At156.囮の囮
すみません、タイトル変更しました。
「この摸擬戦のルールは、旗を奪うか、全員を行動不能にすること。それは良いわね?」
基本中の基本を守備陣営と確認するユウキ。当たり前の質問に、彼女の意図が汲み取れない面々。
この摸擬戦は、何も、全員を行動不能に追い込む、戦闘型ではない。どちらかと言うと、頭脳戦に近い。ならば、わざわざ戦闘スタイルに気を使う必要はない。実際、最初の摸擬戦で、魔法隊は、空から急襲こそしたものの、学生には一切手を付けてない。
ならば、自分達だって、そうすれば良い。
「さて、問題。今、囮は幾つあるでしょうか?」
突然のクイズに、頭を回す。そもそも、囮が複数存在するのを、今初めて知った。
「ユウキ、まさか・・・。」
参謀である、イルミアが、ユウキの思惑に辿り着いた。そして、彼女の意図を読み取ったイルミアの表情は引きつっていた。そして、答えの辿り着いたイルミアを見て、不敵に笑みを浮かべるユウキ。
ユウキによって、作戦通りに動いている1組。その作戦は、ユウキが表向きに出した物とは別に、裏が存在していた。ユウキしか知らない、本当の作戦が。
この2回目の摸擬戦が、先程の様になるとは考えて居なかった。なら、作戦と思わせるための物を、複数用意する必要がある。次に、この摸擬戦に勝つためには、囮に囮を重ねる必要がある。それも、身内に気付かれないような。
そして、一番危険な物は、一番危険な場所に持って行く。
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事前に仕掛けたはずの罠を、まるで見えているかのように避けながら進んで来る魔法隊。下手に接近せず、必要最低限の距離を保つ。それにより、攻撃組の注意を残りに引きつけ、守備陣営にも悟らせない。これが実戦のプロ。
だが、プロになるほど、自己流が増え、応用ばかりを気にして行く。そして、もう1つ。非常識な考えは、排除されていくと言う事だ。
最初から、あり得ないと切り捨てられる考えこそ、最も気をつけなければならない。特に、レベッカのクラスはそうだ。悪知恵も、1つではない。悪知恵に、悪知恵を重ねると、面白い結果を生み出す。そう言う面では、冬は魔術祭と言うには、少し離れているかも知れない。
「ユウキ、旗のところ。」
旗の立っている場所に魔法陣が出現。そのまま、地面ごと旗は空中に投げ出される。それにとどまらず、旗は、何かに吸い寄せられるかの様に飛んで行く。
これでは、仮にユウキが何かの目的で囮を用意していても意味がない。イルミアは、そう思った。
「あ、旗が。」
守備陣営が慌てて、追いかけようとした時だった。
「みんな、落ち着いて。そのまま、守備陣形崩さないで。」
ユウキの声を聞いて、足を止める。
ユウキ以外の学生は、飛んで行く旗をずっと眺めている。そんな中、イルミアがユウキに歩み寄る。
「何を考えてるの?」
「私達は正攻法では勝てない。」
「うん。」
「でも、相手は正攻法で攻めてくる。」
それが、さっきのクイズに繋がるんだと察したイルミア。ユウキは魔法隊が執るであろう、無数の正攻法を全て頭の中に描いていた。その中で、1つだけ、確実に断言できることがあった。それは、魔法隊は、学生に対し、先制で戦闘行為には出てこない、と言う事。魔法隊の狙いは、あくまで旗である。
相手を欺くには、無数の仕掛けを用意する必要がある。どれも、本当の仕掛けに思わせ、ユウキが仕掛けた、勝つための仕掛けを隠すために。
「リリィに指示を出してある。みんな、びっくりするわよ。」
「その、みんなって、私も入ってるよね?」
いたずらな笑みを浮かべるユウキ。イルミアの背筋に悪寒が走る。
「1組のみんな、良く聞いて――。」
伝言魔法を併用しながら、1組全体に指示を出すユウキ。その指示は、至ってシンプル。
「散開!」
そう言って、一目散に走り出すユウキ。ユウキが走り出すのと、同時にみんなの背中に、旗が現れた。一体どこから?それが、真っ先に浮かんだ疑問。
「みんな、走って。」
ユウキに続き、イルミアも、みんなに走るように促す。イルミアは、ユウキが進んだ方向とは、別の方向に走り出す。
「ねぇ、イルミア、一体どういう事?」
