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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第4章 夏の魔術祭
53/165

At53.魔術祭終了!

今回分量がちょっと多いかもしれません。次回の都合上こうなってしまいました。

 この状況をなんと言えばいいのだろうか?今、僕は約3時間何もしないでただ座っている。何故そうなったのか。話は3時間前に戻る。


===============================================


 「そろそろここから出るために議論をしない?」


 ユウキのこの言葉によりついさっきまでの話が止まりこの空間が静寂に包まれる。

 

 「うん、そうだね。」

 「別に議論する必要はありませんよ?」

 「「え?」」


 議論の必要が無いというシロの言葉に拍子抜けする村正とユウキ。だが実際にシロは普通に4,5時間もすればここから出られると言っている。

 ここから出るにはシロ1人の力で十分と言うことだ。

 

 「それじゃあ、僕等は?」

 「そうですね、せっかくですから2人で適当に過ごしてください。」

 「適当にって。」

 「それではお兄ちゃん、私はこれから魔法の解除を行いますので失礼します。」


 そう言うとシロは軽くお辞儀をして教室の入り口の前に立ち何かを始めた。僕には今シロが何を行っているのか分からないのと、声を掛けても邪魔にしかならないと思いユウキと教室の奥へと引っ込んだ。

 

 「とりあえず今はシロに任せるしかないみたい。」

 「しょうがないわね。私達じゃ何にもできないし。」

 「せめて、何か役に立てればよかったんだが。」

 

 仮にも僕はシロの主なわけだし全て彼女にまかせっきりと言うにはどうも歯がゆい物がある。だが、今の僕に出来ることが無いのもまた事実。まだまだ僕は未熟なんだと強く感じた。

 今のままでは駄目だな。今回の魔術祭でもそうだったがもっと僕には学ぶことが多い。せめてシロの力抜きでも多くの魔法が使えるようにならないと話にならないな。


 今の村正はシロの助力を得ていることろが多々ある。今回の魔術祭においても、シロがいたからこその部分があったのもまた事実。特に初日のことを考えればまだまだだ。

 

 「マサ君が本当にシロちゃんの力になろうとするんなら今以上に頑張らないと駄目よ。」

 「それは分かってる。シロの方が僕より遥かにすごいんだし。」

 「そうよね、まず、生きてる年数だけ見ても破格の違いだしね。」


 魔法の錬度はどれだけ長い時間魔法を知ったかと言うのも多く関わる。イブの様になるには相当の時間が掛かっている。長い時間魔法の研究を行うと自分だけの魔法も作れるようになる。また、今まで魔法の使用に大きな力を要したのが僅かな力でも出来るよになる。この辺はユウキの詠唱短縮が当てはまる。


 「僕はどこまで出来るようになるのかな?」

 「まだ始まったばかりじゃい。なに言ってんのよ!」


 バシっとユウキは村正の背中を叩く。村正は「いてて」と背中をさすっている。だが、村正もユウキの言ってることは分からなくもない。彼はまだ、この世界で魔法の勉強を始めたばかり。これから先多くの可能性がある物だ。その無数に用意されている可能性のどこに行くかは村正次第だ。

 シロやイブは以前村正はこの世界で有数の魔法使いになると言っていた。それは比喩なのかそれとも本当にそう感じて言っているのか今の村正には判断できない。ちょっと前の村正なら恐らくそれを否定することはなかっただろう。

 

 「まだ、僕の周りにはすごい人で溢れかえっている。」

 「例えば?」


 先生たちを除いたとしても、エレンさんに、ケルトさんを始めとする多くの先輩たちに、クラスのみんなだってそうだ。クラスのみんなは何故か僕に大きな信頼を寄せている。何故そうなったのかは今でも分からない。僕が聞いても皆、「なんとなく」としか答えてくれない。

 リリィは普段はあんなんだけど実際は誰よりも周りのことを見ているし、何より心配性だ。それが彼女の一番の長所だと僕は思う。普段は余計なことを言うことが多いけど、でも必要以上に余計なことは言わない。

 イルミアは僕よりも圧倒的に魔法に関する知識や実力を上回っている。当初はあまり口を利く回数が少なかったが今では普通に話せるようになった。でも、今でも初対面の人相手ではあの時のようになっているが。

 そして、ユウキは僕にとって特別な存在かも知れない。この世界に来てから最も多く話をしている人物のような気がする。この学園に入学してからずっと一緒にいることも多い。何より今の僕にとって一番のライバルと言っても良い。ユウキは僕には出来ないようなことが出来る。いつかは僕もできるようにならなくては思っているが今はまだだ。

