At78.撤収~
昼下がりのルマニミ王城に突如として緊急連絡が入った。
「食当たり?」
「ええ、調査に出た何人かが昼食後急に腹痛を訴え出して。」
連絡を持ってきたのは調査に出向いているはずのイブだった。イブが連絡を入れたのはルマニミ王城内にある医務室。そこには、王城で働く生命魔法に長けた魔法使いが常に常駐している。
「わかった、すぐに準備をする。君は搬送の準備をお願い出来るか?」
「分かりました。」
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僕は言葉を失った。それは、この状況を目の当たりにしたら誰しもがそうなるに違いない。
「・・・」
「これは、ひどいですね。」
だんまりを決め込む僕の代弁をシロが行う。
そもそも、この世界に保存機能がある何かが存在していると思い込んでいた僕が間違いだった。そうだ、異世界と言うのは何故か通常の生活に関しては何故か元の世界と変わらない部分がありながら1度外へ出ると、その変化が顕著になる。その事に何故気付かなかったのか。
「いや、むしろこのくらいは想定内に置いておくべきだったと思う。」
「と言うより、お昼くらいカムタスに戻っても良かったのでは?」
シロが最もな事を言う。だが、シロ、それを言ったら多分負けだ。誰1人、そのことに気付かなかったのだから。
「それもそうだけどさ、お昼持って来てるってなれば誰もそんな事思わなくない?」
「確かにそうかもしれませんが。」
僕の隣でシロは静かにそう言った。
「本当にごめんなさい。」
アレンさんが僕とシロの顔を見て謝罪して来る。ただでさ今忙しいにも関わらず、僕らに気を使う必要はないのに。
「そんな、僕らに構わず処置を続けてください。」
「はあ、今思えば普通分かるよね・・・」
アレンさんはタオルを抱えた状態で大きくため息を吐く。
「この暑さの中に、食べ物を置いておいたら。」
「この世界には保冷材とかないんですか?」
魔法がこれだけ発達した世の中なのに、何故保存に適したものが無いのだろうか。僕はそれが疑問だ。
「うーん、食料の保存に適したものを生み出すのが意外と難しいの。知ってるでしょ?」
難しいのか?でも、学園の寮には食堂もあるし、料以外にも夏には食料の保存が不可欠になる。じゃあ、普段はどうしてるんだ?
それと、今初めて保冷剤を作るのが難しいと知りました。僕は氷系統の魔法は全く分からないから難しいと言われれば素直に頷くしかない。
「それより、今は処置を。」
「そうだな。」
今この場では食あたりが発生している。勿論、理由はお察しの通り。
僕とシロは森の調査から戻るのに時間が掛かったため、難を逃れた。僕らが神殿跡地に戻ったところ複数の人が倒れていた。当初は何者かに襲われたのかと思われたが、すぐに食あたりだと判明したのは、皆腹を抑えていたから。
「ここまでくると、今日はもう駄目かな。」
「どうでしょう。でも、示しが尽きませんよ。調査員が食あたりで調査続行不能なんて。」
シロの目が完全に冷めている。多分だけど、お昼抜きになったのが相当来てるらしい。僕らは、食あたりを避けるために、昼食を取っていない。すぐに、応急手当に充てられた。おかげでずっと動きっぱなしだ。
「戻ったら、街に何か食べに行く?」
「それができればいいのですが?」
「どういうこと?」
「下の森の件、誰が報告するのですか?」
「――あ。」
忘れてたー。この非常事態で普通に頭から抜け落ちてたよ。
僕は、肝心な事を忘れたことに気付き、その場にしゃがみこむ。その様子を見た人が、僕も被害に遭ったと勘違いして若干混乱したがすぐに収まった。
そうだよな~。あの場の報告を出来る人なんて僕だけだよね。イブさんやアレンさんは多分こっちで手一杯だろうし。
