At80.報告と会議2
1つ目の報告である良い知らせ。その内容についての今後の事が大きくではあるが決まったことにより、一段落付き、少しの休憩を挟み、次の報告が行われようとしていた。内容は悪い方。
「そろそろ、次の話を始めましょうか。」
イブの言い出しに、アレンは素直に応じようとするが、国王のおじさん2人は中々応じようとしない。可能なら面倒な話からは逃げたいのが国王の本音。ただでさえ毎日胃が痛くなるような話を耳にしなくてはならない仕事故、可能なら面倒事は避けたい様だ。
イブが勝手に話を進めようとすると、慌てて国王陣が止めに入る。会議を始める、始めないとのくだらない言い争いを挟み、国王陣が折れる形で会議が再開される。
「そもそも、嫌なら何のためにその格好になったのよ。」
「「ごもっともです。」」
「私だって着替えたいの我慢してるんだから。2人の手前、礼儀を尽くさなきゃならない部下の事も考えてよね。」
イブの言い分にモノ言いたそうな国王2人。それだけ言うのであれば、もう少し言葉遣いを直してもらいたいと思っているがそれを指摘する勇気が無かった。きっと、それ以上の事を言われ論破されっ自分たちが余計惨めになる未来しか見えなかったからだ。
アレンは、会話に割って入る勇気もなく黙って横で苦笑いを浮かべるしかない。それが気まずかった。
「それじゃ、悪い知らせの話をするわよ。」
「あーあー、聞こえない、聞こえない。」
耳を塞ぎ、聞こえないふりをするギルディス。往生際の悪さに、流石のドルトリスも引いている。
「みっともない事しないで、いい加減現実に戻って来なさい!」
「――はい。」
観念したギルディス。
「で、悪い話とは?」
「今日、途中で食あたり騒ぎがあったでしょ?」
「ああ、急だったんで、我々も驚いたよ。」
「確かにこの暑さの中に食料置いといたらこうなるのは目に見えてるわよ?」
悪い話。それはただの食当たりと思われたあの騒ぎにそうでない可能性が浮上したことを指す。
「だが、食料を保存しておく魔法はまだないんだろ?」
「そうだけど、安全管理が出来る魔法はあるわよ。」
「安全管理?」
そう言うと、イブは部屋の扉を中からノックする。扉が開き、部屋の中に、台車が運びこまれる。そこには2つの餅?のような物が乗っていた。
「これは一体?」
「何で、こっち光ってんの?」
運びこまれた餅の内、左側の餅が奇妙に発光している。その薄気味悪さにアレンは鳥肌が立つ。
「片方は何にもしていない餅。こっちの光っているのは安産管理を施した物。」
「こっちが?」
ドルトリスは光っている餅を指さしながらイブの顔を見た。
安全管理がされていると言われても、この奇妙に発光する物をみてどう納得しろと言う。そう言いたいドルトリス。
「これは、私が魔法で劣化を速めた物なの。」
「それで?」
「普通、こういう食べ物って放って置くと腐るでしょ?それを気付かずに手に取ってしまうことが無いように、普通は危険を知らせるための対策は講じられてるの、こんな風に。」
王城内部から支給される食料品には万が一に備え、常に安全管理の魔法が付与されている。全部が全部に付けられているかと言えばそうではない。全部に同じ魔法を付与するのでもかなりの負担を魔法使いに強いてしまう。
安全管理の魔法が付与される最大の理由は、命を守る事にある。命が狙われるのは何も王族に限った話ではない。人間いつ、どこで恨み事を買うか分からない。さらに、王城内部の人間ともなれば、何処で恨みを買うか分からない。そのため、最も狙われやすい部類の食料には、最新の注意が払われる。
今回の発掘調査で支給された食料ではアレンとイブには別で準備がされている。最も狙われる確率が高いため。
「こんな風に光ると、何がある?」
「本来の意味で言うのであれば毒が混入されるケースが殆どよ。」
「ど、毒?」
「ただし、それはあくまでも、本来のケース。今回は別よ。」