 僕が言うのもなんだが、ユウキの魔法のセンスはこの1年生の中では群を抜いてる気がする。それは昨日直接戦った僕だからわかることなのかも知れない。


 「いろんな人が僕の周りにはいるってこと。」

 「確かに、マサ君の周りには変な人がいるけど。」

 「それってあの人のこと?」


===============================================


 「へっくし・・・風邪かしら?」


 イブはハンカチで鼻をかんで書類作業を進めている。村正達の観察をいまはしていない。


===============================================


 「ユウキはどうなの?この先の目標とかあるの?」

 「目標か・・・」


 ユウキは足を抱えて俯く。


 「大雑把だけど人の助けになりたい、かな。」

 「人の助け?」

 「うん、私は今後どうするって言うのはまだ全然ないんだけど、私の魔法の相性とかを考えてもそれは言いかなって。」

 

 ユウキは顔を赤らめて村正に自分の今後の目標を語る。


 「ユウキの相性って?」

 「魔法における基礎分野は知ってる?」

 「一応。」


 聞いたことがある程度で詳しくはまだ知らないけど。


 「私は今のところ”力”と”生命”に相性があるんだって。だから、そこに属する魔法の真理を研究して何か人の助けになることがあればいいなって。」


 ユウキの言葉には期待と決心が入り混じっている。そんな風に聞こえる。まだ先のことがあやふやな村正はそんなユウキが眩しく見えた。そして何故かユウキは常に村正に先に居る。そんな気がしてならなかった。村正とて彼女のことにいちいち何か言うわけではないが、それでも彼女が何故か焦っているようにも見えたのだ。そう見えたのは村正の錯覚の可能性もないとは言えない。


 「いいなぁ~。」 

 「良いって?」

 「ユウキには、はっきりとした今後の目標があって。僕なんかただ成り行きでいるようなものだし。」

 「そう思うのならこれから決めたらいいじゃない。まだ、夏前よ?決まってる人の方が少ないと思うわよ。」


 ユウキの言うことも最もだけど、なんとなく今僕が抱えてることのことを考えるとそう悠長に構えてられないような気もするんだよな。

 それに、あの人(イブさん)が余計なことを考え出さないとも限らないし。そう思うとさっさと自分の進路?を決めた方が得だと考えた。


 「夏が終わるころには決めたいな。」

 「じゃあ、私はそのころまでに研究テーマを決める。」

 「ええ、そこまで急がなくてもいいんじゃ・・・」


 1年生の内に魔法の研究テーマを決めるというユウキに驚きを覚えながらも村正もまた自分の今後をしっかりと考えるべきだと考えたようにユウキもまた村正に負けないために考えてもことだった。村正のことを強く意識しているからこそであった。


 「早いに越したことはないからいいのよ。」

 

 笑顔のユウキはいつもより少し輝いてるように見えたのは何故だろう。


===============================================


 と言うような話を続け、お互いすることも無くなった結果、今のこの状況に至るのである。

 シロに声を掛けようにもとてもそんなことが出来る雰囲気ではない。ユウキは教室の隅で何やら魔法の実験をしてる。「シロの障害にならない?」と訊ねたら「初級魔法だから大きな問題はない」と言っていた。実際ユウキの実験は細々と行われておりシロが指摘することもなかった。

 僕は本当にやることがなく、こうして暇を持て余している。今魔法を使うとシロの集中に影響を与えてはいけないというのと、特に何かやりたいことがあるかと言われてもないだけだ。ユウキに話しかけても邪魔になるだろうしね。


 「ふぅ~。」


 シロが小さく息をつく。それは作業が思いの他難航していることを意味していた。当初、シロの考えでは4,5時間もすればこの空間を元の状態に戻せる予定だったが、イブの仕掛けが複雑でようやく半分の所まで来たという感じだ。

