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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第5章 ルマニミ王国
65/165

At65.夜道

 学園の寮に戻った村正はさっそく明日からの準備に取り掛かる。イブ曰く数日分の着替えがあれば特に問題はないという。移動が大変なだけでルマニミに到着すればそれほど身の回りのことで困ることはないらしい。

 それでも、村正は準備に時間を要していた。


 「う~ん・・・」

 「何をしているのですか?」


 シロはベッドの上で服を広げて悩む村正に声をかける。


 「シロ・・・」

 「はい。」


 何やら深刻な悩みがあるような村正。彼の表情がそう言っている。


 「大問題が発生した。」

 「大問題、ですか?」


 ベッドの服とにらめっこをしながらシロとの会話を続ける村正。シロは一体何が起きたのかすごく心配になる。


 「実は。」

 「実は?」

 「・・・」

 

 黙りこんでしまう村正。それほど大きな問題が発生していたのかと思い、シロは村正の一大事に気づけなかったと、肩を落とす。


 「洗濯が追いついていない。」

 「はあ・・・」


 シロはこの状況でどう反応をしたらよいのか全く分からない。洗濯が追いついていない。それは昨日の夕方のことである。


================================================


 「マサ君。」

 「ん?」

 「洗濯物結構な量がたまってるけどどうするの?」

 「ああ、明日の朝一気にやろうと思って。どうせ、この夏はここから出ること自体ないだろうし。」


 村正は、この時まさか自分がギルディスの極秘の公務に同行することになるとは夢にも思っていない。ましてや泊りで。


 「そう言ってると、どんどん溜まっていくわよ。」

 「・・・」

  

 ユウキの物言いが自分の母親と全く同じだと思う村正。家では村正は自分の洗濯物は自分で回していた。そのため、一度遅れるとそれがどんどん遅れて行って最終的にとんでもないことになたこともざらではない。

 その度に母親が洗濯を回す。


 「は~、その顔は前科有りの顔ね?」


 ユウキもこの数ヶ月村正と暮らしてきてある程度の村正の行動パターンは理解してきている。家事が得意な彼女はついつい村正の身の回りのことに手を出してしまう。それ対し村正も嫌がることはなく、普通に感謝もするのでユウキも中々やめることができない。

 そろそろ、村正自身にやらせようとするが結局毎度毎度自分がやってしまう。


 「昔、そこそこ溜めて滅茶苦茶怒られた経験があってだな。」

 「ああ、今はその話はいいわよ。長くなりそうだから。」


 あっさりと話をカットされて頬を膨らます村正。ユウキは自分の洗濯物を畳むと自分の箪笥とクローゼットにしまい込む。

 

 この世界いや、この学園と言ったほうが正しいのかな。この世界にも一応洗濯機はある。だが、それは勿論電機では動くはずなどない。魔法で動くものがこの学園の2階に置いてある。

 

 「はあ、持っていくか。」

 「そうしなさい。」


 ユウキに籠2つに分けられた洗濯物を持たされて村正は2階へと向かった。


================================================


 「では、お洗濯はしたんですよね?」

 「そうなんだがな。」


 村正は視線を部屋の奥へとむける。それにつられてシロも村正の目線を追う。


 「あぁ。」


 シロはそこで全てを察した。そこにあったのはなぜか手つかずの状態で置かれている籠が1つ。昨日の残りの半分だ。


 「いや、あっちのもやろうと思たんだよ。」

 「でも、やめてしまったと。」

 「これには深い訳があってね。」

 「一体どのような訳が?」


 シロは村正の前にちょこんと正座をする。村正も正座で話を始める。


 「昨日、半分が終わったから一度これだけでも持って帰ろうと思って半分をもってきて、外に干したんだよ。」


 それが、今村正のベッドに置かれている服たち。


 「それから?」

 「それで残りもやろうと戻ったわけよ。」

 「戻って?」

 「戻ったら全部埋まってた。」


 村正が自分の部屋に戻っているほんの僅かな間に洗濯機が全て他の人に使われてしまったのだ。それだけなら誰かが終わるまで待てばいいだけなのだが、


 「ほら、基本的にみんな女子ばっかじゃんこの学園。」

 「そうですね。」

 「で、僕が使ってるときって誰もいなかったんだよ。」

 「はあ。」

 「つまりね、みんな僕がいなくなったのを見計らってやって来たんだよ。」

 

