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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第7章 専門分野の選択
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At154.一泊二日秘密強化合宿

 12月20日。今日が、クレア学園中期最後の日。この日、1年生がこの期間中に悩んだ、2年次以降の分野選択の希望調査の最終提出日となった。この集計を元に、来年度以降のクラス分け、及び、自分の進むコースが決まる。

 今日以外にも、回収日はこれまで2回あり、最終日まで悩んだ学生は少ない。希望は、先着順ではないので、じっくり悩む事も出来た。今後4年間の学生生活を決める大事な選択。悩んで損はない。

 この1年1組で、もっとも悩んでいたのが村正だった。中期スタートからずっと、あれこれ悩んでは、色んな人に相談してみたりした。そこで言われた言葉が、どれも重く響き、全部大事に聞こえた。結果、何が良くて、何を基準に判断すればいいか分からなくなった。面談では、魔法研究科の2つで迷うと言ったが、完全に技術を捨てたわけでは無い。むしろ、過去の技術を知らなくては、と言う思いもあった。だが、そこには、以前シロに言われた言葉が引っ掛かった。そして、この3日間はずっと悩み続けていた。


 「よーし、まだ出してない奴、さっさとだせぇ。」


 レベッカの呼びかけにより、まだ提出してなかったクラスメイトが続々と出して行く。


 「紺野~。貴様まだかよぉ~。」


 村正がこの3日間ずっと唸ってるのを見てるので、レベッカも呆れて来た。大事なので、呆れては駄目だと自分に何度も言い聞かせてるが、我慢の限界が近い。


 「第1希望が決まらないの?」

 「うぅん。第3は決まって、あと2つ。」


 前の席に座るイルミアが心配になって声を掛けて来る。イルミアは、最初の回収で既に提出済み。参考までに聞こうとしたら、リリィがまだ出してないから秘密と言われた。そのリリィは、今提出している。


 「ユウキは、魔法学だよ。第1。」


 最近、イルミアは僕とユウキの事に関して、結構言うようになったよね?


 自分にとって、何が一番良いのか。仮に、第1希望が通らなかった場合、どうなるのか。そこまで考えないといけないのが、難しいところだ。

 さらに5分唸る村正。1組のみんなは、村正が何を選ぶのか興味深々。上手く行けば、来年以降も同じクラスになれるのだから。


 「じゅ~、きゅ~、は~ち。」


 レベッカが締め切りのカウントダウンを始めた。このタイムリミットを過ぎると、どうなるのか誰にも分からない。

 レベッカのカウントダウンを聞いて、焦る村正。


 「な~な、ろ~く、ご~。」


 椅子にふんぞり返ってるレベッカ。彼女から飛んで来る圧が強い。


 「よ~ん、さ~ん、に~。」

 「先生もうちょっとだけ!」

 

 思わず、叫ぶ村正。しかし、無慈悲にレベッカのカウントダウンは続く。


 「いってんはち~、いってんろく~。」


 刻み始めた。誰もが突っ込んだ。なんだかんだ、甘い。


 「いってんよ~ん、いってんに~、い~ち。」


 残されたカウントはあと僅か。村正の思考が慌ただしくなる。

 今悩んでるのは、魔法研究科の2つのうち、どちらを優先するか。


 「れーてんご~。」


 減った。え、いきなり残り0.5!?

 ああ、もう。さんざん悩んだ。どっちも、僕にとっては重要。結局何を取っても、大変なものは変わらないんだ。なら、正直になるまでだ!


 「れーてんに~。」


 第一希望:魔法研究科・魔法学コース

 第二希望:魔法研究科・魔法史コース

 第三希望:魔法技術科・魔法史コース


 「ゼーーー・・・。」

 「先生出来ましたーーーー!!!」

 「はい。」


 あれだけ、威圧しながらも、しっかり受け取ってくれる。

 そもそも、今日レベッカ先生が僕らを急かすのには理由があった。

 