 シロは自分1人でこの空間を扱うのは難しいと判断すると教室の隅で実験を繰り返していたユウキを呼んだ。


 「ユウキさーん。」

 「なーに?」


 ユウキは呼ばれるとすぐに手を止めシロの下に歩いて行く。


 「すみません、思いのほか作業が難航していまして。」

 「「そうなの?」」


 村正とユウキはシロの発言に驚きと落胆を込める。落胆と言っても別にシロに対してではなく、この場からまだ出ることが叶わないことへの疲れからである。


 「それで、私を呼んだのは?」

 「私1人では厳しいので少しお手伝いしていただいてもよろしいでしょうか?」

 「え、私が?」


 ユウキは村正ではなく、自分が指名されたことに驚く。村正も何故シロがユウキを手伝いの相手に選んだのか気になる様子。


 「マサ君じゃなく?」

 「はい。お兄ちゃんよりかはユウキさんの方がこの魔法の解除には向いていますので。」

 「詳しく聞いてもいい?」

 「この魔法の主な基礎分野は力魔法になるます。力魔法はユウキさん、お兄ちゃんの両方に適性があります。あ、ユウキさん魔法の基礎分野については分かりますか?」

 「うん、知ってる。」


 ユウキもまた、イルミアから軽く説明を受けている。シロがユウキと相性の良い基礎分野を知っていたのは、これまでの試合を見たから。


 「でも、見る限りこの魔法は空間系よね?」


 ユウキの言う通り今回はユウキの得意な重力系よりは村正が得意とする空間系の形になる。普通に考えれば村正に手伝いを頼むのが妥当と言う形だ。


 「確かに今回のものは空間系ですが、これから行う作業のことを考えますと生命の魔法にも適性を持つユウキさんの方が向いてると判断したまでです。」

 「マサ君はどうなの?」

 

 ユウキに顔を向けられドキっとする村正。シロは自分が選ばれなかったことに落胆している村正を宥めながら、

 

 「お兄ちゃんには生命の魔法の適性が薄いんです。」

 「薄い?」

 「扱える範囲が狭いということを意味します。」

  

 1つの基礎分野の下に複数の魔法が付くことで成り立つ魔法。村正も生命の魔法は使えなくもない。それに魔法を使用させればその効果は普通に強い物となる。だが、それはその魔法の適性が強いとは、イコールにはならない。基礎分野に適性を持つというのはその基礎分野に属る魔法の内どのくらい多く扱えたかで決まる。

 よって、生命の魔法でも多くを使えない村正は適性が薄いという判断が下ったのだ。とはいえ、ユウキも村正と特別大差ないの言ってもいいだろう。それなのになぜ、今回シロはユウキを指名したのか?そこにもちゃんとした理由があった。

 

 「それと私とユウキさんはどうやら波長が合うみたいなので。」

 「「波長?」」


 村正とユウキの質問の声が重なる。


 「魔法を使う人にはその人独特の波長と言うものが合います。これは誰1人として同じものはありませんが似たような波長が出ることはあります。」

 「その波長、と言うのがユウキとシロとでは近いと?」

 「はい。これも偶然ですかね?私とユウキさんの波長でしたら効率的に魔法の解除が出来ると思いました。」

 「ち、因みに僕は?」


 村正は自分とシロとの波長について恐る恐る聞いた。結果は既に出ているので分かり切っていはいることだが。


 「まぁまぁ、ですね。」


 まぁまぁ・・・。それは本当のことなのか、それともシロの村正を気づかっての優しさか?真偽のほどは不明だ。


 「何とも半端な。」

 「でも、全く合わないよりはましでしょ?」


 ユウキの言う通りだと自分に言い聞かせた村正。ネガティブに感がるよりもポジティブに考えた方がその先のことも良い方向へと考えやすくなる。


 「そうだよね。」

 「そうよ。誰にだって向き不向きはあるわよ。たまたま今回は私だっただけで他のことに関したら普通にマサ君の方が良いんだし。」


 ユウキに物凄い慰められた気がするが、ここはユウキの優しさに甘えた方が良いのかな?


 「優しいな、ユウキは。」

 「な、何言ってんのよ。バカ。」


 お、ユウキって意外にツンデレ?


 「余計なこと考えるなっ!」

 「あひゃっ。」


 ユウキから一発強烈なのが飛び村正の鼻面にクリーンヒット。村正はそのまま仰向けに倒れ込む。


 「だ、大丈夫ですか、お兄ちゃん?」


 心配そうにのぞき込むシロの顔が見える。


 「平気平気。」

 「シロちゃん、マサ君は大丈夫だから早く作業やっちゃおう。」


 心配するシロとは裏腹にせっせと行動を開始するユウキ。村正はそんなユウキになんとも言い難い物を感じながらも今回はユウキとシロに全て任せるしかないのが、どうにもままらなかった。このまま自分1人何もせずにいて良いのかと。


