At45.夜のお話し4
夜10時。教員たちの研究室が立ち並ぶ通路に2人の姿はあった。
コンコン!
「入れ。」
中からの返事を受けユウキとイルミアは中に入る。
「こんな時間に何の用だ?」
書類整理をしながら応対するのは1年1組担任レベッカ。今回の魔術祭においてユウキの指導役を務める。
レベッカはユウキとイルミアが入って来るのを見ると再び書類に目をやる。
「あの訓練施設を貸してください。」
レベッカはユウキの顔を見るとコーヒーを一口すする。ユウキは黙ってレベッカの返事を待つ。
「帰って寝ろ。」
レベッカユウキに言い放つと作業に戻る。ユウキはそれだけ?と言う顔をする。イルミアはただユウキの横で立ち尽くすだけである。
「それは、駄目ってことですか?」
「当然だ。貴様は明日も試合があるのだろ?なら、休んでろ。あそこを使うのは明日でも十分だろ?」
「どうしても、今試したいことがあるんです。」
「それでも、駄目だ。」
頑なにユウキに許可を出そうとしないレベッカ。それはユウキの体のことを気づかってのこと。だが、ユウキもすぐに引き下がるほど物分かりはよくない。
「お願いします。」
「駄目だ。」
「迷惑掛けませんから。」
「今かけてる。」
「うぐ・・・」
反論できない先生からの一言によりユウキは言葉を詰まらせる。だが、それでも引き下がらない。
「じゃあ、どうやったら使わせてくれますか?」
「いや、だから帰って寝ろよ。」
レベッカは手を止め、ユウキの方へと顔を向ける。ユウキははこれをチャンスととらえる。
「先生、お願いします!!」
ユウキは先生に詰め寄り机にダン、と手をつく。
「貴様なぁ・・・」
レベッカはしつこいユウキに呆れ始める。だがユウキは引き下がろうとしない。
「先生!」
「駄目だっつってんだろー!」
レベッカの怒号が夜の研究室沿いに響き渡る。イルミアはしゃがみこんで耳をふさいでいる。その一方ユウキはというと、普通に涼しい顔してレベッカと目を合わせる。
「お願いします。」
ユウキは再度レベッカに施設の許可を貰えるよう再度お願いする。
「あのなぁ・・・」
「どうしても駄目ですか?」
「駄目。」
頑なに許可を出そうとしないレベッカ。ユウキは何か理由があるのかとレベッカに問う。
「別に理由はない。ただ、だな。」
レベッカはユウキから目を逸らし窓の外に目を向ける。
「いや、あそこは私達教員がずっと監視していないと空間が持たないんだ。」
意外な弱点があることを聞かされてユウキはどうしようもないと諦めよとする。ユウキが肩を落として戻ろうとするとイルミアに待つように言われる。
「先生のそれは空間形成の権限ですか?」
!!
イルミアの言ったことがあたりだったのかあのレベッカでも表情が一気に崩れる。ユウキはイルミアの言った空間形成の権限が何のことから聞きたい、と言う顔だ。
「貴様は知っているのか?」
「ぐ、偶然、ですよ。」
「あの、空間形成の権限って何?」
話においてけぼりにされたユウキ。イルミアとレベッカの会話が何のことを話しているのかが全くをもって不明なユウキ。
「空間形成の権限って言うのは特殊空間を自身の魔力で作り出すもののことだよ。」
「自身の魔力で?」
「そう、こうやって。」
イルミアが手を前に出すと突然空間に裂け目が現れる。その奥は真っ白い世界に覆われている。内部には何もないように見える。
「「は?」」
1つは素直な驚きの声。もう1つは驚きでも何故出来るのか、というこの魔法のことを理解したものからの驚きの声だった。前者はユウキの、後者はレベッカの。
「貴様、どこでそれを?」
「えと、その、おばあちゃんに。」
「・・・」