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「これは、これは・・・。」
「馬鹿げてはいるが、今取れる手段の中では、良い手段と言える方だな。」
摸擬戦の様子を見て居るレベッカとシルファ。上からは、学生が散り散りに走っているのが見える。
一見、適当に走って居る様に見える学生達。だが、その中で、確実に目的も持って、走っている学生が複数人、確認できる。
「なるほど、20人を囮にして、残り5人が突入部隊か。」
「どうして分かったんですか?」
シルファの目には、ただ、学生たちが闇雲に走っているようにしか映っていない。だが、レベッカは違った。よく観察すれば、動きが明らかに違う学生が居る。
「ここまでの流れは全て、前座に過ぎない。恐らく、これからの本当の流れを指示されているのは、4人だけだ。」
「じゃあ、残りは・・・。」
「ただのエサだ。」
学生が思いつくにしても、実行するには難しすぎる内容だ。ここまで規模の大きな作戦、1人でも疑問を持った時点で、成立しなくなる。
そしてもう1つ。この作戦には大事な前提条件が存在する。それは、ここまで守っていた旗が、本物だと認識させる必要がある。
魔法隊が、奪った旗は偽物だった。その時点で偽物だと知ってるのは、ユウキと、一部の学生のみ。
「これ、後でもめませんか?」
「普通の学生ならそうだ。だが、このクラスは違う。」
学生それぞれに寄せらる信頼の厚さは、他者が思っている以上に深い。それが、レベッカのクラス。
クラスメイトから全幅の信頼を寄せれているのは、村正と言う男だけではない。各々が、入学からの半年以上で築き上げた物がある。それを知っているからこそ、考えあっての行動は、全て受け入れられる。
こんな真似が出来るのは、このクラスだけだ。だから、来年以降、この手法が成立する可能性は低い。
「5人突入部隊と読みましたが、合流する動きはありませんね。」
「むしろ、合流は無いだろう。」
「なぜです?」
「見ろ。」
レベッカの指先には、学生を追いかける魔法隊があった。無駄だと分かって居ても、追わずには居られない。放置すれば、それだけで、自分達が囲まれる。勿論、その前に行動不能に追い込めばいい。
散り散りに動き周る学生達。どの学生が、本物を持っているのか、どの学生が自分達に寄ってくるのか、魔法隊からは一切判別できない。
「なるほど、囮の囮か。」
「はい?」
「あいつが突入部隊に起用した面々が、いつもと違ってな。」
それは、シルファや魔法隊には分からない、レベッカにしか分からない物だった。
今回、ユウキは突入部隊に、村正、イルミア、リリィの3名を起用してない。それは、村正は勿論の事、警戒される確率の高い3人をあえて外した。むしろ、囮として起用することで、魔法隊の注意を引く役目を与えた。イルミアに関しては、直接伝えたわけでは無いが、イルミアとの阿吽の呼吸で、それを実現させた。
リリィと村正には、囮の役目を伝言魔法で通達。まず最初に、リリィが動くことで、別の作戦の可能性を魔法隊に匂わせる所から始まる。実際は、なんの意味もない、ただの囮。この囮は、最もそれらしい人間が担う事で成立する。だから、あえて村正とリリィには伝える必要があった。
「詳細を知る者と、知らぬ者に分けることで、相手側にも混乱を与える。それが、奴の狙いだ。」
「本当に彼女は1年生ですか?」
その質問に、レベッカは、何故か嬉しそうに答える。
「誰の教えを受けたと思う。あいつは、私が個人指導した事のある学生だぞ。」
ユウキの考えを見抜いたレベッカ。これから、ユウキ率いる学生が、どんな展開を見せてくれのか、楽しみでならなかった。
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「じゃ、紺野君。私が居ないの、悟られないように。」
「結局、ユウキの指示で意味なくなるけどね。」
笑いながら本体を離れるリリィ。周囲を警戒しながら、進んで行く。
振動を感知する魔法で、足の運びを見分けるリリィ。学生とプロの魔法隊では、歩き方にも違いがはっきりと出る。その違いを利用して魔法隊を避けて行く。