「紺野君、シロちゃん、あっち準備出来たって。」
「「はい。」」
イブさんが転送魔法でルマニミ王城から戻って来る。事態を報告し、王城内に緊急の医務室を設置してもらったのだ。この場で処置をするより、安定した処置を行える王城に戻った方が良いと判断が下された。王城なら、そこに務めてる生命魔法を使える魔法使い達も居る。
僕と、シロはイブさんに言われて、倒れた人を転送魔法に送る。緊急事態なので転送魔法陣に乗せる体制が病人の扱いから少し離れてるのは気にしてはいけない。そうは言ってもただ、身を寄せ合うように座らせてるだけである。
「お兄ちゃんあと3人乗せれます。」
「あいよー。」
僕は倒れてる人の中で特に重症と思われる人を優先に乗せている。残り3人か。細身の人の方が窮屈にならなくて良いか。
「すみません、腕入れますよ。」
「ああ、わりぃ・・・」
抱える人に反重力魔法をかけ、少しでも体重を軽く感じさせる。その方が効率が良い。普通に体重を感じていては余計に疲れるだけだし。シロなんかは普通に人を宙に浮かせて運んでいる。
気を失っている人に対してならともかく、今も意識にある人にそれはどうかな、シロよ。
「イブさーん、最初の人達お願いしまーす。」
取りあえず、遅れる最大人数を載せたことをイブに報告する村正。転送魔法を使うイブが双方の行き来をし、アレンが現場に残って、動ける人に指示を出す。
その間、村正とシロは症状の重い人の応急手当を行う。シロは生命魔法も使えるので多少なら症状は緩和できるが、完治には至らない。
「シロ程でも完治できないなんて、この世界の食あたり怖すぎだろ・・・」
なんてことを僕は思いながら応急手当を行う。手順はさっきシロに教えてもらった。手順と言ってもただ、詠唱を唱えるだけだが。
「うぅっ。」
村正は症状のある人の下に向かうと、横に座り、深呼吸をする。
「安らかな時を・苦しみから解き放されたし」
この魔法はある種の痛み止めに近い。何故、痛み止めかと言うと、食当たりの症状で今回最も多く見られたのが腹痛の症状だった。勿論、他の症状も出るのだろうが、皆腹痛に襲われてそれどころではないらしい。
痛みが和らいだのか、その人の表情から苦しみが消えたのが分かった。ただ、これで安心はしてられない。これはその場しのぎに過ぎない。なるべく早めに王城へ連れて行って適切な処置を施す必要がある。食あたりは放っておくと後が怖いだろうし。
その後も、村正、シロ、アレンその他動ける魔法使い達で応急手当が続けられる。5分ほどしてイブが戻って来て次の搬送が行われる。この作業を繰り返すこと30分。
「じゃあ、これで最後ね?」
「はい。」
「りょうかーい。」
そう言うとイブさんはすぐに消えて行った。どうにか落ち着ける状況になったので、手当に当たっていた人たちはその場に座り込む。この暑さの中、休まずずっと動いていたのだ。当然だろう。
「熱中症になってないか、仲間同士で確認しろ。食あたりより面倒だからな。」
アレンが、作業に当たっていた人たちに体調の事を言って周る。真夏の炎天下で動き続けるのは危険が伴うのはどの世界でも共通だ。
「シロ、大丈夫か?」
「はい、私はなんともありません。」
いつも通りの返答をするシロだが、念のため。
「わあ!?」
「うん、大丈夫かな。」
「な、なにを・・・」
村正はシロの体調を調べるために、彼女の額に自分の額を併せる。不意を突かれたシロはその場を動くことを出来ずに、村正にペースを奪われる。
「シロって、多分だけど、自分の体調が悪くなっても自分からは言い出さないだろうなって思ってから。確認だよ。」
