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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第4章 夏の魔術祭
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At49.妹は怒らせると怖い

 村正とユウキがイブによって作り出された謎の空間に閉じ込められてから早3時間が経過した。この間、2人は外に出ることはおろか、教室から出る方法すら見つけることが出来ないでいた。さらに追い打ちを掛けるようにちょっと気を抜くと何かに体を持っていかれる。そんな感覚に襲われる。特にこの現象は村正に対して顕著に現れた。その度にユウキが村正の目を覚まさせるという繰り返しが続いている。

 一方で、村正達を閉じ込めた張本人であるイブと、その村正達の観察を一緒に見ているシロは特に変化のない2人にそろそろ飽きてきた。が、3時間が経過してようやく動きがあった。と言うより、イブの本来の仕掛けが効力を発揮しかけて来たというのが正解に近いだろう。


 「あ、お兄ちゃんたちに変な動きが。」

 「え、どれどれ?あ、本当ね。」

 

 シロとイブが2人の様子を覗き込むとさっきまで教室から出る方法をあれこれ試す村正達だったが今は2人とも背中を併せて床で休んでいる。机や椅子があるにも関わらず、床でだ。この状況こそ今回イブが画策したことの始まりであった。


 「うん、やっといい感じになって来たわね。」

 「これからどうなっていくのですか?」


 シロもこの2人の行動に興味津々である。


 「それは、この2人次第ってところね。私にもここから先はなにが起きるか検討はつかないわよ。」


 ニヒヒと笑いながら村正達のことを観察しているイブ。その様はマッド・サイエンティストならぬマッド・マジシャンと言ったところである。


 「さあ、2人とも面白い展開を期待してるわね。」


===============================================

 

 3時間みっちりとこの空間からの脱出方法を試した結果何一つ有効な手段が得られなかった2人の体は疲労を迎えていた。


 「この空間もそうだけど、この教室にある物丈夫すぎだろ・・・」

 「本当に、ね。」


 ありとあらゆる魔法を駆使して脱出を試みては見るものの一向に外へ出られる気配がしない。それどころか、この教室内に存在するものに傷一つすら与えられていない。普通なら簡単に壊れてもおかしくない机や椅子なんかも全く傷を負うどころか罅すら入っていない。

 さらに、この空間に意識が飲み込まれるような感間隔に陥ることも度々発生し余計に集中力が持っていかれる。 


 「あれからどのくらい時間が経ったのかしらね?」

 「3時間くらいじゃないかな~。」


 村正は己の体内時計の正確さにはそこそこの自信がある。だいたい誤差は3分以内に収まるほどだ。


 「そりゃ、お腹もすいて来る頃よね。」


 はあ、確かにお腹すいたー。今日こそは何があってもゆっくりと休むと決めていたのにこれだよ。こんなんじゃ、今日も休めそうにないな。


 村正が軽く現状に絶望していると、ユウキが村正に話しかける。

 

 「前から聞こうと思っていたんだけど・・・」

 「何を急に?」

 「いや、マサ君ってシロちゃんのことどう思ってるのかなって。」 

 「どうとは?」


 今一真意が伝わってこない。ユウキが村正にこのような質問を投げかけてくること自体がまず珍しい。ユウキはあまりそういうことは気にしないというか、聞いてこないものと村正は思っていた。 

 このユウキの村正に対する質問は外で観察しているシロの関心も大きく引くことになる。


 「ほら、シロちゃんがマサ君一緒になってから暫く経つじゃない?」

 「ああ、そろそろ半月かな?」

 「急に自分にとって家族以外に身近な存在が出来るってどんな感じなのかなって。ほら、名目上シロちゃんはマサ君の妹なわけだし。」


 確かにな。この世界に来てから初めて家族と呼んでいいのかは分からないけど一応相応形?みたいなのはシロが初めてだよな。ユウキは一緒にいるとはいえ、あくまで学園内でのルームメイト。家族と言うわけでもないし。

 シロね・・・。


 この村正の沈黙はシロに様々考えをもたらしている。ひょっとしたら自分のことを実は迷惑に思っているのではないか?それとも別の感情をもって接しているのか?シロは緊張して村正の返答が出るのを待っている。その横ではイブも村正の回答に興味を抱いている。