 「じゃあ、2人とも悪いけどお願いね。」

 「はい、任せてください。」


 元気よく返事を返してくれたシロに対しユウキはそっけない感じだった。


 「それで、これから私は何を手伝えばいいの?」

 

 ユウキはシロの自分の役割を訊ねる。


 「3時間じっくり調べた結果、この空間は内部からの脱出が不可能であることが分かりました。」

 「・・・」


 つまり、シロが来なければ最悪いつまでもこの状態にある可能性があったということ。流石に永遠とまではいかないにしても、さらに数日間はこの状態だったことをユウキは想像する。すぐに悪寒が背筋を走った。ユウキは背中をぶるぶるっと震わせる。


 「じゃあ、どうするの?」

 「この空間を詳しく調べたところ、ここは元の場所に吊るされてるような形にあることが分かりました。」

 「吊るされてる?」

 「はい。」


 シロは再度黒板に向かう。

 

 「この上の部分が元居た空間。そして、この下にあるここが今私たちの居る空間になります。」

 「つまり、その間に糸のようなものがあるイメージってわけね。」

  

 ユウキはシロの解説の上手さに頭が上がらない。こうもさっきもそうだがこうも上手く色々なことを説明できる人はそういないだろう。やはり、生きて来た年数が物を言うのかな?と思うユウキであった。


 「その糸にユウキさん、あなたの意識を乗せます。」

 「意識を乗せるって何?」

 「意識を乗せるというのは文字通り意味と捉えてもらっていいですよ、お兄ちゃん。」

 「それはつまり、私が直接その糸の中に入るってことなの?」

 「概ねその通りになります。とはいえ、これは簡単なことではありませんので私が全力でサポートさせていただきます。」


 今のこの言葉にはシロのこれから行うことに対する覚悟のような、危険に関することを伺わせるようなニュアンスが含まれた。

 実際にこの魔法は危険が伴う。一つ間違えれば永遠に亜空間を彷徨うことになりかねない。


 「その糸に意識を乗せるのにユウキさんに生命の魔法”コネクト・ライド”をやっていただきます。」

 「「コネクト・ライド?」ってなに?」


 村正とユウキが首をかしげる。2人ともまだ聞いたことのない魔法となる。

 

 「コネクト・ライドとは、自分の意識を他の生命・物体その他に一時的に送り込む生命魔法の1つです。本来の使用方法は動植物の研究用として使われています。」

 「それ、ユウキがその空間をつなぐ糸のようなものに乗っても大丈夫なの?」

 

 村正のユウキの身を案ずる気持ちは大きくなる。今からやろうとしていることは恐らく危険なこと。危ないことがあるのなら出来るだけ、危険は避けて通りたい村正。


 「私が調査した限りでは問題はありません。そのためい波長の合うユウキさんを選択させていただきましたし。」

 「もし、事故でも起きたらユ、ユウキはどうなるの?」


 村正はもしものことを懸念する。万が一のことが起きてからでは取り返しがつかないかも知れない。そうなってしまっては元も子もないでは済まされない。


 「私も聞きたい。これをやるにあたってのリスクについて。」

 

 シロは最初黙ったままだった。


 「1つ大きなリスクはあります。」

 「大きなリスク・・・」


 ユウキはそれを聞いて体が膠着する。


 「余程のことが無い限り起きる事故ではないのですが・・・」

 「うん、聞きたい。」

 「サポートなしで行う時に発生してしまうことのある事故なのですが、亜空間に流されてしまったらもう2度とこの世界に戻ってこれなくなります。」

 「2度と・・・」

 

 それを聞いて村正はユウキを案ずるように目を向ける。本当は自分は行きたい。だが、今の話を聞く限り、村正が行くと余計に事故の発生する可能性を上げるようなものだと、今は言い聞かせる。


 「反対に、シロがサポートしてくれてれば事故は起きないんだよな?」

 「そこはお任せください。このわたくしシロが主に誓ってユウキさんをお守りいたします。」


 不安がる村正を安心させようと即答で返すシロ。さらに、シロが契約の時以外では初めて膝をついて村正に誓いを立てた。今までそのような行動をシロが取ったことはなかった。でも、そのおかげでシロもユウキのことをとても案じてくれているとわかった。


 「じゃあ、ユウキのこと頼むよ。」

 「はい、任されました。」

 

