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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第8章 1年生冬の戦い
164/165

At163.小さな穴

 1組の策により既に5人がリタイアした1年2組。その本陣では今後の方針について話し合いが行われていた。


 「どうするの、既に5人やられたけど。」

 「そうだねー。まだ殆どは向こうの陣地に居るんでしょ?」

 「うん。まだ半分よりこっちに居るのはあの2人だけ。」


 現在2組は残ってる20人の内半分の10人が集められている。残り10人は1組側へ向かって動いている。この動きで1組のユウキは行動を起こした。

 話の中心に居るのは、この2組の頭脳である存在、アーヤ。この冬の魔術祭を、決勝まで導いた存在で、1組に勝つための算段も組み立てた少女。


 「例の仕掛けの方はどうなってるかな?」

 「まだどこもなんともないみたいだよ。」

 「ふーん。放置か・・・。」


 アーヤは自分達の仕掛けた罠が、どういうわけか無視されてる事を面白いと感じる。アーヤは1組の、特にユウキやリリィと言った面倒くさく、癖のある奴らがどう出るかを伺っていた。そんな罠を、ユウキはあえて放置する形をとった。それが、何を意味するのか、アーヤは考えていく。

 アーヤの中で考えられる可能性は2つに絞られた。1つは、1組がその罠を逆に利用しようとしている場合。2つ目は、単純に1組側が罠に全く気づいていない可能性。

 罠を仕掛けてあるのは、どれも、それらしい場所。気をつければ、簡単に発見できる物だ。


 「ユウキ・メアリなら、どう行動するかな?」

 「アーヤン?」


 思慮深く考え込むアーヤの顔をクラスメイトの少女が覗きこむ。


 「1組を率いてるのは難敵だ。こちらが考えもしない事をやってのけて来るだろうさ。」

 「どーゆーこと?」

 「彼女は大胆に見えて慎重。そして綿密に見えて大胆な事を行うんだ」


 言ってることがチンプンカンプンの2組の面々。当然だ、言ってる事が矛盾してる。だが、アーヤはユウキ・メアリと言う人物を言い表すとしたら、これ以外思い浮かばなかった。実際、アーヤの評価は当たっている。

 2組が仕掛けた罠に一切触れないと言う事は、十中八九その罠を使ってくる。アーヤはそう踏んでる。


 「仮に1組の子達が罠に嵌ったらどうする?」


 作戦を練っていく上で、机上の空論となっても、仮説は大事だ。

 アーヤは、自分達の仕掛けた罠に、1組が掛かった際の行動を考える。自分達はどう動こうとしてるのか。そして、それに対して1組はどう動くか。


 「ねね、1組の誰かが罠に掛かったら僕等はどうする?」

 「いきなりどうしたの?」

 「考えるんだ。僕らの行動を。」


 そう言われて、今居る子達は当初の作戦を回答に持ち出す。


 「そのまま無視して、相手の陣地へ向かう。だったよね?」


 1人の回答に、他の子達も頷く。アーヤもその回答に文句はない。だが、その回答を1組視点で見直すアーヤ。

 自分達は1組を無視して行く、それが作戦だ。だが、1組が自分達とは違った視点で物事を見て居たらどうだろうか。もしも、2組が無視では無く、戦闘と言う手段を講じると考えてるとしたらどうか。

 自分達の常識だけを当てはめるのではなく、相手の考え方の常識を考える。いつだって常識は1つとは限らない。そして、自分の常識と相手の常識もまた、同じとは限らない。


 「もしも、相手側(ユウキ・メアリ)が撃破を優先していたとしたら。」

 「アーヤンの考えは分からなくはないよ。でも、本当にそんな事する?」

 「魔術祭のルール、覚えてる?」


 魔術祭の勝敗ルールを再度問う。

 旗の奪取若しくは、相手全員を撃破する。


 「まさか2組を全滅させると?」

 「ううん。僕もそこまでは考えていないよ。」


 アーヤは首を横に振る。25人全員となれば結構な手間だ。仮に人手を全員割けば、それもまた可能だろう。だが、これは戦争ではない。あくまで魔術祭。求められている事をはき違えてはならない。


 「これは魔術祭だ。魔法技術も求められる。試合運びに注視しすぎては本来の目的からそれてしまう。」

 「でも、魔法だけで1組相手にするのは厳しいから罠を・・・。」

 「うん。ある程度の作戦は必要だよ。それは個人戦でも変わらないだろ、レミス?」


 アーヤの質問に納得した様に頷くレミス。夏の魔術祭で戦ったレミスだからこそ分かる結果。

 2組もまた、技術と頭脳の両方が良い塩梅に揃った。


 「アーヤの言う通りなのはそうだけど、これからどうする気?」

 「アーヤン、なに考えてるん?」


 訊ねられたアーヤは人差し指を立てて考えを説明する。


 「簡単な事だよ。脳筋相手にバトルはしない。」

 「つまり?」

 「罠に掛かった1組は基本無視!」


 何か変わった?それが周りの反応だった。だが、改めて、再度言う事に意味があった。ここまでの流れで、戦闘行為が増えてきた。もしもこのまま試合を続ければ、戦闘が増える可能性を考慮したアーヤ。

