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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第5章 ルマニミ王国
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At89.歴史の裏側と言う闇

 邪竜の話し合いが一段落し、この会談の本題に入る準備が整った。この話し合いに入る前に僅かな休憩時間が設けられた。休憩と言っても次の話し合いに入るために、再度室内の点検をするための時間となっている。今一度、室内に魔法の類や怪しい物が無いかを確認する、イブとアレン。その間、国王2人は、先ほどの話を細かく詰める。その会話は、もしも、外部に情報が漏れていたとしても、問題のない程度のもの。

 5分掛けて入念に調べ上げ、室内に怪しい点が無い事を再度確認すると、部屋の扉を開けて、外で待機する2人に声を掛ける。


 「今からは、私が許可を出すまで、ここに通じる廊下は、状況を知る者以外は通さないでね。もし、怪しい人が来たら、扉を4回ノックして。それが、合図よ。」

 「「はっ!」」


 ケベックとアレックスに指示を出すとイブは扉を閉める。この部屋は、例え扉の前に立っていても中の話が聞えない、最高度の防音技術が施されている。

 準備を終え、再度席に着く面々。いよいよ、これから今回の本題が始まる。内容は、インディアル王国内に侵入した、禁忌書庫の書士について。

 まず、話に出たのは、この事実を、他の隣接する国にも話したかどうか?


 「一応、各国のトップには連絡をしてある。奴等が国外で何かしらの行動を起こされたとき、知らぬ顔は出来ぬからな。ひょっとしたら、敵の拠点があるやも知れんし。」

 「うむ。確かにその方がが私も良いと思う。奴らに関しては多くの情報を共有していることに、損はない。」


 禁忌書庫の書士の歴史は意外と長い。それは、シロが以前の主に使えていた時代に既にその存在が確認されており、定期的にその活動目的が変化しているという。この活動目的の変化も、禁忌書庫の書士の実態をうやむやにする原因の1つになっている。1つの、目的を掴んだとしても、次の目的にシフトしていれば、全く別の組織を追っている事になり、結果的に目前に迫ったものの、逃げられてしまう。

 また、禁忌書庫の書士の活動には多くの謎も存在する。そもそも、実際の活動が始まってから1000年以上経過していながら、壊滅に至っていない時点で何も分かっていないに等しい。そんな中でも、インディアル王国やルマニミ王国、東方の国が気にしている謎が1つある。それは、禁忌書庫の書士の活動は世界の東側での活動が目立つ、と言うこと。東方での活動に何か拘る理由があるとしたら、それは何か?


 「それで、まず確認したい点が1つ。いいか?」

 「構わん、何でも聞いてくれ。」

 「侵入をしたのは、本当に書士の人間で間違いないのか?」


 怪しい人間が確認されたとはいえ、それが禁忌書庫の書士の人間だと判明するまでが異常に早かった。


 「ローブだ・・・。」

 「「ローブ?」」


 ギルディスの言うローブとは、禁忌書庫の書士の人間が纏う、白いローブのこと。禁忌書庫の書士の纏うローブには市販されている普通のローブとは異なる仕掛けが存在する。


 「魔力を発するローブだよ。」

 「そんな物作れるのか?衣服から魔力が出るなど、私は聞いた事無いぞ?」

 「可能なんだろ?」


 ギルディスはイブに顔を向ける。目を閉じ、下を向いているイブは、そっと顔を上げる。


 「そうね、普通の魔法じゃ出来っこないわ。」

 「普通の魔法では、か。」

 「古の魔法なのよ。」

 

 古の魔法。それこそ、使用が禁忌となった魔法を指す。禁忌書庫の書士の名だけあってか、使用されている魔法には分かりやすい特徴が出る。分かりやすい、と言っても、魔法使いなら誰でも分かると言うわけでもない。


 「しかし、今となっては古の魔法を知る術など存在しないだろう。」


 ドルトリスの言う通り、今ではそう簡単に、古の魔法を知ることは出来ない。しかし、その方法が全くゼロと言うわけでもない。その数少ない魔法を知る人物がインディアルには居る。それが、イブだ。


