At162.罠の罠
リリィの合図で一斉に動きだす攻撃組。何人で動くかは各個人に任されている。今回の作戦は組織だった物ではない。あくまで、2組の人員を減らすのが目的。
そんな攻撃組を見送った守備陣営の指揮かつ、今回の魔術祭の大将を任されてるユウキ。早速次の行動に打って出る。
「じゃあみんな、一旦集まって。」
周りを固めてる守備組全員を集める。守備全員を集められるのは、守るべき旗を心配する必要が無いから。仮に、2組がこの隙を狙って来たら全員で囲んで撃破出来る。囮作戦と言うのは実に効率が良い。
攻撃組が周りをうろつく2組を撃破して行く事になってるので、周辺警戒もしなくて良いのは作戦会議でかなり楽になる。
「今回の決勝戦なんだけど、まず攻撃組の別動隊をやめたのよ。」
摸擬戦の段階で用意された別動隊はほぼ意味がないとなり、取り消す事になった。
「そのかわり、攻撃組全員を今回の作戦に充当出来た。」
「で、こっちはどうすればいいわけ?」
守備についてるアンナから質問が出る。ユウキが攻撃組に出した指示とは別に何か企んでることはお見通しの様だ。
さっさと指示寄越しな、そんなニュアンスだ。そのアンナの質問に、ユウキは指示で答える。
「みんな地図を見て。」
そう言い、ユウキは自分の持つ大きな地図を広げる。その地図には幾つか、赤い印がつけられてる。この印は、先程見回りに出ていた攻撃組からの報告を基に作成したもの。そこには、2組が何らかの形で罠を仕掛けてる可能性が指摘されている。それをあえて無視し今に至る。
「この印は、2組が設置型の魔法で罠を仕掛けやすい場所、それと、遠距離魔法で狙いやすい場所になってるわ。」
「それで?」
ユウキは地図に書きながら何かを説明して行く。そのユウキの書いた物を見た守備組の表情が一気に硬くなる。そのまま、その場は静寂に包まれる。だが、形は作戦会議のまんま。
そんな中、アンナが何かを小声で呟いている。
周辺に流れる空気が変わったのを肌で感じられる。
地図を囲んだ状態の守備組は、何かを感じ取るように神経を尖らせてる様に見えた。
「さん、に・・・。」
ユウキが静かにカウントダウンを始める。
「アンナ、そこっ!」
「立ち上がれ・土兵たち!!」
ユウキの指差した方向にすかさず魔法を放つアンナ。彼女の魔法は、地面から槍を持った人形を複数体出現させた。その人形たちはアンナの動きに合わせて、手を動かす。アンナが手を振り下ろせば、人形の持つ槍が地面に突き刺さる。その衝撃は凄まじく、轟音と砂煙を巻き起こす。
「きゃあ!」
煙の奥から悲鳴が聞えて来る。明らかにクラスメイトの物でないと判断したユウキ。その悲鳴は1人じゃない。
ニヤリとするユウキ。
「3名様、ごあんなーい!」
作戦を詰めようとしていた時だった。ユウキにイルミアから伝言魔法で連絡が入った。2組から数名がこちらの陣地の近くに入り込んだと。
攻撃組の網をかい潜ってきたまでは良かった。だが、イルミアの目に留まってしまった。2組が問題なく来れたと言う事は、恐らく誰とも会敵してない。
ユウキの預かるこの本陣までやって来てそのまま帰すわけが無い。ユウキはやって来た3人を絶対に逃さない。
「そのままこっちに炙り出して。」
「言い方が物騒。」
「あ、逃げるなっ!」
ユウキの横に立つアンナは、ユウキの言動に若干引き気味。そんなアンナを他所に、ユウキは逃げようとした1人に向かって魔法を放つ。ユウキの放った魔法は見事に命中し、これで1人撃破した事になる。
残された2人も逃げようと試みるが、1組の容赦ない魔法の連続攻撃を凌ぐので精一杯の様子。それもそのはず、1組が使用してるのはどれも初級魔法。無詠唱で飛んで来るのに加え、人数的なハンデも背負わされた。助けを呼ぼうにも、ここに居るのが1組全員じゃない事はすぐに理解できる。
