At9.食料の確保、再出発
「赤の英雄の物語は確かに数年前のことかもしれない。でも、みんなが知らないのなら、それはいつのことだとしても同じだよ。」
「でも、」
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「ここは、本当に何にもないんだな。ネズミ1匹出て来やしない。」
「本当ね。このままじゃ本当に非常食頼みになっちゃうわね。」
「それは、勘弁だな。」
なんで何にもいないんだよ。普通なんかいてもおかしくないだろ。ゲームとかでも封印されてた場所とはいえ、なんか出るぞ。何にも出ない方がおかしいし。
「あ、あそこ、水が流れてる。」
「どこ?」
「ほら、あそこ。」
ユウキの指差す先を見てみると、そこには川が流れてた。
ん~よく見えないな。
「ユウキ、もう少し周囲を明るくできる?」
「これじゃダメなの?」
「ちょっと見えづらい。」
「しょうがないわね。ちょっと待ってて。」
そう言ってユウキは魔法の詠唱を始めた。
「ウル・フロール。」
スゥ~と小さな太陽みたいなのが出てくると、一気に周囲を外みたいに明るく照らした。そして、見えなかった川の部分がくっきりとわかるようになった。僕の使った”ラン・フール”とはまた少し違う。
「おお、やるなユウキ。」
「まぁあ、この手の物は予め練習していたからね。それで、どんな感じ?」
「そうだね、あ、あそこ見て。」
「え、どこ?」
僕が指差したのは、川の中ではなくその向こう側。そこにいたのはタヌキくらいの大きさの魔物。見たことないから名前はわからないけど、あの魔物をとらえることでユウキと意見が一致した。
「それじゃ、あそこにいる魔物を捕まえるてことでいいのかな?」
「そうだね。今のところ、あれ意外いないしね。」
あれがどんな魔物かはわからないから、こっちが仕掛けた時、向こうがどんな反応をしてくるかは分からない。
「それじゃ、僕から行くよ。」
僕は、本にあった簡単な攻撃魔法を使う。これはまだ、詠唱が呪文名だけでいいので初心者でも十分に扱えるものだ。
「ふぅ~、イン・フィール!」
詠唱とともにテニスボール位の火球が、魔物目掛けて一気に飛んで行く。直後に、ドンという、鈍い音がして辺りに今の衝撃で砕かれた岩などが飛び散っている。
「どう、当たった?」
煙でまだわからない。僕も注意を払う。次の瞬間、「ギャガァ」と声をあげながら魔物達が一斉に僕らに向かって襲って来た。どうやら今ので怒ったらしい。
「こいつら、動きは速いけど力はなさそうだよ。どうする?」
「僕らはまだそんなに広範囲を狙える魔法は使えないだろ。ここなら、天井を崩してあいつらを下敷きにした方が無難かな。」
「了解。私があいつらの注意を引くからそのすきに、マサ君がやって。」
「うん、わかった。」
そういうと、ユウキが、音を立てながら魔物の注意を引き始めた。その音につられて魔物達が一斉にユウキの方に向かう。どうやら、音で判断しているらしく僕を気に留めるもは1匹たりともいなかった。
ユウキが魔物達を広い場所までおびき寄せると、そこで僕がさっきと同じ魔法を天井に向かって放つ。
「イン・フィール!」
今度は、さっきよりも火球の数を多くする。こうして魔法の威力を訂正したりするのはイメージすることが重要なんだとか。しっかりしたイメージがあるほどしっかりとした魔法が発動するみたい。
ズドドドド、という音ともに洞窟の天井が崩れ始める。僕は、ユウキをこちらへ避難するように言った。崩れた天井の下には最初に見た時よりも数が減っていた。どうやれ逃げられたみたい。
「何とかなったね。」
「そうは言っても、結構逃げちゃったわよ。」
「こいつら、食えんのかな?」
「どうだろう?一応持って帰ってイルミアに聞いてみる?あの子こういうのに詳しそうだから。」
「そうするか。」
そう言って僕とユウキはどうにか捕まえた5匹を持って帰った。そしてその帰り道、僕は赤の英雄のことが気になったのでユウキに聞いてみた。何せ僕は元々この世界の人間ではないし。
「赤の英雄ね・・・私も初めて聞いたわ。そもそも本当にそんな物語あるのかな?」
「どうしたの、急に?」
「台座にあった、英雄ここにあり。ってことはその赤の英雄がこの洞窟で眠ってるってことでしょ?」
「そうなるね。」
ユウキの言葉の頷く村正。先ほどの台座に書いてあった言葉を思い出して行く。
「英雄が過ちを犯した物語は確かにあるよ。でも、あれは聞いたことないな。」
「リリィが言ってたけど、そこまで有名じゃないんじゃないの?」
「でも、台座があるってことは、この国には伝わるんじゃないの?」
ほうほう、確かにそれは一理ある。この国・・・。あれ、そういえば僕この国の名前知らなくないか?