 「・・・なんか私親に送り出される子供みたいでなんか不満何ですけど。」

 「そんなことないよ!僕すごい心配なんだから。」

 「そう思ってくれるだけで十分なのに。」

 「でも、本当に何かあってからじゃ遅いんだし・・・」


 ユウキもユウキで無茶を平気であろうとするところがある。僕にはあまり無茶をするなと言う割には自分は危険な行動に進んで行えるのに素直に尊敬する。

 だからユウキのことはとても心配になる。

 

 「わかったわよ。マサ君んの心配、有り難く受け取っておくわ。」

 「うん、そうして。」


 村正はユウキにお礼を言ってシロと共に入り口に立つ。


 「この空間の仕掛けの支点はほぼこの地点に集中してます。」

 「じゃあ、私はここから?」

 「先ほどの話の続きになります。まずユウキさんの意識を空間の糸に乗せた後ですがユウキさんの意識が行けるのは教室の前までになります。」

 「思ったほどいけないのね・・・」

 「すみません、あくまでも移動するのは空間をつなぐ糸ですのでそこから先へは進めないんです。」

 

 シロの解説を熱心に聞き入るユウキと村正。


 「じゃあ、私はどうすればいいの?」

 「ユウキさんはあちらに到着したあとひたすら誰かを呼び続けてください。」

 「呼び続ける?」

 「それが私たちの出来る最も手っ取り早い方法です。」

 「「もっと他にないの?」」


 村正もユウキはもっとすごい方法とかと考えていたが至って普通の方法。シロだから、という思いがあった。

 シロにしてもこれが今出来る最善の手なのだ。本来のイブの条件にした2人の思いを理解しあうというのもイブの個人的な判断に委ねられている。そうなっている以上すぐに出ることが叶わない可能性の方が大きい。なら、多少なりとも可能性のある方に歩みを進めるというのが性。


 「仕方ないじゃないですか、他に方法ないんですから。」


 文句を言う2人に背伸びして言い返す。


 「そうだけど、誰も通らなかったら話にならないじゃないか。」


 今日は予定前倒しで魔術祭の最終戦の日だし、イブさん試合出るらしいし。


 「そのことだけど多分大丈夫じゃない?」

 「何でそう思うの?」

 

 何の確証があってのことなのか?ユウキは何を根拠にそう言えるのか?


 「うーん、多分だけど私たちのことを見てる人はちゃんといるってこと。」

 「なに、それ?」

 「私の勘?見たい物よ。」

 「ふーん。」


 村正は今一納得しきれないが、ユウキがそう言うのならと、納得することにした。


 「そろそろよろしいですか?」

 「「あ、はーい。」」


 シロに急かされて準備を始める村正とユウキ。

 シロがユウキに背中に両手を当てる。


 「我の力に委ねられし生命よ・求むものに繋がり・其方が導かれることを・コネクト・ライド」


 ユウキの体がスゥーっと倒れ込む。村正はそれをそっと支える。シロはユウキの様子を見て無事ユウキの意識が空間をつなぐ糸に入り今度ことを確認する。


 「それではお兄ちゃん、ユウキさんの体をお願いします。私はこれから空間の管理を行いますので。」


 僕の与えられた役割現在意識のないユウキの体を守ること。別にここでは何かが起きる心配など不要だが、万が一否億が一のことを考えてのこと。

 後はユウキの声を聴いた誰かがいてくれれば。

 だが、これにも問題はある。たとえ誰かに声が届いたとしてもこの空間を戻せる人物でなければならない。そんな人物がイブさん以外でいるかと言う話になる。ユウキは誰かに声を届けるくらいなら何とかなると言ってたが本当かな?


===============================================


 「空間の糸を通るって変な感じね。」


 ユウキはあたりが真っ白に包まれた通路のようなところも進んでいる。ただ、自分が吊るされてるところを昇っているという感覚はない。普通の道を前へ進んでいる。その方が近い感じだ。

 

 「多分あの子ならいてくれると思うけど。」


 ユウキは自分が賭けた人物が教室の付近にいることを願って先へと進む。


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 ユウキが空間の糸の中を進んでる間シロは空間魔法を用いてユウキの身の安全を確保するため空間の維持を続けている。