誘い込まれた。そんな気分を味わう2組の2人。
「建物の中に隠れちゃった?」
「多分、ね。」
隠れられたとはいえ、依然1組の傍に居ることに変わりない。
「そうねぇ。隠れたんなら、出て来て貰わないと。」
「な、なにするの?」
ユウキがきっととんでもない事を企んでいる。すぐに察せた。
メアーノ・シンクの問いにユウキは、今まで見せた事の内容な悪い顔をしていた。
「知ってる?廃墟ってね、建物が倒壊しやすいのよ。」
「へ、へー・・・。」
それで?なんて聞けるわけが無かった。恐ろしすぎてそれ以上は聞けなかった。
「だから、偶然、偶々、逃げ込んだ建物が不運にも崩れたら、出てくるしかないわよね?」
「え、え・・・。」
ユウキのその表情は村正に何か言い寄る時のそれと全く同じだった。
「ねえ?」
「う、うん・・・。」
それは卑怯、だなんて口が裂けても言えなかった。
「じゃあ、私、準備してるね。」
ユウキが炙り出すなら、出て来た2人を迎え撃つ必要がある。もっともらしい理由でもってユウキの隣を離れようとする。
しかし、ユウキはメアーノを逃がさない。
「メアーノー。準備ならここでも良いじゃない?」
「えっと・・・。」
他のみんなは、何故か身の危険を察知し、既に距離を置いてる。
と、取り残された~。みんな早いよ。
いつもは誰よりも頼りになるユウキ。だが、村正に対する容赦の無さも知っている。今のユウキは村正を相手にしてる時と同じ表情をしている。
「ぐ、具体的には何をするの?」
「ん?ちょっと建物を地面ごと揺らすだけよ~。」
「他の建物も崩れない?」
「だぁいじょうぶよ。私そこまで下手じゃないわよ。」
地面系統の魔法を含む力分野は、ユウキの最も得意とする分野。使い慣れてはいる。
ユウキは杖を地面に突き立てると詠唱を始める。
「揺れなさい!」
たった一言、それだけで、目標の建物から軋む音と、砂煙が出て来る。
パラパラと、建物の破片が落ちているのが見て分かる。そのまま建物に罅が走る。それでも、今立ってる周辺は一切揺れてない。それだけ、ユウキの魔法が上手いのが分かる。おまけに、詠唱はかなり短くなってる。
“揺れなさい”の一言で中級魔法を発動させた。普段から使い慣れてる分野の魔法でも、普通にレベルが高い事をいとも簡単に成し遂げてるように見える。
「みんな合図したら一斉に光の魔法を放って」
ユウキがタイミングを伺う。
「今よ!」
建物を囲むようにして立っていた子達は、ユウキの合図で眩しい光を放つ。それは、発動した本人たちも目を覆う程。
指示を出したユウキは彼女達に目もくれずに光の中に飛び込んで行く。それから10秒経たずに。
「見っけ!」
そのままユウキは相手2人目掛けて魔法を放つ。逃げる間もなく魔法を受けた事により、その2人は撃破された。
これで、2組の残りの人数は22人となった。
「ちょっと、派手すぎたかな~。」
暴れすぎた。そう反省するも、既に遅い。この戦闘で2組側にも何らかの動きを与えてしまったと反省する。
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同じ頃、攻撃組として動いていた村正は結局リリィと組んで行動していた。今は、ステージに設置された建物の屋内に身を潜めている。廃墟が舞台ではあるが、それなりに隠れられる場所ではある。
そこから、今のユウキ達守備組の戦闘を見て居た。
「うわ~、もうやってることが犯罪者のそれだよ。」
「何が?」
「さっき、イルミアに言われて無視した2組の子の話。」
「ああ、なんかすっごい音したね。」