そんなこと言われても、シロは今猛烈に恥ずかしい。村正が不意を突いてこんな事をしてくることなど今までに無かったのだから。
それに、確認のしようならもっと他にあったと思うと、自然と村正の事を睨みつけていた。
「ああ、ごめん。嫌だった?」
「ああ、いえ。そんなことは、ありません。」
だんだん声が小さくなっていくシロ。村正はただ、もっと素直になれば良いのにと思うのであった。
「アレンさん、今何時か分かります?」
「2時過ぎかな。」
ああ、もうそんな時間か。結構動いてたんだな。
しかし、この時間になってしまったのなると、終了時間までにあの場所の地図作れるかな?少しでも進めたいんだけど。
「アレンさん、この後はどうするんですか?」
「そうだね。まだ、何とも言えないの現状ね。このまま作業続行にするか、もう撤収にするか。どっちにしても、イブさんが戻ってこないとこの先の方針はなんとも言えないね。」
「そうですか・・・」
村正は、この場であの森の調査に向かう事を告げて良いのか迷う。そのまま作業が続行になるのであれば何の問題もないが、もし、本日の作業はそこで終了。なんてことになればすぐに戻ってこなくてはならなくなる。
「紺野君、あそこに行きたいんでしょ。」
「え?」
「顔に書いてあるよ。」
あれ~、僕そんなに分かりやすいかな。
見透かされたことに思わず俯く村正。そんな村正を見て失笑するアレン。
「我慢しなくても良いわ。いってらっしゃい。もし、撤収になればイブさんに迎えに行ってもらうようにお願いするから。」
「いえ、その時はアレンさんが来てください!」
僕は思わず、アレンさんに強くお願いしてしまった。もし、イブさんが来るようなことがあれば、間違いなく何かしら企んでるはずだから。確証はないけど。
「あの人も信用が無いな~。」
「もう少し、普段の行動に気を付けてもらえればそれだけで良いのですが。」
「あの人にそれは求めても無駄でしょ。」
「・・・」
「どうしたの?」
「アレンさんも結構言いますね。」
イブの居ないところで言いたい放題の村正とアレン。この場にイブが居なかったのは本当に幸運だろう。もし、この場に彼女が居たら今頃この2人はイブによって何らかのお仕置きがあったかも知れない。
「じゃあ、すみません。ちょっと出て来ますね。」
「うん、もし終わったら戻って来て良いから。」
「分かりましたー。」
村正とシロは先程の場所を目指して一気に走る。
「シロ、ごめんよ。」
「え、ちょ、今度は何ですか?」
村正は走るシロを後ろから抱えると、その状態で詠唱を始める。
「空を舞いし者たちの源よ・我に力を与え空を舞いし中へ誘いたまえ・さすれば我は空の力となる」
最後の一言を言い終えたのと同時に村正は崖から思いっきり飛び降りる。当然、その光景を見て居た、この場に残った人たちは驚きを隠せない。
「もう、重力魔法使うなら素直に言って下されば良いのに。」
「あはは、でも、この方が良いだろう?」
シロのこと今までこうやって抱えたこと無かったけど、結構軽いんだな。
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遺跡側で一段落ついたころ、王城ではまだ忙しい状況が続いていた。
「こっちも手伝って!」
「こっちも手一杯なんだ、もう少し待ってくれ。」
あちこちで医療係の魔法使いの声が飛び交う。それだけ、被害に遭った人が多いことが容易に想像できる。
「ある程度の処置が済んだものは移動させるからこっちに教えて。」
医務室の現場を指揮するイブ。この状況は一応両国王に伝えられている。
アレンが居ない、この状況では、現場での事が一番分かっていたイブに指揮を任せると言う事になった。それは、イブの魔法使いとしての腕を買ってでの事もある。
