At91.自由行動
国王同士の会談が行われるこの日、僕は、あることが気がかりで、イブさんを見つけたので、会談が行われる場所を聞こうとしたのだが・・・。
「駄目よ。」
「何でですか?」
てっきりいつもみたいに教えてくれると思ったのに。
僕がイブさんに今回使われる部屋を聞こうと思ったのは、何も興味本位からではない。単純に心配だったから。
僕は昨日、リウンからこの会談の情報が外部に既にしれているかもしれないと言われた。僕らが、この国へ来ている事自体が機密事項にも関わらず、それを通り越して、会談の事までもが知れ渡っているとなれば、今インディアル王国が抱える問題がばれてしまう。
「今回会談が行われる場所の詳細を知っているのはごく限られた人物。残念だけど、紺野君はその人数には入ってないわ。」
「ええ~。」
確かに、僕みたいな一学生にまで情報を教えてもらえるとは思ってないけど、イブさんならもしかしたら教えてくれそうなんだけどな。
それに、なんか、いつものイブさんと違う。
その後も、村正はあの手この手でイブから情報を聞き出そうとするが、悉く失敗する。そして最終的には。
「余計な事聞く暇があったら、紺野君も自分の事しなさ~い。」
イブの機嫌が悪くなったこともあり、村正はその場を引くことを決めた。
「そう簡単には行かないか。」
「仕方ありませんよ。」
「シロ・・・。」
村正の腰からひょいと現れるシロ。一連の流れを見て居た。
「お兄ちゃんは今回の役割はあくまでフェアリ様の護衛ですし。」
「そうだけどな~。昨日の話聞いちゃうと心配じゃん?」
でも、話を聞いた感じだとその辺の危険性イブさんも知っているみたいだったな。まあ、この国へ先に来ているんだとしたら、当然知っていてもおかしなことではない。この国では情報戦が物を言う事は、恐らくこの国では普通なんだろうし。
「仮にも、国王同士の会談を行うのです。警備だって並みではずですよ。」
シロの言う事も最もだと思う。ガバガバの警備では落ち着いて話も出来ないだろう。しかし、その割には警戒がいつも通りすぎやしないか?
今回行われている会談の詳細に関しては、警備やその他の動きも含め、全体を知っているのはほんの僅か。それ以外の人間には何一つ知らされていない。故に、普通の警備になる。
「お兄ちゃんにも今日は大事な任務があるんですし、そっちに集中しましょう。」
「そうだな。今日は僕もしっかりとしないと。」
村正は顔をパンパンと叩くと予め向かうようにと指示された部屋へ向かう。そこでフェアリと合流することになっている。
先を歩く村正の後を小走りで追いかけるシロ。シロにとって村正の隣を歩くより、少し後ろを歩くのが一番のベストポジション。そうすれば、時折村正が振り返ってシロの事を確認してもらえる。
前に、こっそり剣の状態に戻った時の村正の焦りようを見て癖になった。
「紺野君、こっちこっち。」
「あれ、シギーさん?」
指示された部屋の前には何故かシギーが立っていた。目印になるようにの割には服装がかなりラフだ。
「ここで何しているんですか?」
「あれ、お母さんから聞いてないの?」
「何をですか?」
「私も一緒に行くのよ。」
おい、マジか。そんなの初めて聞いたぞ・・・。
「私が一緒だと何か不満でもあるの?」
「いえ。そんなことあるわけないじゃないですか。」
作り笑顔で誤魔化す村正。てっきり今日はフェアリと2人っきりだと思い込んでいた分ちょっとだけショックがあった。これを期にフェアリと距離を縮める事が出来れば良いと思っていたのが、シギーの目の前ではそうも行かない。
シギーは、村正に留意事項として、フェアリから絶対に目を離さないことを伝えた。村正は、そんな事無いと思っていたが、年の為、頭の隅に入れておくことにした。
「取りあえず、中で待ちましょうか。」
「そうですね。」
室内で何故か向かい合うように座った村正とシギー。特に意味はない。
静かな空間が2人を包む。特に話すことも無く、入ったものの気まずい空間となる。元々、関わりが他の学生より多いだけで、それ以上の関係でもない。
学園生活でもあまりシギーを頼る事が少ない村正。大抵は、自分がこの世界に来る原因となったイブへ相談に行くことが殆ど。イブが駄目なら普通に担任にレベッカの下へ向かう。
意外と関係が無かったことを認識させられた村正は、この状況をどうすれば良いのか必死に考える。そんな色々と頭を悩ましている中で、シギーは平静で居る。これが、経験の差なのか、と思う村正だったが・・・。
「そう言えば紺野君さ。」
「はい。」
ヤバイ、何聞かれるんだ?成績?それとも、他の事?