それぞれ別の方向を見てる村正とリリィ。今居る位置としては半分より2組の陣地に近い方。地面に埋められた罠は解除せずに全て避けて通ってきた。こんな真似が出来るのも、リリィが居るから。
「建物に逃げた相手をさ、」
「うん。」
「建物を倒壊させると言う方法で炙り出してたよ。」
「うわ~、ユウキらしい。」
「一体どんな育ち方をしたら、あんなおっかない方法が思いつくのやら。」
本人が近くに居ないのを良い事に言いたい放題の村正。
「知らないよー。後で何されても。」
「大丈夫だ、おっと。」
窓、と呼べる部分から2組の学生がチラリと見えた。村正はリリィの肩を叩き、2組の学生が見えた方を指さす。
「今、そこを通った。」
「どうする?」
必要以上に戦闘を行うにはまだ早い。だが、今居る位置は決して悪くはない。
「どうしますか、指揮官殿?」
「うっ・・・。」
あえてリリィに聞き返す。
「ちょっとユウキに確認してみる。」
「うん。」
その間、村正は見つけた学生を見逃さないように、目で追って行く。まだ、自分達には気付かれていない。さっきの戦闘音と、味方の撃破の報告を受けても様子が変わらない事から、まだ、2組に作戦があると考える。同時に、他の攻撃組にも変化がない事を考えると、自分達同様、どこかに身を潜めてるんだろうと思う。
「――じゃ、軽く仕掛けて見る。」
「終わったの?」
「うん。ここに人が居ることを感づかせることになった。」
「具体的には?」
「何人来るか分からないけど、来た人数全員撃破だって。」
簡単に言ってくれるよ。こっちがさっきのユウキと同じ魔法を受けたらどうすると言うんだ。
ま、そんな事態になっても僕らなら大丈夫だと思ってるんだろうけどさ。
「他の攻撃組は?」
「ここの戦闘開始と同時に少しずつ前に進って。あと、今の詳しい現在地をユウキに報告させてるみたい。」
「詳しい位置を?」
まーた何か企んでるな、あいつ。
僕達、やっぱ餌にされてない?
「因みにこれは?」
「あ、それはまだ使わない。」
「あそ。」
何のために持ってるんだか。
まあ、こんな場所に落っこちてても不自然か。
「じゃあ、紺野君、準備。」
「え、準備?」
リリィに言われ、村正は今居る建物に手を加えて行く。具体的には、建物内に壁と柱を作り、自分達の身を隠す場所を増やす。そして、建物内を一本道にする。
「しっかし、なんでこんな大きな建物なんて用意したんだろうね?」
「う~ん、気まぐれじゃない?」
「ご都合主義的なやつ?」
「そこまでは言わないよ。」
苦笑いを浮かべながら準備を行うリリィ。
村正が気にしてるのは今居る建築物の大きさもそうだが、立地にも疑問を持った。今居るのは、ステージに用意された建築物の中で一番大きいと言って良い。お題に合わせてかある程度ボロボロではある。
建物は二階建て。階段は崩れ落ちている。そこで、村正はその崩れた階段をあえて復活させる。
「罠どうする?」
「僕は苦手。リリィに任せる。」
「りょーかい。壁に仕掛けるから、気をつけてね。」
さらっと怖い事言ったね。足下じゃなくて横か。
「僕、上から動かないようにするよ。」
リリィが罠の準備を始めたので、村正は急いで上の階へ向かう。そこで、この建物内に誰かが居ることを感づいてもらう準備をする。大事なのは、居ると言う状況を生み出す事。そして、自分達が待ち構えて居ることを悟らせない事。
5分程して、仕掛けを終えたリリィが上がって来る。
「準備できたよー。」
「じゃあ、始めますか。」
「ユウキに伝えるねー。」
リリィがユウキに伝言魔法で自分達の準備が整った事を伝える。
そして、反応は幸か不幸かすぐにあった。
「リリィ、あそ、」
「紺野君伏せてっ。」
ビュンッ!