 「私は知っているわ。」

 「なんと・・・。」


 あまりの事実にドルトリスも絶句する。イブの素性はインディアル以外では普通に人間と同じ扱いになっている。イブがギルディスよりも年上な事を知っている人物の方が多いとは言えないが。

 古の魔法を知るイブだからこそ、出来る防衛方法があった。


 「今は、詳しく話せないのだけど、許してもらえるかしら?」

 「それはどういう意味だろうか?」

 「詳しい話は、彼にもしてないの。それで、我慢してもらえると良いんだけど。」


 苦笑いを浮かべるイブ。それ以上は、イブの中では決して踏み込まれたくない部分になる。イブは、その事を決して話そうとしないし、詮索も許さない。

 イブと言う女性には幾つもの秘密がある。イブが秘密主義なのは織り込み済みでギルディスは信用を置いている。イブが話さないのは自分に関することが殆ど。それ以外での隠し事は、目を瞑れるほどなのだ。


 「それより、今は、禁忌書庫の書士の方が先決です。」


 アレンが気を利かせ話を先に進ませる。


 「そうだな。して、今回インディアルが侵入されたことで何が一番心配される?」


 インディアル王国側が何かしらの協力をルマニミ王国に頼んだという事は、今後何か心配されることがあると言う事。

 インディアル王国と言う魔法に長けた国であってもその対処を1国で行うには荷が重すぎる。さらに言えば、実態の掴めていない組織の対処をすることが出来ない。まず、禁忌書庫の書士が何処に拠点を構えているのかさえ分からない。

 今回たった1人国内で構成員が見つかっただけで、この対応。禁忌書庫の書士に対する国の警戒感の強さは計り知れない。


 「あの事件の再来、だろうな・・・。」

 「やはり、か。」


 ギルディス、ドルトリスを始め、イブやアレンも深刻そうな顔になる。

 今最も心配されているのは、数年前、インディアル国内で起きた禁忌書庫の書士による、大規模な事件。その事件で村1つが一夜にして村人ごと消え去った。さらに、その時、インディアル王国はある重大な人物を失った。


 「もし、もしもまたあのような事が起きるとすれば、また・・・。」

 「次は、隠し切れんかもな。」


 数年前の事件は、その事件の大きさ、重大さ、なにより、目的がはっきりしない為、公には出来なかった。公にすれば、必要以上に混乱を招いた。実際、公表しなかったことで、インディアル王国内での混乱は見受けられなかった。

 ギルディスは国内で公表をしなかった代わりに、国外に事態を通達した。但し、その事を知るのは、各国のトップのみ。下手に広めると、インディアル国内に情報が入り込むのと、まだ、インディアル周辺に居る禁忌書庫の書士を刺激しかねないと判断したから。

 当時、事実の公表を見送る、送らないの議論は当然ではあるが2つに割れた。なにより、国民の命の安全を優先に考えれば公表するのが当たり前と考えられた。ギルディスも、これが普通の事件であったのであれば何の躊躇いも無く、公表しただろう。しかし、そう行かない事があった。


 「もう、あんな事件は起こしたくはない。」

 「ギルディス、お主の言わんとすることはよくわかる。しかし、あの時だって、1人で事件を起こしたわけではあるまい?」

 「恐らくは、そうだろう。事件の規模、それに、目的から考えても、1人の犯行とはとても思えん。」

 「ならば、既に我々のすぐ近くで何らかの準備を行っている可能性もある。次の行動が近いのかもしれん。」

 

 禁忌書庫の書士の行動の殆どは少数での行動になる。多くても10人未満。実行が1人の時もある。その場合は別の場所で後方部隊が待機していると言われている。

 禁忌書庫の書士の構成員がどのようにして増えているのか、また、どうやって構成員となるのか。それさえ謎に包まれている。禁忌書庫の書士とは、他の犯罪集団とは少しかけ離れた存在。そう魔法使いから認識されている。


 「次の行動が近い。何か、情報が入ったのか?」

 

