At72.ルマニミ遺跡
僕は基本的に朝早く起きるのはどちらかと言えばたぶん苦手な方だったと思う。ただ、ここ数ヵ月は違う。早起きが日常になりつつあり、自分でも驚くほど早起きをしている。だが、今日みたいな早起きは決してない。
「眠い・・・」
「あら、昨日ちゃんと早く寝なかったの?」
村正が眠気に勝とうと目を擦る。その横で全く眠そうにしていないイブが立っている。
「早く寝ましたよ。解散してから僕すぐに、寝たんですから。」
「じゃあ、どうしてよ?」
どうしてだって?そんなもん、ちょっと考えればわかるでしょう!
村正は起きているが、シロはいまだに村正の背中で寝ている。中々起きないシロを、部屋に置いてくるわけにもいかなかったからだ。なぜ、村正は眠気に襲われ、シロは寝ているか。
「今、午前3時ですよ。何考えてんですか?」
「あら、そうだっけ?私徹夜だからわかんなかった。」
てへ、と舌を出すイブさんを見て僕は叫びたくなった。しかし、今ここで叫んでも準備をしている人の迷惑にしかならないのと、背中で寝てるシロを起こすだけと僕になんのメリットもない。それに僕が怒ったところで、この人は反省すらしないだろう。
そもそも、昨日の事が終わった時間が時間なのに、今日の出発の時間がどう考えても普通じゃない。昨日、僕らは夕食の後、今回の目的とはまた別に談笑会というのが催された。それが意外と長く終わったのは日付が変わる直前だった。そこでだよ、今日の出発時間知らされたの。ひどくないかい?
「よく寝ずに遺跡の調査なんかに行こうと思えますよね。」
「別に私は初めての場所に行くわけじゃないんだし、危険が潜んでいるわけもないもの。」
「あの、僕とシロは始めていきますが・・・」
僕ら2人の他にも何人かルマニミの人だって今日が初の人が居るというじゃないか。
「紺野君。ちょっと大事な事言うわね。」
イブが改まった言い方をするので村正も聞き入る。
「アレンはシロちゃんのことを知っているけど、他の人は知らないから、シロちゃんのこと悟られない様に気を付けるのよ。」
「はい。」
イブも必要な人には村正とシロのことを伝えるがそれでも必要な人員にのみ。それ以外の普通の人にまでは伝えない。簡単に言えば幹部クラスの人間のみ。一般人でシロのことを知っているのは学園の学生の位だ。
「遺跡の入り口ってどんな感じなんですか?」
「もしかして私の研究室みたいって思ってる?」
自分の考えを看破されて照れ顔になる村正。
「そもそも入り口ってゲームのダンジョンじゃないのよ。」
「そうれは、そうかもしれませんが・・・」
「まあ、ついついそう考えちゃうのがあの世界の子よね。」
確かに、僕らの頭じゃ遺跡は、ゲームのダンジョン風を思ってしまうかもしれないのは致し方ないかもしれない。
僕はこのイブさんの物言いに引っかかるものがあった。イブさんの言い方だと、僕の他にもあの世界の人間に会ったことがある様な口ぶり。それも、割と最近の人物かもしれない。出ないと、遺跡をあれと同じようには結びつけないだろうし。
この世界の人間について若干の疑問が増した村正。ただ、今は単なる違和感程度にしか思ってない。それよりも今は、単純に遺跡に向かうということで頭が一杯だ。それにまだ睡魔も抜けていない。
「それも否定できふぁ~あ。」
「大きな欠伸だこと。」
「この出発時間がどうかしてるんです。」
「長時間、調査の時間を確保しようと考えたら、自然とこの時間になったのよ。」
僕はこの考え方がどうもオタクの考え方の様に思えた。口に出すのはなんか失礼な気がしたから言わなかったが。
「準備が整い次第順次向かうわよ。」
「まだ外は暗いですよね。そんなので遺跡調査出来るんですか?」
「それは行ってみてのお楽しみよ。」
もったいぶるイブさんに僕は不満を抱きながらもルマニミの遺跡に期待を寄せることにした。