 「うっし。じゃあ、本題入んぞ。」


 そう。今日のこの時間に設けられたのは言うまでも無くあれである。


 「聞け貴様等。23日から冬の魔術祭だ!」


 レベッカが大声で話しだす。その声に驚いてか、普段の癖か、皆背筋を正す。

 冬の魔術祭は12月と1月をまたぐ。

 今更感があるが、この世界の暦の進み方は、村正の元の世界と同じだった。1年365日、1日24時間。うるう年までしっかりある。この暦は大昔、竜によって授けられたものだと、歴史の授業で習う。

 ただ、イベント事まで同じではない。例えばであるが、この12月。元の世界ではクリスマスシーズンだが、この世界にはそんなものはない。別の季節に、ただ似たような物は存在している。


 「良いか。この冬の魔術祭で我々1年1組は優勝する。」


 何故、レベッカがこの冬の魔術祭に力を入れているのか。それは、魔術祭の中でも、特にレベッカに関わりが強い内容にであるため。そこで優勝しないと、彼女の威信に関わると考えて居るため。

 レベッカの前の仕事との繋がりが少なからずあるのだ。


 「そこで、以前通達した通り、明日、明後日で我々は合宿を行う。良いか、そこで徹底的に作戦を練る。」


 魔術祭本番では、教師が直接口出しすることは出来ない。あくまでも、学生のみで行われる。

 そこでレベッカは、この中期の授業を通して、各学生の適性を見分け、どう分けるかも考えた。それも、何度もシミュレーションをして。

 冬の魔術祭は学園が所有している広大な敷地で行われる。それぞれのクラス陣地にある旗を奪う、若しくは全員を行動不能にするかの二択。

 戦闘方法は、森の中か、市街地戦。どちらも、広大な敷地に魔法で作られた特殊ステージ。

 基本的な形は、攻撃と守りの2班。そこから、アレンジを加え、戦略を練っていく。


 「詳しい中身については明日話す。本日は以上。」


 レベッカの頭の中でどんな事が考えられているのか。全く読めない村正たち。忠告として、明日からの合宿のことは他言無用にされている。

 戦略が少しでも、他クラスに漏れると、一から練り直しになると。ただし、情報を盗んでくるのは構わないようだ。


 「はあ、気合い入ってるな~。」

 「レベッカ先生の事?」


 レベッカが教室を後にすると、村正とリリィが話し始める。

 今回の気合いの入りようが、普段と違うのは誰でも分かる。それこそ、夏休み開けテストの時のテンションとは段違い。

 これは、優勝出来なかった時、なにが起きてもおかしくないことを示す。それだけに、彼女らに掛かるプレッシャは大きい。


 「まぁ、そうだね。でも、考えはあるって。」

 「その考え、まともな物じゃないと思う。」

 「例えば?」


 そんなもの、十中八九僕が碌な目にあわない。

 最悪、クラスのためにちょっと囮になってこい、とか、言いそう。

 別に良いけどさ!もう、慣れたし!


 「囮とか、囮とか、囮とか。」


 同じ言葉を呪文のように繰り返す村正に、引き気味のリリィ。


 「それ言ったら、私だってそうじゃない?」


 良いように使いやすいと言うのは、共通点の村正とリリィ。


 「「はぁ~あ。」」


 2人して大きく溜め息を吐く。


 「マサ君!」

 「なーに?」


 ユウキに呼ばれた村正は顔を上げる。


 「私ちょっと用事あるから先帰ってて。」

 「あ、うん。分かった。」

 

 そう言うと、ユウキは「じゃあっ」と言って教室を後にする。

 村正は、暫く教室に残っていた。今期の成績が気になったのだ。別に、悪いわけでは無い。平均よりも上に食い込んでいるし、特段何かを気にする部分は無い。

 ただ、一点だけ気になる箇所がある。それが、魔法の実践。細かい作業を苦手とする村正は、どうしても、ここが足を引っ張ってしまう。これを残り4年間で改善しなくてはならない。約1年、魔法を実践してきたが、一向に良くなる傾向が見られない。シギーやエレンに相談しても、まだ経験が浅いからだろうとしか言わない。2人の意見が的外れとは、村正も思ってない。実際、魔法を初めて使ったこの1年。急激に成長できるとは思っていないが、村正は自分の事を手先が器用だと思っていた。

 