レベッカはイルミアの返答曖昧なのを何故かスルーする。
「でだ、仮に貴様が知っていたとしてどうするという?」
「もし、先生が許可を下さるのであれば私の物でもいいかと思いまして。」
イルミアの進言に目を閉じて考え込むレベッカ。この魔法には危険が伴うという点がある。1つ事故を起こすとその空間にとらわれかねない。だからこそ、レベッカは常に周囲への安全には気を使っていたし、また安易に誰かにそのことを話そうともしなかった。今回は偶然イルミアが知っていただけのことである。
「1つ聞こう。貴様、その空間に自分で入ったことは?」
「あります。」
「・・・」
イルミアの返答を聞いたレベッカはかなり迷いながらも、
「条件がある。」
「条件?」
「ここで、やれ。」
「ここで?」
「そうだ、それが貴様に許可を出す唯一の条件だ。飲めないのなら帰って寝ろ。」
「分かりました。」
レベッカの条件を即座に承諾するイルミア。ユウキは話の詳しい内容を理解することはできなかったが、とりあえずはこれで明日に向けて特訓が出来ることになったのだど理解した。
「さぁ、ユウキ。時間はあんまりないから詳しい説明は省くね。」
「う、うん」
「今から、私の魔法で空間形成の権限を使用するね。そこで明日に向けての特訓をする。」
「わ、わかったわ。」
ユウキとイルミアは互いの顔を見合わせて頷く。さらにイルミアはレベッカの方にも向くがレベッカはシッシと手で早く行けとジェスチャーを送る。
イルミアが部屋の少し広いところに手を出すと空間がグニュ~とねじ曲がり徐々に別の空間が形勢されていく。人が入れるような大きさまで広がるとイルミアを先頭に中に入る。ユウキが入り終えると空間の裂け目が小さくなり亀裂のみが不自然に浮く形で残される。
レベッカは2人が無事に中に入るのを確認すると再び書類の整理に戻っていった。
ユウキとイルミアは周囲に何もない白い空間い入る。そしてこの空間についてイルミアから説明を受ける。
「ここは魔法の使用者の魔力で保たれてるの。」
「うん。」
「これから私もユウキの相手をするから多少は魔力を使用するの。」
「うん。」
「だから、途中で私の魔力が危なくなったら一回ここから出ることになるけど、いい?」
イルミアが恐る恐るユウキに長い時間この空間が保てないことを告げるがユウキは「構わない」と答える。今はこの時間を使えるだけでも十分だと。
「さっ、イルミア。始めよう!」
ユウキとイルミアの秘密の特訓が始まった。
===============================================
「・・・ちゃん。・・・いちゃん。」
村正は誰かに呼び起こされる形で現実へと帰還する。
んん、
「お兄ちゃん!」
はっきりと言葉が聞こえたところで村正が目を覚ます。傍ではシロが村正の体をゆすっている。村正は研究中に眠ってしまったらしく、その村正をシロが起こしている途中だった。
「え、嘘、寝てた?」
村正は自分が寝ていてことを確認すると焦り始める。
「どのくらい寝てた?」
「10分位です。」
10分か、よかった、1時間寝てたとかじゃなくて。
村正は眠気と空腹に襲われながらもしっかりしなくてはと自分の顔を叩いて目を覚ます。
「お兄ちゃん眠いですか?」
「ああ、ごめん。朝が早かったから。」
今朝は朝早くに起こされた村正。それと夕食を食べてない影響で普段なら全然起きていられる時間でも眠気に襲われる。
シロは眠そうに目をこする村正を見るとそっと村正に顔を近づける。
「お兄ちゃん、ちょっとごめんなさい。」
「え、何?」
スッと村正に顔をシロは近づけるとそっと目を閉じる。
「え、ちょ・・・」
え、ええええええ?何されてるんだ僕?
