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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第4章 夏の魔術祭
54/165

At54.後夜祭と忘れられた約束

 出先から疲れて帰ってきた時、着替えずにそのままの状態で寝床に入ることがあるだろう。そしてそのまま寝入って再度起きた時、自分の姿をみてなんとも言えない状態に陥ることはないだろうか?


 「ああ、私このままで寝てたのか・・・」


 ユウキは制服のまま寝てしまったことを忘れていた。


 「ヤバ、汗かいてる・・・」


 ユウキは自分で体のあちこちを探る。


 「この状態なら当然よね・・・」


 ユウキは横で同じような状態で寝ている村正に目を向ける。うつ伏せになった状態で寝ている村正のを起こさないようにシャワー室へ向かった。今の時間なら上にある浴場も使えるだろうが今は軽くで良いと思った。

 ユウキはシャワー室に入ると制服を脱いで脱衣所にあるハンガーに吊るす。


 「フレッシュ」


 制服にしわとかも付いていたので魔法で綺麗にする。ユウキはある程度の生活魔法なら使えるようになった。

 ユウキがシャワーを浴びている最中に村正も目を覚ます。起きた時にユウキが居ないのを見てどこへ出かけたのかとも思ったがシャワー室の方から音がするのが聞こえた。


 「ああ、今ユウキが使ってるのか・・・」


 村正もまた、自分の様子を見てシャワーを使いたいと考えた。この学園には男子学生用の浴場は存在しない。何せ元の人数が2人だから。


 どうしようか、他の人の所に行くって言っても皆女子だし、エレンさんの部屋は、知らないし。そもそも今は居ないだろうし。

 しょうがない、ユウキが出て来るの待つか。


 村正は窓の外を目をやる。既に日が暮れようとしている。時間は夕方6時半過ぎ。そろそろ後夜祭の時間となる。

 村正は外の景色を見ながら今回の魔術祭のことを振り返る。振り返ってみるのかなり偶然と言うか自分の運の良さに感服する。初日の試合に勝てたこと自体が大きな偶然に過ぎない。あの時のことは今の村正の脳裏にしっかりと焼き付いている。なら、他のことはそうでないのかと言われても勿論そんなことは一切ない。2日目、3日目と全てのことを覚えている。


 「知らないことが多すぎたな・・・」


 改めて自分が無知で素人なのだと思わされる結果となった。なんだかんだでやってこれたのだって結局は偶然が重なって起きたこと。今後はこの偶然に頼らずともこなしていけるようにしなくてはならない。それが今後の村正に求められていることであり、村正の課題だ。

 村正が外を眺める表情はどこか儚げだった。自分では普通にしているつもりに村正だが、自然と表情は変わってゆくものだ。


 「何を考えていたんですか?」


 声を掛けてきたのはシロだ。村正のことが気になたようだ。


 「なんでもないさ。ただ、ちょっと今後のことを考えて来ただけさ。」

 「それだけじゃありませんよね?」


 全くこれだからシロにはかなわない。


 「まあ、ね。今回は色々と考える機会が多かったてことさ。」


 あえて曖昧なことで返す村正。そうしておけばシロとの契約の違反には触れずに済むと最近学習した。


 「なあ、シロ聞いてもいい?」

 「何ですか?」


 村正は前からみんなに言われて来た中で1つ気になっていることがあった。


 「僕は本当にすごい魔法使いになれるのだろうか?」

 「不安ですか?」


 そのシロの声は暖かく優しかった。


 「不安よりかは疑問かな?」

 「疑問、ですか?」


 村正が抱いてることは、一体みんなは何をもってして彼にそのようなことを告げたのか?この世界には多くの魔法使いがいる。そもそも魔法使いの適正なんてものは女性現れるのが常。男性に出たとしてもそれほど強い物にはなりはしない。もしかしたら村正もその程度かもしれない。今は順調に見えるだけでもしかしたらここから先への成長がある保証など、どこにもないのだ。もし、今後の成長に期待してそのようなことを思っているのなら村正にもしもの時の保障などできはしない。