 学園のほとんどの学生が女子とはいえ、村正は男子だ。村正がそこにいれば当然女子たちは入りずらいというのがある。反対に村正も、女子が多くいる状況では中々入りずらい。


 「しかも、結構人数いたし。」

 「それで諦めたんですね?」

 「そうです。」


 今村正の手元にあるのは1週間分の制服と、手の付けていない部屋着のみ。これだけでも回せなくはないが、制服をすべて使い果たすことになるのは村正にも抵抗はある。


 「正直、これだけあれば問題ないと思いますが・・・」

 「そう思う?」

 「そう思います。」


 行程のうちの初日は夜中に出発となる。初日と2日目は同じ服装でも何ら問題はない。さらに、ルマニミ到着できればどうにかなるのであれば、移動期間中のものさえ確保できれば問題はない。というわけなので、


 「じゃあ、これでいいか。てかずっと制服の方が良いのかな?」

 「その辺は臨機応変にですかね。」

 「えー・・・」

 

 臨機応変と言われても、どう対応すればいいのか分からない村正。まず第一にこんな経験今までの人生(2回目も含む)で1度もない。だから、そこでの振る舞い方など知ってるはずなど無い。その辺はイブやシギーが村正にその都度レクチャーする。

 

 「それに今回のルマニミ行きは私としてはちょっと楽しみなんですよ。」

 「楽しみ?」

 「はい、だってこの姿でのびのびできますからね。」

 

 ああ、成程ね。

 

 シロはこの学園内に居る時は常に村正の杖の状態で村正の傍にいる。普通に少女の姿として不用意に学園内を歩き回ると正体がばれる可能性がある。

 だが、今回に至っては予めイブによって村正とシロとの関係性を聞かされている人物たちしか集められていない。だから、名簿にも村正とシロの名前が載っている。シロにしてみれば村正と一緒に()()()()()ことが何より嬉しいのだ。

 

 「じゃあ、シロも何か準備するの?」

 「いえ、私は特に。」

 「・・・」


 だよね、なんとなくそんな気はしていたけど、気になっちゃうじゃん。


 シロは村正が準備をしている間にシャワーを浴びると言い、シャワー室へと姿を消す。このあたりシロも女の子なんだとなと思う村正。

 村正は適当な大きさのバッグに数日分の制服を入れる。後は取りあえず今来ているこの服を制服以外で使うとしよう。基本の服装を制服にすればよい。

 村正が準備を進めていると、ユウキが部屋に戻って来た。


 「マサ君どっか行くの?」

 「ああ、半月ほどシギーさんのお供でね。」

 「あら、結構な長旅なのね。」

 「まあね。」


 今回のことは極秘だから踏み込んだことは言えないがシギーさんのお供、というのは強ち間違ってはいない。嘘はついていないから、


 「・・・」

 

 シロは出てこないな。


 村正は今シャワーを浴びているシロが、村正の発言を嘘であると判断した結果、この場に出てこないとも限らなかったが、出てこないということは、問題ないということ。


 「それで、どこ行くの?」

 「えっと、ルマニミ王国って言ったかな?」

 「へー、ルマニミか。」

 「ユウキは知っているのか?」

 「まあね。」


 ルマニミ王国のことを全く知らない村正にとって少しでも情報が得られるのならありがたい。

 

 ユウキから聞いたルマニミ王国はこのインディアル王国とは古くからの付き合いがあるということ。それこそ、それぞれの王族が勉学の留学先としてしょっちゅう訪れるくらいに。

 

 「成程、もしフェアリが魔法使いにならなかったら普通にルマニミへ留学していた可能性もあるのか・・」

 「何をぶつぶつ言ってるの?」

 「えっ、何でないよ。他には、何かあるん?」


 さらにユウキからルマニミ王国のことを教えてもらう村正。

 ルマニミ王国にいる魔法使いの殆どがこのクレア学園の卒業者であるということ。ルマニミには魔法の学校が無いため、自然とインディアル王国にあるクレア学園へと入学することになる。

 どういうわけかは分からないがインディアル王国とその周辺国で生まれる魔法使いは大抵の確立でクレア学園に入学できるほどの能力を有しているらしい。一体なぜインディアル王国周辺にだけ多くの魔法使いが出現するのかは今もって謎に包まれている。ただ、クレア学園のような大規模な学園は世界中にもう何か所か存在している。

