At21.精霊具
「初めまして、紺野村正さん。待ってましたよ。」
「えっと、君は?」
目の前に立っている白い髪の少女に僕の名前を言われた。この子は一体どこで僕のことを。
「私は、先ほどあなたが引き抜いた剣ですよ。」
ニコッと微笑むその少女は、とても幼い容姿をしている。見た目は小学生くらいだろうか?纏っている服まで白く、どこまでも雪を思わせる。
「剣?え、でも君、」
目の前も状況が理解できないでいると、エレンさんが、
「君は、精霊、なのかな?」
「まぁ、そんな感じですね。私は精霊です。私は、普段はこのように人の姿になったり、剣になったりしていますが。」
人になったり、剣になったり?
「驚いたわね、すごく高位な精霊なのね。」
「高位な精霊って何ですか?」
「高位な精霊っていうのはね、この子みたいに人間の姿や動物の姿をして意思を持った精霊の事よ。」
確かに普通の精霊って聞くと、こうフワフワしてそうだもんあ。でも、最近はこういう人間みたいな精霊=高位っていう感じがあまりしないような気がしてたからな。
「私も、一応精霊とはパートナーなんだよ。」
「エレンさんも?」
「ああ、おいで、シルキー。」
エレンさんの呼びかけに応じて1つの小さな精霊が現れた。
「この子が僕の契約精霊、シルキーだよ。」
エレンさんの精霊、シルキーは少女の姿をした精霊の周りを飛んでいる。
何か気になることでもあるのだろうか?
「シルキー?どうしたんだい?」
「ふふ、とてもいい子なんですね。この子はとても礼儀正しいですね。」
「そう、なのですか?申し訳ない、よく精霊の世界のことはあまりわからなくて。」
「仕方、無いですよ。私のような存在には滅多に会えませんから。」
そういえば、この子の名前まだ聞いてないな。
「ねえ、君の名前聞いてもいい?」
「そういえばまだ名乗っておりませんでしたね。」
その精霊の少女はくるりと一回りした。そして、ふわっとなったスカートの裾を持って一礼する。
「私は、精霊具が一角、牡羊の剣のシロです。」
精霊具って何だろう?
「精霊具とは、世界に13個存在すると言われる、意思を持った精霊の宿る13の道具のことだよ。」
「意思を持った精霊限定ですか?」
「そう、僕の剣にもシルキーが宿ってるがそれは精霊具とは言わないんだ。」
「そうなんですか。」
精霊具、初めて聞いた単語だ。どんなものだろう?
「でも、彼女は最初から剣でしたよ?」
「私は、元々あったこの剣に宿ってそれが長い年月をかけて、この剣を自分と一体化したのです。」
長い年月ってどのくらいだろう?見た目は普通の女の子だけど・・・
「君って、今いくつなの?」
「え、あ、あ、ああっと・・・」
「この馬鹿ッ!!」
イブさんの持ってる本の角が僕の頭に思いっきり当たった。
「いってー。もー何するんですか?」
「全く、君は何でそうすぐに女の子の年齢聞きたくなるの?」
「はい、すみません。」
今度からはそう簡単に年齢は聞かないようにしよ。
「シロはずっと1人でここにいたの?」
「はい、私はずっとここにいましたよ。最近は上の方が時々騒がしくて、いつここに人が来るのか楽しみにしていました。」
「楽しみ?」
「はい、もうずっと前にこうなって人なんて来なくなっちゃったから。」
ずっと1人・・・きっと相当長い時間を過ごしたんだろうな。
「寂しくはなかったの?」
「う~ん、・・・」
シロは顎に右手の人差し指を当てながら
「まあ、確かにこの前まではそうでした。」
「この前?」
「はい、この前本当に久しぶりに誰かが来てくれて早くここまで来てもらえないかなって楽しみに待ってたんです。」
ああ、ちょうど僕の修行が始まったころか。確かに上の階層でドンパチやってたしな。でも、上でやってたことここまで聞こえなくない?