「じゃあ、ユウキもこの国の出身なのか?」
「そうよ、言ってなかったけ。私はここ、”インディアル王国”出身よ。」
「初めて聞いたよ。」
インディアル王国か、よし覚えておこう。あ、そういえばさっきの物語で1つ気になったんだよな。
「ねぇ、黒竜って色の竜とは違うの?」
「黒竜は違うわよ。あれもそこらへんにはいないけど、北方じゃあ体の部位なんかを色んなことに使ってるね。時々討伐されてるし。」
そうなんだ、なんとなくニュアンスが似ていたから気になったけど思い過ごしだったみたい。
そんなことを話しながら歩いているとさっきのところに戻ってきた。
「あ~やっと戻ってきた。も~おーそーいー。」
リリィが叫んでいるのが見えてきた。あいつあんなに元気じゃなかったろ。
「ふ~。た・だ・い・ま。」
「なんか収穫あった・」
「一応あるけど、こいつが何なのかがわからなかったからイルミアに見てもらおうと思ってね。」
「私ですか?」
イルミアは自分を指さしながら自分が指名されたことに戸惑っていた。
「うん、イルミアならこういうことに詳しいかなって。」
そう言いながら僕はさっき狩って来た魔物を見せた。
「これがなんだかわかる?」
「はい、分かります。」
「本当か?これはなんて奴なんだ?」
「これは、アナダヌキっていう動物です。」
「魔物とは違うの?」
「はい、魔物は魔力を持っていますが、こういう動物は持ってないんです。」
そうなんだ、生き物すべてが魔物扱いされているわけではないんだな。ていうか、名前がまんまだな。もう少し捻った名前でもよかったのでは?
「こいつ食べれる?」
「動物はなんでも食べれますよ。」
「そうなのか。とりあえず、今日はこれでしのごう。」
それから、ユウキがアナダヌキを解体していく。料理は彼女に任せておけば問題ないので。僕はもう一度さっきに川のところへ行き水を汲みに行く。しかし僕が水を汲んで戻ってくると、そこには魔法で水を精製しているリリィがいた。
「ごめんね、よく考えたら魔法で十分だね。」
「先に言ってよ。」
なんで気が付かなかった。ここではこんなこともできる可能性もあるんだった。せっかく頑張って持ってきたのに。
「はぁ、なんか疲れたよ。」
「はは、水汲みご苦労さん。はい、これ。」
「それ、皮肉?どうも。」
「味についても文句は一切受け付けないからね。」
どうやら、現状の物では今できるものがやっとなんだと。ただ、肉を焼いただけか。ま、仕方ない。
「いただきまーす。」
「ん~、もう少し味が濃い方がいいなぁ。」
リリィ、今文句なしって言われたばかりじゃん。
「そういえば、ここに入ってどのくらい経った?」
「多分、5時間ですかね?」
「イルミアわかるの?」
「はい、なんとなくですが。」
「イルミーの体内時計は正確だから間違いないよ。」
リリィに褒められてイルミアは顔を赤くしている。
5時間か、結構経過してんのか。ずっと洞窟の中を歩いているから時間の感覚とかなくなってくるんだよね。外からの連絡もないし、こちらからの呼びかけにも反応がない。
「紺野君、これからどうするの?」
「この先に川があった。今日はそこまで行って、そこで休もう。明日になったらまた活動を開始しよう。」
「でも時間わかるの?」
「そ、それは・・・」
時間がわからないと、今が昼か夜かわからない。それは困るな。時間がわからないと試験の終了がわからなくなる。どうやって時間を確認しようか。
「それなら、大丈夫です。私が何とか、します。」
「イルミアが?」
「はい。」