 「体を動かすのとは、またちょっと違うのかな?」


 シロに言われた、魔法を理解すれば、その魔法を使う事が出来る。それは、あくまでも基本の形として。言ってみれば、高難度の技術が多くなる程、理解しても出来る可能性は下がる。それは、村正の個人的な技量の話。頭で理解しても、体が追いつかない。


 「なんでもイメージ通りに行っても、面白くはないと思うよ?」

 「イルミア。」

 「ユウキは?」

 「用事あるって、先に帰った。」


 レベッカの用事で出ていたイルミアが戻ってくる。どうやら村正の話を少し聞いていた様子。


 「出来ないよりかは良くない?」

 「出来ない事があるから、頑張ろうってなるでしょ?」


 確かに、イルミアの言う通りかも知れないな。

 出来ない事があるから、余計に先へ進もうと出来る。なんでも出来てしまえば、結局、目標を見失う。今の僕は、なんでも出来てしまうチート野郎じゃないんだ。普通の学生。それだけだった。

 それに、ユウキだって、僕とは違う場所で、僕の前を歩こうと必死なんだから。あの、ユウキでさえそうなのだ。


 「多分、なんでも出来ちゃうと、何にも面白くなくなるよ。きっと。」

 「そうだね。」


 これからも、きっと、出来ない事が増えて行くんだと思った村正。出来ない事が増えるのは決して悪い事ではない。新しい事に出会う。それに挑戦する。当然、初めてなので出来ない事の方が多い。そうやって、どんどん出来ない事が増えて行く。だから、出来ることも増えて行く。それが成長なのだ。



==================================================


 

 翌日――。


 「全員揃ったな?」


 場所は、インディアル王国所有のとある場所。場所は極秘。

 この場所は、レベッカが用意した、王国軍が訓練などに使用する訓練場。周辺には広大な草原が広がっている。

 

 「はい!」


 クラス全員が返事を返す。


 「よろしい。では、これより、冬の魔術祭に向けた合宿を始める。」


 合宿内容は、冬の魔術祭で行われ内容を実践で行う。冬の魔術祭は、クラス対抗の団体戦。そのため、机上であれこれ案を出すよりも、さっさと実践で感覚を掴んだ方が早いとレベッカは考えた。

 そして、団体戦の訓練なので、相手も必要になる。その相手によ、用意されたのが。


 「そして、今回の合宿に協力してくれるのが、我がインディアル王城に勤める、魔法隊の皆さんだ。」


 ようは、魔法実戦のプロたちである。

 ここに、彼女等が呼ばれたのは、レベッカのかつてのコネである。もっと言うと、レベッカに恩がある魔法隊の偉い人を、過去の恥ずかしい話を暴露されたくなければと、脅した。

 その人の巻き添えを受けた精鋭たちがここに集められた。その人たちの中には、村正の見知った顔がチラホラ。テンは今回居なかったので、彼女では無かったんだなと思った。

 

 「魔法隊の皆さんの多くは、貴様等の先輩だ。よって、容赦なくぶっ飛ばしてもらうから、覚悟しておけ。」


 それを今言うか?と全員が思った。

 今回の合宿は、今日と、明日の計2回、魔法隊の人達との練習試合で行われる。

 現在の時刻は午前11時。1回目の実践は午後2時から。それまでの時間を使って、ミーティングが行われる。


 「いいか、今回の練習試合だが、向こうは一切容赦してこない。」


 一切手加減なし。学生相手の合宿の内容の1つ。そんな甘い考えは今の内に捨てる必要がある。

 レベッカが今回の合宿の相手に、魔法隊を選んだのは、もっとも実践『実戦』慣れしているから。魔術祭の目的は実戦ではなく、実践だが、冬の魔術祭は、戦う意味合いを含んでいる。ならば、学生同士で相手を指せるよりも、プロと相手させた方が、成長に繋がると判断した。

 今、村正達がミーティングをしている間に、魔法隊側も同様に作戦会議を行っている。今回の人数は、学生たちと同じ25人。


 「その上で、まずは、私が事前に考えた配置で行ってみる。その上で、反省を行い、明日に繋げる。質問は?」

 「はい。」

 「ヒュンゲル。」

 「摸擬戦の内容は、本番と同じなんですか?」

 