「ちょっと見ない間に、女の子増えたわよね~。」
・・・へ?
「何ポカ~ンと口開けてんのよ。」
「え、ええ、何ですか急に?」
唐突に女子の話を持ち込まれて大いに困惑する村正。まず、シギーの口からそんな話が出るとは思ってもみなかった。そこは、親子なんだと思う村正だが、まずは、どう返すか。
「あら、私が紺野君の噂を知らないとでも思った?」
「噂と言いますと?」
シギーは、人さし指をピンと立て、
「例えば、1年の女子全員を落したとか?」
「はあ!?」
いやいやいやいや、それいつ頃たった噂?もうとっくに消火出来たと思ったのに。ていうか、何でそんな話真に受けたの?
もしかしてこれからシギーさんの口から出て来るのって、こんなんばっか?
まさかとは思うけど、新たに変な噂とか出てないよな。
「あら、これ学園内ではかなり有名って聞いたけど?」
「誰からですか?」
「お母さん。」
それを聞いた瞬間僕は膝から崩れ落ちた。なんでも、こういう時に限ってイブさんの話を信じたんですか。嘘に決まってるでしょーよ。
イブさんもだけど、何でそんな事言っちゃうのかな。僕の事揶揄ってそんなに面白いのか?
頭の中で爆笑してるイブが浮かんで来てしまいイラッとする村正。すぐに頭の中から消去した。
「他にも色々あるのよ。」
「まだあるんですか?」
「紺野君が街の幼女に手を出したとか。」
んん!?なんだそれ!?
全くの心当たりのない物が現れ、大いに慌てる村正。流石に、それはないと、シギーに断言する。
「記憶にございませんが?」
「あら~、その言い草だとあるように聞こえるけど?」
「本当にないですから。そもそもいつの話ですか、それ。」
人間本当に慌てると言葉など選んでいられない。それが原因で一度生まれてしまった誤解を解く荷にどれだけの時間と労力を必要とするかわかったもんじゃない。特に、女性相手や、自身の信頼に関わるないような場合、何度も何度も説明をしてやっと誤解が解ける。それが、どんなに自分とは無関係な物でも。
火のない所に煙は立たぬとは良く言うが、村正の周りに多くの女性が居るのが、今回の原因かも知れない。
「試験前の休みだったらしいけど、違うの?」
「確かに、試験前に街へは行きましたけど、別に何もありませんでしたが・・・。」
村正には心当たりが何一つ見当たらない。しかも、その時はシロは村正の傍にこそ居たものの実体化はしていない。間違ってシロが見られた、なんて可能性も消えた。
「本当に?よ~く、自分の記憶呼び起こして見なさい。」
「そんな、事言われましても・・・。」
一切記憶にない事を呼び起こせと言われても困る村正。
「それは、誰から聞いたんですか?」
ソースが気になる村正。もし、イブみたいに、信頼性の薄い人だったらまだ反論の余地がある。
「これは風の噂ね。」
「がくっ!」
ただの噂に踊らされた村正。根も葉もない噂だとここでただしておかないと、いつまた誰に言われるかわかったもんじゃない。
「なら、信じないでくださいよ。僕がそんな真似するように見えますか?」
「うん。見える。」
あれ~・・・。
「どこを見て思うんですか?」
「だって、紺野君の周りは女の子ばっかしじゃない。」
それは当然ではなかろうか?なぜなら、この学園は99%が女子のほぼ、女子校なんだし、男子なんてたったの2人だし。学年でたった1人の男子だよ?むしろ、ここからどやって男子を増やせとおっしゃいますか。学長殿!
「それは、どうしよもないのでは?」
強く言えるほど、僕の心は強くなかった。イブさんとは違う何かが、シギーさんからは感じられる。逆らってはならないという、何かが。
恐らく、これがイブさんがシギーさんには頭が上がらない最大の理由ではなかろうか?
