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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第5章 ルマニミ王国
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At90.今後の方針

 かつて、この世界では魔法とは重大な戦力であった。優秀な魔法使いを持てば、世界をも統べられる。ただ、注目されたのは魔法使いよりも、魔法そのものであった。

 人々が注目したのは強力な魔法であり、魔法使いでは無かった。魔法は、魔法使いが居てこそ成り立つ物。本来、強力な魔法を扱えるのはごく一部の魔法使いのみであった。しかし、それを知らない者が多すぎる時代がかつて、存在した。

 他国で強力な魔法が生み出される。その方法を盗み、自国の魔法使い達に使わせる。当然、そんな事すれば命にだって関わって来る。今ほど魔法が学問として認識されていない時代。それは単純な魔法であっても、発動には魔法使いに大きな負担強いた。

 今でいう初級魔法や中級魔法であっても、この当時で言えば上級魔法以上だったかもしれない。それを知らない者に、知ってもらおうとしても、誰も、聞く耳を持たなかった。それは、出来ない言い訳にしか取られなかった。

 魔法を知っている者なら誰もが、出来ないと分かっている。魔法を開発した側も、命を懸けて編み出している。その危険性を知ってまた利用する。発動に危険を伴う。その魔法をあえて盗ませる。そして、無理に発動させ、自滅を引き起こさせる。そして、魔法使いが弱ったところを狙う。そんな方法を用いた戦も、過去には存在していた。誰もそのやり方に疑問を持たなかった。不思議なほどに。


 ――ただ、各国の魔法使いを除いては。


==============================================


 現在の禁忌書庫の書士の目的を改めて認識したギルディスとドルトリス。となれば、これから取るべき方針を決めなくてはならない。

 なのだが・・・。


 「インディアルに入り込んだ書士の人間。誰か分かっているのか?」

 「そこまでは分かっていない。だから、どれほどの力を有しているのかさえ分からないのだ。」

 「白いローブか。奴らが纏うローブにでも特徴があれば、何か分かったかもしれんのにな。」

 「仮にローブに何か意味があったとしても、我々にはそれを理解することは出来ないだろう。何せ、我々は、彼らの、いや、彼女等の事を知らないのだから。」

 「これからは、知らぬ存ぜぬでは通らないか。」


 目に見えない危機が迫りくる事に、のんびりして居られないことを理解する国王2人。特に、当事国であるギルディスは、常に情報をかき集めている。もしかしたら、明日、国内のどこかで襲撃があるかも知れない。そう思うと、こうやって、ルマニミ王国で会談を行っている間も、心の中では不安で一杯になっている。

 禁忌書庫の書士の活動が減ったのはここ数年の話であり以前はそうではなかった。活動も、今に比べると大胆だった。それ故に多くの被害が出た。なのに、何の手がかりもつかめない。掴めないと言うより、向こうが掴ませないような工夫をしている。いかに、書士の人間が慎重かが分かる。


 「でも、奴らの事で最近分かったことが1つある。」

 「何?」


 ここに来てドルトリスが思わぬカードを切って来た。


 「この情報に関してはまだ外部に公表していないんだがな、組織の人間の子供として生まれた魔法使いは、初めから組織に属しているらしいんだ。」

 「初めから?」

 

 ドルトリスは頷きこう続ける。


 「親が書士の人間の場合、高確率で魔法使いの適性を出す。魔法使いの適性が出たら、高度な魔法教育を幼少期から行っているらしいんだ。」

 「子供に魔法をか?」

 「そうすることで、他人より優れた魔法使いを生み出せる。高度な魔法を教え、扱えるようにして、組織の重要な戦力として育て上げているようなんだ。」


 ドルトリスの提示した情報は想像を超えていた。まさか、生まれた時点で既に組織に属している。それは誰も想像していない事だったからだ。

 子供の時から戦闘員としての訓練を積ませる。子供に、高度な魔法を使わせる。魔法を最初に学ぶ年齢が15歳からなのは、クレア学園だけじゃない。これは魔法連盟の定めた物。それより前の子供には負担が大きすぎるから。簡単な魔法で、身体を慣らさせることは出来る。それでも、使えるのは初級魔法の中でも、本当に簡単な物だけ。それを破ることは固く禁じられている。