 「う~ん、ちょっと難しいかな。」

 「難しい?」 

 

 この世界では村正には家族が存在しない。だからこそ、余計にシロのことをどう思っているのかと問われてもすぐには返答が出来ない。


 「でも、一つの支えかな。」

 「支え?」 

 

 ユウキと全く同じ動作で首を傾けるシロ。

 言っては何だがこの世界では村正は孤独の身にも成り得る。特に今は学生としての立場があるからこそ孤独と言うことになることはないだろうが、この先ずっとこの世界で生きていくとなるとこの世界での人脈に乏しすぎる村正には酷なことでもある。

 村正がそのことを考えたのはシロと契約を交わした後である。シロが自分の妹となり、この世界でも自分に家族が出来た。そのことに少し浮かれていた時にふと、頭を過ったのだ。もしかしたら自分はこの世界では孤独だったのではないかと。そう感じた時、急にシロが自分の前に現れてくれたことに感謝した。勿論、シロにはことのことは内緒である。


 「僕がつらくなった時とか、壁に当たった時の支え。」

 「それは、心の拠り所みたいな?」

 「多分そうだと思う。それにシロは何にも知らない僕にいろんなことを教えてくれるし。」

 「まあ、長生きしてるからね。」


 シロは見た目は幼い少女だけど実際は1000年以上は生きている精霊具の一角を担うほどの高位な精霊だ。本来は村正が契約するのに相応しいのかすら疑問に浮かぶところである。

 シロはただ、村正がかつて自身が使えていた人に似ているからという理由で村正と契約を結んでいる。


 「でも、厳しい面もあるんだよ。」

 「厳しい面?」

 

 例えば昨日の夜なんかがいい例だ。昨日のシロはマジでスパルタだった。それでも、僕が安全にダウンするときちんと休ませてくれる。でも、その分また頑張んなきゃならなかったけど。でも、そはそれで悪くはなかった。シロの意外な大胆さも知ることが出来たし。


 「マサ君、何顔赤くしてるの?」 

 「えへ?」

 「シロちゃんが大胆だった、て何?」


 ギク!


 ユウキは村正の顔の前に回り込む。そして村正の前に座り込んだ

 村正は忘れていた。ユウキが村正の考えていることを感じ取ることが出来るということを。ちょっと前に判明したこのことは村正とユウキとイブとシロのみが知る村正にとっての極秘事項にしておきたい事柄の1つでもある。

 ユウキが村正の考えていたことの中から気になるその一点だけを村正に集中的に問う。

 

 「ねえ、マサ君昨日はシロちゃんと何かあったの?」

 「え、いや、何も、な、かった、けど・・」


 ジーット村正のことを見つめて来るユウキから目を逸らす。その村正の顔が赤くなっていることこそが昨日の夜何かあったことを示すいい証拠である。


===============================================

 

 シロはと言うと、ユウキや村正の会話が丸聞こえなのでシロは昨日のことを思いだすとボンと頭から煙を出すとカラン、と音を立てて剣の状態に戻ってしまった。


 「あらら、シロちゃんどうしたの?」 

 

 剣の状態に戻ったシロは言葉を発することは無い。だが、普段は雪のように透き通った白い刀身がわずかに赤みを帯びている。それだけでイブには十分すぎる情報が手に入った。 

 

 「これは、今後も紺野君こと揶揄いがいが出そうね。」


 イブがまたとんでもないことを考えていることを村正は夢にも思っていないだろう。

 

 「シロちゃん、早く戻ってらっしゃい。まだまだ、お楽しみは始まったばかりよ。」


 イブの呼びかけい発光する形で応答するシロだがまだ刀身の赤みは消えていない。これが元通りになれば自然に戻って来るとイブは判断した。イブはそっとシロの刀身を撫でると優しくシロに語りかける。