「そうかしら、エレン君なんかは、学園の外には多くの男友達居るのよ。」
「へ~、初めて聞きました。」
そう言えば、あまり知らないな、エレンさんが普段何しているのか。時々、街へ言ってるみたいだけど、どこで何してるかなんて別に気にもした事無かったし。
「まあ、別に誰かに言う事でもないしね。」
「紺野君だってそうでしょ?」
「はい。まあ、僕の場合、街へ行っても特にすることなんてありませんし。と言うか、いまだに、この街に慣れなくて・・・。」
この世界に来てもうすぐ半年経とうとしているが中々この世界のシステムになれない村正。
こういう異世界はゲームでは何度か経験はあるが、いざ自分が実生活で行うとなると、やはり、現実は違うと何度も思い知らされる。
金銭感覚もゲームみたいに単純ではない。ゲームに場合、所持金はすぐに手に入るそれも多く。そのため、街の店で多くの買い物が出来るが、実際は違う。限られた収入で行動が求められるのと、普通に生活にお金が掛かるので自由に使える物はかなり少ない。
さらに、ネレラルは坂が多いのと、意外と路地が多く迷い安い。初めて街へ出た時は、軽く迷子になったほど。学園が意外と目立つのは、学生の迷子防止にもひと役買っている。
「そうなの?紺野君の場合、土地勘とかすぐについて迷いそうにないと思ったのだけど。」
「まあ、迷子以外にも、色々あるんですよ。」
僕が異世界から来ていることはシギーさんも知らない大きな僕の秘密。話達頃で信じやしないだろうし。
「紺野君っていつも授業が無い日は何しているの?」
「また、唐突に何ですか?」
「ん?あんまり紺野君のこと知らないなと思って。」
別にそれはおかしい事ではないと思う。シギーさんはレベッカ先生始め他の担任先生たちと違って、学生と接する機会が少ない。その中で、まだ1年生である僕の事を知らななくても不思議はない気がするのだが。
「別に変な話じゃないと思いますよ?」
「紺野君とは、これから先、一緒に行動する機会が多くなりそうだからね。」
「どういうことですか?」
「今日みたいに、学園外を始め、学園内でのことも含め、何かと力を借りる事になりそうだし。」
「そうでしょうか?」
村正には疑問が残った。学園外での活動が増えると言ったってまだ1年の村正が多く出ることはまずあり得ないと言っても良い。そもそも、そう言うのは上級生の役割ではないのだろうか。もし、村正個人を買っているのだとしたら、それは早計だと言いたい。村正はまだ、1年で何より、この世界では誰よりも情勢に疎い人間だ。どこで非常識がでるか全く想像がつかない人間なのだ。そんな人間をホイホイ使ってもいいのだろうか。一歩間違えば、シギーにも迷惑が掛かる。
村正の中で疑問と言う疑問が大きくなる程、今回自分がこの場に居る理由さえ分からなくなる。
「私は君と言う人間を頼りにしているの。それは、周りや君が判断している場所とは違う視点を私が評価しているかも知れないじゃない。」
「違う視点、ですか。」
「そ、紺野君自身や周りの人が、評価に値しないと考えている部分を私や私以外で紺野君を必要としている人が評価していれば、それで十分なのよ。」
わかったような分かってないような表情をする村正。椅子に座り、シギーと目を併せる。
自分の見えない部分を評価してもらえるのは素直に嬉しい。しかし、その事が本当に村正にとって正解なのか、まだ、疑問が解けない。
「それ、僕の意見が通らない様に聞こえてしまいますが・・・。」
「その通りですよ。」
突然、柔らかい声が聞えた。柔らかく、でも、弾んでいもいる声が。
「フェアリ。」
「お待たせしました。」
フェアリの格好も、今日は一般人と何ら変わりない普通の格好だ。
「村正君が自分の事をどう思うが、私の見た村正君もまた、村正君なのですよ。」
「でも、それだと君の目に映る僕は偽物かも知れないよ?」
「例えそうであったとしても、私の見た村正君が全てです。それは私に限ったことではありません。シギーに、シロちゃん。それにお父様始めみんなです。」
「みんなには僕はどう映っているんだか・・・。」
自分はそこまで出来た人間だなんて一度も思った事は無い。反対に誰よりも一番劣っていると思った回数の方が多い。その方が気が楽になった。
「紺野君の価値は紺野君1人に決められるものではないと言う事よ。」
シギーの言った通り、人の価値はその人だけでは決められない。しかし、それは捉え方によっては諸刃の剣かも知れない。
そう、思う村正だった。
「その通りですよ。」
「そうかな~。」
今は多くの人が自分の事を見てくれている。それは別に悪い事ではない。そう考えれば、今のこの状況も悪くはない。なら、今を精いっぱい頑張るだけ頑張って、それからまた先の事を考えれば良い。
今の村正には、村正を見込んでくれた子が目の前に居る。なら、その子に全力で答えるだけだ。
「では、参りましょうか!」
彼女の笑顔に、自然と笑顔がこぼれた。
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