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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第7章 専門分野の選択
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At157.勝利の鍵

 摸擬戦を終え、合宿所の自室に入った村正。ここでは、村正は1人部屋。今回に限っては、その方が都合が良かった。


 「お疲れ様ですお兄ちゃん。」

 「どうも。」


 摸擬戦の間、彼の杖としてその様子を見ていたシロ。学園の寮とは違い、他の人の目に付く可能性が高いため、他の誰かと一緒になる方がリスクとしては高かった。

 村正1人の方が、部屋に人が来る確率も下げられる。


 「完敗でしたねー。」

 「仕方ないさ。でも、2回目はかなり健闘したんじゃない?」


 初回があれだ。それに比べたら、2回目の摸擬戦の成果は上々と言って良いだろう。

 ユウキの頭の中で、どこまで筋書きがあったかは、分からないが、勝つ気で居たのは、間違いない。まあ、本物の旗を先生に持たせていたのは流石に驚いたけど。

 そもそも、ユウキって、先生を積極的に利用するよな。あの時もそうだったし。


 「そうですね。ユウキさん、詐欺師の才能ありそうですね。」

 「本人の前では言っちゃ駄目だよ。」

 「てことは、お兄ちゃんもそう思っていたんですね。」

 

 ハハハ。

 ――何も言えん。


 そう言うシロは、女王様の素質があると思った村正。かつての、妹的要素は一体どこへ行ったのやら。今でも、村正以外の人の前では、当初の雰囲気を崩さない。精霊具なんて名前をしているが、人格がはっきりしすぎている。

 作り出された存在と言うのであれば、それは、創造主の何かがシロに組み込まれているのだろう。


 「シロは、さっきの僕らの試合をどう見た?」

 

 村正の問いに、シロは少し黙った。今回は、村正個人に対する答え、と言うわけでは無い。今の村正からの問いに答えると言う事が、何に繋がるのか、シロには分かって居る。

 だから、この問いには超えてはならない一線が存在する。それを超えない範疇でしか、答えられない。


 「シロ?」


 背中を向けるシロを不思議に思う村正。当然、村正には、シロが何に悩んでいるのかなんて、分からない。

 

 「そうですね~。まぁ、合法的にせこい手を使うのは、割と重要な事だと思いますよ。」

 「せこい手?」

 「ほら、ユウキさんがやったように、審判の先生に旗を持たせるとか、です。」


 冬の魔術祭で問われるのは、魔法の腕だけではない。その頭脳も問われる。クラスの持つ頭脳を集結させて勝利するのも、また評価対象になる。つまり、例え敗戦になったとしてもその過程が良ければ、今後に大きく繋がる。そう言った意味で言えば、もっとも多くの学生にチャンスが訪れる。それが、春の魔術祭との違い。

 正攻法で攻めるのは手段の1つにしか過ぎない。その事を理解したとしても、では、実際にどうするのか。ここから先を考えられるかで、大きく変わる。

 シロは、今回はユウキ1人で考える事で、相手を上手く動かす事が出来たと評価する一方、この方法はこのクラスでしか成立しないとも批判する。この事に、村正は特に問題はないと考えるが、それは駄目だと、シロは再度主張する。


 「冬の魔術祭が、頭脳戦だとするのなら、ある程度、情報の共有は必要です。」

 「それは、開始以降も?」

 「それは、チームプレーでは当然です。特に、個々が離れるこの様な場合、それぞれの役割をその都度明確にしないと、前提条件が崩れます。」


 前提条件の為の前提条件が成立しなくなる、と言うのがシロの意見。


 「ごめん、難しい。」

 「今はそれで良いと思います。」 

 「なんで?」

 「今ここで、私が多くを語るのは、良くないからです。」


 必要以上の情報を、答えを、ヒントを与える事が全てを解決するわけでは無い。シロに出来るのは促す事だけ。その先には、村正達が自分達で辿り着かなくてはならない。そうで無くでは、この学園に居る意味がなくなってしまう。

 出来ない事、上手く行かない事の1つや2つあっても、何の問題もない。そこに、どう取り組んだかが大切なのだから。


 「きっと、それは、先生であっても、同じとことをおっしゃると思います。」

 