一瞬、多くの調査員が何者かに毒を盛られたと焦るドルトリス。しかし、イブによってそれはすぐさま否定される。
「今回は、この安全管理の魔法が無効化されていたのよ。」
「無効化?」
「ええ、私も、気にはなっていたのよ。何でどの食料も一切反応を示さなかったんだろうって。」
「普通はあり得ないのか?」
ギルディスが首を傾げながら質問する。
「本来はあり得ませんね。この季節になれば、幾つか駄目になるのが普通ですので・・・」
アレンが横からフォローを入れる。アレンの答えにイブが頷きながらさらに話を進める。
「それで、気になって私のを一度検査に出したのよ。もしかしてと思って。」
「それで?」
「思った通り、何者かに解除されていたわ。」
「誰かが意図的に今回の騒動を引き起こしたと?」
「そう、判断するしかないわね。」
王城内に危険な存在が居ることを突きつけられるドルトリス。それは本来決してあってはならない事態。今回はたまたま狙われたのが別の人間だったが、今後ドルトリス自身が標的にならないとは決して言えない。また、今回の1回で事が済むとも思えない以上、警戒を強める必要がある。
とは言った物の、いきなり警備を強化すると、この騒ぎと関連付けられてしまい、余計に不安を煽るだけになってしまう。まだ、城内の今回の犯人が居る以上、余計な警戒心を露出させない方が吉となった。
「しかし、一体どのタイミングで?」
ドルトリスが、魔法を解除できるタイミングがあったのかアレンとイブに問う。
「城の内部ではまず無理ね。」
「なぜ?」
「今朝の出発時に私が一度確認したのよ。その時はまだ効果はあったし、朝食の段階で既に、発光してる物があったから間違いないわ。」
「では、朝食後、と言う事になりますね。」
実際朝食後はアレンもイブもそれぞれ自分の仕事に向かっており、食料の警備が手薄になっていた。また、お昼前に、イブも、アレンも村正の元へ向かっている。その時間を突かれた可能性が最も高いと言う事になった。
「一体誰が何のために・・・」
アレンがため息を吐く。狙われたのが普通の人たちである以上、誰を狙ったのかそれが分からない以上、犯人も動機も不明なまま。
「そうね、こんな時、狙われるのがそこの2人だと簡単なんだけど。」
「あのな、冗談でもそれは言わんでくれ。寝れなくなる。」
「あら、何か思い当たるの?」
「そんな訳あるまい。」
狙われる心配をするギルディスにイブが悪い顔で心当たりを聞くがそれを否定するギルディス。イブも、ギルディスに限ってそれは無いと分かっている。彼の緊張を解そうとしたは良いが、そのやり口は些か強すぎた。
「もし、狙われても私が敵をぼっこぼこにするから、安心しなさい。」
「うむ。敵の方が哀れでならんよ。」
自分たちのペースを崩さないイブとギルディス。2人の世界に入り込めないアレンとドルトリスは部屋の中央で小さくなりつつあった。
2人の視線に気づいたイブとギルディスは体制を整え直す。
「で、えっと、今回の騒ぎについての今後なんだけど、」
「今後?」
「ええ、今後も今回みたいな騒ぎが発生しないとも限らないわ。今、調理場って何人の魔法使いが出入りしてるの?」
「えっと・・・」
アレンは顎に指を当てながら、天井を仰ぐ。
「常に常駐してるわけでもないし、王城内に居る高官の人の食事が出る時だけだから、その時にチェックで3人です。」
「じゃあ、一般の職員は?兵士や警備、あと、研究員。」
「王城内の食堂で出せれるやつはノーチェックで出します。」
普通、一般職の人の食事にまで高官と同じようなチェックを敷いていることの方が珍しい。だが、今回イブがそこにまで気に掛けたのは、今回の騒動で被害に遭ったのが一般の研究員や魔法使い達だったから。動ける者も居たが、それは殆ど手を付けていない場合だった。
「普通そうよね。」
「せめて、何のためにこんな事をしたのかが知れれば良いのですが。」
対策を見出せずに停滞する現状を歯がゆく思うアレン。しかし、具体的な情報が何1つ無い今の状態では何の対策も施しようがない。
