At76.森の中
神殿の遺跡の北側に広がっているこの森。広さがどの程度広がっているのかはよく分からない。ただ、見た感じネレラル周辺に広がる森よりも広そうにも見える。上から見た感じね。多分、この森の端はまた崖みたいになってる。この周辺は段のような台地になっている。そして、ルマニミ遺跡はその台地の一番高いところに位置していると言って良い。
その一段下に広がる広大な森。木々が密集し、まだ、朝と言う理由もあるのか、日が差し込む隙間が狭く暗いと感じる程。
「本当に魔物は出ないんですか?」
「そんなに心配?」
「だって、今にも出てきそうじゃないですか。」
「お化けが?」
「違いますよ!」
怖がる村正の事を面白がるイブ。村正も、表面上はなんともないように振る舞ってはいるが、内心かなり怯えてる。普段の村正ならこんなことにはあまりならないが、この森に蔓延る謎の雰囲気とでも言おうか、何かが村正の事を押し潰そうとしてる。
イブが何か不安がる村正の事を揶揄うのは、そんな村正の事を少しでも気づかっての事。今みたいに、村正が通常通り反論できるのなら、まだ大丈夫な証拠と取れる。
「お化けって何ですか?」
あ、そうかシロはこの世界の住人だから知らないのか。あと、この世界やっぱりお化けは居ないんだ。
「う~ん、なんてい言ったら良いのかな・・・」
村正が説明の仕方に悩んでいると、
「普通の人には見えない存在で、色々悪さをする存在よ。精霊とはまた、別の扱いになるわね。」
「ですが、普通の人には見えない存在となると、精霊しか居ないのではないですか?」
「シロちゃんの時代にはそう呼ばなかっただけかもね。」
ん?そうなのか。
「ほら、精霊と一緒にすると、ちゃんとした精霊だっている訳だし。」
「それで、精霊と区別するためにあえて呼び方を変えてると?」
「その考えで良いわよ。私も、いつ頃からそんな風に呼ばれるのかは知らないけどね。」
シロとイブの会話を横で聞いていた村正は少し意外だと感じていた。このような異世界ではお化けや幽霊の類は存在していないとばかり思っていた。ただ、村正のこの考えは強ち間違いでは無い。この世界でのお化けとは、普通の精霊と、悪さをする精霊とを区別したわけであり、村正の世界の様に、この世に未練があり、彷徨ってるような存在とはまた違う。
「この森には、そんな精霊も居るんですか?」
「私はまだ見たことは無いわね。そう言う存在はあまり人目に付くような場所には出てこないし、森の奥深くまで足を入れたら出て来るんじゃないかしら。」
うーん、多分そう言う存在の方が詳しい事色々知ってそうではあるよね。でも、それはこの森にそう言う存在が居て初めて成立する話。今この場でない話をしていても何も進まない。なら、やるべきことは1つ。
「取りあえず、まずはこの辺から調査しても良いですか?」
「早速やる気ね。」
「自分からやりたいと言った事には変わりありませんしね。」
「うんうん、良い心がけね。」
頷くイブ。村正はこの森に何らかの痕跡があるに違いないと思っているが、それが本当にあるのかはまだ、分からない。この広大な森の中。砂漠に落ちてる金を見つける、などと大袈裟なことは言わないが、この森からたった1つの手掛かりを見つけるのも相当苦労することが予想される。
「じゃあ、しっかり頑張んなさい。」
そう言うと、イブは、村正達の元を離れようとする。
「一緒に手伝ってくれないんですか?」
「私も、私で調べることはあるのよ。だから、もし、危険が迫ったら何かしらの合図は頂戴ね。」
「因みにどのあたりに居るんですか?」
「私は、ここを真っすぐ行ったとこに居るから。」
イブは森を突っ切てる道を指さす。その道は遺跡とその先にある街をつなぐ唯一の道であり、かつては神殿の足元だったため、それなりの歴史がある街が広がっている。ルマニミでも数少ない古くからある街だ。
「この先何かあるんですか?」
「いや、私が調べてるのは道そのものよ。」
「道そのもの?」
「どうやってこの広大な森の中から神殿へ通じるルートを決めたのか。なぜ、この地に神殿を建てたのか。道っていろんな情報が詰まってるのよ。」
「そうなんですね。」
道を見れば情報が得られる。と言うイブさんの言葉は何故か説得力があった。でも、確かに道っていろんな情報が詰まっていても不思議はないかも知れない。山を突っ切ってトンネルを掘ったとしたら、多分そこには様々な情報があるかも知れないな。
