも、禁忌書庫行きの物。
王政でない国も含め、重要な物の管理と言うのは、どこも中央に集中しがちだ。当然、その方が管理をしやすいと言うのもあるのだろう。
この世界の一国家の国土の広さなど、村正の元の世界の国土に比べればかなり狭い。
「まだ、僕には早いかな。」
「村正君が気にするのは分かります。ですが、今はまだその時ではないでしょう。」
今はまだ。いずれ僕にはその時が訪れる可能性がなきにしもあらず、と言う事か。
今、僕の手元には精霊具であるシロ、伝説級の書である闇の書。この2つが僕の下にある限り、僕は、日の当たらない場所にも行かなくてはならなくなるのかも知れない。
「いざ、自分がその立場になると、ほんと、何も言えなくなるわ。」
異世界で生活する。そんな内容の物語を幾つも見て来た村正。その時は、自分もそうなったら良いなと思ったことも一度や二度ではない。但し、その時はその代償で背負う物の重さなど、到底頭に無い。ましてや、仮に自分が異世界へ行くような事になったとして、本当に、自分に様々な困難と言うものが迫るとは思っていない。
今、村正は黄道と言えば黄道の道を歩もうとしている。が、現実は甘くない。これは、果たしてどちらに向けられるべき言葉なのだろうか?
「まだ殆ど何もしていませんが、休憩しますか?」
「悪いね。」
村正とフェアリは隣接する休憩所へ向かった。
この書店が広いのは、付随する施設があるからだろう、村正はそう考えた。
実際、地元の書店にそんな場所があったし。上は、確か、家電量販店かなんかがあったっけ。
隣接する休憩所は喫茶店になっていて、それなりに人で賑わっていた。通り面した席は人気なのか、他の席にまだ空きがあるのに対し、こちらは満席だ。
休憩所にやって来る人たちの殆どは既にお目当ての本を見つけたのか、書店の袋を携えている。
村正とフェアリは自分たちの立場を意識していたのか自然と人目を避ける様に、奥の席へと向かった。
席に付くと、すぐにウェイターがやって来る。
「ご注文はお決まりですか?」
「僕は、コーヒーで。」
「私は、アイスティーを。」
注文を聞き終えたウェイターは会釈をすると、戻って行く。村正とフェアリは店内を見渡す。この店の雰囲気はきっとネレラルでは味わえない。
ルマニミの文化は隣国であるインディアル王国内でも触れる事は出来る。ただ、実際本場に来ると、それに圧倒されるのは、どこだろうと、誰だろうと、きっと同じだ。
「フェアリは、ここで見つかりそうなの?」
「多すぎて見つけるのが大変ですね。」
「なら、じっくり探すと良いんじゃないかな。」
フェアリの目的は、自分の能力に関する物。ただ、真正面から向かうのではなく、少し、視点を変えた物。村正も、フェアリの分野の書物を漁るのは、自分の進路にも良い影響を与える。ユウキが既に、自分のやりたいことを見つけたことで若干の焦りを持っている。
「私の個人的な用事に付き合わされるのは嫌ではないのですか?」
村正は首を横に小さく振る。
「僕も自分の新たな興味を見つける良い機会になるし、それに、こんな機会そうそう、ある物じゃないしね。」
「村正君が、重く考えて居なくて私は、ホッとしました。」
「う~ん、そこは、どっちかと言うと、重く考えて欲しいかも。」
僕は今、自分に任された任務を二の次にしようとしているんだから。
「私、自分だけがって言うの、あまり好きではないんですよ。」
「自分だけ?」
「これは、まあ、立場のある者の宿命、とでも言うのでしょうか・・・。」
フェアリが語り出したのは、王族と言う立場に生まれた者が背負う孤独だった。
何をするに置いても1人。周りに護衛の人間は居ても、彼女の相手をするわけではない。自由と言う名目を得ても、彼女だけがそうであり、周りはそうではない。それが、フェアリの背負う孤独だった。
「私は、誰かと一緒にこういう事、するのが楽しみだったんですよ。」
「・・・」
フェアリの表情を見た村正は、彼女が何を望んで、今回自分を推薦したのか、なんとなくだけど、理解できた気がした。
もしかしたら、村正が勝手に思い込んでいるだけの事かも知れない。その真意を確かめるには、今直接フェアリに確かめれば良いだけの事。しかし、村正はあえてそうしなかった。今、ここでフェアリに訊ねるのは、今の彼女の話を聞いていなかったとの等しくなる。
「お待たせ致しました。」
ウェイターが飲み物を運んで来る。
「ごゆっくりどうぞ。」
再度ウェイターが下がる。
「ここの人ってなんかすごい、穏やかと言うか爽やかだね。」
「そうですね。ここは、多くの人が国内外から訪れる場所の1つですし。」
となる、ここはルマニミ王国を代表する施設の1つとなるのか。
確かに、そうなると、自然と、国の介入が無くても、対応って良くなるよな。
一般人が多く居るからこそ、何だろうな。一部の人たちにだけ向けるのでは恐らく、何の意味もない。
「カムタスが最先端なら、ネレラルは、学問かな?」
「ふふ、そうかもしれませんね。学園もありますし。」
魔法研究の最先端の1つであるインディアル王国の首都ネレラル。そこには、世界でも屈指の魔法学校であるクレア学園がある。
魔法使いの学校はクレア学園程の大きな学園は他に2つ。それぞれ、得意分野がある。
村正とフェアリは暫しの休憩を経て書店へ戻る。フェアリと一緒に生物学の売り場へと向かう。
「生物学と魔法を結びつける物って結構あるんだね。」
「本当ですね。私も驚きました。」
村正とフェアリの前には同じ分野の本だけでも沢山ある。やはり、魔法学と生物学は切っても切り離せないなのかと、思う村正であった。ただ、ここまできちんと研究がなされているのは、村正の想像を超えていた。