 「ここから向こうまではどのくらいの時間を要するの?」

 「そう長くはかかりません。むしろ誰かを探す方に時間を割いてしまうでしょう。」

 「仮にここの空間がもとに戻ったとしてユウキが空間の狭間にいる間に戻されたらユウキはどうなるの?」

 「ユウキさんには私の声が聞こえるようになってます。予め誰かに話が付いた時点でこちらに戻ってくるように伝えてますので問題はないかと。」


 こうやってきちんとしてる辺り流石だと感じる。これが精霊具なのだと。


 「ですが、お兄ちゃん本当にユウキさんのこと気にかけてますね。」

 「いや、ほら、ユウキも女の子だし。」


 何で僕は照れてるんだ。誰だろうと心配ぐらいしたっておかしくはないだろ。


 「本当にそれだけですか?」

 「本当にそれだけだよ。」


 どうもシロは僕とユウキの仲を気にしている節がある。別にユウキとはこの世界では一緒に居る機会が多いのと寮のルームメイトってだけ。ちょっと迷惑かけるのは申訳ないが。

 ただ、最近みんなが言うように僕とユウキの関係については思うことはある。よく考えればユウキにご飯作ってもらうこともあれば部屋の掃除も任せてるし。何かとお世話になってることが多い気がする。

 今度、お礼でもするか。


===============================================


 「あれが糸の上の部分かな?」


 通路の先が妙に眩しく光っているところがあった。ユウキは恐らくその場所が目的にところだと思うと一気に進む速さを進める。その光は徐々に近づいてきてユウキの体を包み込む。あまりの眩しさにユウキは目を瞑る。


 「んっ!」


 次にユウキが目を開けるとそこは自分の教室の外だった。


 「ここは・・・教室の前ね。誰かいないかな。」


 あたりを見回すが人っ子一人いやしない。それも当然である。今は魔術祭の真っ最中。今日の試合の時間にもよるだろうが、そもそもこの場所に来る必要のある人がいるかと言う話。今来るとしたらせいぜいこの元凶となったイブだけだ。


 「シロー聞こえる?」


 ユウキはシロに呼びかける。2人で会話するときのみ呼び捨てになる。


 (はい、聞こえます。)

 「やっぱり誰もいないわ。」

 (そうですよね。少しその状態で待機をお願いしてもよろしいですか?)

 「はいよ。任せな。」

  

 ユウキは壁に凭れかかるようにして床に座る。


 本当に誰もいないのかな?


 「誰かいませんかーーーー?」


 ユウキの声が誰もいない静かな後者に木霊する。

 ユウキの声に誰も答える物は現れない。そう思った時である。


 「誰かいるんですか?」


 聞こえて来たのは自信が無さげ。だけどよく聞きなれた優しい声の持ち主。


 「イルミア?」

 「だ、誰ですか?」


 ユウキの声を聴いてイルミアはゆっくりと教室までやってくる。


 「誰かいるんですか?」

 「うん、私、ユウキが居る?」

 「え、ユウキ?ど、どこ?」


 イルミアはユウキを探してあたりを見回す。


 「ああ、ごめん今はちょっと私の姿見えないんだ。」

 「見えない?どういうことなの?」


 ユウキはイルミアに今の自分の置かれている状況を話す。今、自分を含む村正とシロがイブによって別空間に隔離されていること。そして、中からは外へ出ることが不可能と言うこと。


 「じゃあ、イブ先生呼ぶ?」

 「いや、それじゃ今度はイルミアまでもがこっちに連れてこられかねないから別の人がいい。」

 「別の人・・・」


 ユウキとイルミアで誰か力になりそうな人を考える。そして2人が思い浮かべた人物。


 「「シギー学長!!」」


 最もイブの天敵になり得る人物、それは娘のシギーに頼むのが確実と判断するユウキとイルミア。


 「じゃあ、私呼んでこようか?」

 「うん、お願い。ああ、でも・・・」

 「どうしたの?」

 「この時間、いるのかな?」

 「うーん、行ってみないと分からないけど、きっといると思うよ?今は大事な時期だし。」


 魔術祭の期間中だから学長室に居ると判断するイルミアの意見を汲むユウキ。


 「ごめんね、お願いするわね。」

 「気にしないでいいよ。昨日から姿が見えなくて私も探してたから。」

 「私、もう戻っちゃうけどいいかな?」

 「戻る?」

 「うん、誰か助けが来たら戻らなくちゃいけないの。」

 「分かったよ。私が責任もって連れて来るから。」


 そう言うとイルミアは走ってその場を後にする。それを見届けたユウキはシロに結果を伝える。


 「今イルミアがシギー学長に助けを求めに行ってくれたわ。」

 (分かりました。ありがとうございました。気を付けて戻って来て下さいね。)

 「はーい。」


===============================================

 