「それじゃあ向こうに行ったら準備始めててね。」
「はい。承知しました。」
イブさんは準備が良いのか、始めっからそのつもりだったのか、既に、行きの段階で転送魔法が使える様になっていた。僕は昨日の段階では、まだ遺跡側に転送魔法の準備が出来ていないのかと思ったが一度インディアルに戻る前に、既に設置していつでも使える準備をしていたのだとか。昨日ルマニミ国王に、転送魔法の許可を求めたのは、念のためにだったらしい。恐らく拒否はしないだろうと考えていた。
まず、一番初めにアレンさんと一部の人がイブさんの転送魔法で遺跡まで送られる。僕とシロは最後にイブさんと一緒に遺跡に向かう。それまでの間に僕はシロを起こすように言われた。
「シロ、シロ。起きな。」
「うーん・・・」
まだまだ起きる気配の見せないシロ。肩を叩いてみたり、ほっぺを突いたりしては見るがただうなるだけで、起きる気配は見せない。中々目を覚まさないシロに手を焼く村正に目を配りながら、他の人たちを遺跡まで転送していくイブ。
荷物と人員を交互に転送して行き、全ての転送に大体15分の時間を要した。
「終わったけど、シロちゃん起きた?」
「まだです・・・」
まだ起きないシロは取りあえず、背負った状態で連れて行くことにした。この際なら剣の状態に戻っていてくれたら大分楽になるのだが、僕の力ではどうもできないので、こうして連れて行くしかない。
「こうしてると、普通の兄妹ね。」
「それ、揶揄ってます?」
「そんなことないわよ。良いお兄ちゃんしてるわね。」
「絶対揶揄ってる。」
村正は白けた顔をしながら転送魔法を受ける。
「――ここがルマニミ遺跡」
ルマニミ遺跡と言うのは公式な名称ではない。取りあえず調査が完了するまでの仮称として名付けられたもの。
ルマニミ遺跡は村正の考えたダンジョン系の遺跡ではなく、元の世界と同じ、開けた場所の遺跡だった。ごくごう普通の発掘現場である。
「こんなに暗いのに、遺跡の調査なんて出来るんですか?」
「この時間にしか出来ない調査があるのよ。」
「この時間にしか出来ない調査?」
この時間と言うのは早朝と言う意味ではない。暗いこの時間でしか出来ないって意味だ。村正はシロを木の下に寄りかからせると、調査の準備をしている人たちに目を向ける。その中に魔法使いの人がいることに村正の目は向いた。
「あの人たちは?」
「彼女たちは、この遺跡の魔法の調査をするの。その仕掛けがどんなものかをね。」
「それが、暗いこの時間にしか出来ない調査なんですか?」
魔法と、暗い時間がどう関係して来るの村正の頭ではまだ結び付きが出来ない。
「見てなさい。」
イブさんに言われて僕は魔法使いの人たちの行う様子を暫く伺うことした。
まず、魔法使いの人たちが同じ魔法の詠唱を行っている。詠唱を聞く限りレベルは中級魔法。数人で行うのはレベルが中級魔法の割合に、必要とされる魔力の量が多いから。数人で同じ魔法の詠唱を行ってもそれは解決にならないのでは?と思ったが、ここの遺跡の仕掛けし関してはこの限りじゃないんだと。
「なんともまあ、便利だことで・・・」
ご都合主義も良いところだと思った。
詠唱が終わると、遺跡の至る所に魔法陣が出現している。それも数え切れないほど。しかも、広範囲に広がっている。恐らくだが、この遺跡全体に及んでいるように思えた。
「何の仕掛けなんだ?」
「もうすぐ、面白いのが見れるわよ。」
面白い物と言われると、心が躍ってしまうのは男子としてか、それとも、異世界の遺跡に居るという事に関してか。どっちともとれる感情に村正の心は踊っている。
魔法陣から徐々にホログラムの様な物が少しずつ姿を現し、それが遺跡を囲っている魔法陣全てから出現し繋がっていく。それは徐々に形を成していき、1つの大きな建築物の形を取った。