 で、肝心のルマニミについてだが、ユウキから面白い情報を聞くことが出来た。

 

 「蒼の泉?」

 「そう、まあ、これは噂だからあんまり本気にしないでもらえると嬉しんだけど・・・」

 「え、教えて!」

 「と、飛びつくのね。」


 なんとなくファンタジーっぽい響きに聞こえたのでつい本能的に動いてしまう村正。彼のあまりの食いつきように引き気味のユウキ。


 「だって、面白そうじゃん。」

 「おお、おう。」


 面白そうという理由のみで確信のない情報に飛びつく村正。だが、それもまた彼の性格だから仕方ないのかと思うユウキ。当の村正はと言うと尻尾振る犬みたいな表情をしている。


 「蒼の泉は普通の泉とはちょっと違うのよ。」

 「それって、普通じゃないって解釈で合ってる?」

 「うん、それで合ってるよ。」

 「で、その泉ってどんな泉なの?」

 

 村正が興味津々に訊ねるとユウキは得意げに話し始めた。


 「蒼の泉はね常にそこに存在しているわけじゃないの。」

 「常に存在しているわけじゃない?」

 「そう、それが噂に過ぎないと言われる所以でもある。」

 

 ユウキ曰く蒼の泉は、ルマニミ王国の端にある町クリマテリアの森に出現するという。その泉はクリスタルがそのまま泉になったように透き通っており、生命を癒すと言われている。普段は何もない場所に突如現れる。その泉の出現条件は判明していない。もしかしたら何かしらの法則性があるのかも知れないが、過去の出現を確認された事例がほぼ皆無に等しく、仮にあったとしても歴史書レベルの古さなのでただの、伝説と扱われている。


 「それ、噂って言うレベルじゃないよね。」

 「噂は噂よ。人の捉え方なんて十人十色、でしょ。」

 「確かにそうだが・・・」


 その蒼の泉と言う物に巡り合えたらそこそこラッキーだと思っていたが考えが普通に甘かった。そもそもこの世界では僕の持ち合わせている常識が非常識なことを何度も認識してきたはずなのにも関わらず、またしても驚かされてしまった。


 「それじゃあ、望みは無いに等しいか。」

 「でも、マサ君ならもしかしたらいつもの訳のわからない幸運でどうにかなるかもよ?」

 「ここ最近自分の運の良さを疑い始めているんだが・・・」


 イブを始め色々なことに巻き込まれいる村正は自分が運に見放されているではないかと最近疑い始めた。特に闇の書が現れた時に特に意識し始めた。


 「まあ、見れたら良いな程度でいいんじゃないの。」


 ユウキは軽く扱うが、そもそも僕がその蒼の泉のあるとされる町に行くかすら不明だ。道中や、ルマニミの王都の傍にあるのであれば話は別だが、全然違うところのあるんなら行くことはないだろう。


 村正がユウキから、ルマニミについての話大方聞き終わったころにシャワーを終えたシロが出て来る。


 「ふう、気持ちよかったです。」

 「あ、シロっておあ!?」

 「シ、シロちゃん!?」


 村正とユウキはシャワー室から出て来たシロの姿をみて驚く。その姿を見てユウキが珍しくシロおの事を『ちゃん』付けで呼んだ。で、どういう状態かと言うと、シロは普通に裸の状態で出て来る。


 「はい?」

 「はいじゃない、服を着なさい。」

 「あ・・・忘れてました。」


 ユウキに促されてシロが軽く目を瞑ると、シロの髪がふわっと上がる。そのままシロは純白のワンピースに包まれた。それを見た村正とユウキは声をそろえて、


 「「便利だこと。」」

 

 まだまだ村正自身シロのことについて知らないことがあるんだと思う。契約してから2カ月ほどが経とうとしている。その間に村正とシロがどれくらい絆を築けて来たかは分からない。だが、村正の知らないことくらいまだ合っても何も不思議はない。なにせシロのことを全て知ろうとする方が難しい話だ。


 「へへっ。」

 「シロの服って何パターンあるの?」

 