 「だとしたら、その子供たちは組織の考え方を教えられるのか・・・。」

 「全員が全員かどうかは分からん。そもそも、そこで生まれる子供が多くいるとも思えん。」

 

 今の魔法は女性特有の物。近年になって再び男性にも適性が現れる様にはなったが、それでも、使える魔法は初級がやっと。村正や、エレンが例外なだけ。

 禁忌書庫の書士が魔法使いで構成されているのであれば、そこで子供が生まれる様な環境、状況が訪れる事は余程の事が無い限り無いだろうと、今までは考えられて来た。

 近年、禁忌書庫の書士には一般人も構成員に含まれるようになった。規模が過去例に無いくらいに拡大しつつある。そう言った組織内の変化が、先のドルトリスの話に繋がって来るのだ。


 「そう、多くは無い。言い換えれば、少なからず居る事になる。」

 「そうなるな。」

 「・・・」

 「――何か気になるのか?」


 口に手を当て考え込むギルディスを気に掛けるドルトリス。


 「今回の侵入。もしかしたら狙いは、学園かもしれん。」 

 「なっ!?」


 イブが、驚きの表情を浮かべる。


 「ちょっと、本気で言ってるの?」

 「あり得ない。そう言い切れないのは、君が一番分かっているだろ?」

 「そう、だけど・・・。」


 本当に、学園が狙いだとしたら、その狙いが何なのかが極めて重要になって来る。学園の何を狙っているのか。学園には、魔法に関するあらゆるものが揃っている。その中には、禁忌とされた魔法に関する資料も存在する。その資料が狙いなのか、それとも、特定の人物を狙って来たのか、それとも、全く誰も予想してない何かが学園にはあるのかも知れない。ただ、ギルディスとイブの会話から、少なくともいくつかの心当たりはあるようだ。


 「インディアルは、何かあるのか?」

 

 ドルトリス、そしてアレンも気にしている。イブと、ギルディスは顔を併せると。


 「例の事件関係者が今年、入学している。」

 

 2人は黙り込む。

 

 「そう。もう、そんなに経つの。」

 「ええ。だから、元々警戒は強化していたのよ。去年あたりから。」

 「そうだったんですか。」


 大きな事件を何度も起こすわけにはいかないインディアル王国としては、今年から数年間はいつ何が起きたとしてもおかしくはない。但し、その危険性を周知させることは簡単な事ではない。過去の事件の事を内密にしている以上、禁忌書庫の書士に対する大規模な警戒情報を出せなかったのだ。そのために、警戒を国が強める以外、方法が無かった。

 過去に置いてきた物が現れた。それは覚悟していた事であり、予測できることだった。それでも、いざとなると、どうしようもなくなってしまう。1つの選択によって選んだ道の先にはそれより多くの可能性が待ち潜んでいる。

 

 「あの場所、今はどうなってるんだ?」

 「ああ、今は簡単には入れない様、結界を施している。」

 「ええ。入れるのは私を含めた限られた人間だけよ。と言っても後3人ほどしか居ないけど。」


 かつて、書士がらみの事件が起きた村。そこは、既に立ち入りが禁止されている。その村へ通じる道にはイブによって別の道へと繋がれている。間違ってそこに人が入り込まないように。

 

 「村の名前、なんと言った?」

 「ミラトノス村よ。」

 「本当に小さな村で、良い場所だった。」


 ミラトノス。この世界にかつて存在した古の言葉で、静かなる民を意味する。


 「それでいて、民も良い者ばかりだった。」

 「ギルディスは面識があったのか。」

 「ああ、何年も前だが、行ったことがある。」


 周りを緑に囲まれ、隠されるような立地になっていたミラトノス村。その村に、伝説はあった。赤の英雄伝説。事件後、赤の竜は姿を消し、消息はつかめていない。それでも、村の一番奥にあった祭壇は今も残されている。事件の時、その祭壇だけが無傷だったという。


 「侵入した者がミラトノス村へ向かった。と言う事は無いのか?」


 当然、誰もが最初に考える事ではある。


 「すぐに調べさせたが、その可能性は無い。」

 「根拠は?」

 「結界内に侵入すれば、その結界が消滅するようになっている。」

 「結界は無事だったか。」


 侵入を許した時点で結界が消滅するのは、その後の調査を円滑に進める為である。結界が張られた状態で村へ入れる人数が限られている以上、その全員が動けない可能性を考慮してである。勿論、そのような事が無いようにと、入れる人数を数人にしている。だが、念には念を。物事は、最悪の事態まで想定しておく。それが、インディアル王国の行動方針でもある。