 改めて、ここにも居ない全員に指示を出す。「攻撃に動く1組は基本スルーであると」。

 再度作戦を通知した後、アーヤは状況把握に努める。


 「ドニシ・エニア(振動感知)。」


 アーヤは地面に手を当て、地面から伝わって来る振動を基に、人の動きを感知していく。昨日の試合でイルミアが使っていたファニネフシとは似て異なる物。

 発見を目的としているのがファニネフシだとしたら、ドニシ・エニア(振動感知)は追いかけるのを目的としている。戦闘が始まれば、例え魔法戦だとしても、足の動きは大きく変わる。特に、急に走り出したり、足の動きが不自然になるなど、規則性が失われる。そう言った、振動の違いや、情報の増減から現在の状況を把握していく。

 魔法自体は初級魔法のありきたりな物だが、処理能力の高さが求められる魔法だ。


 「レミス、レミスー。」

 「んー?」


 レミスに話しかけたのはユマ。ユマは、1組が何を考えてるのか気になる様子。


 「何で罠のスルーが大事なの?」

 「それはね、1組が攻撃と守りを大きく分けてるからなんだよ。」

 「大きく?」


 ユマは首を傾げながら質問する。


 「簡単な話、1組は罠に掛かったところを私達2組が叩きに来ると思ってるんだよ。」

 「どうして?」


 ユマの疑問は最もだ。どうして2組が1組を叩くと言えるのか。それは、相手を引っ張る存在がユウキ・メアリだからだ。

 アーヤが目を付けたのは、それこそが1組に勝てる道筋だった。1組は技術クラス。それがアーヤの見立て。つまり、より戦術視点に立ちやすくなる。そして、もっと玄人を相手にする様な戦いをしている。応用は大事だ。成長速度を促進させるには応用が大事だ。だが、応用ばかりに目を取られてると、基礎を大事にしてる所に意外なところで足を掬われる。


 「それが戦いだから。普通、罠に掛かった相手は無視しない。」 

 「でも、それじゃ目的は達成できないよ?」

 「そうっ!」


 この魔術祭は言わば宝取りゲームだ。殲滅戦は変な話上級生様に用意されたルール。1年生で殲滅戦が成功する事は少ない。そっちに気を取られると、簡単に旗を持っていかれる。

 レミスの説明を聞いたユマは「ふーん」とそっけなく返答する。


 「アーヤは今その両方をやろうとしてるんじゃないかな?」

 「りょーほう?」

 「1組と戦闘を行った時と、そうじゃなかった時。その違いを探ろうとしてる。」

 「違いって?」

 「1組の守り、つまり守備陣の位置の割り出し、かな?」


 アーヤが何を考えてるのか、ある程度検討のついてる様子のレミス。攻撃と守備で人員を二分化する、という点では1組も2組も似た戦法と取ってる。


 「どうやって割り出せるの?」

 「簡単だよ。罠に嵌った1組を狙いに行くとどうなると思う?」

 「うーん・・・。」


 ユマは空を見上げながら考える。せっかくのチャンスを逃すのが悪い理由。考えても難しく、ユマは頭を抱える。

 

 「1組なら、遠くから魔法で攻撃してくる。」


 1組のやろうとしてること。囮作戦を見抜いている。


 「でも、私達が無視したら意味なくない?」

 「それこそが、1組突破の鍵になるんだよ。」

 「どうして?」

 「1組は自分達の行動の基本に則りすぎている。」


 レミスは自信ありげに1組の陣地を見て居る。アーヤの言う通りだとしたら、これはチャンスでもある。

 今、1組の陣地は恐らく手薄。恐らくこちらの人数を半分まで減らす算段を立ててるんじゃないかと。

 既に5人減らす事に成功している今だからこそ、向こうがより積極的な行動に出て来ると。

 

 「その目論見が外れた時、果たしてあちらさんはどう動くか。」

 「どうって?」

 「きっと向こうは策を幾つも用意してるはず。」


 アーヤが1組の策を探る理由がこれだ。昨日の戦いで、1組は幾つか戦術を持ってる。そう考えたアーヤはどうにかしてそれらを、なるべく多く引きずり出す方法を考えた。それが、まずは動かないだった。