村正の唇にシロの小さな唇が重なる。村正は何が起きているのか理解できずにただシロからの口づけを受けている。
シロの口づけの最中村正は体から疲れが徐々に薄れて行くの感じる。まるでシロが自分の体から疲れだけを吸い取って行くような。
「っと。ど、どうですか?」
シロも恥ずかしかったのか顔を赤らめながらもじもじとしながら村正に伺う。村正はようやく正気を取り戻す。
「え、あ、うん、なんかすっきりした感じ。」
その言葉を聞いたシロは、ほっとした様子で安心している。
「今何をやったか聞いて良い?」
「以前私が生命の魔法を得意とすることお話ししたこと覚えてますか?」
村正は記憶の糸を辿っていくがどうにも思い出せそうにない。ここは正直に話す方が正解なのかそれともそこそこ村正に期待してるシロを裏切らないためにも軽く嘘つくか一瞬だけ迷う。
「ごめん思い出せない。」
「そうですか、残念です。」
しゅんとしてしまい地面を向いてしまうシロに村正は悪いことをしてしまったと感じる。しかし、女のお子がこうなった時どう声掛けしたらいいかなど、この世に生を受けて(2回目含む)から1度も彼女なしの村正には難易度の高い課題である。
「ごごご、ごめん。もし、よかったらまた教えてもらってもいい?」
苦し紛れにでた村正の答えはもう一度シロにお言えてもらい機嫌を直してもらおうというものだった。
「はい、良いですよ!」
お、機嫌治った?
いつもの笑顔が戻ったシロは村正にさっき自分の行った行動も含めて説明を始める。
「まず、私は生命を操る魔法を得意とします。」
「生命?」
「はい、私の魔法は主に自分を含めた人の体力回復や怪我の治癒なんかです。あとはサポートですね。」
「サポート?」
サポートが生命の魔法とどう繋がってるんだ?生命だと、魔力の強化とかかな?
村正は村正なりの解釈を進める。
「私がお兄ちゃんと出会う前にお兄ちゃんの魔法の強化を行ったのを覚えてますか?」
以前村正は魔術祭に向けてイブの地下の研究室に沸く魔物の退治を行った際にシロに間接的にではあるが魔法を強化してもらったことがある。この時シロの行ったのは魔力の強化。今でこそ魔力使い放題の村正であるがこの当時はまだ魔力回路が余りにも複雑すぎて村正でも魔力が無くなるというのに似た現象が生じていた。その後、シロとの契約を経て今の状態へと至る。
「うん、覚えてるよ。あのおかげで助かったこともあったし。」
「それはよかったです。あの時はまだお兄ちゃんのことをよくわかっていなかったので魔力の強化の形を取りました。」
「じゃあ、やっぱり魔力の強化も出来るんだ。」
シロは頷く。しかしと付け加え普通に魔力の強化が簡単にできる物ではないとシロは語る。
他人が安易に魔力の強化を行ってしまうとその人の魔力の質が変わってしまい最悪魔力が暴走してしまう。そうなってしまうと周囲へ与える影響が大きく人的な被害も出る。特に魔法使いの適性が薄い男性に影響を及ぼしてしまうと死へと繋がるとシロは語る。
「魔力強化は危険なんですよ。」
「そんなこと平気でやってたの?」
「お兄ちゃんのことは最大限気を使いました。その証拠に今も元気でしょ?」
シロがプリプリと怒りながらも村正の体に危害が及ばないようにしていたことを村正に明かす。
「気使ってくれてたんだ。ありがとう。」
「い、いえ。」
素直なお礼を受けて照れるシロ。
「それで、シロは他にどんなことが出来るんだ?」
「あとは、今みたいに疲れなんかを直接抜き取るとかですね。」
「それで、あんなことを?」
村正はさっきのことを思いだしながらシロにさっきの行動の真意を訊ねる。いきなりのことで気が動転していたが今は平常心を保っている。
とは言え村正自身あんな体験初めてだったので完全に忘れろと言われるとかなり難しい。
「口づけが一番手早いんです。」
「それは、誰がやっても同じことなのかい?」
「そ、そう言うことはありませんよ。普通に首筋に手を当てるだけでも十分ですし。」
なら、何故この子はあんな行動に出たんだ?