 シロが纏う服は主に2つに分けられる。

 1つはシロが元から精霊として使用できる服。もう1つはこの世界で村正などから貰った物の2つ。


 「私が今みたいに自由に変えられるのはいつものと、今来ているこれと、戦闘用の3つですね。」

 「たったそれだけだったの?」

 「はい。」


 そうだったんだな。そうならもっとシロの為に服を買ってあげてもよかったなかな。

 そう言えばシロっていつも同じ服だったな僕の傍に現れてる時って。

 ずっと一緒にいるのに全然気にしてあげられなかったな。もう少しシロのことに気を配ってもいいかな。


 「じゃあ、私が今度作ってあげようか?」

 「え、良いんですか?」


 ユウキに服を作ってもらえると知って喜ぶシロ。村正はユウキのハイスペックさに驚かされるばかり。

 

 「ユウキって本当に何でも出来るよね。」

 「どうもー。」


 会釈をしながら笑顔で返すユウキ。


 「じゃあ、マサ君達が戻って来るまでには作っておくからシロちょっといい?」

 「あ、はい。」


 ユウキはシロを連れて部屋の奥へ行った。どうやら今からシロの採寸を行うようだ。


 村正はシロとユウキが奥の部屋でごそごそしている隙に王城でもらった自分の行動についての指示書に目を通す。基本、移動中並びにルマニミ王国滞在中はフェアリの警護としてフェアリに付きっ切り。

 唯一フェアリから離れるのは、王族同士の親睦会が行われている間、別に行われる遺跡の調査のみ。

 フェアリ警護中でも、さらに2つに行動が分けられる。まず、移動中はシロも一緒に同行。ルマニミ滞在中ではシロは村正の杖、ではなく今回に限り剣の状態で村正についている。

 また、遺跡調査について村正に与えられた任務は遺跡がクレア学園の真下にあった物との関連性について。

 次に、村正はインディアル王国からルマニミ王国までの道のりを確認する。片道6日、実質5日半。決して近いとは言えない。徒歩で向かうわけではないので途方もないほど遠いというわけでもない。

 村正は王城で指摘された襲撃が予想される箇所を再確認する。特に、ガルム丘は注意が必要となる。


 「わざわざ襲われに行く。そして襲いに行く。」


 ははは。何度口にしても納得いかねーよ。


===============================================


 そして出発の夜・・・


 村正、シギー、そしてイブは王城の地下に集まっていた。ここは有事の際王族の避難通路として使用されるところで、ネレラルの外まで通じている。


 「集合までまだ時間ありましたよね?」

 「早く来ても問題はないわよ。大勢で一斉にここに入るのはリスクを伴うし。」

 

 村正達は王城の裏口から王城内に入りそのまま、王城の地下に直行した。地下通路の道を知っているのはごく僅かの人物のみ。

 今夜この通路から出発するのは、村正達学園組とギルディス、フェアリ、さらにケベックとテン。他の同行者はネレラルの外で合流する。多くの人のこの通路のことが知られてはまずい。


 「僕も、この場所知ってもよかったのかな?」 

 「別に構わんさ。」


 やって来たのは割とラフな格好に身を包んだギルディスとフェアリ。


 「ギル殿。」

 「待たせたの。」

 「随分と早いですのね。」


 予定より早い時間に姿を現したギルディスに驚く村正とシギーに対し、全てを見切ったかのような表情のイブ。


 「これも、作戦なんでしょ。」

 「作戦?」

 「王城内でもこの人が今夜からいないことを知らされていない人もいるのよ。」

 「それはなんとなく分かりますが。」

 「知っている人がもしも何らかの形で外部に露見させてしまうと、時間通りに出発するのは危険なのよ。」

 

 そこで初めて村正は集合の予定時間よりも早くにこの場に来たことを理解した。


 「そこまで念入りにするんですか?」

 「リスクを最小限に抑えるには、最も危険な状況を想定して行動すること。」

 「な、成程。」


 この人やっぱり頭の回転が速い。村正はそう思った。普通の国王がそこまでリスクについて自分から突っ込むようなことはしないだろう。

 ギルディスの考えに感心に浸る村正のことを周りの皆は笑みを浮かべながら見ている。


 「な、何?」

 「なんでもないさ。さ、出発と行きましょうか。」


 ギルディスの声によりついに王城を出る一向。まずは、ここからネレラルの外で待機している部隊と合流。そこまでの通路はケベックが先頭で歩き最後尾をテンが歩く。

 合流地点までは歩いて40分。直線距離で向かうがネレラルの入り口から離れたところに通路の出口が存在しているため時間がかかる。


 「この通路・・・」

 「どうかしましたか?」

 「いや、造りが気になったから。」


 村正が気に留めたのは地下通路の壁や天井のつくり。通常であればレンガを積んだような感じが滲み出ているような感じになる。付け加えるのであれば、この世界の建築技術を考えればそうなるはずだ。だが、