 「紺野君は多分シロちゃんのこと大事にしてくれるわよ。だから、ちょっとくらい、あれなことがあっても私は気にしないわよ。ほら、妹なんだし。」


 何をいいだすのかイブの話を間に受けたシロの刀身は完全に真っ赤になり、完全に別の業物とかした。

 

 「あれ?私、変なこと言ったかしら?」


===============================================


 「もしかして、シロちゃんでも襲った?」


 僕に冷ややかな目でユウキは聞いて来た。その目は完全に僕がやったことを確信しているかのようだった。こんなことを思われるのは心外だが早く自身の身の潔白を示さねば。

 

 「そんな、こと、ないだろぅ。」

 「自身無さげね。」


 仕方ないだろう。襲ってないとはいえ、シロからやって来たことだし。その時のことを思いだしたら急になんか、あれな感じになって来た。上手く言葉に言い表せないのがなんとも言えない。


 村正の声が徐々に小さくなっていくにつれその顔もゆっくりと下を向き始める。その村正の行動にユウキはますます怪しいと思い始める。

 

 「で、昨夜は何をやったのかしら?」

 「なにをって?」

 「ん、とぼけちゃって。」


 ぐいぐいと人差し指で村正の頬を突くユウキ。


 「別に何もなかったよ。」 

 「それは絶対にないでしょ。でないとこんなに顔を赤くはしないわよ。」

 

 意外と顔に出ないタイプだと自分では思ってたつもりだが、どうやら僕はこの手のことに関しては隠しきるのは不可能なようだ。うん、1つ収穫だな。そんなことに感心を置いてる場合じゃないけど。


 「いや、だから、ちょっと疲れを取ってもらっただけだよ。」 

 「疲れって、マサ君シロちゃんをそんなことに利用したの?」


 こいつは一体に何を想像してるんだよ。

  

 「一体に何を想像してる知らないけど、多分それは違う。」 

 「じゃあ、何なのよ?」


 村正の考えてることが図星だったらしい。ユウキの顔が赤くなっている。村正の表情が一気に冷める。それから冷静になった村正は赤面しながらも昨日の夜のことをそことなくユウキに話す。

  

 この時僕は包み隠さず勇気に話した。後々後悔することがあるかと問われてもそれは分からない。だが、ユウキに昨日のことを継げておくのは今後のことを考えると得策だったと思う。多分・・・


 「・・・てなことがありました。」

 「本当に?」

 

 嘘は言っていないのでこれ以上はどうにもできん。


 「じゃあ、ちょっと失礼してっと。」


 ユウキは村正の頬を両手で支えるとピトっと額をくっ付ける。村正は何事かと仰け反るがユウキは村正から離れようとしない。

 ユウキの静かな息遣いが聞こえてきて一気に顔が赤くなっていく村正。ユウキは目を閉じたまま。


 「真実を我に差せ・真我にあり・偽を語ること許さず」

 

 ユウキが何をするのかドキドキする村正。だが、何も起きなかった。どういうことかユウキに訊ねるとユウキはすんなり答えてくれた。


 「今のは嘘を見抜くときに使える魔法だよ。」

 「嘘を見抜く?」

 「そ、この魔法は相手が私に差し出した情報が嘘か真かが簡単に判明するの。」

 「それで、何でおでこ併せたの?」


 村正がなんとなく聞いたその質問にユウキは顔を赤くしながら答える。

 

 「人の考えって頭でやるもんでしょ?だから一番効果が出やすいのよ。」

 「そうなんだ。」

 「でも、」

 「でも?」

 「あんなこと出来る男の子なんてマサ君だけだからね・・・」


 ユウキが上目遣いに僕に迫って来た。なぜ彼女がこのうような行動に出たかは不明だが僕は何を思うでもなくただ、


 「は、はい。」


 こう答えるに他なかった。


 「マサ君シロちゃんと一緒になってから変わったこととかあるの?」

 「変わったことか・・・」


 変わったことか。そうだな、しいて言うならう~ん・・・


 「自由が減ったこと。」

 「自由が減った?」


 それは村正とシロとの契約内容にある。まず、村正はシロと離れられない。よってどこへ行くにしてもシロを身に付ける必要があり、安易に行動が出来なくなった。でないと、シロが何を誰に話すかわからない。