村正の中で徐々にシロの取った行動に疑問が沸きあがって来る。だったらシロも普通に首に手を当てるだけで良いのではないかと。
「ただ、口づけですと直接疲れを吸えるので効率は良いのです。別に私だって誰にでもあんなことしませんよ。お兄ちゃんが特別なだけで////。」
シロからの告白に村正もどうしたらよいのか分からなくなる。シロはあの行動は村正にしか行わないと知りシロに感謝するべきか、普通に喜んでいいのやら。
「そ、そうなんだ。」
「はい・・・。」
2人の間に妙な空気が漂う。静寂が空間を包み込む。
「全く、人の部屋で何やってるのよ?」
村正とシロが勢いよく振り返るとそこには何やら袋を手にしたイブの姿があった。先ほど少し出ると言っていてそこから戻ってきたところの様子。
イブは帰って来ると村正とシロが何やらあった様子の2人を見て呆れあえる。
「人がいなくなったとを良いことにまさか紺野君シロちゃんに何かしてたんじゃないでしょうね?」
「んなわけないでしょ!」
何でこの人はすぐにそう言う発想に飛ぶかな。大体僕がシロに何かしてもシロは抵抗するだろうしまず・・・僕にそんな度胸ないよ。
「でも、シロちゃんはなにかあったような顔してるけど?」
イブは村正がシロに何かしたと言うが実際は反対でシロが村正にした形になる。だがイブのこういう時だけ働く勘の強さでシロが端で固まっていた。
「ああ、まあ、何もなかったとは言いませんけど・・・」
「このロリコン。」
「なにをーー。」
イブにロリコン扱いされて怒る村正をイブは笑いながら見ている。見た目が幼いだけで単純に年齢だけで見るならシロの方が圧倒的に上。だが、シロの態度や動作を見ると村正より幼く見える。
「イブさんいつの間に戻ってたんですか?」
「今さっきよ。今さっき。」
イブの言う今さっきは一体いつのことなのやら。村正はあの場面を見られていないことを心の底から祈る。でないと、今度は言い逃れができない様になってしまう。特にイブに知られるとどこまで話が広げらるかわかったもんではない。
「イブさん、それなんですか?」
「これ?」
村正はイブが手にしている袋のことを聞く。イブが手にしているのは紙袋。どこかに買い物か、或いは誰かから物を受け取ったのか。こんな時間に物を受け渡す人物がいるのか村正は気になった。
「これは、君らへの差し入れ。」
「差し入れ?」
イブは紙袋を机の上に置くと中からパンを取る出す。そのパンはまるで出来立てのようにホカホカしている。
「これ、どこで?」
「秘密。出何処は教えないわよ?」
出何処不明の発言にこのパンが安全な物なのか不安になった村正はシロ安全かどうか確かめてもらう。イブは「失礼ね、何も入ってないわよ」と言い張るが村正の警戒心は解けなかった。
「特に問題はなさそうです。」
「よかった。」
「当然でしょ。私がなにか仕込んで何の特になるのよ?」
それもそうだな。いや、もしかしたら何かするかも知れない。この人に隙を与えると何しでかすかわかったもんじゃない。
「それで、どこまで研究進んだの?」
イブが村正に進捗状況を聞く。
「今ユウキに研究が始まったところです。」
「あれ、意外と進んでないのね。」
「イブさんが戻って来るのが早いんですよ。」
実際イブが出て行ってから戻ってくるまで大体15分程度。そのわずかな時間で村正達に差し入れを持ってくるあたりイブもなんだかんだで村正のことは気にかけている。
「じゃあ、紺野君の考えるメアリさんの特徴って?」
「ユウキの脅威は中級魔法の詠唱短縮ですね。」
ユウキは僕にもできない詠唱短縮を行える数少ない人物。僕も試したことあるが全くできなかった。いや、正確には1個だけ出来る。
今は高速詠唱に力を注ぐことにしている。だが、それでも詠唱の短縮には及ばない。高速詠唱をやろうとすると舌を噛んでしまい、上手く魔法を発動できない。
「そうね、確かに詠唱短縮は彼女にとって大きな武器になるわね。」
「そうですね。ユウキもあれで中々手強いですし。」