「紺野村正さん。」
「はい、私はあなたに会えるの、すごく楽しみにしていたんですよ。」
「え、僕に?」
「はい、私はあなたがここに来た2回ともずっと見ていたんですよ。」
「見ていた?」
「あなたがここで戦ってるのを見ていて私、すごく楽しくて、時々、ここから手を出してたりしたんでよけど、気づきました?」
時々ってことは、
「じゃあ、あの声の正体はシロ?」
「はい、私です。」
なんてこったい。まさかのとこらかの援護射撃だった。
「でも、ここからどうやって?」
「別に私みたいな精霊になるとできますよ。他の12人の精霊だっていろんな方がいますし。とはいっても私はここがこうなって以来1度も他の精霊とは会ってないので皆さん今はどこで何をしているのかわかりませんが。」
他の精霊。あってみたいな。
「他の精霊ってどんなのがいるの?」
「私みたいに人型の精霊も入れば、動物の形をした精霊もいますよ。」
「僕は、人型の方が親近感わくな。」
ほら、妖精とかも、人型をしているしなんとなくそんなイメージないかな?それとも僕の勝手な感覚かな。動物型っと言っても獣人みたいな感じかな。
「それはよかったっです。」
「ははは、そうだね。」
ここでイブさんが今まで気になってたことをいくつかシロに質問した。
「ねぇ、シロちゃん。いくつか聞きたいことがあるんだけどいい?」
「はい、いいですよ。」
「この屋敷、色々見て回ったんだけど、すんごい綺麗なんだけど、この屋敷シロちゃんが掃除してるの?」
「はい、私が時々この姿になって屋敷を一気に掃除してますよ?」
「一気にって?どのくらい?」
僕が聞く。
「大体、3日に1回ですかね。」
結構まめに掃除してるんだな。
「他にもお庭のお手入れとか、動物さんのお世話とかもあるので、今思えばかなり充実した生活してますね、私。」
「じゃあ、いつ剣の状態になってるの?」
「さっき、久しぶりに剣の状態になりました。」
さっき?
「え?君はさっき剣の状態になったの?」
「はい、多分来るかなって思ったので、剣の状態でスタンバイしてました。」
すたんばいって。
「いい感じに、刺さってたでしょ?周囲の雰囲気と言い、光の当たり具合なんかもバッチしでしたでしょ?」
ぐいぐいと僕に迫りながら感想を聞いてくるシロ。
「なんか、今の話聞きたくなかった。その、ついさっき剣になったてとこ。聞かなきゃ君の価値相当高かったのに。」
「え~、ひど~い。」
ひど~いって、自分でそんなことを言っちゃったんだからしょうがないじゃん。
「まだ、私聞きたいことあるんだけどいいかしら?」
そういえばイブさん、いくつかあるって言ってたな。
「あ、ご、ごめんなさい。どうぞ。」
「この屋敷を見る限り、かなり高度な技術があるようね。」
「と言いますと?」
「この屋敷には魔法の力を一切感じないの。それなのに、今の地上と同じ造りの建物だわ。とてもじゃないけど信じられないの。」
「確かにここのは魔法は使われていません。ですが、その代わりに私の力が働いています。ですので、魔法を使ってないように見えるのではないでしょうか?」
「シロちゃんの力?」
「はい、私の前の契約者はあまり魔法に頼ることを良しとはしない方でしたので。」
魔法に頼らない。今の魔法の世界ではかなり大胆な発想を持っていたんだな。
「ですが、なんだかんだ言っても、魔法の力は必要になるのではなうでしょうか?」
エレンさんが、尋ねる。エレンさんがシロに敬語なのは、自分が精霊と関わりがあるからなのだろう。
「ええ、確かに必要でした。もちろん、ここも魔法の研究をしていなかったわけではないんですよ。ただ、」
「ただ?」
「研究する内容に他国と大きな差があったのです。」
「大きな差というのは?」
今度はイブさんのターンだ。
「当時、私たちが研究していたのは主に、人に便利な物の研究でした。ただし、人がやるべきことを奪うことのないような程度ですが。」
「となると、1番の研究分野は医療面かしら?」
「そうですね、そうねります。」
イブさんの質問にシロが答えて行く。
「ここっていうのは?」
僕が、聞きたかったことも聞いてくれたる。シロの前の契約者のこととか。
「それは、この国の名前の・・・あれ、えーっと、何だっけ?」
ええええ・・・。覚えてないんかい!!
「覚えてないの?」
「はい、何せ1000年以上前のことですので。」
1000年!?