 結果としては1組も2組を警戒して動きを見せなかった。そこで、先に状況の変化を2組が起こした。

 どちらも相手を待ってるなら、小さな動きを見せても問題ないだろうと。そして、向こう側がどんな反応を示すのかも見れる。いきなり大きな変化が起きるとは考えてなかった。


 「よっし、問題はなさそうだね」

 「もう良いの、アーヤ?」

 「ああ。今からやろうとしてるのは1組が居ないとあんまり話にならないからね。」

 「でも、1組も動いては居るんでしょ。」


 元々、両陣営には、ある程度の距離がある。それを一気に縮めるのは難しい。特に、障害物が多いこの市街地ステージでは。

 上空を移動するのなら、それも時間を短く出来るだろうが、昨日の試合を見てる2組がその対策をしてないわけが無い。現に、彼女達の陣の周辺には、対空用の魔法が既に準備されている。

 

 「まあね。そのせいで2人やられたんだもん。けど、ゆすりは掛けてきてると思うよ。」

 「ゆすりって?」


 レミスの問いに、一緒に首を傾げるユマ。


 「こちらに策がある事を伝えてあるのさ。」

 「ど、どうして?」


 何も伝えない方が動きはやりやすい。何か策があると、悟られればそれだけで行動が制限されることだってあるのだ。なんでわざわざ、とレミスは疑問に思う。

 その疑問にアーヤは当然の様に答える。


 「僕は1組の持つ作戦を出来るだけ多く引きずり出そうとしてる。その為には、相手側にこちらの考えを伝える必要があるのさ。つまり、僕らが何かしようとしてると分かればその対策に乗り出す。」

 「でも、ハッタリだと思われたら?」

 「それは万が一にも無いよ。」


 根拠があるように思えない、アーヤの自信。だが、次の一言が確証の無い予想に現実味を持たせる。


 「その内容を伝えた相手が彼だからさ。」

 「彼って、紺野君の事?」

 「そう。彼と彼女の関係は僕等1年生の間では有名だ。ましてや今回1組を率いるのは彼女。間違いなく報告は上がる。」


 村正とユウキの関係性を根拠にするのはどうかと、思うレミス。だが、レミスもまたアーヤの提示した話を信じる事になる。あの2人の妙な関係性の内、尤もらしい話を出されては、何故か首を縦に振ってしまう。


 「アーヤン!」

 「どうした?」


 いよいよ事が動き始めた。

 2組の旗の傍には幾つかの印がつけられている。この印は、仕掛けた罠と連動している。


 「3番の罠か。」


 その内の1つが発光している。この光が、罠が作動した事を知らせる。因みに、罠が破壊・解除されると、印ごと消える仕組みだ。

 アーヤはどの罠かを確認すると暫し考え込み、指示を出す。


 「よし、3番は対処だ。防御魔法を展開できるようにして、対処に当たれ。付近の攻撃組には別の場所から攻める様に伝達。」

 「分かった。」


 アーヤに指示され、1人前方へ駆け出す。仕掛けた魔法はちょっとやそっとじゃ抜け出せない魔法。

 魔法そのものであれば、簡単に対処出来てしまうが、発動すると厄介な物になる。

 罠に掛かった人数が分からないのがネックだが、あまり数が多くない事を祈るしかない。


 「今ので1組のリタイアが無いって事は、これ、人数多いかもな。」

 「そうなの?」

 「3番の罠は2人までなら一発で落せるんだよ。」

 「ど、どんな罠仕掛けたの?」


 まともな魔法を使ってない事だけはレミスにも伝わった様だ。


 「魔法が発動すると檻が現れてそこから魔法攻撃が出るんだ。」

 「それで?」

 「その魔法は、ちょっと制限があって、中に入った人数に等しく攻撃をするんだ。」

 「あ、それで人数多いと駄目なの。」

 「うん。攻撃に使える魔法の魔力を、あまり多く注げなかったからね。」


 罠には使用者の魔力を溜めて置く必要がある。罠は他にもあるし、自分達も魔法を使わなくてはならない。そのため、罠1つに割ける魔力と言うのはどうしても制限されてしまう。


 「おっと、7番も反応した。こっちは3番を対処にしたから無視。」


 また別の罠に反応が出た。


 「リーダー、アーヤからみんなへ。向こうの動きが活発だ。攻撃担当は接触には注意すること。先程戦闘があった付近は避けて通るように。以上。」


 アーヤが直に指示を出す。それぞれの罠で違った対処をする結果が出る前に指示を出す。

 

 「さぁて、違った対応を見せたとして、あちらはどう対応するか見せて貰おうじゃないか。」




次回At164.1人の想定外は別の1人の想定内

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