リリィが村正の襟を掴んでしゃがむ。直後、2人の居た窓が弾ける。
2人は直ぐに今居る部屋の奥へ身を進める。今も、外から魔法攻撃は続いている。
「ユウキ、戦闘始まった。」
リリィはそれだけ伝えると、すぐに自分達の状況把握に努める。
床に手を置き、周りに何人いるのかを探っていく。だが、今回は地面に直接触れてるわけでは無い。なので、詳細な事までは感じ取れない。
「駄目だぁ。こりゃ、下に降りないと駄目かな?」
「どうする?窓からも入ってくるよ、多分。」
痺れを切らせた向こうが、いきなり入って来る可能性も十分あり得る。勿論、迎え撃つ準備は出来てる。
「それは多分ない。」
「理由は?」
「それが出来るのはある程度人数に余裕がある時に限定される。」
「どうして?」
「2組は既に3人リタイアしてる。そんな状況で、これ以上下手に人が減る行動は自滅行為だよ。」
リリィは、攻撃のしかたから、相手は多くて5人までと見て居る。複数方向から魔法の攻撃を感じられるので、最小で2人。もしかしたら、1人が複数の魔法を同時に操ってる可能性もある。
どっちにしろ、相手はここへやって来る。そう踏んだリリィは行動を起こす。
「私は下に降りるから、紺野君は暫くここで待機。もしも、外から侵入されたら応戦して。」
「わかった。」
「2分経って外から来なかったら紺野君も降りて来て。」
村正が頷くと、リリィは階段から下へ降りて行く。彼女を見送った村正は、先程とは別の窓まで身を寄せ、そっと外を確認する。
頭を覗かせても攻撃が飛んでこない。つまり、中距離以上の魔法で今の場所は狙われてない事になる。
「下がって!!」
下の階から人の声が聞える。リリィの仕掛けた罠に誰か引っかかった。どんな罠を仕掛けたのか、村正には分からない。ただ、爆発系の魔法ではないらしい。
「・・・。」
何も聞こえない。静かすぎないか?
リリィに言われた2分が経過した。村正は、一歩一歩慎重に歩みながら下の階へ進む。階段を下り、下の階へ到着する。リリィの仕掛けた罠がどこにあるか分からない。その事が村正の足取りを余計に重たくする。
――ガラッ。
瓦礫が崩れる音が聞え、村正に緊張感が走る。そして、音のした方向から張りつめた空気と言う物が漂って来た。
居る。確実に、誰か居る。村正に確信が訪れる。
試して見るか。
村正は目を閉じ、集中力を高める。
探索魔法、ウル・エルムを使用する。半径5mにある全ての情報が視覚化される魔法。
居た。って、壁挟んだすぐ後ろじゃないか。
そのまま、こっちに来てくれれば。
タイミングを計る村正。ウル・エルムで確認できた範囲内に、リリィの仕掛けた罠は無い。
「リリィ、今から1人攻撃する。そっちは今何してる?」
「私は紺野君の位置から、少し離れたところに居るよ。こっちも1人撃破したから。」
「分かった。」
伝言魔法で情報共有をし、村正は攻撃に備える。
丁度、村正と相手が壁一枚挟んで正面に立った。それを確認した村正。
「今だ!」
「うえっ!?」
いきなり壁が弾け飛んだことで悲鳴を上げる少女が居た。予想外の場所からの攻撃で、防御魔法を展開する間もなく攻撃を受けてしまう。
「うっそー、私リタイアなの~。」
地べたに座り込む少女に手を伸ばす村正。流石に、攻撃してそのまま、と言うわけには行かなかった。
「僕らの作戦勝ち、かな?」
「はあ、ユイもやられたみたいだし、これで合計5人か。」
座り込んでいた少女は、村正の手を取ることなく立ち上がった。村正は、伸ばしていた右手をそっと引っ込める。
「やっぱ1組のやる事は想像できないや。」
「そうかな?」
「ええ。決勝戦はどうせ1組相手になるだろうって分かってたし。色々考えてたんだけど、悉く失敗してるみたい。」
全体を指揮するのは、学年成績1位のユウキだ。総合的に評価するなら、僕より上の存在である。ユウキは伝え方は大雑把だけど、その中身はかなり綿密に仕組まれている。僕でさえ、後から驚かされた事も何度もある。
「でも、うちだってやられっぱなしじゃないんだから。」
「それはどういう?」
「ひ・み・つー。」
それを言い終えると、その少女は「じゃあね~」と言って戻って行った。
2組も一筋縄では行かぬ、と言う事なのだろうか。それとも、何か1組を上回る策でもあるのだろうか。村正の中で疑問が沸いた。
今回の作戦も、完璧とは絶対に言えないと予めユウキは言っている。その絶対と言えない部分を2組は見つけたのだろうか。
念のため、村正はユウキに注意を呼びかけた。
次回At163.小さな穴