 「一部の人は僕に何故か大きな期待を寄せる。」

 「それはよいことなのではないでしょうか?」

 「確かにね。でも、僕は今まで魔法と言うものとは全く縁のない生活を送って来た。それが突然そのようなことを言われるようになると、疑問が浮かぶのは必然じゃない?」

 「そうですね、確かに急にそう言われますと、誰でも初めは困惑しますよ。」

 「でしょ?」


 誰もが困惑するなら僕はきっとその誰以上も困惑し疑問を持ち、不安になる。


 「ですが、お兄ちゃんはその程度の理由で先へ歩むのを止めるような方ではないですよね?」


 そのシロの問いが僕には何故か恐怖に感じた。それはシロが答えを肯定以外のことを許さない。そんな顔をしているように見えたからだ。


 「ああくっそ、駄目だ・・・」


 どうも最近物事を悪く考える癖がついた気がする。今までの僕なら何事も前向きに考えることが出来ていたのに、一体どうしたというんだ。

 ちょっと前とは変わった、のかな。それも悪い方に。


 村正が内心軽く自己嫌悪し始めた時だった。突然自分の体が急に引き倒された。訳が分からぬまま村正の体はストンと柔らかい何かに頭を収める。


 「シ、シロ?」


 それはシロの膝の中。シロの膝枕。


 「少しお疲れのようですね。」

 「そう、なのかな?結構寝たつもりだけど。」

 「体もそうですがもう少しゆとりも必要ですよ。」


 参ったこりゃ。今まで親以外でこんなことされたことが無いからな。どうすればいいのか対応に困る。

 

 「今は深く考えなくても誰も何も言ってはこないと思いますよ。」

 「だと良いけど。」

 「もし、言われたのならそれは応援程度の考えでもいいと私は思いますよ。」 

 「応援?」

 「はい、この国にはこんな言葉があります。」

 「どんな?」


 この世界のことわざか。それはちょっと気になるな。


 「他の声我が心。と言う言葉があります。」

 「意味は?」

 「誰かの言葉は自分の心の奥底に眠っている自分の本当に気持ち、と言う意味です。」

 「自分の本当の気持ち?」

 「はい。本当に自分はこの道で良いのか?そう迷ったとき誰かの助言、許可が欲しい。そう思ったとき他の誰かからその言葉があったら自分は頑張れる。そんな意味です。」


 自分に自信のない時の力か。


 「そう考えると楽なのかな・・・」

 「幾分かは。」


 シロの声はいつになく優しく村正を包み込む。これが長年生きて来た精霊の力、と言うものだろう。


 「でも、それでもやっぱり周りの目と言うのは気になるよな。」


 男子学生。それだけでも十分注目の的だ。さらに、この世界において有数の魔法使いと謳われるイブさんの推薦でこの学園に入学したことになっている。それも注目されることになる。そして今回魔術祭に出たことで余計に周りから注目されることになるだろう。


 「周りですか?」

 「うん、いずれ僕に対し羨望の眼差しを向けて来る人、嫉妬もあるかも知れない。そうなった時果たして僕はそのいずれにもたり得る人物であるだろうか?」

 「なぜ、そのように?」

 「既にそうなりかけているからさ。」


 今回イブさんのやったことで今まで不確実だったことがほぼ確信にかわった。


 「ユウキが僕に対しライバル心とは少し違う思いを持ってるってこと。」

 

 村正の発言にシロは目を丸くする。今まで村正はそのことに全く気づいていない。周りはそう思っていた。シロもその一人。だからこそシロ自身も村正にそのことを気付かせようとしていた。


 「気付いていたんですか?」

 「まさか、僕が本当に気づいていないと思ってたの?」

 「普段の言動を見てると、とてもそのようには・・・」


 見えないわな、そりゃ。


 「いつからそのようなことを?」


 シロは村正がいつから気付いていたのかとても気になるようだ。


 「本格的に気づき始めたのは、シロと出会った後かな。」

 「私と、ですか?」

 「うん、その辺りから時々ユウキが僕に向ける視線に違和感でいいのかな?そんなのを感じ始めたんだ。」

 「そして、それが一気に強くなったのがこの魔術祭の初日かな。」


 そう、ユウキが僕の傍から走り去った時のこと。その時点で大方予想は立っていた。分からないふり、と言えば聞こえはいいかも知れないが、あの場でそのことを指摘するのはまだ早いと判断した。