「でも、どうやって確認するの?」
「そ、それは、秘密です。」
教えてくれないんかい。イルミアがわかるんならいいが、出来れば彼女以外の人もわかるようにしてもらいたいんだよな。
「その方法教えてもらうことできないのか?」
「申し訳ないです。これは教えられません。」
イルミアが顔を背けて答えた。あまり人が嫌がることはしたくないのでこれ以上は追及しなかった。
「じゃあ、ここはイルミアに任せるけど、イルミアが休む時はどうするの?」
「私、思った時間に起きれるので。」
「何それ?」
「起床魔法です。」
なんだそれ?目覚ましみたいなものかな?
「ならいいけど。」
それから僕らは、先ほどの川のあったところまで移動してきた。
「おお、本当に川がある。」
リリィが川に関心を寄せている。
「明日は、この川に沿って行こうと思うんだがどうかな?」
「いいんじゃない。今のところほかにあてなんてないし。」
「ユウキはこう言ってるが2人はどう?」
「いいよ。」
イルミアも頷いた。
それからどうやって休むかを話し合ったが、ユウキにせっかく4人いるんだから、普通に2人ずつ休めばいいと言われたそうすることにした。
先に、リリィとイルミアが休んで、僕とユウキで見張りを行うことにした。
「じゃあ、お先~。」
そういてさっさと寝てしまったリリィに対しイルミアは軽くお辞儀してから寝に入った。
寝るといってもただ、地面に寝袋を敷くだけである。寝袋は学園から支給されたが、テントまではもらえなかった。なので、直接地面に寝るので、明日起きたら体が痛いだろうな。
2人が休んでる間、僕らまでもが寝ないように僕は、ここに来る前、レベッカ先生もらったコーヒーを飲もうと、ユウキに提案した。ユウキもこれに賛成して、魔法で水を出してから、火で温めた。このコーヒーは結構おいしく、以前このコーヒーを求めて学生が押しかけてきたらしく、このことは黙っとくように釘を刺された。
「ホイ。コーヒー。」
「あ、サンキュー。」
それから僕らは、今後について話し合た。この試験はまだ2日残ってる。その間ずっとこの中ってことはないだろう。でないと、みんなの気がもたない。
「ユウキは、あとどのくらいで、外に出れると思う?」
「最初は川があったからすぐに見つかるって思ったけどどうかな?」
「というと?」
「さっきイルミアが言って通りここに入って5時間経ったんだとしたら私たちは地上より下にいる。」
「え?なんだって?」
「ここまで来た過程を思い返せばそうなる。」
この試験が始まってからここの入口まで1時間位掛かった。そこから、色々あったが、ほとんど下りの道だった。そこから休みの時間を抜いても3時間以上は歩いたことになる・・・あっ。
「そうか、だからか。」
「そう、今私たちは確実に地面と言うより地表の下にいる。」
「いつの間にか、地下に入ったんだね。どっちにしろ外に出る方法がない以上、僕らはこのまま先へ進むしか道はないのが何ともな。」
「そうね、まるで何かに引き寄せられている。そんな気がするわ。」
ユウキのいった通り僕もこれは何かがあると思う。僕らが何となく入ったところだが、この先にはなんかある。
そんなことを話しながら、コーヒーを飲んだ僕らはしばらくはお互い黙ったまんまだった。それからどのくらい時間が経ったかわからないが、突然、むくっと、イルミアが起きた。
「あ、お疲れ様、です。そろそろ変わります。」
「え、もういいの?」
「はい、大丈夫です。リリちゃん起きて。」
そういうと、イルミアはリリィの体をゆすって起こした。