暫く動き回ったところで、ユウキからの指示が届く。ここまで来たと言う事は、後は逃げる様にして相手を引きつけるだけ。この先、ユウキが誰を突入部隊に選んだのかまでは知らない。それは、そっちを気にされたくないユウキの考えから。
リリィに求められるのは、ただ闇雲に走り回ることではない。それをしっかりと頭の中で考える。ただ逃げるだけなら誰にでも出来る。自分に最初に与えられたのは、攻撃部隊を率いる指揮官。ならば、頭を使って行動する。イルミアなら、そうするだろうと考えた。
「さて、どうするのが正解か。」
リリィは、自分の背中に現れた旗を手に取る。いつの間にか、背負わされていたダミーの旗。一体、いつこんなものを持たせたのか問いたくなる。
自分を攻撃に回さず、囮に使う。しかも、ダミーの旗を持たせて。尚且つ、自分は真っ先に別行動を支持された。
「あれ、私、一番危なくない?」
手に持つ旗が急に恐ろしい物に見えて来るリリィ。その予感は当たる。
「あっ――。」
魔法隊の1人と目が合うリリィ。空白の時間は3秒無かっただろう。だが、その時間はもっと長く感じられた。魔法隊の隊員が腕を伸ばしている。すぐに、魔法が来ると察すると、全力疾走で逃げるリリィ。
「考えるんだ。焦って逃げるんじゃなく、私がそうだと思わせるために、走れ。」
自己暗示とまでは言わないが、自分の行動を明確にして行く。ここから、もっと多くの魔法隊の人を引きつける必要があるのだから。理想は、迫ってきた人数全て。それが出来たら、満点以上だ。
魔法隊が持たされたのが偽物だと分かった。なら、誰が本物を持っているか。
「時間が経過すれば、それだけ魔法隊の動きが変わるはず。」
本物の旗を誰が手にしているのか。それが不明ならば、見つけ次第撃破すれば良い。そうすれば、全滅で勝敗が決する。
自分のは偽物だとすぐに分かった。じゃあ、本物を持ってるのは誰か。それを考えてはいけない。
「囮の囮、かぁ。」
分かりたくなかったユウキの真意が分かってしまった。
街中を逃げ回るリリィ。建物の中に入り、身を隠す。
「獲物を見つけた獣は、視野が狭くなるんだよね。」
リリィは、建物の入り口に罠を仕掛ける。相手が入ってくると煙幕が発生する魔法だ。
「そして、自然の恵みを受けし人類・その力を無限にするは我の力・」
すかさず詠唱を始める。リリィが入ったのは、追手からも十分分かりやすい場所。そんな場所に逃げ込む理由は、1つしかない。
建物に逃げ込んだ相手を見て、その先になにか待ち受けている。それは簡単に考え付くが、それが、突発的に逃げ込んだような場所だと、その考えは出てこない。特に、相手との距離が短ければ短いほど。
リリィを追っていた魔法隊の人数は4人。今、周囲の建物をくまなく探している。
ユウキの指示で、学生たちが逃げ回るが、既に、4人脱落している。その分、学生1人に割ける人員も増えて行く。その、魔法隊を多く引きつけるのがリリィの役目でもある。
村正、イルミア、リリィを始めとする、魔法の実技の腕が確かな学生はマークされやすい。そして、ユウキが旗を持たせる可能性のある人物でもある。
「あとはここだけね。」
魔法隊が、リリィの潜伏先を突き止める。捜索時間を考えて、リリィが何か罠を張ってる可能性を考慮する魔法隊。慎重に建物の中に入る。
リリィは、詠唱を終え時を待つ。下手に急げば自分が負ける。
「ストップ。」
「――っ。」
魔法隊の1人が地面に仕掛けられた罠を見破り解除する。解除されても、冷静さを欠かないように慎重になるリリィ。今のタイミングで飛び出せば、間違いなくやられていた。
静かに深呼吸し、中に入るのを待つ。
「やけに埃っぽいですね。」
不気味な雰囲気を漂わせる建物内。埃っぽいのは、半壊した建物の破片などが舞っているから。
建物の中心辺りに進んだところで、魔法隊の一人が足を止めた。それは、あることに気付いたからだ。
「まずい、全員外にっ。」
「鉄の雨!」
魔法隊の頭上から、刃と化した瓦礫が襲ってくる。
魔法隊の隊員が気付いたのは、建物の地面だった。半壊しているのに、その破片が全く無かった。それは、リリィが魔法に使用しているから。
魔法隊に気付かれ、今がその時だと判断したリリィは魔法を発動。魔法隊達は直ぐに防御魔法を発動。攻撃を防いでいく。