イブは取りあえずの策として、今日から暫くの間、深夜も王城の調理場の警備を強化するのと、王城に納品される食料の検査の強化、常駐する魔法使いの管理をすることを提案した。
魔法使いを管理する意図は、安全管理の魔法が掛けられていることを知っている魔法使いの数が限られているからだと言う。
「犯人はほぼ魔法使いで間違いないんだろ?」
「はい、それは、間違いないと思います。」
犯人が魔法使い。それは、アレンにとって自分の仲間の中に犯人が居る。そう、疑わざるを得ないことになってしまう。ルマニミ王城の魔法使いのトップでもあるアレンには、ただ悩ましい問題ではない。今回の騒動を解決しようとしたら、自分の仲間を疑わないといけない。それは、アレンが最もしたくない事の1つだった。その事をドルトリスも知っているだけに、命じる側も表情が暗くなってしまう。
「もし、内部犯だとしたら、レベル7以上の魔法使いか。」
「レベル7?」
聞きなれない単語にイブが首を傾げる。
「この国では魔法使いの位をレベルで現すんです。全部で10あり、階層はピラミッド型になってます。レベル10が私で、全体のトップです。」
「それは、どうやって決まるの?」
「方法は様々です、勤続年数、実績、技量などで判断され、レベル7以上で幹部クラスです。」
ルマニミ王国で、魔法使いが帯同する時は、必ずレベル7以上の魔法使いが指揮を執る。指揮官のレベルはその内容によって異なり、今回のような遺跡調査であれば本来はレベル7でも務まるが、イブや村正と言った客人が居る為、アレンが出ることになった。アレンが表に出ることは殆どない。アレンの地位は一般の軍で言えば最高司令官と同等だ。
魔法使いと通常の軍部で指揮系統が分かれているのは、魔法使いがいる国では国際的な決まりで決められている。
「今回騒動を起こしたとしたらレベル7以上の魔法使い。」
「ただ、そうなるとおかしいんです。」
「おかしい?」
「今日の遺跡調査ではレベル7以上の魔法使い、私しかいないんですよ。」
アレンの言う事実に部屋は静寂に包まれる。レベル7以上の魔法使いがアレンしか居ないとなると、アレンが必然的に容疑者リストに入ってしまう。勿論、アレンは否定するし、イブもアレンが犯人なのはあり得ないとアレンを支える。もとより、アレンを疑う人物など、初めからこの部屋には居ない。
「他の場所で安全管理の魔法の事知れるとしたらどうだ?」
「情報の流出ね。」
「それしか、ないだろうな。」
何らかの形で情報が漏れたことを示唆するイブ。その考えに同調するギルディス。
「もし、余計な世話にならんかったら、こいつを使え。」
「人を物みたいに言わないでくれる?」
「し、しかし・・・」
調査に踏み出せないルマニミ側を考慮してイブを調査員に推薦するギルディス。流石に、そこまでしてもらう訳にも行かないと思ったのか、アレンが慌てて遠慮する。そんなアレンに対し、ドルトリスはそれを受けることを進める。
「お主も、仲間を疑うのは不本意だろ?」
「ですが、それとこれとは。」
「お主が優しいのは私も知ってる。無理をする必要はないんだぞ。」
アレンは暫く悩んだ。この状況を受け入れて良いのか。しかし、それと反対に自分が最後まで今回の騒動を調べ切る自信が持てなかった。今の自分が調査を行っても、きっと大事な点を見落とす。そのんな自分しか想像できない。それなら、イブに調査を任せるのが一番だ。
「少し、考えさせてください。」
アレンは俯いたままだった。
「俺、ちょっと、トイレ行ってくる。」
「なら、私も。」
場の空気を読んだ国王2人が部屋を出て行く。ギルディスが部屋を出て行く際にイブと目を合わす。イブはギルディスにウィンクで返す。
ぱたん、と扉が閉まり、イブはアレンの前に座る。
「申し訳ありません。」
「何が?」
アレンは自分が国王たちに気を使わせてしまったことに大きな負い目を感じている。
「私が優柔不断なばかりに。」