 「だが、いつまでも無事とは限らない。今、結界へと通じる道に検問を張ってるところだ。」

 「検問か。」

 「時間稼ぎにしかならんかもしれんが、不審者の発見程度にはなると思ってな。」


 気休めにしかならない。むしろ検問によって村の存在が明らかになり、面白半分で村に手を出されかねないとの指摘もあった。そこから、過去の事件が公になると危惧された。しかし、事態がより深刻なのは、不審者を堂々と国内を歩かせている今の現状を考えると、検問を張らざるを得なかった。


 「今のところ怪しい人間、物の発見は出ていない。」

 「検問は毎日?」

 「ああ。村へと通じる道には毎日。他に数か所、国内でも重要な都市の周辺の道で、不定期に。」


 検問の場所を村周辺に限定しなかったのには理由があった。


 「村近辺だけでは、他が手薄になり、そこを突かれるかもしれんし、何より、検問地点を怪しまれる。」

 「だが、村近辺だけずっと同じでは反って目立たんか?」

 「勿論、その対策も取ってる。」


 ギルディスは自分の懐から黄色い石を取り出す。


 「成程な。」


 その石を見てドルトリスも納得の色を示した。


 「透視石。」


 この透視石。情報石などと同じく情報戦に用いられる特殊な石。情報石を違うのは、この石の力の発動には、魔法使いが必要であると言う事。この透視石は、その場所の情報を魔法使いに直接見せる事が出来る。そのため、術者となる魔法使いの力によって、有効範囲が大きく左右される。

 インディアル王国の魔法使いは、皆優秀な人間なため、ほぼ範囲に差は無い。イブが他の人より若干遠くまで使えるだけであって。


 「人を直接配置出来ないときは、この石を数人で交代で使う。」

 「それなら、確かに安心だな。」

 「ああ。不審な点があればいつでも動けるよう、転送魔法の仕掛けも施してある。」


 近くに人を配置すれば効率が良いと思いがちだが、それでは意味がない。せっかく目立たぬようにと透視石を使っている。近くに人が居れば、怪しまれてしまい、不審者の発見に支障をきたしてしまう。

 現時点での状況を聞いたドルトリスは今後、実際にどう動くかが大事だと、提言した。それにギルディスも頷く。


 「魔法使いは皆、禁忌書庫の書士の存在を知っておるのだろ?」

 「ああ。うちの学園ではその事を教えている。」


 クレア学園では、外部での演習が本格化する、3年生になると、禁忌書庫の書士について多くの教えを受ける。村正達1年生が禁忌書庫の書士について知ることは本来無い事。村正達の場合、まだ実際に接触したわけではないので、学園側も深くまでは実情を教えていない。早い段階で知る事ではない。それが、今の学長であるシギーの方針であるからだ。

 

 「下手に、向こう側へ渡ってしまう。なんてことはあるのか?」


 ドルトリスの疑問は禁忌書庫の書士を知ると、行きつく疑問である。禁忌書庫の書士の存在を知った魔法使いが、自分から書士となってしまわないか。


 「その可能性を捨てるのは無理よ。」

 「イブ殿・・・。」


 ドルトリスの疑問はイブによってすぐに断言された。可能性を捨てられないと。


 「ご存じの通り、私達魔法使いには、暗い歴史はある。その歴史が現在進行形の場所もある。その場所がある以上、禁忌書庫の書士は存在し続けるわよ。」

 

 歴史を過去の物。過ぎ去った。なんでもそう割り切る事が決して良い事ではない。魔法使いの歴史は、目を背けてはならない過去の1つ。今では、その事を知る者も居る。但し、魔法連盟に加盟していない国では、今でも、魔法使いとは隔たりが存在している。禁忌書庫の書士はそう言った国に目をつけ、構成員を増やしていく。