 カンニング。この表現があってるかは、分からないけど、きっとシロが言いたいのはそう言う事なんだと思う。

 実技でどうカンニングがあるのか、と言われたら上手く返せないけど、答えを知っている、と言う点では同じ気がした。どうすれば良いのかを教えてもらう。もし、答えを教えてもらっても、実技の場合、自分達で出来なければ何の意味もないし。

 実技じゃなくても同じか、これは。


 「貴様等、15分後に反省会だ、会議室に集まれ。」


 館内放送で、レベッカに呼び出され、村正以下、学生たちは会議室へと向かう。

 ぞろぞろと会議室へ向かう1組の面々。休憩時間が2時間程あったのもあるだろう、少々良い匂いに包まれている。

 会議室に入ると、既に、ユウキ、イルミア、そしてレベッカの3人が何かを話していた。ユウキとイルミアはこの冬の魔術祭では中核を担う。それだけ、レベッカも彼女たちに伝える事は多い。

 17時になり、反省会が始まる。

 

 「まずは、初日お疲れ。さて、今回の反省会は、2回目の摸擬戦の内容だと思ってくれ。」


 つまり、1回戦目はノーカンと言うわけだ。そもそも、中身が無さすぎる。

 

 「さて、2回目の摸擬戦だが、貴様等が採った手段としては悪くないと言える。」


 相手が相手だ。その中で対抗する手段は限られてくる。そんなか、レベッカの予想を超える行動をしたのは、純粋な評価になった。それは、魔法隊のシルファも同様。実戦・実践のプロ相手にあそこまで渡り歩いたのは、それなりに驚いた様だ。

 レベッカが、魔法隊側に一切の容赦なしと言う注文を付けたからこそ、彼女達も最大限持てる力、知識を発揮したと言えるだろう。


 「格上の相手に勝つために姑息な手段を選ぶのは何も悪い事ではない。」

 「姑息って、ちゃんと入念に練ったんですけど。」

 

 自分の中では、最も良いと思った作戦を姑息呼ばわりされてへそを曲げるユウキ。そのユウキの肩に手を置くイルミア。

 多くのクラスメイトがフォローを入れる中、村正だけは苦笑いを浮かべていた。


 姑息、ね。シロは、せこい手段って言ってたし、やっぱり、その道の人が見ると、そう見えるんだな。


 目を閉じて下を向いていた村正が正面を向くと、そこには、何故かショックを受けているユウキの表情が目に入った。それは、もう、今まで見たこともないような表情をしていた。そして村正は直ぐに理解した。何故、ユウキがあんな表情をしたのか。


 「やっべ・・・。」

 「なにが?」

 「ううん、なんでもない。」


 近くにいたシアンに聞かれた。村正の思考が、どういう原理、原則、そしてタイミングでユウキに伝わるのか、いまだに謎。忘れた頃に現れるかと思えば、そうでもない。村正は、この妙な力を何とか出来ないかと、現在悩み中。


 「べつに悪いわけでは無い。冬の魔術祭は、姑息な手段も必要な一手となり得る。その証拠に、あと一歩の所まで行っただろ。」


 魔法隊が、旗のありかに気付くのがあと5分遅かったら結果はまた変わっていたかも知れない。今回は、相手が強かったが、これが学生相手なら十分勝てる要素になる。

 その代り、今度は別の事に注意する必要が生まれる。それは、自分達の本来の相手は同じ学生であると言う事。それは、この摸擬戦で思いついた事を、他の学生も思いつく可能性がある。ユウキみたいな、突飛な発想はなくとも、ユウキならどうするか、それを想像できる人材が他クラスには居る。それは、脅威になるとレベッカは話す。

 

「このクラスにしか出来ない戦法だとしても、想像だけなら他クラスにも可能だ。この意味が分かるな?」


 レベッカの質問に半数ほど頷くが、残り半数は首を傾げる。


 「メアリ、説明。」

 「あ、はい。」


 この説明は、ユウキにさせるからこそ、現実味を帯びる。なぜなら、この冬の魔術祭で1組のクラスで最も警戒されるのがユウキだから。そんなユウキをトップにしたのも、レベッカの作戦の1つ。他クラスの意識をユウキに向け、彼女の作戦を先読みさせる。