「っ居ない!?」
一通り攻撃を凌ぎ、砂煙が晴れると、そこにリリィの姿は無かった。はなっから、リリィには魔法隊を倒そうと言う考えは無い。そもそも、1年生の彼女と、プロたち。力の差は歴然だ。だが、足止めは彼女でも可能だ。
走りながら、リリィは魔法隊の人達を流石だと思っていた。すぐに防御魔法を発動出来ること。防御魔法を咄嗟に使用できるようにするのは、1年生の重要課題の1つ。
魔法隊の人を完全に引き離しちゃ駄目だ。今のである程度、私がそうだと思わせられたら良いんだけど・・・。
ユウキの描いた通りに事が進む事を願うリリィ。そして、彼女の願い通り、リリィに目をつける魔法隊が増えて行く。
後は、突入部隊が魔法隊から旗を奪えば勝利。
のはずだったが、
「はーい、摸擬戦終了。学生組の旗が奪われた事により、勝者魔法隊~。」
審判を務めるレベッカの声が響き、摸擬戦が終了する。
やはり魔法隊は強かった。プロの腕のすごさを1人、実感していたリリィ。
摸擬戦が終了し、全員が一ヵ所に集められる。
「あとちょっとだったんだけどね~。」
ユウキが悔しそうに話しているところに合流する。どうやら、こちらも良い所までは、行ってた様子。
「みんな~。」
「よ、お疲れさん。」
その後も続々と集まってくる。気になったのは、誰が本物の旗を持っていたのか。集まってくるクラスメイトを見て、リリィに疑問が沸いた。誰も、旗を取られたと言う表情をしていない。もっと言うと、みんな、誰が持っているのか知らない。
「あ、紺野君。」
「うん?」
村正に駆け寄り、持っていたのが村正かと訊ねる。
「本物の旗持ってたのって紺野君?」
「いいや、今回僕は、囮になる事しか聞かされてないよ。」
学生、魔法隊全員が揃ったところで、レベッカとシルファがやって来る。
「貴様にしては、良くやったんじゃないか?」
1回目に比べれば大分健闘したと言えるだろう欲を言えば、勝利を収めたかったが、そこはやはりプロが勝った。
旗を取った、と言う事は、本物の旗を持っている人物を見抜いたと言う事だろう。闇雲に撃破して行った学生の中に、偶然本物の旗を持った学生が居たと言うような、粗末な結果ではない。1組のみんなが気になるのは、誰が持っていたか。
「おい、メアリ。」
「はい。」
「誰に本物の旗を持たせたか、教えてやれ。」
レベッカの言葉に、何故か気まずそうになるユウキ。
「いや、その~。」
ゴクリ。何故か全員が息を飲む。
「先生・・・。」
そっと、レベッカを指さしながら答えるユウキ。そのあまりに予想外の答えに、誰も反応を示さなかった。
「え、せ、先生?」
「だからそうだって言ってんじゃん。」
頬を赤らめながら村正に答えるユウキ。
一瞬聞き間違えではないだろうか、そう思ったのは村正だけではない。そして、魔法隊の隊員も、耳を疑った。
ユウキが本物の旗を預ける対象にレベッカを選んだのは、それが一番安全だったから。他の学生に預けると言う事は、常にクラスメイトの心配をする必要がある。だが、レベッカならその必要はなくなる。つまり、相手から旗を奪う事に最も集中するには、自分達を心配しない、と言う状況が必要になる。レベッカが所持している事で危険なのは、その事が露見した時。もし、バレれば、レベッカは素直に渡すからだ。
「で、今回、学生組のリーダーであるメアリが、旗の心配をしていないのが気になった魔法隊によって、見抜かれたって訳だ。」
「私も驚きました。最初に彼女が来た時、何を言っているのか。」
レベッカが本物の旗を持っていると見抜いたのは、メフレンと言う女性。
「本当、よくこんな事思いつきますね。」
「いや~、先生に持たせておけば、候補から外れるから安全だと思ったんですけどね。」
かなり自信のある作戦だったらしく、この摸擬戦で勝てなかったのが相当悔しい様子。
反対に、ユウキ以外のクラスメイトは、彼女の思いつくアイディアに関心するしかなかった。
「よ~し、貴様等。今日はこれで終いだ。まずは休め。」
対して活動していないはずなのに、どっと疲れが押し寄せる。今日はゆっくり休もう、そう決める。
「17時から、反省やるからな。」
学生たちの表情は、一瞬で曇った。
次回、At157.勝利の鍵