 今の活動方針が世界への復讐。今の世界に何らかの恨みがあれば、その恨みの火を大きくされる。


 「これから先、我等は、奴らと真っ向から向き合う必要がある。」

 「そうだな。もう、あんな悲劇2度と起こしてはならん。」

 「周辺国にも通達を出す。」


 通達を出すと、ギルディスが言うと、ドルトリスは顔を曇らせた。


 「魔法使い達に危害が及ばなければ良いのだが・・・。」

 「そんな真似、絶対にさせん。それに、通達を出したことで何かある様なら、学園側も黙ってはおらんだろ?」


 ギルディスが視線をイブへと送る。学園の方針の最終決定権は学長のシギーにある。しかし、例えイブであっても、シギーに提言することは出来る。


 「勿論。最優先は学生たちよ。クレア学園(うち)は他の国からも学生が来てるもの。」


 将来有望な魔法使いの卵が世界中から集うインディアル王国。世界でも有数の魔法国とも言える、インディアル王国内で、禁忌書庫の書士関連で魔法使いへ攻撃が飛び火するのは目に見えている。

 魔法使い達を守れるのは、国王であるギルディス以外に居ない。但し、必要以上に学園に口を出すことが出来ない以上、国は間接でしか学生を守れない。それが、厄介な点でもある。

 

 「我が国に来ている学生の国へは一応、強制的に学園から出すような真似はしないでほしいとの願いも出す。学生の学びの機会を奪いたくはないしな。」

 「そうだな。我が国の学生は任せる。まあ、大丈夫だとは思うがな。学園の教師達の下に居るのだ。根が弱った奴はそうそう居ないだろ。」

 

 ドルトリスはイブに視線を送った。イブは、「何よ?」と言いたそうにしている。学生たちが、禁忌書庫の書士の事で学園を出ると言うならそれを止める事は出来ない。しかし、学園の学生たちは、その程度で自分の将来を簡単に諦める様な軟な学生ではない。皆、自分に何かしらの目標があって学園に来ている。

 クレア学園の教師陣が癖の強い人員の集まりもあってか、学生たちもちょっとやそっとの事では同様したりもしない。これは学年が上がるごとに、各教師たちに体勢が付き、学園の教師以上の変人が居ないからだ。


 「期待されているようで何よりだわ。」


 実際両国の国王は学園に大きな期待を寄せている。インディアル王国周辺で最も魔法に長けている施設がが学園なのだ。勿論、クレア学園と同等の学園が他にもあるとは言え、立地の問題もある。自然と期待が寄ってしまうのは致し方ないのかも知れない。それでも、学生に負担を強いてしまうと言う、上に立つ者の責任感がある。

 本来、自分たちで解決しなくてはならない事でさえ、学生の助力を必要としてしまう。魔法連盟側も、避けられない場合においては、学生の導入を認めている。将来的に、この問題は解消しなくてはならない。しかし、今はその目途はない。

 

 「期待してしまうのは、国王としては、複雑な物だよ。」

 「ああ。こうして、大人だけではどうすることもできんのだから。」


 今後は各国の対応ではどうすることもできなくなって来ることが予想される以上、学生の力を使わざるを得ない事を改めて認識した。

 今はまだ、何も動きは無い。自分達だけの早とちりであって欲しい。ギルディスは胸の内でそう考える。現実は違うと呟き始めている。こうしている間にも、何が起きても不思議はない。

 この数年間が何も無かっただけで安心していた点があるのは事実だった。さらに、インディアル王国が事件を公にしなかったことで、危険意識が大きく欠けてしまったのもまた事実。過去の行動が吉と出るのか凶と出るのか今はまだ分からない。

 小さな火種は、時間を掛けてゆっくりと確実に炎へと成長していく。火種の間に、消化できるかどうか、断言をすることなど、この場の誰にも出来ない。必要以上に恐怖心を煽っても何の得にもならない。

 今後の方針、などと言っては居たが、具体的な解決策に直結してない以上、ただ、見守ることしか出来ない事が、ギルディスもドルトリスもやりきれない気持ちになった。


 「今日は、この辺にするか?」

 「それが良い。これ以上は、空気が重くなるだけだ。」


 今日のところは一旦終了となった。この後は各国で今後の方針を念頭に対策を行っていくしかない。

 何もない、などと言う希望は持てない。故に、事を慎重に運ばなくてはならない。

 会談で浮き彫りになった現状をどうするのか。2人の国王に大きな試練が訪れた。





次回At91.自由行動

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