「なんだ、これは・・・」
あまりの物の出現に村正は息を飲む。
現れたのは神殿の一部だろうか。複数の柱と祭壇が見える。
「これはね、かつてこの場所にあったとされる神殿よ。」
「神殿・・・」
「そう、この仕掛けは、この神殿が消えるとき、後世にも残るようにとその時代の魔法使いが残したものね。」
しかし、何故神殿ほどの遺跡が何故跡形もなく綺麗さっぱり消えたのだろうか。たとえ、この神殿のあった地域が侵略戦争などに負けたとしても、流石に神殿は破壊しないだろうと村正は思う。しかし、現実にこのルマニミ遺跡の神殿はこうして過去の物となり、現実世界からは姿を消した。
「この仕掛けを作った魔法使いの人は、この神殿が無くなるのが分かっていたんですか?」
「それはまだ何とも言えないのだけど、私もその可能性を支持するわよ。」
「アレンさん。」
アレンが村正とイブの方へ歩み寄って来る。アレンは村正にこの遺跡についてより詳細な事を教えてくれた。
「ここは今から1500年ほど前、突如として消失した神殿なの。」
「突如ですか?」
「そう、文献ではこう記されているの。」
アレンの言う文献には、この神でのことについてこうあった。
神の止り木、大地の怒りに触れ消え去る。
「神の止り木っていうのは間違いなく、この神殿の事ね。」
「その、大地の怒りって何ですか?」
「私達はそれについて2つの可能性を導いたわ。」
2つに絞れるのか。いや、大地の怒りと表現できる現象は2つか。
「1つは、地震。このルマニミ国王は昔から地震の多い地域なのよ。」
「地震。」
「そう。大地震の予兆が現れたからこうして未来へ残る形を作った。」
「もう1つは何ですか?」
地震が発生する様な地域だ。残りの可能性が何なのか村正にはあらかた予想はついている。
「今は暗くて見えづらいけど、この遺跡の西側の方向にオウトウと言う名の火山があるの。」
「やっぱり。」
「紺野君何か心当たりでもあるのかな?」
やっぱりと口にする村正が気になったアレン。
「地震が多いってことは火山があっても不思議じゃないかなって思ったので。」
「へー、紺野君は面白いところに気が付くんだね。」
「面白いですか?」
「うん、中々世の中、この2つに関連を持たせる人はいないわ。」
うーん、割と、地震と火山って関係あると僕は思うんだけどな。違うのかな?
この世界にはこの世界の常識があるし、僕の世界の自然の摂理がこの世界では全く通じないかもしれないしな。でも、火山の原理は全く同じだったけど。
「それじゃ、火山の噴火の予兆があったからこの仕掛けを?」
「その可能性もある。で、私達は今どっちの説がより正確かの調査を今行ってるのよ。」
「で、この神殿の全体像を把握できるこのホログラムは、明るいと全く見えないのよ。」
イブさんが暗い今しか出来ないという理由はやっとわかった。
「でも、明るいと見えないってなんか意地悪ですね。」
「多分、遺跡が荒されるのを警戒したのね。」
この仕掛けをした人に言います。
最も見つかってはならない人の1人に見つかってしまいました。ご愁傷さま。
僕は、かつての時代の人に祈りを捧げた。出ないと、なんか祟りとか起きそうで怖かったから。この世界に祟りがあるかは別にして。
「でも、私に見つかったが運の尽き。盛大に漁るわよ。」
「バチが当たるから止めてください。ここ今は無いけど神殿ですよ。」
神殿を荒らすとか、もはや盗賊だろ。遺跡は荒してなんぼとか言ったけど、絶体やっちゃダメな事だよね、普通。
「この神殿が消失した理由の調査なら僕等いらなかったのでは?」
「そんなことないわよ。ここから見つかる出土品だって立派な歴史の品よ。目的は1つじゃないわよ。」
目的は1つじゃない、か。
「そう言えばイブさん。ここでの先行調査って何を調査したんですか?」