 「どうやら助けが見つかったみたいです。」

 「本当?よかった。で、誰?」

 「学長らしいです。」


 なるほど、あの人なら間違いなく安心だ。


 「それで、ユウキは?」

 「今、こちらに戻って来ます。お兄ちゃん、ユウキさんの体をこちらに。」

 「え、ああ、はい。」


 村正はシロに言われるがままにユウキの体を教室の入り口のドアの所にそっと寄りかからせる。


 「これで、ユウキさんがこちらに戻ってくる準備も整いました。後はユウキさんが戻ってくるのを待つだけです。」

 

 無事に終わってホットした村正はユウキの横に腰を下ろした。

 ほどなくしてユウキの意識が戻って来た。


 「ん、んん・・・」

 「ユウキ?」


 ユウキがそっと目を開ける。村正はユウキに語りかける。


 「マサ君?」

 「うん、お帰り。」

 「ただいま。」


 特に何の変哲もない会話を交わしたのはこれが一番体に異常がないか確かめるのにいいと思ったから。これで返事がかみ合わなあったらどうしようかと内心ひやひやしていた。


 「お疲れ様でした、ユウキさん。」

 「うん、シロちゃんもありがとうね。」

 「いえ、私はそんな。」


 シロは一歩引き下がっているがシロもシロで結構たいへんだったはずだ。空間の維持とユウキを無事に運ぶという大きな仕事をこなしている。


 「そうだよ、シロも頑張ったじゃないか。」

 「ふふ、ありがとうございます。」

 「おわっ!?」


 褒められたシロは村正の腰にギュッと抱き着く。村正はそれに困惑するが、ユウキの目は痛かった。


 「この精霊たらしのロリコン野郎。」

 「違うでしょ。どう見ても。」


 どうも最近ユウキに僕は変な人、と言うような目で見られる時がある。全く心当たりがないとは言い難いのが悔しいがそんなに頻繁に事を起こしてるつもりはない。僕は健全です。

 

 「それにしても、よくシギーさんなんて見つけたね。」

 「いや、違うわよ。最初はイルミアが来たのよ。」

 「イルミアが?」


 はじめっからシギーさんが来た訳じゃないのか。

 

 「私が誰かいませんかーって叫んで暫くしたらイルミアが来たのよ。」

 「でも、よくイルミアが来たね。」

 「なんでも、昨日から私たちが行方不明なのが気になってたみたいよ。」

 「へー、イルミア僕らのこと心配してくれてたんだ。」


 簡単に助けが見つかったことで僕らはホッとした。後はイルミアがシギーさんを連れてきてくれればやっとここから出られる。全く、あの人には困ったもんだ。


 ほどなくして入り口が光教室の扉が開かれる。村正がそっと扉に手を掛けゆっくりと開ける。


 「開いた・・・」

 「紺野君、ユウキ、それにシロちゃんも。」


 扉を開けた村正達に声を掛けてきたのはイルミア。今回の功労者。


 「イルミア~、助かったよ~。」

 「ふえ~、ちょっとユウキ大丈夫?」

 「うん、大丈夫。」

 

 ユウキは嬉しさのあまりイルミアに盛大に抱き着く。イルミアは訳が分からず混乱していながらもそっとユウキを抱擁する。

 