既に、最初に搬送された人たちはとっくに別の場所に移されそこで休んでいる。
「あ、誰か今手が空いてる人居たら返事して。」
「あ、はい。私開いてます。」
手を挙げたのはこの城の魔法使いユン。
「あなた名前は?」
「えと、ユンです。」
ユンと名乗る少女はイブの元へ行くと、イブからある物を手渡された。
「これを、鑑定に掛けてもらえるように頼んでもらって良い?」
「鑑定?」
「そう、上にテンと言うインディアルの魔法使いが居るからお願いして。私に頼まれたって言えばすぐに取り合ってくれるから。」
「分かりました。」
イブは、今回の騒動の原因を掴むために、昼食のお弁当1つを鑑定に回した。
「こっち終わりました!」
「じゃあ、次、こっちお願い―。」
次々と、指示を出していくイブ。転送魔法の出口が地下にあるため、人を運ぶのに時間が掛かってしまうことは仕方ないにしろ、もう少し、人員が欲しいところである。
「すみません、こっち手伝って貰って良いですか?」
「え、何処?」
「こっちです。」
どこから呼ばれたか辺りを見回すイブ。遠くで手を振ってる人が見える。
「ああ、もう、後で給料増してもらうんだから!」
どんな状況でもぶれないのがイブ・エレニアルと言う人物だ。
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魔法で一気にショートカットしたからすぐにさっきの場所に付けた。迷うかなとも思ったけど、そんなことは無く、迷わず付けた。
「よっと。」
あたりを見回してみるが、相変わらず何もない所だ。
村正はぐるりと回ってみる、特に何か理由があったわけではない。
「あの、お兄ちゃん。」
「どした、シロ?」
「そろそろ、降ろしてください。」
「ん?ああ、ごめんごめん。」
ずっと村正に抱えられていたシロはすっかり顔が赤くなっている。僅かに頭から湯気が出ている。その様子を見た村正がシロの熱中症を疑うほど。
「さて、それじゃ作業開始と行きますか。」
シロの方がより広範囲を見渡せることが分かっているので、地中の探索をシロに担当してもらい、村正が直接地図を作製するという役割分担になった。
まずは、何処か起点となる四方の端を見つけることが最優先。なのだが、
「どうやらこの辺には端っこがなさそうですね。」
「となると、あっちか。」
村正とシロが共に目を送ったのは森の中。今村正達の居る開けた場所は遺跡(仮)の真ん中なのだろう。中心部かと問われればまだ、その結論を出すには早い段階にあると言えるだろう。
「ここからは、端と呼べるような何かは無かったんだよね?」
「はい、私の見た限り、ここは端と言う感じではないです。」
そうなると、どっから調べるか。
僕は森に目を送り、何処から調べるのが良いか考える。むやみやたらに創作したところで時間の無駄に過ぎないだろうし。
ただ、シロでも確認できない、いや、まず街の可能性があるんならそう簡単に出来ると思わない方が良いわな。
「まいったね。」
「参りましたね。」
時間ばかりが過ぎて行く。どうすることも出来ないこの状況で思考することでさえ時間の無駄にしかならない。それが分かっただけで気が滅入ってしまう。村正も、シロもお互いが見える範囲内で二手に分かれながらどこかに壁のような物が無いかを探索する。
村正が二手に分かれた方が効率が良いと考えたのは自分の持つ経験によるもの。それが経験と呼んで良い物かはまた別になる話だが、この世界では今でも街の外周は壁で囲まれている街が多い。各街ごとに入り口に関所がある。
だけど――。
「この街、関所とかない感じの街、なのか?」
あ、でも街の入り口じゃなく、街道に関所があるタイプなのか?