 様々な情報が飛び交うルマニミ王国。国外からの善し悪しすべてが集中するカムタス。ルマニミに行けば自国より確かな情報が得られるという、謎の言葉まで存在するほど。


 「すまぬが、まだそういった情報は得られて無い。」

 「てことは、少なくとも、まだインディアル国内若しくはルマニミとは反対の方向に移動したことになるか。」

 「ネレラルがこちら(ルマニミ)に近いだけで、実際のインディアル王国の国土は相当なはずだ。なら、当然潜伏するなら下手に動きまわるより、留まる方が安全だ。」

 「やはり、まだ我が国内に居るのか。」


 本当に、インディアル国内に居るのであれば、すぐにでも、捜索隊を編成して、大規模な捜索に乗り出したいところ。しかし、そう簡単には行かないのが、禁忌書庫の書士探し。現時点で、公には、国内の禁忌書庫の書士の人間が居ることは伏せられている。侵入されてから数ヶ月。調査を何重にも重ねた結果、不審者が禁忌書庫の書士と特定された。

 禁忌書庫の書士の最後の行動は数年前の事件以来音沙汰がない。それは、インディアル王国の位置する東方だけでなく、この世界全てにおいて言える事。何故年単位で行動を見せなかった組織が今になって、再び行動を起こしたのか。さらに、何故、最後の事件の国と同じ国を選んだのか。東方でなく西方であれば、少なくとも、行動を起こしやすいはず。最後の事件はインディアルによって伏せられている。つまり、それを除外すれば、禁忌書庫の書士の起こした最後の事件はもっと前になる。


 「あまり、不確実な事をこういう場所で言うのは避けたいんだけどね・・・。」


 イブが手を挙げて発言の許可を求める。


 「何か、あるのか?」


 ドルトリスは、イブの意見の聞こうとする。


 「あくまで、私の勝手な予想って事にしてほしんだけど良い?」

 「それは、君の意見が混乱を招く、そう言うことか?」

 「と言うより、この会談はあくまでも国王同士の会談だから、昨日の話で出た以外の私の意見をあまり汲むのはこの会談の主旨に反するわ。」


 そう、今回イブとアレンが同席しているとはいえ、あくまでも話を行うのはギルディスとドルトリスの2人。イブとアレンは補佐に過ぎない。そのイブが横からおいそれと口を挟むのは、よろしくない。

 それでも、非魔法使い(ひと)より物事に精通しているイブでしか、予想出来ないこともある。

 イブの有する知識の数々。その知識の範囲は、禁忌書庫の書士にも及ぶ。


 「昨日の段階では、話せなかった。そう言う事か?」


 もし、イブが昨日の時点で何か、考えがあったのであれば、昨日そのことを告げておけば、自然と今日の議題に持ち上がる。勿論、今、何かしらの予測がついたのであれば、昨日の時点で話が出なかったことは頷ける。


 「それも、あるのだけど、本当に少ない情報だけで仮説を立てるのは、避けたいのよ。特に、今みたいな状況下では。普段、私が魔法でやってるような事とは、訳が違うのよ。」


 今回の会談中のイブは、普段とは様子がかけ離れている。いつもみたいな軽い調子ではなく、王の側近としての役割を果たしている。これが、単なる話し合いであれば、もっと横から口を挟んでいるだろう。しかし、今はそんな真似をしない。


 「それでも、聞かせてくれ。君の持つ考えを。」

 「私も聞きたい。今、君が抱いている危機感と言うやつを。」


 ドルトリスとギルディス双方から意見の提示を求められ、イブは、自分の持つ考えを提示した。

 イブの提示した考えは、国王2人を絶句に追い込んだ。と言うのも、イブの提示したのは両国王にとって最も避けたい最悪の事態だった。既に、禁忌書庫の書士は、何かしらの行動を起こしている。今、こうして対策を協議している段階で後手に回っている可能性が高い、と言う物。そして、その根拠としてイブは、歴史を上げたのだった。