ユウキが村正のことを強く意識しているように村正もまたユウキのことは特別警戒している。それはお互い一緒にいる時間が長いからなのかも知れない。ユウキが村正に劣っている点を強く意識しているように村正もまたユウキの出来て自分に出来ないとこを強く意識している。
「そんな彼女に紺野君はどう立ち向かうの?」
「僕はいつも通りです。余計な考えは持たず僕らしいことをしていくだけです。」
村正はユウキと対戦する際に取る行動の方針は既に決まっていた。イブはそのことに驚くが村正は特別驚くようなことではないと語る。
「ユウキと戦う時は絶対に出し惜しみなんてしないって決めてますから。」
「あ、そうなの。」
「ええ、ですからユウキのことは一番研究しますよ。誰よりもユウキのことを見てるからこそ細かいところまで気付けると思いますし。」
「似てるわね。」
「何がです?」
イブは「言わなくても分かるでしょ?」と村正に告げる。村正もイブの言いたいことはおおよそ理解している。だからこそあえて聞くようなことはしない。彼女もきっと自分に勝つために努力していると信じているから。
村正はイブの差し入れを食べるとシロとまた机に向かう。そして今回の自分の一番勝ちたい相手と言っても過言ではないユウキに勝つための研究を再開する。
イブは村正とシロのことを見守っている。ただひたすらモニターとにらめっこを繰り返しシロと議論交わして行く村正。いつになくやる気の村正にシロも力が入る。シロも2人のことが好きだからこそ、より熱心になる。
「シロならどう対応する、ユウキの魔法。」
「それは私が答えても意味がないかと。私とお兄ちゃんの魔法では差が大きすぎます。」
「それはシロが精霊術を使うからってこと?」
「そう考えてもらっていいと思います。」
要は自分で考えてってことなんだろうな。ま、シロの対処法を知ったとしてもすぐにその方法を真似できる可能性はぐんと低いし、しょうがないか。
「あと、ユウキ最近地面系の魔法も多いんだよね。」
「地面系ですか?」
「ほら、今日の試合みたいにあんな感じに。」
今日の試合ではユウキは火山をフィールド内に作り出しその火山を使用して試合を進めた。その扱いも実に手慣れたものだって。確実に数日でモノにしたとは村正も考えていない。恐らくレベッカが直接伝授したものだと村正は推測する。その根拠はレベッカがやけに火山の性質に詳しかったこと。
この世界における火山の原理が元の世界と同じだったことはユウキの対策に役立ちそうだけど。意外だったのはレベッカ先生が火山の仕組みに詳しかったことだよな。一体どこでそんな知識手に入れたのやら。そう言えば火山があるんならこの世界、地震とかもあるのかな?あるんなら気を付けたいところだ。この世界には流石に警報装置のようなものはないだろうし。
「確かにそうですね。中級魔法の中でも特別複雑な物ですね。」
「複雑?」
「あの魔法は主に3つの基礎分野の魔法が混ざってるので。」
「3つの基礎分野?」
「はい、生命・力・熱の3分野です。」
初めて聞く単語に村正は頭を抱える。まだ授業でも聞いたことのない言葉だ。
「そもそも分野って何?」
村正の質問にシロはイブの方に顔を向ける。シロの視線と前後の会話を聞いていたことからここはイブが直接解説する。
「紺野君はまだ授業では習わなかったかな?」
「まだ習ってないと思います。」
「魔法にはいくつかの基礎分野に分かれていて多くの魔法はその中に属する形。」
この世界における基礎分野は次の通り。炎や暑さ・氷に触れて起こす霜焼けなどを引き起こす熱分野。重力や風による移動・飛行魔法や空間を操る力分野。意外にも水系統の魔法もこの力に属す。光や音に波・視覚や聴覚に作用を及ぼす波の分野。回復や治療・植物の成長・大地の形成などを操る生命分野。
「基本的にはこの基礎分野に属する魔法を使っていく形になるのよ。」
「じゃあ、その分野を複数使うと複合魔法になるんですか?」
「確かにそう思うのも自然ね。だけど残念。そうじゃないんだな~これが。」
イブが村正がこの考えに達したことを嬉しそうに笑う。どうやら複合魔法とはならないようだ。