 「私達が魔術祭で優勝するには、先の先を読む必要があるの。」

 「先じゃなく、その先も?」


 ユウキは頷き、話を続ける。


 「私が採った、1組みんなに偽物を持たせて、本物は全然違う場所に持って行く。そして、本当の事を知っているのは、ごく一部。これが出来るのは、このクラスならでは。だから、他クラスには不可能に近い。ここまでは良い?」


 ユウキは今さっきレベッカの言った事と同じ事をもう一度言いながら説明して行く。自分も同じ言葉を言う事で、間違えないようにしている。

 全員を率いる彼女が間違えれば、他のみんなは芋づる式に間違った方向へ行ってしまうのだから。

 

 「他クラスが出来ないっいうのは、どうして?」


 レベッカの話が分からなかったのは、今の質問にあった。


 「守備に就いたみんなはさ、2回目の摸擬戦で旗が奪われるまで、守っていたのが本物だと、認識していたでしょ。でも、実際は偽物で、その事を知っているのは、私と一部だけ。」

 「うんうん。」

 「それは、例え後から分かっても、私に何か考えあっての事だってみんな分かってくれるじゃない。」


 普通は、その事実を事前に周知しみんなに演技させる。そうすれば、余計な混乱は生まれない。しかし、混乱しないのは相手に、作戦であることをいち早く気づかせる材料になる。


 「例え、作戦であっても、ある程度の混乱が必要だと私は考えたの。」

 「その事含めて、私達はユウキの考えを受け入れるだけの覚悟をあるし、ユウキの方も、私達を信じるから出来ること、ってこと?」

 「うん。まず全体の指示は、基礎の基礎。台座になる部分だから全員に知っていてもらう必要があるでしょ。そこから作戦に移る。」


 一番最初に周知された指示も、しっかりと生きて来るから、無駄な事は何1つ無い。

 囮の囮と言うのも、囮=無駄にできるではない。囮と言う役割がある以上、そこにも価値を見出さなくてはならない。そして、ユウキはそれを実現したからこそ、もめる事が無かった。


 「今言った事を他クラスで行うのは難しいと私は思ってる。」

 

 問題は、その他クラスでは難しいと言う根拠。何故、1組には可能で、他クラスでは無理なのか。


 「メアリ、理由はなんだ?」


 他でもないレベッカがその理由を問う。そこに根拠がなければ、今言った事全てが机上の空論になる。

 それは、魔術祭で確実に優勝できるとは言えなくなる。


 「最大の理由は、先生のクラスだから。」


 ユウキの答えに満足そうなレベッカ。


 「ほお?」

 「自分で言わせておいて、その返しは無いんじゃないですか?」


 恥ずかしい事を教え子に言わせたレベッカ。ユウキも分かってて言うのはなんだか、変な感じがした。ふざけて変な事を言っても良かったが、後が怖い事を考えると、余計なリスクは踏まないのが一番。ここで、あえて茨の道を行くのは村正程度だと思うユウキ。


 「先生のクラスってどういう意味なの?」

 

 当然の質問。その質問に、ユウキは頷いてから答える。


 「私達は、普段の授業の中で、先生に色々と鍛えられてるでしょ。特に、お互いの信頼関係とか。」


 レベッカは、クラス全員の特性と言う特性や性格、果てには得意不得意全てを理解している。それは、教師と言う立場では普通かも知れないが、それを使いこなせるかどうかはその人次第かも知れない。

 レベッカは、入学したてで、まだお互いの事を良く知らない彼女等を徹底的に関わらせ、クラスメイト全員のある程度の性格や考えを脳内に残るようにした。そして、例え1つの事でも何か突出した能力をもっていれば、それは最大限生かさせる。そうすることで、その分野に対する、クラス内での一人者を作り上げた。そうした積み重ねを日々の生活の中で行っていく事で、互いの信頼関係を、彼女等が感じている以上に強固な物に作り上げた。


 「例えばさ、私が、吹っ飛べ!」

 「グァッハ!?」


 いきなりユウキが村正に向けて魔法を放つ。当然、村正の身体は吹き飛ばされる。


 「こんな風に、マサ君をいきなり吹き飛ばしても、ただの冗談だか、マサ君が何かしたと思うでしょ?」

 「冗談で吹き飛ばすな、冗談で。」

 「ね、マサ君もこの程度の反応で済ませるでしょ。」


 っく、悔しいが、ユウキの言う通りだ。

 