「ん?取りあえず、命の危険があるような罠が無いかと、周辺に生息する生物の調査。こういう遺跡には魔物も住み着くから、出くわすと危ないでしょ。」
普段は村正にとってあれな存在でしかなくても、仕事はちゃんとこなすイブ。村正はその真面目さがもっと普段から見ることは出来ないのかと憤る。
ルマニミ遺跡はイブの研究室の遺跡とはあまり似ておらず、村正が当初抱いていたような遺跡でなかったのが残念だった。
「それじゃ、調査を始めるから説明をしっかり聞いてね。」
「ああ、はい。」
イブが今から遺跡調査の事前説明を始める。
まず、調査は大きく2班に分けること。1つはこの遺跡に眠る遺産の調査を行う班。もう1つの班はこの遺跡の消失原因を探る班。
遺跡調査には殆ど男性で構成され、消失原因は女性で固められた。理由はシンプル。消失原因を探るには魔法使いの力が必要になるから。
「それと、遺産チームはただ闇雲に探してもあまり意味ないから、私がこの遺跡をいくつかに区分けするから、その中を探していって頂戴。」
「質問でーす。」
「はい、どうぞ。」
調査に参加する1人の男性がイブに質問を申し出た。
「見つかった遺産はどうしたら良いですか?」
「そうね、こっちにも数名は魔法使いが居るから鑑定して、ゴミだったらその辺に撒いといて、価値のあるものはそうね。」
遺産の扱い方を考えてなかったイブは今この場で考える。その辺りが抜けてるのがイブらしいと言えばそこまでなのだが。
「それは私が預かります~。」
答えたのは小柄の少女。ものすごく眠そうな声をしている。
「あ、シロ起きたの?」
「ふぁ~、まだ眠いですが。私もお力になります。」
おいおい、本当に困難で大丈夫か?うっかり壊したりしないよな?
まだ、完全に目が覚めてないシロに大事な遺産を託すことに不安にある村正。シロが精霊具であることを知らない、人たちも不安がっている。何故、ここに幼女が居るんだ、と。
「じゃあ、シロちゃんにお願いしようかしら。」
「はーい。」
なんの躊躇いもなく幼い少女に遺跡の遺産を持たせることに不安が抜ぐえない、遺跡の調査の面々。シロはと言うと、今もゆらゆらと揺れながら立っている。いつ、倒れるのかと心配で村正は話に集中できない。
「シロ、もう少し寝てて良いよ。」
「いえ、お兄ちゃんが頑張るのであれば私も頑張ります。」
正直、この状態のシロを放置することも可能だったが契約内容の、シロの世話をするという項目に反しそうだったので、雑に扱うことが出来ない村正。
村正は自分たちが足手まといにならないかが一番不安になった。
「それじゃ説明の続きをするわね。魔法使い組は地質調査を中心に遺跡全体をくまなく調査すること。その際、決して地質を変えるような魔法は使わない。また、もしかしたらまだ、見つかっていない新たな魔法の仕掛けもあるかも知れないからその点も考えること。」
魔法の使えない男性組はその辺の心配は既にない。それは、イブの先行調査ではっきりしている。ただ、魔法使い組の場合、隠された魔法に引っかかる可能性も否定できず、危険もないわけではないのである程度の注意は必要になる。
さらに、地質が変わってしまうと、正確な遺跡の消失原因が探れなくなり、調査結果に支障が出てしまう。
「次に、発掘組。神殿だから何が出てもおかしくないからね。出る物はピンからキリまであるからその辺よろしく。猫糞は禁止よ。」
本当に猫糞考えてた人が居たのか残念がる声がちらほら聞こえた。
「以上で説明&注意事項はお終い。さあみんな、遺跡荒すわよー。」
「荒さねーよ!」
最後の最後で最も馬鹿な発言をするイブに村正は腹の底から声を張り上げた。
「はっ。」
そして幸いなのか、今の村正の大声でシロが完全に目を覚ました。
次回At73.遺跡は大切に扱いましょう