「違うんですか?」
「ちょっと考えるとわかるんじゃないかな?」
「ちょっとですか?」
もったいぶらずに教えてくれたらいいのに。
「紺野君がよく使う初級魔法、あるでしょ。」
「ああ、”イン・フィール”ですか?」
「そ、それをいまの基礎分野に当てはめるとどうなる?」
村正は頭に中で”イン・フィール”を思い浮かべる。イン・フィールは火球を飛ばして攻撃を行う魔法。その魔法に掛かる魔法の分野は単純に考えると、熱と飛行。そう、2つの基礎分野に掛かっている。
「あ、2つ使ってる。」
「そう、だから何も複数の分野に掛かってるからと言ってそれがイコール複合魔法とはならないのよ。」
さらにイブは続けて、
「複合魔法の定義、覚えてる。」
「えっと、複数の魔法を同時に制御して1つの魔法にする。」
「その通り。だから複合魔法は上手く行けば1つの基礎分野で完成もするのよ。」
イブの解説を聞いて大きく首を立てに振る村正。複合魔法とは、最終的に複数の魔法をかけ合わせて1つの魔法として完成して行く。ややこしいのが、複数の魔法を掛け合わさず、そのまま単一の魔法として操る時は複合魔法とは呼ばない。例えば、防御魔法を使用しながら何か攻撃魔法を使用したとしても、複合魔法にはならない。
他にも、ユウキが試合で作った火山。あれも3つの分野にまたがる魔法ではあるが、かみ砕いていくと複数の魔法を連結した結果になるので、複合魔法ではない。
まとめると、魔法を連結したり、それぞれを単一で扱うのは複合魔法にならない。幾つかの魔法を混ぜ合わせて1つの魔法とすることで成立するのだ。
「この基礎分野ってどう関係してくるんですか?」
「この基礎分野は2年生以上になると大きく関係してくるわよ。」
「2年生以上?」
「ほら、2年生になると自分の将来のために進むコースを決めるじゃない。その時自分が研究したい魔法を決めるのよ。そのヒントにこの基礎分野はいい手掛かりになるのよ。」
どんな魔法を研究したらよいのか迷ったらまずは基礎分野から入る。その基礎分野に興味を持ったらその先にある複数に枝分かれした魔法へと足を進めていく。それが2年生以上に求められる学生としての在り方。
「例えば自分のよく使う魔法が特定の基礎分野に多く属していればその基礎分野の魔法の研究をする学生もいるわよ。」
「成程、因みに僕ってどんな感じですか?」
「紺野君の場合わね、広すぎ。」
「え?」
「広すぎて今はなんとも言えないわね。」
村正に使用する魔法は単純な物も複雑な物も良くも悪くも幅が広いため特定の基礎分野に属さない形になっている。
「そうか、安易に広げることもいいわけではないんですね。」
村正は自分がより多くの魔法を使おうとした結果自分の使う魔法の基礎分野が広がりすぎたことを後悔する。だが、イブはそれを別の考えでとらえればいいという。
「視野が広いとそれだけ視野の狭い人に勝ちやすい。そう考えれば良いのよ。」
「視野の狭い人って言うのは?」
「それこそ、既に基礎分野が決まっているような人よ。」
基礎分野が既に決まっている人物はその分野に属する魔法を使いがちになりやすい。その反面弱点も多く、魔法が相手に打ち消される可能性も十分に秘めているという欠点もある。だからこそ広い視野を持てる村正にも有利に試合を運べることもあるとイブは語る。
「1年生の時はそこまで深刻に考えない方が吉よ。今からそんなことで悩んでいたらこの先すぐに潰れちゃいかねないわよ。」
「そうですか?」
「そうよ、だから今は単純でいいのよ。ありのままの紺野君で。その方が君らしいんじゃない?」
イブに言われ村正は自分らしさってなんだ?と思う。今までそう言うことを全く気にしてこなかった村正なだけにその言葉は村正にずっとついて回る厄介な物と化す。
「そんな話してるより、明日のための研究、しなくていいの?」
「「あ・・・」」
村正とシロは慌てて作業を再開した。
こうして2日目の夜も徐々に更けていく。
At46.迎えた3日目
いよいよ3日目の朝がやって来る。