もし、そうだとしたら街の規模を測るのは相当骨が折れる作業になりそうだけど。
ただ、それでもヒントが何1つ無いというわけではない。別に壁が無くても、街ならどこかしらで建物跡が無くなる。それが街の端っこと言う事になる。
まさか、この世界の1500年前の街が村正の元の世界のような街のつくりになっているとは考えにくい。
村正がさら森の奥へ足を進めようとした時であった。彼の頭上に小さな黒雲が立ち込める。村正にはこの黒雲に見覚えがあった。
「これ、まさか・・・」
村正は慌てて森の中をきょろきょろする。
あ、シ、シロが居ない。
ゴロゴロと雷鳴が響き直後にそこから稲妻が落とされる。
「シロ、シロ、シロ早く戻って来い、でないと、死、死ぬ。」
村正が悲鳴を上げる。遠くに居たシロにも声が僅かに届く。シロも、自分が村正から離れすぎたことに気付くが、時すでに遅し。
「あああああああーーーーーー・・・」
村正に稲妻が直撃しその場に倒れ込む。森一体に響き渡った村正の悲鳴を頼りにシロが慌てて戻って来る。
「お兄ちゃん!」
「あ、ぁぁ、ぁ。」
慌てて駆け付けたシロに目には稲妻に撃たれ黒焦げの村正が目に入った。シロとの契約内容の1つである、「汝、いかなる時も、我を携え、その身から離さぬ」と言う内容に触れてしまった。この契約違反で村正が罰を受けるのは2回目。前回は魔術祭の時、シロが咄嗟に離れてしまった時。
「シロ、やっぱり、一緒に行動しよ。」
「すぐに手当します。」
シロは村正の横に座ると村正の傷を癒していく。先ほどの食あたりの時とは違い、外傷ならシロでもそれなりの対応が出来る。
シロによって手当された村正は起き上ると、頭を掻きながら今後、どうしていくかを考える。このタイミングにきて、シロとの契約が働くとなると、意外と行動に制限が付く。
「シロは何か収穫あった?」
「いえ、特に関所や壁のようなものは確認できませんでした。」
「じゃあ、大体で良いから、建物の雰囲気が消えたなって思う場所はある?」
「雰囲気が消えた箇所、ですか?」
シロは村正が何を探しているのかその意図がまだ読めていない。村正は、この地中に眠る可能性のある遺跡については、その街は壁で囲まれた要塞都市よりも普通の街であるとの解釈を示した。
「多分、そこが街の端だと思うんだ。」
「何故ですか?」
シロ抱く疑問は当然の物と言える。
「まず、僕らはこの街が要塞都市であるという先入観をもって居たに過ぎないんだ。」
「先入観?」
「そう、この世界にあるかは僕は分からないけど、関所が街道とかにあって街自体には関所が無い。そんな感じかな。」
村正は、自信の考えをシロに説明する。シロも、村正からの話を聞いてその可能性について考える。勿論、村正の指摘する可能性がなわけではない。だが、シロにはその考えを排除するだけの根拠も持ち合わせていた。
「ですが、1500年前となると、その可能性はかなり低いのではないでしょうか。」
「ん、なぜそう思うんだい?」
「私も、世界の事は自分なりに調べてるんですよ。」
シロは、この前村正達がテスト勉強をしている最中に図書館で今に至るまでの歴史の本を読んでいた。それは、自分が居なくなった1000年前からの変わりようを知るためでもあった。また、かつての王に仕えていたの時の他の地域の事などだ。
「1500年前は、第1次魔獣危機があった時期なんです。」
「第1次獣危機?」
まだ聞いたことが無い内容だな。歴史で言うなら近代、ではないしな。
「魔獣危機と言うのは、魔物の中でも特に危険な魔獣が増え、人々の厄災をもたらすことの多かった時代の事を指します。」
「うん、それで?」
「魔獣対策は基本的に戦と同様の措置が用いられます。」
なるほど、その当時に魔獣危機が起きていたのなら、主要な都市は要塞化されていても不思議はない、と言うわけか。
「この付近にも魔獣は出現していたのかい?」
「そうですね、世界各地、いつどこに何が出てもおかしくないと言われるのが魔獣危機です。彼等は普通の魔物とは違い、特定の場所に住み着いたりはしないので。」
魔獣と言う存在を、まだ見たことのない村正からすれば、その脅威はまだつかめないが、定住が判明しているのとしていないのでは多分違うんだろうと考える。イメージがあってるかは不明だが、元の世界で言うところの外来生物と同じ考えだだろう。
「でも、この街が当時その魔獣危機に遭わない可能性もあったんだろ?」