 「なら、どうしてお兄ちゃんは今までユウキさんに何も声を掛けなかったのですか?」

 

 シロの言うことも最もだと僕も思う。もっと早くユウキの抱く気持ちに答えて上げれればよかったのだ。その上で僕もユウキをライバルとして見ていることを伝えればよかった。だが、そうできない理由もあった。


 「本当に僕が、ユウキの見ている存在になれているのか自身が無かった。」

 「・・・」


 シロは黙って聞いている。


 「まだまだ、魔法使いとしては駆け出しの身だ。ひょっとしたら明日にはユウキの方が僕より遥かにすごい存在になるかもしれない。そう思った。」

 「確かにそうかもしれません。ですがそのようなこと関係ないのではないでしょうか?」

 「関係ない?」


 村正はシロの膝から体をヒョイと起こすと正座をしてシロと向き合う。

 

 「ユウキさんがそう思うのはユウキさんがお兄ちゃんを認めている、と言うことです。なら、お兄ちゃんが自分のことをどう思っているかなんて関係ないのではないでしょうか?」

 「関係ない、か。」

 

 確かにシロの言うことも正しいだろう。その人が自分のことをどのように思うかなんて自分に分かりはしない。そう思われたならそうなんだと自分に言い聞かせればいいだけのこと。


 「お兄ちゃんはユウキさんにとって遠くに行ってしまいそうな人物で、でも決して遠くには行かせたくない。そんな方なのではないでしょうか?」

 「だとしたら僕はどうすればいいのかな?」

 「なら、それにふさわしい人間になるよう努力するのみではないでしょうか?」


 ふさわしようにか。ユウキが今の僕に対してそう感じているのなら僕は今のままで良いてことなのかな。それとも、もっと別な何かにならなくてはならないのだろうか?

 あまり深く考えても答えが出ないのは分かっている。


 「別にユウキさんの望む人物である必要はないんですよ?」


 シロは立ち上がると村正に振り返り、

 

 「ただ、もっと自分に自信を持つ。それだけで十分でなんですよ。きっと。」


 最後のこの言葉は何故か僕の心の奥底まで響いた様な気がした。


 「そんなに気楽でいいのかな?」

 「気楽でいいんですよ。大きく考えて色々抱え込んでしまうよろよっぽどいいですよ。」


 気楽。捉え方によってマイナスのイメージもある。だが、プラスになることもある。だから僕はも少し自分にゆとりを持とうと考えた。ひょっとしたらこの僅かな期間に大きなことが何度か続いたから余計、変に考えるようになったのかも知れない。

 

 村正はもっと自分に余裕を持たせる決意をした。そして村正はそのことを先ほどからこっそり聞き耳を立てる人物にも告げる。

 

 「だかさユウキ、これからも僕は君が思うような人物でいられるかは分からないけど、それでもいいのかな?」


 村正はユウキにそう、呼びかける。僅かに間をあけてからユウキがひょっこり顔をのぞかせる。


 「なんだ、ばれちゃってたのね。」


 ペロと舌を出すユウキ。村正にばれていないと思っていたらしいが、ここは村正の方が1枚上だった。

 

 「ばれてるよ、だって音がしなくなったもん。」

 「あちゃ、今度はお湯だしっぱにしとくか。」

 「持ったないからやめようね。」


 ここは突っ込むかマジレスするかで迷ったが、マジレスしといた。


 「マサ君も人が悪いわね。ずっと気付いていたなんて。」

 「ユウキの向ける視線、前にも受けたことがあったからすぐに察しがついたんだよ。」

 「へー、いつ?」

 「もう、ずっと前だよ。その時は単に僕の身体能力に向けてだったけど。」

  

 もう、何年も前の話だ。県の体力テストで僕が1位を記録した時のこと。その時はそこまで目立ってなかったし、運動が得意そうに見えなかったから、余計に意識された。


 「うん、その人の気持ちなんとなくわかる気がするわ。」

 