 禁忌書庫の書士は歴史の裏側で暗躍する。それは、世界の陰の中心。表に出ることなく、日の光に触れる事無く、静かに暗躍する。それが禁忌書庫の書士。そして、何より、歴史ごとに、その活動目的が変化する。それは、禁忌書庫の書士が長い歴史の中に居る事の象徴でもあった。禁忌書庫の書士を野放しにすることは歴史から目を逸らす行為と同等。何故なら、歴史として紡がれて来た陰の者達。それが禁忌書庫の書士となる。魔法使いが多いのは、今までの歴史において、魔法使いの扱いがそれだけ、酷いものだった。

 魔法使いが歴史の表に出ても、目の敵にされなくなったのは、ここ100年200年の話。それよりも前はそうではなかった。


 「禁忌書庫の書士の行動は基本的に隠密行動。つまり、既に、どこかしらで行動が始まっている可能性が高い。そして何より、一般人に紛れ込むのが上手い。」

 「街中を普通に歩き回っているというのか?」

 「そう。下手に怪しい行動を取るよりも、堂々としている方が楽に行動が出来る。それは、この国でもそうでしょ?」


 イブはドルトリスに顔を向けた。イブがこの仮説に辿り着いたのは、ルマニミの情報収集のやり方を知ったから。

 知らないで敵の懐に飛び込むのは、簡単に自分を晒すことになる。知っていれば危険なところでも、安全地帯へと近づける事ができる。


 「それで、今になって一体何をしようとしてるのだ?」

 「今の活動方針知ってる?」


 禁忌書庫の書士の活動方針は変化する。その方針によって活動内容にも大きな変化が生じている。


 「いや、私は特に・・・。」

 「同じくだ。」


 ギルディスもドルトリスも知らない様子。当然と言えば当然である。禁忌書庫の書士の情報を得ることはこの世界では、最も至難の業の1つに数えられるのだから・・・。


 「今の活動の目的は世界への復讐よ。」

 「「世界への復讐?」」


 禁忌書庫の書士には魔法使いではない、普通の人も構成員になっている。魔法使いだけでは出来ないような事を担うのが一般構成員達。

 情報収集、魔法使いが潜入できないような場所、さらに、魔法以外の技術の研究。禁忌書庫の書士は、魔法以外の技術開発にも精通しており、より、その実態が不鮮明になりつつある。


 「そう。そうやって、純粋な魔法使いを誘いこんでいるの。知らない間に構成員になっている、なんてこともあるかもね。」

 「そんな馬鹿な!」

 「何より、世界に何かしらの恨みを持ってしまうのよ、魔法使いは。」

 

 魔法連盟と言うものが出来てから、魔法使いの待遇は大きく変化した。この魔法連盟も、禁忌書庫の書士に対抗するための組織の1つだ。

 それまで、戦力として扱われた魔法使いを戦いの一戦から退かせたのもこの魔法連盟であった。


 「確かに今でこそ、魔法使いの扱いは良い物なっている。魔法の適性が出ても、その事に胸を張れるようにはなった。」

 「けど、お主の国は随分前から魔法使いには良心的ではなかったか?」

 「確かに、クレア学園の歴史は長い。けど、今みたいな、将来自分が何をしたいか、あまり考える事は無かったな。あくまで戦力を育てる施設でしかなかった。」

 「だから、クレア学園は国が干渉できない様になっているのよ。特別な事態を除いてね。」

 「まあ、学生を危険に晒すわけにもいかんしな。将来有望な者が多いとはいえ、まだ子供だ。」


 インディアル王国は世界的に見ても、魔法の歴史が他の国より長い。それは、かつて今のインディアルの土地に存在していた国の影響を少なからず受けているのだろう。

 インディアル王国だけが特別だったわけではない。ただ、魔法使いと接する機会が他の国より長かっただけの事。それだけの違いが大きな差を生んだ。


 「世界への復讐と言う事だが、それは、今のトップの意向、なのか?」

 「ええ、禁忌書庫の書士のトップは絶対。逆らえないわ。何より、自分たちが望んだこと。逆らう理由もないわ。」

 「それだけ、魔法使いの闇は深いのだな。」

 「そうね。色々と失ったものが多いのよ。私達魔法使いは・・・。」


 最後の言葉を言ったイブの表情は暗かった。まるで、彼女自身もかつて何かを失ったかの様に。




次回At90.今後の方針

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