別に世界中が魔獣危機だからと言って自国内に魔獣が居なければ国境に隣接する街のにを要塞都市にしておけばいい。わざわざ資金を裂いてまで内陸に要塞を作る必要はないだろう。勿論王都は別だが。
「確かに難を逃れた国はあります。実際インディアルは被害に遭わなかったようですから。」
「え、でも、確かインディアル魔獣出なかったけ?」
村正は自分の記憶を呼び起こす。確かに以前誰かが魔獣が居る可能性を危惧していた。
「魔獣危機の後に現れることもありますし、魔物が突然変異で魔獣へ変化するとともありますよ。」
「え、そうなの?」
「魔物なんて魔獣予備軍ですよ?」
シロからの思わぬ発言に絶句する村正。魔物と魔獣は全くの別物と考えていただけに今のシロの言葉は大きい。
「もしかして知らないのですか?」
シロが僕を見る目が常識のない人を見る目だ。おそらくこの世界では魔物は魔獣予備軍というのが世間一般的な常識として定着しているのだろう。
「うん、初めて知った。」
「でしたら、頭の片隅でも置いておいてください。」
「その程度で良いの?」
えらく、扱いが簡単だと思うが。
「その程度で大丈夫ですよ。魔物が魔獣になることはあまりありませんから。」
「あ、因みになんだけど、竜が邪竜になることってどのくらいの頻度であるの?」
「どうしました急に。」
村正は、魔物が魔獣になると知り、そのことがもしかしたら邪竜にも繋がるのではないかと、考えた。
「もしかしたら、竜が邪竜化するのも同じ感じなのかなって思ったから。」
「ああ、それはまずないですね。」
「ずいぶん言い切るんだね。」
「まず、竜は魔物ではないのと、はっきりとした意思が存在します。」
ああ、中には人間と普通に会話できるのもいるとか言ったっけ。
「なので、竜の邪竜落ちは、そうですね、呪いに近いと思っていただければ良いですよ。」
竜が邪竜化する理由の殆どはいまだに解明されてない。1つ言えるのは何かしらに強い負の感情を抱くこと。ただ、それだけで邪竜化するのか、と問われるとそうとは言えない。実際過去にはそのような竜もいたとされる。
「ふ~ん、呪い、ね。」
まだ、この世界に来てから呪い、というのを実際に目にしたわけ出ないから実感が湧かない村正。この異世界かつ、魔法の世界へ来たのなら、呪いに出くわすことも、当然覚悟しておかなくてはならない。ただ、村正の思う通りの呪いとは限らない。現実がどこまで非現実を現実にするかなど、到底、計れるものではないのだから。
「シロ、今度その辺のこと教えてもらっても良いかな?」
「別に構いませんが、どうしたんですかいきなり・・・」
突然呪いについて興味を示す村正にシロは訊ねる。それは、村正のことを心配してのことだ。
この世界には、まだ村正の知らないことが多く存在している。この世界に来て数か月の村正が知っていることなど、氷山の一角に過ぎないのだから。
「何かの役に立つと良いなって思って。」
「そうですね、お兄ちゃんが今以上になれたら、そのとき考えます。」
「なにそれ?」
シロは、今の村正には教えるのは早すぎると判断を下した。呪いのことを知るには、村正はまだ知識が全くなさすぎる。それは、魔法に関してもそうだが、いずれ村正が使うことになるであろう、精霊術。呪いのことを知るには、そこに辿り着くための過程が多く残されている。
シロは、村正が簡単に手に出せないようにしなくてはと1人心の内に秘めるのであった。
「それよりも、話がかなり逸れてしまいましたが。」
魔獣の話からズルズルとあらぬ方向に話が行ってしまうのは仕方がないことである。
「そうだね。えっとどこまで話してたんだっけ?」
村正はシロと合流した後の記憶を呼び起こす。しかし、その前の記憶があまりに強すぎて中々本来の記憶が戻ってこない。
何とかして自分の記憶を呼び起こす。
「確か、この下にあるとされる街の遺跡には、壁がない。そのようなお話しでしたよね。」
「ああ、そうそう。もし、その痕跡がなければ、別の痕跡があると僕は思うんだ。」
「別の痕跡ですか?」
もし、街の入り口に関所がないという前提で行くと、少なくとも、あれはある可能性が高い。
「街のどこかにゲートのようなものはないかな?」
「ゲート、ですか?」
村正は、街の入り口にあたる箇所に、おそらくではあるが、門のようなものがあると考えた。そして、もしそうなら村正には門があった可能性の場所に心当たりがある。
「私はわかりませんでしたが。」