「シ、シロ君は1000年もの間ここにいたのかい?」
「へ、そう、ですけど。」
「見た目に合わず、すごい長生きなんだね。」
「紺野君、そういうことは思っても口にしないの。失礼でしょ。」
シロの方を見ると、シロが赤い顔をしてうつむいている。また、余計なことを言ってしまった。ごめんね、シロ。
「はは、シロ君の前の契約者は、この家の主人だったんだよね?」
「はい、そうです。」
エレンさんが、今の一瞬流れた微妙な空気の流れを変えてくれた。ありがとうございます。
「はい、国王のカレリウス様です。」
国王か、すごい人がパートナーだったんだな。あと、国王の名前は覚えてるんだ。
「けど、ここが国王の家にしてはいささか小さくないかい?」
「あの方は、あまり派手なのは好まない方でしたので。」
「なるほどね、その割には結構な庭園な気もしなくはないけど。」
「自然がお好きでしたの。国王のお嬢様もね。」
国王のお嬢様、つまりお姫様か。
「それで、どうやってここまで高度な技術を?」
「それは、ですね、異国からの者がこのような建築技術を国王に教えたそうですよ。」
異国からの人物。今から1000年前に異国からやってきた人物。もし、それが、僕と同じ世界の人間なら・・・それはないかな。
「それでも、この国は終わってしまったのね。」
イブさんがついた。
「ええ、魔法の研究の差が出てしまったんです。」
「研究の差というのは?」
「この国は、軍事系の魔法の研究は一切行っていませんでいた。ですので、魔法での、戦争に敗れるのに時間はかかりませんでした。」
「では、魔法の戦争で負けたと?」
「身もふたもないこと言えばそうですね。王は、1人でも多くの民を守るためたった1人で、私を連れて戦場へ赴きました。当時は精霊具を持った人なんてそうそういませんでしたし。」
「それで、どのくらい持ったのですか?」
「結果は見てのとおりです。最後に王は、私を他の誰かに悪用されぬよう周辺の土地ごと地下に沈めました。そして、この層を一番最下層にすることで人がそう簡単に来れぬようにしました。」
結構簡単だったよ、ここに来るの。でも、すごい王もいたもんだな、たったの1人で戦場へ行くなんて。
「どんなに高度な技術があっても、魔法の技術はそれをはるかにしのぐ。決定的な瞬間でもありました。以降私は、ずっとここでのんびりと暮らしている、ということです。」
「そうだったんだね。」
「でも、それも今日までです。」
「今日までって?」
「最初に言ったでしょ?待ってましたって。」
ああ、なんかそんなこと言ってたな。
「僕を待ってたっていうのは?」
「私は、あなたがここへ初めて来たときからずっと気になったいたんです。」
気になっていた?他の2人も僕と同じような顔をしている。
「あなたには、不思議な力を感じます。1000年前にも感じたもです。」
「それは、偶然じゃないかな。魔法だって並み程度だよ。僕よりすごい子だっているし。」
実際、ユウキやイルミアは僕よりもすごいところがあるし。それにまだ魔法の発動に苦労するほどだし。
「ん~、ちょっと見て見てもいいですか?」
そういうと、シロは僕の首に両手で触れると、スゥ~っと息を吸うとそっと瞬きをした。
「紺野さんは、どうやら魔法を発動する際の魔力の回路に大分むらがありますね。」
「むらって?」
「簡単にいえば、詠唱してから発動するまでに魔力が通る道がかなり狭いと言う事だよ。」
エレンさんが教えてくれた。エレンさんって5年生なだけあって本当にいろんなことを知っている。僕もここまでになれたらいいな。
「それも、かなり面倒な事になってる様ですね。」
「どのくらいなの?」
「水道に繋げたホースがびっくりするくらい絡まっている状態ですね。」
それってかなり詰まっているんじゃない?
「それって、損なの?」
「損なんてもんじゃないわよ、それがなければ君相当すごい魔法使いになれるかもよ。」
イブさんが両手を組みながら僕たちの方を見ながら言って来た。そんな大げさな。
「でも、どうしてイブさんにはわからなかったんですか?」
「そんなの人間ではわからないわよ。こんなことがわかるのはシロちゃんみたいな精霊と、後は色の竜ぐらいね。」
色の竜・・・か。そう言えばその竜たちも会話が出来るんだったな。
「そんなに難しいんですね。」
「ええ、まあ、紺野君にその可能性があることは疑ってはいたんだけどね。」
「疑っていた?」
「だってそうでしょ、君はさ。」
イブさんがわかるでしょって目で見てる。
ああ、そうか僕つい最近まで魔法使ったことなかったんだ。
「そのむらって何とかなるの?」
「はい、調整すればできますよ。」
そうなんだ、ならよかった。
「ですが、ここでは何ですし、一旦地上に出ませんか?」
「そうだね、シロはずっとこの中にいたもんね。そうしようか。」
そういって僕がこの場から動こうとすると、シロに手をつかまれた。
「待ってください、外へ出る前に、私と契約してください!!」
は?ちょっと待った、何を言い出すんだこの子は?