 次にシロの前、いや、シロの傍ではどんなことがあろうと嘘を吐くことが許されない。契約するときの内容は、「我に嘘をつかぬこと」だが、実際はシロ以外の人間でもその効果を発揮することがある。嘘を見抜く方法はとても簡単。村正が嘘を吐くと何かしらのアクションが起こる。時にシロが直接、時に何かが降って来るなど、様々。嘘の重さは関係ない。

 さらに、シロのことでの情報統制。シロは精霊の中でも最高位の精霊具という部類に当たる。本来は村正がホイホイと契約できるわけもない。また、男性としてはあり得ないくらいに魔法使いとしての才能を有している。そのため、村正は学園の内外を問わず注目されている。その村正が精霊具との契約を果たした、などと知らればとんでもないことになるのは確実。そのため、普段は剣の状態でシロを連れているが万が一少女の姿の時のシロと遭遇したらその時は自分の妹とすることが決まっている。

 現在、シロのことを把握しているのは学園の内外を含めると20人前後。


 「特にユウキの前ではシロは遠慮なく僕の嘘を見抜くからユウキにも嘘を付けなくなったし。」 

 「あら、私に何か隠し事でもあったの?」


 墓穴を掘った村正。すぐさま穴を埋めなおす。

 

 「いや、これからあったかも知れないじゃない。」 

 「どうだか。マサ君のことだからあちこちで女の子に手を出してるかも知れないわよ。」


 そんなことが僕に出来る度胸があるとでも?自慢じゃないが、僕はこの人生(2度目含む)で女の子の下で生きて来た人間だ。幼いころから何故か僕の周りの女の子は男勝りな子ばかりで常に良いように使われてきた。挙句の果てに中学に入ってからは若い女の先生にまで、紺野君に頼めばやってくれる、とか思い始め様々なことをやらされた。それを見た他の女子もまた僕に用事を頼んでくるとかいう負のサイクル。そのため僕からは必要以上に女子と仲良くしようとは思いませんでした。


 「んなことしたら、今頃この学園から追い出されてるよ。きっと。」

 「いやいやわかんないわよ、女子を見方に付けてるかも。」

 

 ユウキの中での僕の表かってどうなってんの?


 「私の中でのマサ君?」


 しまった、心を読まれた。


 「そうねー、あの時以降はずっと変態のイメージ?」

 「なんでだよ!」

 「だって、マサ君すぐに着替え覗くし。」

 「あれは事故だって。」

 「嘘、だってノックしないじゃん。」


 正論を言われて言い返す言葉をなくす村正。確かにユウキの言う通り入る前にノックすればいいだけのこと。事故った後の数日はきちんと行っている。だが、1週間もすれば忘れて来る。さらに、ユウキの留守も重なれば今回もいないと思いノックなしで入ることもある。

 

 「いや、ユウキ無い時もあるし。」

 「それでも、ノックしておく価値はあるでしょーよ。」

 「ほら、どうせいないんだし、面倒だし。」

 「逆にそろそろ居てもいいんじゃないとか考えてる時もあるでしょ。」

 「いや、そんなこと、無い、よ・・・。」


 要所要所で村正の図星をついて来るのが上手いユウキ。思わず村正は言葉が切れる。その様子から当たりであることを確信する。


===============================================


 「シロちゃんどうしたの?」


 イブは横で髪が逆立っているシロが目に入る。

 

 「いえ、以前お兄ちゃんが不自然にノックせずに部屋へ入ろうとしたことがあったんです。」

 「それで?」

 「その時、私は普通に忘れていたんだと思いました。」

 「違ったと。」

 「一回だけ試しに確認してみたことがあったんです。」


 村正がノックをせずに部屋に入った時にシロは村正にノックをするのを忘れたのかと聞いたことがある。その時村正はユウキはいないから、と答えてる。だが、実際はそうでなかったことが今の話を聞いてわかった。

 