ここでは、魔法による治癒について扱った書物もあった。それがフェアリの能力に結びつく内容が描き記されているかは定かでは無いが。
「魔法治癒が及ぼ影響。」
フェアリが見つけたのは、医療面で活用されてる魔法が、人体を始めとする、生き物にどのような影響をもたらすのか、と言う物。
魔法を使える者が魔法で治癒を受けても問題が無いのは、大方間違いない。それは、どの研究でも同じであった。しかし、魔法を使えない人や、他の動植物まで同じと言えるのか。そこに切り込んだ内容であった。
魔法によって治療を受けた体をその術者の魔力を体内に受け入れる事になる。この時、魔法使いであれば、そこまで大きな問題にはならない。自分の体内に魔力が上乗せされたと言う扱いになる。魔力は、血液の様に、形が違っても拒絶反応による症状は出ない。しかし、魔法を使えない人たちまで同じと言えるのか。
ある研究によれば、魔法が使えない人に魔法による治癒を行うと、その後10年以内に影響が出る人が居ると言う。勿論、これは全ての人に限った話ではない。その例が女性だ。
女性は元から魔法使いの適性値を出しやすい観点からも、魔力に何らかの体制があると考えられる。一方、男性はその反対で、魔法による、影響を受ける人が報告されているとの事だった。
「・・・だが実際に魔法使いの研究者が直に確認したわけではないので、事の真相は不明。」
「フェアリは、どう思うの?」
本に書かれたないようについて問う、村正。
フェアリは本に視線を向けたまま。
「私も、少なからず、影響は出てしまうと考えます。」
「そのこころは?」
「魔法に慣れていない。それが一番の要因と私は考えます。」
フェアリの言う事は恐らく最もだろう。魔法の影響を受けてしまうのは、身体が魔力を知らないから。
反対に、魔法の治療を受け続ければ体が慣れてきて、反応も減るかと言われれば、すぐに結論は出せない。なんせ、影響が出た時点で魔法の治療終了してしまう。
フェアリの能力は治癒どころか、根治、若しくは完治の類。治療の先にあるフェアリの能力が及ぼす影響は通常の魔法の治療を遥かにしのぐだろう。
以前村正が見た植物は特に何の影響も受けて居なかった様に見受けられた。そこから村正が導いた仮説は、フェアリの能力は彼女の言う通り、魔法とは別の力。それならば、一応納得は出来る。
「フェアリの能力は魔法じゃない事を前提にすると、人に与える影響はどうだと思う?」
「私も植物にしか試したことが無いので正直なんとも言えません。人はおろか動物、魔物相手にも使用した経験が無いので。」
人体実験を名乗り出るには、まだ遠いな。
「でも、前に見せてもらった感想を言えば、多分、大きな影響は無かったんじゃないかな?」
それは、村正の素人の感想でしかない。村正が知らないだけで、本当は何かしらの影響を受けていた可能性だって十分にあり得る。もしかしたら、あの後、村正達が知らないだけで、自分勝手に歩き出していたかも知れない。勿論、そんな怪しげな植物が確認されれば情報が出るだろう。その情報が無いと、言う事は、現段階ではフェアリの能力を怪しむ要素は無いと言う事になる。
今後、よりフェアリ自身で調べて行った結果、何かしらの事を見つける事が出来たら、それで良し。その時、自分の能力と改めて向き合えば良い。村正も、その時は、先輩として一緒に考える覚悟だ。
「そうだと良いのですが。植物と、動物では違った反応を見せる可能性もありますしね。」
「そうだよね。何が起こるかなんて、実際に見て見るまでは何も言えないし。」
「はい。それに、私の能力はインディアル国内でもごく僅かの人しか知らに事項ですので表だった行動が出来ないんです。」
「それも含めての学園入学何だね。」
クレア学園に入学すれば、研究の一環とすることが出来る。そうすれば、魔法使いが様々な研究をしているので、その中の1つに紛れ込ませれば、フェアリの能力が目立つことは避けられる。仮に、再生が表に出たとしても、それは魔法と位置付ける事が出来る。
魔法と言う力が、フェアリを未知の力から守るのに一役買っている。
「あの学園でしたら、何を研究していても怪しまれないので。」
「まあ、確かに。先生たちも何したいのか分からない人多いし。」
村正が思い浮かべた人物は言うまでも無く、イブであった。
「その本、どうするの?」
「そうですね。面白そうですし、買ってみることにします。」
「うん。分かった。」
村正とフェアリは、本を購入するため、店員の下へ向かう。
「銅貨10枚です。」
会計を済ませ、村正とフェアリは書店を出る。お昼を前に、外は真夏の暑さ。
「どこへ行こうと、夏は暑いか。」
「私はこの程度へっちゃらですよ。」
フェアリの笑顔が、村正を意地悪そうに見つめる。
真夏の気温の中、学園の制服は、村正にかなり堪えた。ラフな格好のフェアリはそこまで暑さを感じては居ない。
「さて、次、行きますか。」
「はい。お願い致します。」
この自然な流れでフェアリが村正と手を繋いだというのに、村正が表情1つ変えなかった事にちょっとばかし、機嫌を損ねるフェアリだった。
村正は普段からシロと手を繋ぐ機会もあるので、その辺りの感覚麻痺していたとは、当然言える訳もない。
「村正君は、もう少し、女の子に敏感になった方が賢明ですよ?」
「な、何を急に!?」
村正は暫く自問自答に追い込まれたと言う。
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