「別に私は悪い事じゃないと思うけど?」
アレンは「いいえ」と首を横に振る。王城に勤める全ての魔法使いを統べる立場にあるアレン。その彼女がすぐに決断が出来ないのは、その資質を問われてしまう。
有事の際には様々な事を求められる魔法使い。その限られた人にのみに与えられた力は時に重要な意味を持つ。今は殆どない事例だが、時には戦線に立たなくてはならない時もある。その状況が訪れた時、決断を迫られることが多くなる。周りを思うが故に決断が出来ない、では済まされない立場に居る。インディアル王国ではテンがこの立場にある。
「私はこの王城に居る魔法使いを守る一方で管理・監督もできなくてはならないんです。」
その言葉から読み取れるのは、彼女の小さな孤独。アレンは真面目な性格なのだ。それが原因で、自信の抱える悩みを打ち明けられない。自分がそれをするという事は、自分の弱い面を部下に見せることになる。それは、アレンが求めるリーダーではないのかも知れない。
「1人では無理があるでしょ?」
「はい。私は多くの人に恵まれてるので、色々助けてもらってます。」
「成程、仕事上は周りを頼れても、自分の事になると、さっぱりなのね。」
アレンの持つ悩みは誰にでもある事ではある。仕事の悩みは意外と簡単に相談できる。が、自分の内心に秘めている悩みを吐露するのは何故か後ろ髪を引かれる感じになってしまう。それは、きっとどこかで自分が恐れているからではないか。イブは、自信の考えをアレンにぶつける。
「まぁ、自分の身の丈に合ってないんだと思います。」
アレンは今30代前半。彼女の年齢で、魔法使いのトップに立つのは異例とも言える。
ルマニミ王国では、魔法使いの統率者は国王と他の部署の統率者が満場一致で決定した人物となる。アレンもその中で選ばれている。その内容を言い換えれば、多くの人の期待も一緒に背負っている。その人たちを裏切れない思いもまた、彼女を悩みに導いている。
イブは、一通りアレンの話を聞き終わると、
「でも、それとこれとは別!」
人差し指をアレンの鼻先に突きつける。アレンは目を丸くしている。
「あなたが今の自分の地位、役職をどう思うかなんて関係ないわ。今あなたがしなきゃいけないのは、自分の部下の無実を証明することでしょ。」
アレンはイブに言われてハッとする。自分はずっと仲間を疑う事ばかり考えていた。だが、見方を変えればそれは自分が大切に思う者達が無実である事の証明に繋がる。そう考えれば自然と前向きになれた。
「確かに、そうですね。」
アレンに自然な、悲しさを滲ませた笑顔から、やる気に満ちた笑顔。そんな感じに変化したのをイブははっきりと感じ取った。アレンの元気になった姿を見たイブは安心した。彼女の姿はかつての自分と重なって見えたからかも知れない。自身がかつて、同じような経験をした事が大きかったのかも知れない。
「何だ、随分明るくなったな。」
「良く言うわよ、ずっとそこで聞いていたくせに。」
「え?えぇ!?」
暫くして、気の利いた国王2人が戻って来た。あまりのタイミングの良さに出て行くふりをして、実際は扉のすぐそばで待っていたことを指摘するイブ。イブの指摘で咄嗟に顔を逸らす国王陣。アレンは今の恥ずかしい話が聞かれていたことに顔を赤くしながら顔をあちこちに向けている。
イブや国王たちが笑っている中で1人、恥ずかしさのあまり、縮こまるアレンだが、今は確かに自分の中に使命感が芽生えていた。それは、間違いのない事だった。
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その後の調査で、アレンの懸命の調査、イブの手助けにより、今回の騒ぎの犯人は内部の人間ではないことが判明し、アレンは全てが終わった後、自室で涙を流した。だが、彼女のその時の姿は誰も見てない無い。
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