「多分だけど、僕に1か所心あたりがある。」
そういって村正がシロと向かったのは、一番初めに森からあの石造を発見した森。村正はあそこだけ木が道のように分かれていたのがずっと、気になっていた。
村正は木の分かれ始めた場所につくと、探索魔法をかける。村正に合わせてシロも、自身の精霊術で村正と同じ光景を見る。
――やっぱり。
村正は自分が思い描いていた通りになったことに思わず口元が緩んでしまう。
「ああ、間違いない。」
「え、なにがですか?」
村正は何かが確信に変わった。だが、シロはそうでない。村正が何を思い、何を確信したのか。
1人、納得村正はその隣でシロが自信の事を見上げていることに気付かない程に。
「うん、シロには分かる?」
「何がでしょうか。私には何もないようにしか見えませんが。」
何もない。それが僕の求めた正解に最も近い。
「どうして何もないと思う?」
「え?」
僕とて無能ではない。きちんと納得のいくような答えを用意してある。
「ここが、街の端だからさ。」
「ここが、端?」
「そう、さらに言うと、今僕らが立ってるこの場所は街と外の街道をつなぐ道にあたるんだ。」
この一見違和感しかない森の中に現れた自然の道だが、この先に街があったと言う事を仮定に加えるとすんなりと説明がつくのだ。あの、森の途中から不自然に現れた木の裂け目はその先にある開けた地点の一部だったのだ。
「つまり、このあたりが街の入り口。そう考えられない?」
村正は探索魔法を解くとシロに目線を併せる。普段はシロが村正の事を見上げてばかりなので偶には、村正が気を使う。
「確かに、そうとも考えられますが、そんな証拠、何処にも。」
「確かにね。でもさ、別に証拠なんて要らないんじゃない?」
証拠は確かに必要だと思う。証拠、確証があれば失敗の可能性は大いに減るだろう。だが、それは恐れに過ぎない。未知の事知ろうと本気で思うのであれば、それに真正面から向き合う覚悟が問われる。
「幸い、まだ、この遺跡が本格的に調査されるかは、僕らには分からない。なら、可能性の範疇を出ていないのであれば、それはそれで良いんじゃないかな。」
「すごく良い事言ってるように聞こえますが、実際はあまり中身が感じられませんよ?」
村正の言葉をバッサリと切り捨てるシロに村正は肩を落とす。
「厳しいな。」
村正は立ち上がると地図を取り出し、今自分の目に見える範囲を地図として書き記していく。どの程度の広さになるのかまでは村正にも分からない。かと言って、無駄に小さくなってしまうので何の役にも立たない。丁度良い、が求められる。この丁度良い。かなり難しのだ。
村正は道の痕を開けた方向に向けてゆっくり歩きだす。自分が今かつての道の上を歩いている。そんな感覚で。
それから、村正とシロは2時間、じっくりと自分たちなりの調査を行った。
「ふぅ、地図ってこんな感じなのかな?」
「私も作成に携わった経験が無いので偉そうなこと言える立場ではありませんが、とても良く出来ていると思います。」
村正とシロは互いに満足のいくものが完成した。そこへ――。
「紺野君、シロちゃん。」
「アレンさん。」
村正達を、タイミングを計っていたかのごとく、タイミング良く現れるアレン。アレンがやって来た、と言う事は撤収に決まったと言う事になる。
「撤収、ですね。」
「ええ、と言っても当初とあまり時間は変わらないのだけどね。」
まだ日が高いせいで分かりにくいが、時刻はがっつり夕方の5時を過ぎている。この時間に撤収と言われても、むしろ当然と言えよう。
「本当だ、空が赤くなってる。」
村正の言うように、西側の空が、太陽を映し出したみたいに赤く燃えている。燃えているという表現が正しいかは別にして。
「地図、出来た?」
「ああ、はい。出来ました。」
村正は自らの作成した地図をアレンに手渡す。それを受け取ったアレンは、村正の作成した地図を見て目を見開く。それは、村正の作成した地図の出来が悪かったわけではない。その反対である。時間が短い中では良く出来ていると、アレンは感じた。街の外周が詳細に記されている。それが出来たのは、探索魔法よりも、優れたシロの精霊術があったからこその事でもあった。
「良く出来ているね。これなら、提出しても問題ないね。」
「提出?」
「ええ、この地図と一緒にこのあたりの調査の許可申請を行うつもりよ。」
そんな大事な資料に僕なんかが作成した地図を使うと言うのか?