 「まあ、根拠は、私のやることに、みんな疑念を持たずに信じてくれることが、本当の理由かな。」


 顔を赤らめる辺り、どうやら恥ずかしくて言うのを躊躇っていた様子。

 

 「はいはい。僕はユウキが何をしようと、ちゃんと理由があるって分かってるよ。」

 「いや、マサ君の場合は九割方マサ君のせいだよ。分かってる?」

 

 冷たく鋭い言葉いただきました。


 「はい、すいません。」


 ――パンパン。


 「よーし、じゃ、話の本題に入るぞ。」


 レベッカが前に出て、空気が切り替わる。


 「先ほどの摸擬戦で評価できる点はもう言った。次は反省点だ。今から上げるのは、魔術祭で命取りになる、そんな物だ。」

 

 摸擬戦を見て、プロ相手で仕方ない物は除外。それを除いた中でも、反省点はある。そこに目を向けないと、思わぬところで足をすくわれる。


 「まず、スタート直後に罠を仕掛けたな。その場所、何人か忘れただろ。」


 罠を仕掛けたのは覚えて居ても、どこにあるかを忘れた事で、罠の場所を確認する動作が見ていても分かるほどだった。それは、どこに何があるのかを遠くの相手に教える様な物。そこに何かあることが分かれば、後は、その場所を避けて通るだけ。

 罠を仕掛ける以上、確実に全員が把握しておかなければならない。これは、大元の部分になる。


 「自分達の罠に自分で引っ掛かってみろ。馬鹿以外の何物でもないと思え。」


 次に指摘したのは、全体的に市街地ステージの使い方が下手だと言う事。


 「建物の陰の使い方、貴様等の動き方が見て居て雑だ。地形の把握もかなり甘いと言える。」

 

 魔術祭のステージは、市街地か森林の二択。対策は可能だ。今日時点で、行動にムラが出るのは、まずいと言って良い。これは、早急に改善する必要があるとレベッカは主張する。

 それこそ、高い場所から監視したり、魔法を放ったり。適した場所を見つけるのは、短時間で行うのが重要。


 「市街地ステージは、配置が碁盤の目状と言う分かりやすい物じゃない。どちらのステージも事前に地図が配布される。だが、建物の高さや、木々の細かな配置までは記載されていない。だから、ある物を上手く使え。」


 市街地ステージの配置で、レベッカが助言を出す。使うかは別にして。


 「冬の魔術祭の基本的な形は、攻撃と守備の二重になる。だが、これを三重、四重にすると言う事もできるな。」


 それは、先程の摸擬戦でユウキが執った、全員で走り回る物とは対極的な位置にあると言える。

 一人一人の距離を話す事で、幾重にも防御網を張ることが出来る。また、最前線の攻撃部隊とは別に、攻防両方を請け負う部隊を作る物ありだ。

 全員が守りや、攻撃、または二分すると言う簡易的な物ではなく、戦術・戦法として確立させる。行き当たりばったりではなく、しっかり準備建てすれば、先程の摸擬戦の様ならず、コンパクトに収まる。


 「私の作戦、行き当たりばったりじゃないですよ。」

 「分かってる。だが、そう見えなくもないって事だ。評価をする側がどう捉えるか。見る目のない奴が見れば、それまでだ。」

 「でもそれって、冬の魔術祭の意味なくないですか?」

 「だから、見る目のある人間が見に来るんだよ。」


 魔法の専門家には、分からなくても、戦闘のプロが見ればまた違って見える。両方の側面が最も強く出る冬の魔術祭ならではとも言える。


 「明日1日でどうにかできる物ではないだろう。実際、他クラスも完璧なまでに仕上げるとは考えにくい。となれば、明日1日程度の付け焼刃でも十分乗り切れる。」


 明日の摸擬戦では森林ステージが行われる。そこでは、今日の反省を生かしつつ、新たな戦略の誕生をレベッカは求める。せっかく伝言魔法と言う物がある。実際にやってみることで初めて生まれる物もある。それを取捨選択することもまた大事だ。

 冬の魔術祭が目前に迫り、学生たちのやる気は一気に前へと進む。


 「勝利への鍵が何処に落ちてるのか、しっかりと探せ。以上。」





次回At158.最初の壁


今回で第7章完結です。次回からは第8章冬の魔術祭編スタートです!

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