んん~、と声をあげながら体を起こしたリリィは「体が痛い」と言いながら起きた。
「じゃあ、今度は、私たちが番をします。」
「すまない。じゃあ、頼むよ。」
そういうと、僕とユウキは休む準備を始めた。初めはこの状況では寝れないと思ったが、意外とすぐに落ちた。
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「イルミー、体痛い。」
「リリィちゃん、静かに。」
「ご、ごめん、でも痛い。」
「ちょっと待って。」
そういうとイルミアはリリィの体に手をかざし魔法の詠唱を始めた。
「安らかなる光よ、癒しの加護よ、我が祈りに答え癒しを。”キュアー”」
リリィの体を薄いピンク色の光に囲まれていく。そして光がリリィの体に溶け込むと、
「ん~、すっきり。ありがとうイルミー。」
「たいしたことないよ。こんなの。」
イルミアは俯いたまま答えた。
「イルミー、まだ強い魔法覚えようとしてる?」
「うん、もう弱いままじゃだめ、だから。」
「そう、でも、無理はだめだよ。」
「うん。」
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「マサ君、起きろー。」
ユウキに起こされた僕はあたりを見回す。特に何もない。しいて言えば体が痛いくらいだ。
「あ~、体痛い。」
「イルミアー、マサ君もお願いできる?」
「はい、わかりました。」
ん?何をするんだろう?そう考えていると、イルミアが僕に手を向けて
「安らかなる光よ、癒しの加護よ、我が祈りに答え癒しを。”キュアー”」
すると僕の周りに光が集まって、消えたと同時に体の痛みが消えた。
「イルミア、今のは?」
「体の疲れなどを癒す、回復魔法の一種です。」
「へ~、そんなものいつ覚えたんだ?」
「ずっと前です。」
回復魔法、回復魔法っと。僕は魔法の本で回復魔法のページを探した。そこに書いてあったのは驚くことだった。
回復魔法。それは扱うのが高度とされている魔法の1つ。似たものに治癒魔法があるが、回復魔法はその上に値する。具体的な違いは、かけた魔法で体が完全に復活の状態にあるか否か。まともに使えるまでにかなりの年数を有する、だと。
じゃあ、彼女はいつこの魔法を覚えたんだ?
「おーいマサ君、そろそろ出発するよ。」
「うん、今行く。」
今は考えても仕方がない。この試験が終わったら、色々教えてもらおう。
「ところで、今何時?」
「夜の3時位、でしょうか?」
「まだ、休まない?」
「何言ってんの?さっさとここでないと。」
ユウキにせかされて仕方ないと思いつつも、僕はこの洞窟の先へと足を進めた。この先に何があるかは行ってみないとわからないし。
今朝の3時だよね、すごい眠い。
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「何?紺野、メアリ、ヒュンゲル、ネオラオティと連絡がつかない?」
「はい、ここから1時間位上ったところにある洞窟の中のいると連絡をもらったのでが、そこへ行ってら何もなくて、さっきから、伝言魔法も出なくて。」
「この上の?馬鹿な、あそこには結界があるはずだぞ。」
「先生、紺野君達大丈夫なんでしょうか?」
「あいつらは私が何とかしよう。貴様らは引き続き試験を続けろ。いいな。」
「はい・・・。」
報告を終えたカロ達が見えなくなるのを待ってから、レベッカはその洞窟の方角を見た。そして今受けた報告には満足そうだった。
次回At10.試験中断と迫る危機