くっそ~。なら、もっと丁寧に作成するんだったな。今更後悔しても遅いか。
「その、僕らのせいで、許可が下りなかったら・・・」
「そんな事気にしないの。許可が下りないことも日常なんだから。」
「でも――。」
「良い紺野君、紺野君は自分の事なら、積極的になってるけど、他人の事になると、かなり慎重になってない?」
村正はアレンに指摘されるまで全く気付いていなかった。だが、アレンの言う通り村正は自分以外の誰かに、迷惑がかかる可能性が少しでも浮上すると、とても神経質になる。
「そう、なんでしょうか?」
「別に気に病まなくて良いのんだよ。ただ、自分のせいでって思わなくても良いんだよって私は言いたいの。それが回って紺野君にも戻って来るんだし。」
「戻って来る?」
「ええ、それがどんな形になるかはその時になってみないと不明よ?」
情けは人の為ならずとも言うし、アレンさんの言葉をありがたく頂戴しておきますかな。
「ありがとうございます。少し、気が楽になりました。」
肩の荷が下りたって言うのかな、こういうの。でも、自分の中で何かがスッキリしたのはまず間違いないと思う。
「そう、なら、戻るよ。」
「「はい。」」
村正とシロはアレンの後ろを横並びになりながら付いて行く。村正とシロがこの場に来れるのは今のところ今日限り。だが、遺跡調査はまだまだ始まったばかりに過ぎないのだ。村正とシロが戻ってしまった後も、引き続きこの場所では調査が行われる。場合によっては新たに村正の発見した地点が追加される可能性もある。
高台の神殿跡地に戻って来ると、そこには転送魔法の準備を整えたイブが待っていた。どうやら、他の人たちは既に転送が終わってる様だ。
「お疲れ様。何かあった。」
村正、シロ、アレンは互いに顔を見合わせると、にやりとしてから――。
「「はい!」」
村正とシロが元気よく変返事を返す。2人の元気っぷりに圧倒されるイブ。
「お、おう。それは、良かったわ。」
「イブさん、そのそっちはもう大丈夫なんですか?」
村正はお昼以降ずっと王城と現場を行き来していたイブの事を案じる。
「ええ、どうにか皆落ち着いたようよ。だから、安心しなさい。それより、君たちの方がよほど心配よ。」
「え?」
「だって、お昼食べてないでしょ?」
指摘されるまで僕は自分が昼食を取ってないことなど思いっきり忘れていた。正直、お昼前は確かに空腹感があったのは間違いないが、その騒ぎだ。空腹感など引っ込んでしまった。
「そう言えば。」
「なら、さっさと戻るわよ。」
「はーい。」
残りのイブ、シロ、アレン、村正も転送魔法によってルマニミ王城へと帰還したのであった。
次回At79.報告と会議