 「お兄ちゃん私に嘘をつけないから本当のことを言って本来の目的を隠したんです。」

 「成程ね。」


 村正はシロの問いに「ユウキが居ないから」と答える。この答え自体には何の嘘もない。だが、その奥底に秘めている()()()()()は綺麗に隠し通した。シロにとってはその内容よりも自分に嘘をついていたことの方が罪は重い様子。


 「お兄ちゃん後でお仕置きが必要のようですね。」

 「あは・・・。」


 今までに見せたことのないくらいの勢いで怒りを露にしている。目がメラメラと燃え滾っている。村正は自信の知らぬところでシロが怒りに燃えてることは夢にも思っていないだろう。


===============================================

 

 ユウキから尋問を受けた村正。その結果ユウキに向かって誠心誠意の土下座をしている。


 「今度同じことしたら、串刺しにするわよ。」

 「は、はい。」


 このユウキの言葉が決して脅しでなおことはすぐに分かった。ユウキはやると言ったらやるタイプだ。恐らくだが次は本当にないと思っておかないと。


 村正は立ち上がりユウキと目を合わせる。その折だった突然ユウキの様子がおかしくなった。

 

 「あ、ごめんマサ君。」

 「え、どうしたの?」

 

 突然ユウキの体勢が崩れる。倒れ込む一歩手前でユウキは留まるが様子がおかしい。

 

 「ごめん、ちょっと寝る。」

 「へ?」


 力が抜けたように倒れるユウキを村正は支える。何か問題でも起きたのかとも思うが特にユウキに変な様子はないと見た村正はユウキを壁側まで運びそっと壁に凭れるように座らせる。


 「シロがいたら、すぐに目を覚ますと思うんだけどな。」


 村正はユウキが突然寝たのはさっきの魔法の影響だと考える。ユウキが使用した魔法がどの分野に属するのか不明なのと、村正自身が高度な生命の魔法を扱えないのでユウキの回復に周れない。

 静かに寝息を立てるユウキがいるため下手にこの空間からの脱出を試みれない村正。今はユウキと共に休むことにした。


 どうせ今日はここから出れそうにないし。

 

===============================================


 村正とユウキが休み始めたのを見たイブはシロに様子を見てもらえるか頼む。


 「シロちゃん、シロちゃん、ちょっと見てもらっていい?」

 「はい、何でしょう?」

 「見て。」


 イブはシロにイ今の2人の様子を見せる。そこにいはユウキと、少し離れたとこで休む村正の姿が見える。

 

 「2人とも、寝てますか?」 

 「みたいね。多分暫く、と言うか最悪明日の朝までこの状況かも知れないんだけどちょっと見ててもらえる?」

 「私がですか?」

 

 スッと立ち上がったイブを見上げるシロ。イブは頷くとシロに少しの間だけ2人の観察を頼むとその場を後する。

 イブが去った後シロは特に変化の起きない2人をじっと見ている。ここからの直接の干渉が出来ないためどうすることもできないのがシロには不満でしょうがない。


 「全く、しょうがない人ですね。でも、そこがあの人と良く似ているところですね。」


 シロは以前仕えていた主人のことを思い返す。

 それからもずっと様子を伺っているが全く2人の様子に変化はない。それから30分程してからイブが袋を手にして戻って来る。

 

 「はい、これご飯。」

 

 イブは昨日と同様に夕食の買い出しに行っていたようだ。袋をシロとの間に置いてから座り込むとシロに何か変化はあったかと聞くがたったの30分で何か起きる訳ないとシロは答える。

 

 「時間が時間ですし、2人とも試合が終わってすぐにこの状況ですから朝まで起きないかもですよ?」

 「それはそれで、面白いわね。」

 「そうですか?」


 一体何がしたいのか皆目見当もつかなシロ。この世界では有数の魔法使いであることはシロでもわかるようだ。と言うより、シロの方が魔法使いの強さとか、適正に関しては見抜くのが上手いだろう。だが、そのシロでもイブの考えや魔法使いとしての詳しいことは想像がつかない。


 「失礼ですが、」

 「何?」

 「その、イブさんは今おいく、ふぎゃ!?」

 