 「これ、コンクリ、だよな。」


 村正は歩きながら、壁の感触を確かめる。そこに石やレンガのような感触は無く、村正の世界で触れるコンクリそのものであった。通路全体が人の手だけで作られた、と言うのならば些か疑問が生じる。魔法を使用したと言うのであれば話は別だが。


 「この通路って、いつからあるんですか?」

 「最初にこの城が出来た時からだそうです。」

 「ここ、魔法で出来てるんですか?」


 壁を触りながら村正は最後尾を歩くテンに訊ねた。テンは村正みたいに壁に手を当てる。


 「いえ、この通り普通の壁ですよ。」

 「そう、ですか。」

 

 この世界の建築技術でここまで完全になトンネルができるのか?仮にこの世界にもコンクリを利用した建築物があったと仮定してもだ、他の建物を見る限りそうは思えないんだよな。

 王城もつくりは石だし、学園においてもそうだったよな。


 「紺野君、紺野君。」


 イブが手で村正を呼ぶ。村正は何かと思い、イブのもとに駆け寄った。


 「ここのトンネルは紺野君の想像通りよ。」

 「じゃあ、魔法で?」

 「ええ。」

 「なんでみんな知らないんですか?」

 

 てか、なんでイブさんは知ってんですか?


 「ここのトンネルの技術はこの世界の人が知るにはまだ早いのよ。」

 「魔法で通路を作ることがですか?」

 「ええ。この世界のトンネルはまだ、天井などを舗装するというような概念がないし、ましてや山をトンネルで突っ切ろうなんて考えないしね。」

 「なるほど、じゃあですよ。」


 この地下通路を作ったのは()()()()()()()という考えになるが。


 「この通路を作った人はどうやってこんな知識を得たんでしょうね?」

 

 村正はこの通路のことはおそらく何らかの形でイブが絡んでるのではないかとにらむ。根拠はないが、村正の中にある何かがそう訴えた。


 「さあ、この世界も十分広いしね。ひょっとしたらこの世界にそう言う技術を既に会得していた人たちがいたかも知れないわね。」

 「確定、じゃないんですね。」

 「ええ、ここもこの国の不思議なところよ。」


 ここも、か。確かに、この国には不思議なモノが多い気がする。学園が所有する山にあったあの神殿、イブさんの研究室の地下にあった遺跡、そしてこの通路。

 考えてみると、結構この国って冒険家心を擽る国だな。


 通路を真っすぐ歩き続けて40分、通路の出口が姿を現す。通路が行き止まりになっている地点に到着する。そこは一見ただの行き止まりにしか見えず、ここからどうやって外へ出るというのか村正には皆目見当がつかない。

 ギルディスは正面の壁の前に立つ。その壁をテンとイブが照らす。照らされた壁には、


 「何だこれ!?」


 現れたものに村正は声を上げる。

 そこには、大きな絵が描かれていた。書かれているのは一体の竜。白い翼竜が城の上を飛んでいる絵が描かれていた。描かれている城はインディアル王城で間違いない。

 

 「これはこの国の王族にのみ伝えられてきたインディアル王家の守り神さ。」

 「守り神・・・」

 「ああ、もしこの国が本当に滅びそうになった時どこからか現れてこの国を救ってくれるという伝説の竜だ。」

 「伝説の竜・・・」


 村正は息を飲んだ。この世界には多くの竜がいるということに。魔法でしょっちゅう使うような偽物とは違う、本当の竜。竜が一体どんな力を持つのかはまだ村正にはわからない。ただ、彼にも竜がこの世界にとって大きな存在であることは人から聞いた話で理解は出来ている。

 色の竜と呼ばれる種がいること。その竜に選ばれた者が英雄になるということ。


 「この竜は色の竜なんですか?」

 「言い伝えではこれが白の竜とされているそうだ。」

 