その道を調べると、もしかしたら本当にここが神殿だったという確かな確証が得られるかも。
考古学を学んだわけではない村正に出来ることなど、正直たかが知れてる。そんな村正に正解でなくヒントを与えるのもまた、イブの役目。それは、イブが村正の事をこの世界へ誘った責任でもある。
村正には正解を教えない。それは、イブに限ったことではない。村正に関わった者たちはこぞって村正に正解を与えない。それは、その本人たちが意識しているわけではない。自然とそうなっている。だが、イブだけは違う。全て、とまではいかないがイブ自身が意識して正解でなく、ヒントを与えることはある。今回の、道を見ればわかる、と言う発言も1つのヒントである。但し、村正が、そのことに気付くかは別の話。
「それじゃ、私は行くからしっかりやるのよ。」
「分かってますよ。これは、僕が言い出したことなんですから。」
「シロちゃんも、彼のこと、お願いね。」
「任されました。」
手を挙げて返事をするシロに、村正は自分がお守をされる立場にあるように感じられた。
イブが立ち去った後、村正はまず、この森の事を良く知るためにはどうするのが良いか、考える。ここに来る前にあらかたの広さは把握しているが、実際に来てみると、また、違った印象を受けている。
「さて、まずは、何から調べようか。」
「この森、広いですからね。どこに何があるのかを調べるだけでも骨が折れますよ。」
シロが言うのも最もだ。だが、目的が既に定まってれば話は早い。
「目的はある。」
「その目的は一体なんですか?」
「ほら、この西側に火山があるだろ。」
「神殿消失の原因とされる例の?」
「そう、もし本当に神殿が消失するほどの噴火をしたのならこの森に、火山に関係する何かがあっても不思議じゃないと思うんだ。」
「確かにお兄ちゃんの言う事は分かりますが、どうやってその痕跡を見つけるのですか?」
シロは村正のやろうとすることは理解できても、まだ、その方法が確立されていないことに何かしらの不安はあるようだ。
「そうだな、ここから少し、東に向かったところ少し、木々の薄い場所があったんだ。」
「では、まずはそこからですね。」
「うん。」
まずは、そこだ。この広大な森の中で1ヵ所だけ妙に木々の薄い場所なんてあまりにも不自然だ。火山の噴火とはまた別の何かが影響していると踏んでも良い。むしろ、火山の噴火の影響だったらもっと広範囲に自然の木々に薄い地点が広がっていても良いだろう。
もしかしたら、この台地が火山噴火の影響を抑えた、とも考えられる。なら、この崖から離れるにつれて自然環境に変化があっても良いはず。だが、そんなものは無い。なら、きっと人為的な力が働いたと見ても良い。
どっちにしろ、まずは、行って確かめねば。
「方向は分かってますか?」
「一応、確かめるからちょっと待ってて。」
村正は杖を取り出すと、詠唱を始める。
「空を舞いし者たちの力の源よ・我に力を与え空を舞いし中へ誘いたまえ・さすれば我は空の力となる」
詠唱が終わると、村正の体がゆっくりと浮き上がる。唱えたのは重力魔法の一種。似た者で、反重力とフユウ魔法がある。村正が唱えたのは飛行魔法の下位互換に当たる物。それでも数々の応用も利く便利な魔法。この魔法を村正はひっそりと特訓していた。反重力では、行動にどうしても制限があるし、フユウ魔法は多少の移動には使えても、中距離以上の移動には中々適さない。そのれもあってか、村正は今回の魔法を人目に付かない様に練習していた。
「お兄ちゃん、いつの間にそんな魔法を覚えたんですか?」
宙を舞う村正を興奮気味に見て居るシロ。重力系の魔法との相性は普通だから村正にも習得できないとは言わないが、魔法を覚える村正の速さに素直に驚くシロ。
「この魔法を覚えようと思ったのは、期末試験の少し前かな。反重力を覚えた時に、いつかはこの魔法もって、思ってたから。」
「すごいです。流石お兄ちゃんです!」
それでもこの上の存在である飛行魔法はもっと難しい。体に掛かる負担が大きく、魔法一転に集中するのには慣れが必要になって来る。飛行魔法の実験は必ず二人以上での実験でないと罰則が発生する程。
「そこまで言われると、照れるよ。」
ついさっきまでの物静さがまるで嘘のようなシロ。だが、このシロの変わりようを見て、村正は1つの可能性を考えたが、あえてその事をシロにはぶつけなかった。それは、シロが村正に相談しなかった理由に繋がると思ったから。なら、シロの口から直接聞いた方が良い。勿論、シロの方から何かしらのサインがあれば、その時は村正からシロに関わる。