 イブはシロが何を聞こうとしているのかを察すると軽くデコピンをする。


 「何するんですの?」 

 「シロちゃん、世の中には聞いて良いこと、いけないことがあるのよ。」


 頑なに自身の年齢を言わないイブ。そしてイブに年齢を聞こうものなら相手が誰であれ容赦しないのがイブである。


 「そんなに嫌なんですか?聞かれるの。」

 「当たり前でしょ。いつまでも若く見られたいのよ。」

 「ですが、貴方はかなり長い時間を生きてますよね。」


 シロのなんとなく言った言葉は核心をついていた。


 「失礼ね、そんなんに長生きしてないわよ。」

 「ですが本来の人間の生命活動の長さで考えると、長い方、ですよね。」

 

 バツが悪そうば顔をするイブ。イブはどうにかこの話を終わらせ別の話題へと進まなくてはと頭を回転させる。


 「で、でも私はシロちゃんよりかは年下よ。」

 「確かにそうですね。」

 

 返事を曖昧にされたがこれ以上突っ込むのは無理と判断したシロは追及を止める。シロはただ黙々とイブの買って来たパンを食べる。

 暫くの静寂が続き特に何もすることのない2人。暇になって来た時にイブからまた会話が始まった。

 

 「ねえ、さっきメアリさんが紺野君にシロちゃんのこと聞いていたけど、逆にシロちゃんは紺野君のことどう思っているの?」

 「私ですか?」 

 「ええ、紺野君と契約してそれでどう感じているのか。」


 シロはにっこりと微笑むと、

 

 「まだ殆ど分からないことだからけです。」

 「分からないこと?」

 「はい、お兄ちゃんは不思議な人です。何を考えているのかとかです。」


 確かに村正の考えを正確に読み解くのは難しいだろう。それはただ、一緒にいる時間が短いからというような、単純なん理由ではない。


 「それに、私自身も不思議な行動を取ります。」

 「シロちゃん自身がって?」

 「お兄ちゃんに全てを話せないことです。」

 

 イブはシロの話を聞いてそれはシロだけでなく自分にも当てはまることだと感じた。よくよく思い返すと、村正に何を教えるとき必ず彼に全てを教えない。何かに辿り着くには最終的には村正自身の力でそこに辿り着くようなそうさせてる自分がいることを。

 それは恐らくその時は自分の意志で村正に全てを話していいないと感じているのだろうが、こうして冷静になって考えてみると、明らかに腑に落ちない点が出て来る。


 「それは、シロちゃんだけじゃないと、思うわ。」

 「それは、貴方もということですか?」

 

 イブは少し考えてからシロの質問に答える。

 

 「ええ、紺野君の力、なのかはこの際置いておくけど、彼に何か情報を与えようとすると、何故か話を途中で止めて、紺野君自身に答えに行かせようとする。そう言うことかな?」

 「はい、私はその時はなんとも思わないんです。ただ、後になってから、何であの時止めたんだろうって考えていて。」

 「それは今は分からないけど、きっとそれはあの子に課せられた使命、なのかもね。」

 「使命、ですか?」

 「今はまだ分からないけど、紺野君はそうやって私たちが全てを与えない代わりに自分で進む力を付ける。それはきっと紺野君にとってもプラスになると私は思うわ。」

 「そう、だと良いのですが。」

 

 シロにはまだ不安があった。こうあって常に何かを黙っている自分から村正が離れてしまうのではないかと。反対に、村正だけが肝心なことを知らずにいてしまい孤立するのではないか、彼だけが気が付いたらいなくなっているのではないかと。

 最近村正に現れた、あの闇の書のこともシロは気になって仕方ない。本来、村正のような一学生にもとに現れるような代物でないことなど、シロ自身が誰よりも理解している。シロは精霊のため闇の書を手にすることは出来ない。それは闇の書と対を成す光の書とて同じこと。今はまだ、闇の書が動きを見せないが、もし動き始めたら光の書の所在が不明である今、村正を守ることが果たして自分に出来るだろうか?


 「ほら、白ける話はお終い。」


 イブが手をパンと叩きこの話が終わる。

 それから2時間さらにこの沈黙は続く。



次回At50.こころ

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