 「紺野君、ごめんなさいね。」

 「あ、シギーさん。」


 イルミアの隣にはイルミアに助力を乞われてやって来たシギーがいた。シギーは申訳なさそうに村正に謝った。


 「今回のことは私からもきつく言っておくからそれで許してもらってもいい?」

 「まあ、僕は別にいいですけど。あの人の行動にも慣れてきましたし。」

 「本当にごめんね紺野君・・・」


 村正がイブの奇怪な行動に慣れ始めたことに危機感を覚え始めるシギー。このままでは村正がいつかイブの実験台にでもされるのではないか?と危惧している。


 「僕より他の2人がなんと言うかですけど・・・」

 「そうよね、2人はそこまでお母さんとの接点が無い者ものね。」

 「でも、他の人と比べれば多い方だと思いますよ?特に1年の中ではだんとつかと・・・」


 僕を始めシロは学生じゃないからここは一度除外するとしても、ユウキは僕に次いで多いだろう。1年生の中では。


 「そうね、お母さんが他の学生にいつ手を出すかと思うと毎日の苦労が増えるのよ。」

 「心中お察しします。」

 「うん、ありがとう。」


 イブさんの行動がもう少し大人しくなればシギーさんも安心できるだろうに。娘にここまで苦労掛けて、あの人は本当に何がしたいんだろう。


 「それじゃあ、私ちょっとお母さん探してくるわね。」

 「あ、はい。本当にありがとうございました。」

 「いいわよ、今度なにかお詫びでもするわ。」

 「そこまで気を使わなくても大丈夫ですよ。」

 「私、今度お茶奢ってください。」


 さらっと言いだしたぞこの人。


 「その程度でよかったらいつでもいいわよ。」

 「ありがとうございまーす。」


 ユウキはシギーさんにお茶を頼んだ。その顔はさっきまでとは打って変わって元気いっぱいだった。


 シギーが村正達の元を去ろうとした時、村正がシギーを引きとめる。


 「すみません、今日のこの後の魔術祭関連の予定とかって聞いてもいいですか?」

 「ええ、良いわよ。でも、どうして?」

 「いえ、僕等時間の間隔がかなりずれてしまって。」


 あの空間で一度寝てしまったせいで完全に時間が分からなくなった。


 「この後、お昼過ぎにお母さんとのエキシビションが行われるわ。その後の後夜祭で上位2名の表賞よ。」

 「分かりました、ありがとうございます。後夜祭の場所って。」

 「競技場の周辺よ、メインの入り口に特設ステージを建ててそこで表彰を行うわ。」

 「ありがとうございます。」


 もう、お昼前なのか。そうだよな、シロが入って来てからさらに数時間もの時間を過ごしたんだもんな。


 「後夜祭までは時間もあるし、貴方たちは部屋で一度休むと良いわ。」


 村正達はシギーに休むように勧められる。2人はその言葉に甘えることにした。


 「「そうします。」」


 2人の声が綺麗にハモル。


 「じゃあ、私は行くわね。」

 「はい、ありがとうございます。」


 村正がシギーにお礼を言うとシギーは軽く手を振って歩いて行った。横でユウキが床に座り込んでる。


 「どうする、ユウキ。すぐ戻る?」

 「うん、戻る。」


 今すぐにでも休みたい僕らは真っすぐ寮に向かって歩を進めた。どこにも目をくれずに。真っすぐに。

 部屋の扉を開け、僕らは一気にベッドに倒れ込んだ。


 「ユウキー。」

 「何よ?」

 「もし着替えるんなら早くして。もう動きたくない。」

 「私も動きたくないし後でいいわ。」

 「じゃあ、僕ここにいるよ?」

 「うん、わかっ・・・」


 最後の言葉を言い終える前にユウキは寝入ってしまった。それだけ疲れていたのだろう。昨日の試合からあの状態だ。睡眠をとったと言っても仮眠程度にしかならない。ユウキに連れられるようにして村正も眠りについた。


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 2人が眠りについているこの頃、競技場内では夏の魔術祭最後の試合となる優勝者とイブの特別エキシビションが行われた。この試合に勝ったのはやはりイブ。例え相手が誰であろうと一切手を緩めないその戦いざまはもはやあっぱれと言うしかなかった。

 とはいえ、今回の夏の魔術祭も大きな事件の無く無事に終えることが出来た。

 優勝したのは、3年6組のリリス・サミネス。今年の魔術祭では1年生の優勝も噂されたがいいところで敗退となってしまった。だが、今年は新たに加わった男子生徒を始め多くの1年生が活躍した魔術祭となった。これは次の秋の魔術祭を控える、4年5年生には大きな期待が寄せられることになった。

 こうして魔術祭の全試合が終了することになった。


 「おかあさ~ん。」


 競技場内の休憩場で休むイブにゆったりとでも声は怒ってるような声が聞こえる。


 「わ、びっくりした。何?」

 「なにじゃ、無いでしょー。紺野君達のことだけど。」

 「あ、忘れてた・・・」

 

 イブは慌てて思い出したように慌て始める。


 「忘れてたじゃないわよ!!」

 「い、いや~。」

 「今度という今度は私も本気で怒るわよ。」

 「本気って?」

 

 イブが恐る恐る聞くとイブにとっては最も厳しい言葉が言い渡された。


 「3ヶ月間給料半分!!」

 「ええええ~、せめて3割カットで。」


 懇願するイブにシギーは重ねて、


 「これ以上言うともっと下げるわよ?」

 「そ、そんなぁ~。」

 

 給料カットに嘆くイブの姿を多くの学生が目撃するのであった。


 「シギーちゃんのケチ。」

 「何か言った?」

 「いえ、何も・・・」



次回At54.後夜祭と忘れられた約束

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