 ええ、この世界のユウキから見てもそうなのかな?異世界の住人は皆身体能力がけた外れている言うのが僕の認識だが、それは決してではないんだな。


 「だからごめん。」 

 

 急に謝り始める村正に困惑するユウキ。


 「ユウキが僕に対して思ってること気付いていながら無視して。」

 「別にいいわよ。マサ君の考えも今聞いてわかったし。」

 「ユウキが僕の考えがわかるようになったって時はかなり焦ったけど。」

 「そう言えばマサ君がそんなこと考えてるって一回も伝わってこなかったわね。何でかしら?」


 そこはユウキも不思議なんだな。いまだにどのような条件で発動するのか分からないユウキの能力。今わかってるのは、僕がくだらないことを考えている時ってこと。結構これは困る。


 「そうね、マサ君が下らなこと考えてるのがわかった時は私も反応に困るし。」


 ほら、こういうことだよ。何でこういうのは伝わっちゃうかな?意識の問題?


 「それよりそろそろ行かない?」

 「行くってどこに?」 

 「後夜祭。」

 

 すっかり忘れてた。せっかくだし、行ってみるか。皆そっちに居るだろうし。シギーさんにも改めてお礼を言わなきゃ出し。


 「じゃあ、行こっか。」

 「マサ君はそのままでいいの?」

 「うん、帰ったらシャワー浴びるよ。」


 今浴びてもすぐに外出るし、それに余計な時間は使いたくないしね。

 

 村正はシロに戻るように伝え、魔術祭が終わったこともあり、シロを剣から杖にカモフラージュさせる。


 「これで、よしっと。」

 

 村正とユウキは部屋の明かりを消して部屋を出る。そして、寮の入り口を出たところにその人物はいた。


 「やっと見つけました。」

 「あれ、ミラじゃないの、どうしたの?」


 ミラを見つけたユウキが声を掛ける。


 「どうしたもこうしたもありません。私一昨日からずっと紺野さんのこと探していたんですよ。」

 「何で?」

 「何で!?忘れたんですか?」


 ミラに言われ、村正は何かあったかと記憶を遡る。そして、記憶に片隅の端の方にそれはあった。


 「あ、取材・・・」

 「忘れてたんですかー?」


 おもっきり忘れてた。そう言えばそんなこともあったな。


 「ごめん。」

 「ごめんじゃないですよ。」

 「まぁまぁ、ミラ。」


 怒るミラを宥めるユウキ。


 「後夜祭でマサ君がなにか驕るから、それで許してあげて。」

 「え、僕が?」

 

 勝手に話を進めるユウキに村正が驚くとユウキが村正の胸倉をつかむ。


 「当然でしょ。男としてそれくらいはしなさい。」

 

 さっきまでとは全く雰囲気が違う。

 

 「わかったよ。」

 「マサ君もこういってることだしさ。」

 「いや、君が言わせたんだよね?」

 「何か?」 

 「いえ、何も。」


 これ以上言い返すのは無理だな。僕はそう思った。


 「とりあえず後夜祭の会場いかない?」


 村正達3人は後夜祭が行われている競技場に向けて歩み出した。


 「スゲ・・・」


 後夜祭の会場に到着した村正が真っ先に発した言葉はそれだった。昨日はただの出店だけだった競技場付近に今は他にも多くの物が出来ている。特に野外ステージのようなものもある。一体どこから現れた。村正はじめユウキとミラも同じく驚いている。

 そこへ、


 「遅かったね。紺野君。」


 現れたのは20くらいの青年。


 「エレンさん。」

 「随分とここの雰囲気変わりましたね。」

 「驚いてくれて何よりだよ。ここの会場は今日のエキシビションのあと先生方が総出で準備したんだ。」

 

 そのことに余計に驚く。


 「さぁ、後夜祭は始まったばかりだ、今日は楽しむと良い。魔術祭の最終日はいつもこうだ!」


 エレンさんが会場に手を向けると一気にそこが華やかに見えた。




次回At55.後夜祭と忘れられた約束2


すいません、もう1話やります。

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