村正は、助走をつけ、森の上に出る。そこから、どのあたりに、目的の場所があるかを目視で確認する。
「500mって、所かな。この魔法でこのまま行っても良いけど、いきなり消えると、イブさんに迷惑だろうし、行きは歩きで、帰りだけ飛んで帰れば良いや。」
村正は地上に降り立ち、支度を整えると、シロを引き連れ、森の奥へと足を踏み入れる。
ここから先は完全に道を外れる。そのため、道と言う安全な物は無い。獣道でもあれば、まだましな方だ。だが、その獣道でさえ、見えない。一見、それだと不運にも思えるが、村正には有益な情報となった。
「獣道1つ無いってことは、この辺に生き物は居ないってことだよな。」
「そうですね。何かしらの生物が居れば、その痕跡は残ります。ましてや、ここは普通の道の傍です。何か、生き物がいれば頻繁に出入りするはずですし、その痕跡はあってしかるべきでしょうね。」
何も居ない。それさえも情報と成り得る。そして、その何も居ない環境が果たしていつからなのか。それもまた調査する価値がある。例えば大昔、この森に生物が生息していた事が分かれば、いつ、この森から姿を消したのか。そして何故姿を消したのか。それがもしかしたら上の神殿と何かしらの関係があるかも知れない。
そう考えると、村正の心はワクワクして来る。
「しっかし、やっぱり暑いな。」
「季節は夏ですし、森の中とは言え湿気はありますしね。」
時間経過して行くにつれ、気温が上昇していく。その暑さが、村正とシロの体力を奪っていく。
ルマニミ王国はこの世界の中では割と北の方角に位置しているが、こうして、夏は暑く、冬は寒い。その環境は村正の元居た世界と同じだ。
「ああ、シロ、熱中症や、脱水症状にならないようにね。」
「私は大丈夫ですよ。それよりお兄ちゃんも気を付けてくださいね。お兄ちゃんの場合本当に危なくなりますから。」
「うん。大丈夫。水分は多めに貰ってるし、塩もあるから。」
この森へ向かう前にアレンさんから水や食べ物を貰った。この暑さで腐らない様に魔法で管理してるから、お腹を壊す心配はないし、いざとなれば、シロが居る。まぁ、そのシロがダウンしたらそこまでだけど・・・。
「シロ、こも森薄着になっても平気かな?」
「多分大丈夫だとは思いますが、あまり薄着になるのはお勧めできません。」
だよな。森の中で薄着になるのが良くないのは、どこ行っても共通か。
「ちょっと良いですか。」
「うん、何?」
シロは僕の背中に両手を翳すと、何か唱え始めた。ただ、何を言ってるのかは聞こえなかった。
「ん?」
徐々に体が冷えてきて涼しくなるのが分かった。
「シロ、今何をしたの?」
「体で感じる暑さを軽減させました。ただ、実際の体はこの環境を普通に受けます。ですので、体の間隔に惑わされず、適度に水分は取ってください。」
「すごいな、今のも魔法?」
「いえ、今のは精霊術です。なので、このことは秘密でお願いします。」
笑顔言ってるけど、結構すごい事するよね、この子。
精霊術か。シロの精霊術を目にするのは、これで3回目か。
村正は、以前魔術祭の初日の夜にシロと特訓した時の事を思い出した。その時初めて、村正は精霊術と言うのを目の当たりにした。それは、安易に使ってはならない物だと村正は教えられた。
シロも、村正にまだ扱うには早いと言っていた。
僕に扱うのが早い、と言うのは多分まだ使える魔法の数が少ないからだと、思っている。そうすれば僕の中では納得が出来た。十分に魔法が使えない状況で精霊術は使うべきではない、と言うのがシロの考えなのだろう。
シロの言いたいことは分かる。あれは、考えなしに使って良い物ではない。精霊術は1つ間違えれば国が滅んでもおかしくはない。僕はそのことを身をもって知った。まぁ、闇の書なんて言う物騒な物を手にしたところで説得力ゼロかな。
「分かった。皆には黙っておく。シロ自身は良いの?」
僕にだけかけてもっらたのでは流石にシロに何か起きては困るが。
「私は既に、自分に掛けたので大丈夫です。」
「・・・」
「どうしました?」
シロは黙って自分の事を見つめる村正を見上げる。
「シロって意外とちゃっかりしてよね。」
「そうですか?」
先に自分に術を使ってから僕に使ってるところとかそうだよ。いつの間に使ったの?