 会ってみたいと思う村正。それは男子なら誰もがもつ好奇心から来ている物だった。


 「さて、話はここまでにしよう。皆少し下がってろ。」


 ギルディスの指示で全員がギルディスから離れる。ギルディスは、描かれている王城の正面の入り口に手を当て誰にも聞こえないようなそっとした声で何かを唱える。


 「ギル殿は何をやっているんですか?」

 「今、お父様はここから外へと通じる通路を開く言葉を唱えているのですよ。」

 「それは、フェアリも知らないの?」

 「はい、それを知っているのはインディアル王国の王だけです。毎回国王の代が変わるとき、次の国王にその言葉が引き継がれるのです。」

 

 フェアリの解説に村正はこの国のセキュリティ対策がいかにすごいかがよくわかる。特に情報の統制にはかなり長けていると思った。ここから先へと通じる道の言葉を他の人には伝えないという徹底ぶり。そして、万が一それを唱える必要が来た時も、決して誰かに聞かれては駄目と言う。


 「どうやら終わったようですよ。」


 村正は壁に目をやる。すると、


 ズゴゴゴ・・・


 「な、何だ?」


 突然地面が揺れる。それは地震の揺れとは違うものだとすぐに分かった。先ほどまで壁だったものだものがゆっくりと天井に向かって上昇していく。それに伴い奥から上へと通じている階段が顔を出した。

 その光景を目にした村正を始めほぼすべての人物が驚きに包まれた。恐らくこんな仕掛けが用意されているとは誰も思っていなかったのだろう。


 「さ、行くぞ!」



 階段を昇るとすぐに地上に出た。国王の登場に、地上で待機していた人たちが一斉に集まって膝をついて、国王ギルディスに最敬礼をする。


 「皆待たせた。」

 「こちらは全員揃っております。」


 部隊の人の1人がギルディスに既に人が揃っている旨を伝える。


 「よし、それでは各自持ち場に着き準備ができ次第出発とする。」

 「「「はい!」」」


 ギルディスの声に反応す人たちの声に村正は圧倒される。


 日本の警察なんかもこうなのかな?


 「村正!」

 「はい!」


 ギルディスに呼ばれて村正は勢いよく振り返る。


 「ここからは私は後ろに付く。フェアリのことしっかり頼むぞ。」

 「・・・はい。」

 

 緊張のあまり、声が小さくなる村正。

 

 「そう固くなるな。おまえたちには必要以上の危険は及ばんようにする。」

 「お気遣いありがとうございます。ですが、いざという時は僕も頑張りますので。」

 「はは、頼もしいな。」


 村正はギルディスにお辞儀をしてフェアリの下に向かう。村正を見送るギルディスの目は村正のことを完全に信用している目立った。


 「頼んだぞ・・・」


 ギルディスは村正には聞こえない様に呟いた。


 準備が整い出発の時がやって来た。


 「じゃあ、目立つわけにもいかんから手短に言うぞ。」


 皆ギルディスに目を向ける。


 「今回のルマニミ行きは決して表に出る訳にはいかんので、このような格好だが気にせんでほしい。行動には常に最新の注意を払うこと。以上。」


 全員が無言でうなずいた。それは、ギルディスの言う目立ってはならないという意向を受けて全員が咄嗟に取った行動だった。特に明白な指示があったわけでもないのに、瞬時に考えを理解できるところあたり、流石だと思う村正。

 ギルディスの話が終わると、すぐに出発し始めた。魔法使いのテンを先頭に村正達が出発する。


 「・・・」

 「フェアリ?」


 フェアリは無言で夜空を眺めていた。空には無数の星々が煌めいている。村正もその光景に圧倒される。元の世界では決して拝むことの出来ない夜空。ただ、やはりここは異世界。夜空には見たこともない物がたくさんあった。

 

 「あれ、鳥なのか?」


 村正の視線の先には夜空を黄色い光を放ちながら飛んでいる生き物がいた。それは一見取りの様にも見えるが、別な物にも見える。


 「あれは、ベンヌ。不死鳥よ。」

 「は?ベンヌ?」


 ベンヌってたらあれだろ?神話に出てくる。何かの偶然か?それとも・・・


 「村正君はベンヌを知っているのですか?」

 「まあね。名前だけは。僕の故郷に伝わる神話の1つに出て来る鳥で確か不死鳥とか言われてた気がする。」

 「へえ。」


 村正の知識にフェアリは感動する。感動を向けられる目よりもこの世界にベンヌと言う名の鳥がいることに驚く村正だった。

 始まった夜道は村正達は歓迎するのか、それとも貶めるのか。旅路は始まったばかり。その最初が夜道なのはこの先を占っているようであった。




次回At66.街道

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