「け、契約って、何言ってんの?」
「そうですよ、高位精霊である貴女が彼と契約するということは、彼にはそれなりの負担だってかかるんですよ?」
「え、負担?」
エレンさんが急に言ったが、負担なんて聞いてないよ。
「高位な存在と契約するということは、それだけ多くの魔力を使うということ。」
「その心配はないですよ。紺野さんの魔力回路を調整すれば何の問題もなく活動できますよ。」
「貴女がそうおっしゃるのであれば・・・」
エレンさん、心配してくれてありがとうございます。
「でも、何で僕なんかと契約を?」
「さっきも言った通り、あなたからは不思議な力が感じられます。それが何か知りたいんです。それに、なんかあの人と同じ感じもして、私の中の何かがうずくんです。」
そう言いながらシロは体をくねくねさせてる。なんか表現があれだが、あえて突っ込まなかった。
「そういうわけで、もしよければ私と契約してくれませんか?」
「いや、でも、急に僕なんかが契約したらみんな変に思うんじゃ。」
「大丈夫じゃない?君は私の推薦で入学してるのよ、精霊の1人や2人、引き連れてても何の不思議もないでしょ?」
「僕まだ1年ですよ?」
「細かいことは気にしないの。男でしょ。」
そこに男女は関係ないです。
「いかがでしょう、紺野さん。」
「1個だけいい?」
「何ですか?」
「さっきからやたらと口調が変わるのは何で?」
「久しぶりに人と話すので、どう話せばいいかわからなくて、それで。」
ああ、そゆこと。
「それじゃ、紺野さん私と契約してくれますか?」
「いいのかな?」
僕はイブさんと、エレンさんの方を見た。
「いいじゃない、今度の魔術祭、優勝できるかもよ?」
「はは、イブさんは、でも、私もいいと思うよ。君はいずれこの学園を引っ張っていく存在になるかもしれないしね。」
引っ張るって、それは流石に大袈裟だと思ったが、エレンさんの目が真剣だったのが少し怖かった。
「わかった、僕、紺野村正、シロと契約するよ。」
「うふ、ありがとうございます。」
「それで、どうすればいいの?」
「簡単です、これから私の聞くことに全て、はい、と答えてください。」
「それだけ?」
「それだけです。」
そして、僕とシロは、シロが刺さっていた場所に立つ。そして、大きな魔法陣が現れ、契約の儀式と呼ばれるものが始まった。
「紺野村正、汝は、その身を以て我の主となるか?」
「はい。」
「汝、いかなる時も、逃げ出さず、前に出ると誓うか?」
「はい。」
「汝、いかなる時も、我を携え、その身から離さぬと誓うか?」
「・・・はい。」
ちょっと、今の守れるかな?思わず、「はい」っつっちゃったけど。
「汝、いかなる時も、我と助け合い、高みを目指すか?」
「はい。」
「汝、いかなる時も、我の世話をするか?」
ん?なんだって?
「返事は?」
「あ、ああ、はい。」
はいって言っちゃったよ。
「汝、いかなる時も、嘘はつかぬと誓うか?」
「はい。」
この近いが今後僕の生活において、厄介なものになるとはこのとき微塵にも思わなかった。
「これで、以上です。」
「いくつか変なことあったよね。何?世話って?」
「それは、ひ・み・つです。」
「詐欺だ、詐欺。」
「そんなことないですよ。それより、契約したことにより、今後は別の呼び方で呼ばせていただきます。」
「別な呼び方?」
「紺野さん、なんて他人行儀すぎでしょ。」
イブさんに指摘されて納得した。
「それで、なんて呼ぶの?」
「そうですね、では、あなたの好みの呼び方でいいですか?」
好み?僕にそういうのないけど。
しかし、それは甘かった、彼女は予想だにしない呼び方をしてきた。それは、
「お兄ちゃん♡」
シロが、それはそれは満面の笑みを浮かべて言い放った。アニメとかのシーンだったら絶対に惚れているだろう。だが、これは現実だ。そして、僕の好みと思われた。
すみません、決してそういう趣味じゃないです。イブさんとエレンさんの視線が遠のいたけど、言い訳は言えそうになかった。
次回At22.誤解と弁解