さらに森の中を歩き続ける村正とシロ。上空から見た感覚と地上では感じる感覚が違う。その事は村正が一番理解している。村正はそのことをこの世界き来た時に体感している。もし仮にその場所に行って何もなかったとしても、何も無かったという調査結果は得られる。何も無いことが判明した、と言えば聞こえは良いが究極の話、単に無駄足だった、と言われれば言い返す余地など無い。勿論、何かしらの収穫があれば話は別。
「そろそろつくと思うんだけどな。」
「あ、でもほら。」
シロが頭上を指さした。そこからは日の光が差し込んできて来た。つまり、徐々に木々の数が減ってきているのだ。それは目的の場所が近づいてく証拠であった。
もうすぐだと、わかると、自然と進足が速くなる。熱中症などに気を付けながら2人は進んでいく。
「あ、あそこ。」
「何か、ありますね。」
森の奥に何かがあるのを発見した2人は、それを目指して走り出す。それは、2人が何かを発見した地点から、森の奥まで木々が1本たりとも生えてないことに気付かない程。
そう、森の奥に何かが見えた地点から先は邪魔になる木や植物が一切ない。いわば自然の道となっていた。
2人は、その道を走って森を抜ける。抜けるとは言っても、開けた所へ出たに過ぎない。
木々を抜けた村正とシロはゆっくりとその場所へ向かう。そこにあったのは不自然な石像だった。
「これ、石像、かな?」
「見た目は、石像ですね。」
かなり古そうな石像だな。これは、人だよな。
「シロ、この石像に心当たりなんてないよね?」
村正は石像の人物がシロの居た時代の人ではないかと訊ねてみる。
「多分違うと思います。1000年前は石像はあまり発展してませんでしたので。」
「そうなの?」
「はい、当時は木像でした。」
へー、木像もあるのか。
おっと、感心してる場合じゃないな。
村正がシロに訊ねたのは、もし、シロに心当たりがあればそれこそ有力な手掛かりになると思ったから。上手く行けば一気に解決したんではないかと。だが、世の中そう甘くはない。
村正は石像のまわりを調べ始める。なにか文字があればそれも手掛かりになる。だが、何1つない。
「何もないな。」
「そうですね。見た目が古そうですし、消えてしまったのでしょうか?」
「うーん、違うと思う。何も書いてなかったと思う。」
何か書いてあり、それが消えたのなら傷として残ってるはず。それすらないとなれば初めから無かったと考えるのが自然だろう。
「何か妙な石像ですね。」
「妙?」
シロが石像に何か違和感を抱いた。
「この石像顔と口はありますが表情が無いです。」
「表情が、ない・・・」
確かにシロの言う通りこの石像には表情がなかった。石像の表情と言えば、無、若しくは自信い満ちあふれてるような物だろう。だが、この石像からはそれが一切感じられない。この石像の人物は石像になれるほどの人物だったのだろうか。
だが、村正は今のシロの一言でこの石像に別の違和感を持った。
「これ、本当に石像、なのか――」
「どういうことですか?」
シロは村正の事を見上げる。どう見ても石像であることは間違いない。だが、村正はこれが石像ではない何かだと思った。
「これ、石像じゃないかも。」
僕はこれと似たものを知っている。かつて、火山の噴火で一瞬にして歴史から姿を消した街があったと。
「シロ、ちょっと良いか?」
村正はシロを肩車して、シロを石像の高さまで持ち上げる。突然担がれたシロは困惑する。
「い、いきなりどうしたのですか?」
「ごめん、ちょっと、その石像そっと叩いてみてもらえる?」
「そっとですか?」
「うん、壊さない様に。」
村正からの指示に従い、シロはそっと指の甲で軽く2度、コンコンと叩く。やはり石像だ。
「どう?」
「石像で間違いないと思いますよ。」
「感触は石だった?」
村正に言われ感触を思いだして行くが、石と言う事実に変わりはない。
「うーん、多分石だと思います。」
「多分、ね。」
村正はシロを降ろすと石像の表情に注目した。
「これ、ただの石像じゃないかも知れない。」
「では、これは?」
シロの疑問に答える為、村正は探索魔法を唱える。
「ウル・エルム」
村正は石像を中心に主に地中に視界を集中する。
「これは!?」
「どうしました?」
探索魔法でとらえた村正の視界には、信じられない光景が広がっていた。それは、多分、真のルマニミ遺跡と呼ぶに相応しいであろう光景だった。
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