 そうでなければ意味がないと、レベッカはあっさり返す。リリィがもっと食い下がるかと思ったが、彼女もすんなりと、納得した様だった。

 

 「何が聞きたかったの?」

 「確認、かな?」


 隣に座るカロに聞かれたリリィは、今回の摸擬戦に裏がない事を確認しただけ。レベッカの事だ、また裏で何か企んでいるかも知れないと、心配になっただけ。


 「じゃあ、基本的なポジションについて説明して行く。」


 レベッカは、正面のボードに書きだしながら説明して行く。


 「この学年は、全てのクラスが25人編成で偏りが無いと言う、特徴がある。」


 人数に差が生まれると、それだけでハンデになりやすい。その点では、どのクラスも平等であると言える。


 「このクラスでは、基本的に大きく2チーム。細かく3つに分ける。」


 まず大きく分けて攻撃と守り。そして、攻撃陣営を2つに分ける。


 「まず、各クラス、大将の役割り1人選出する必要がある。基本的には、大将が全体の指揮を執ることになる。」


 冬の魔術祭では、大将についた人物の指揮の腕が結果を左右すると言っても良い。そこで、レベッカはもう何役か作っている。


 「それから、このクラスは、作戦長、つまり参謀だ。それから、攻撃部隊を直接指揮する指揮官の2つだ。」


 基本的に、守備側に、参謀と大将が。攻撃側に、指揮官が付く。そして、それぞれの役割りのメンバーも既にレベッカの頭の中に浮かんでいる。中期後半に差し掛かった頃、レベッカの口から既に伝えられていた。各役割のメンバーはレベッカによって決められると。それは、贔屓目なしに、確実に勝つためだと。それに、レベッカは全員を評価したうえで選び出すと。

 要は、文句は一切受け付けないと言う、いつも通りのスタンスだ。


 「じゃあ、メンバー発表してくぞ。」


 普通は、選ばれた方が良い、そう考える。だが、ここはレベッカ率いる1年1組。はっきり言って、選ばれたくないと思う方が多い。しくじった時、後が怖い。


 「まず、作戦長、ネオラオティ。」

 「はい。」

 「続いて、指揮官、ヒュンゲル。」

 「えぇ!?」

 

 ここまでは、なんとなく、予想通り。そして、このクラスの対象になったのが、


 「そして、大将は、メアリ。」

 「は~い。」


 この人選に、特に文句が出る事はなかった。ユウキが全体指揮を執るのみ、イルミアが参謀につくのも、普段の2人の様子を見て居れば納得だ。その2人の指揮で攻撃部隊を動かすのであれば、リリィが適任だ。だが、現場判断はリリィが行う事になる。その点に最も不安を覚えたのは、他でもないリリィ本人。レベッカは、攻めを率いる部隊の指揮官にリリィを選んだ理由を話す。


 「ヒュンゲル。貴様は、いざという時の生き汚さがあるだろ。」

 「そんな理由ですか?」

 

 指揮官の役割りを与えるにあたって、レベッカは2つの部分を評価基準にしてる。

 1つ、今回の魔術祭で上官に当たる、ユウキとイルミアとまともに意見交換ができる。そして、指示に従える者。

 2つ。現場での判断を瞬時に行え、現場で起きた事を速やかに報告出来、無駄な深追いはしない人物。

 以上の条件下で最も適正だったのがリリィだ。


 「貴様がただのアホではないことくらい、私だって知ってる。」

 「アホはアホなんだ。」

 

 次に、攻守のメンバー決めを行っていく。攻撃陣営の指揮はリリィが、守備陣営の指揮をユウキが執る。

 攻撃陣につくのが、13人。守備陣につくのが12人。そして、それぞれのメンバーも決まった。


 攻撃陣営

 指揮官:リリィ・ヒュンゲル。以下、サリー・マイナ。ルイス・ドローシー。エミール・アンジェル。スミカ・ハウリン。ミーナ・オルタン。ティア・ネイル。マジェリカ・フラウ。マナ・ハイラン。カロ・ヴェネツ。リナ・フォード。アシュリカ・ムーン。そして、紺野村正。


 守備陣営

 大将:ユウキ・メアリ。作戦長:イルミア・ネオラオティ。以下、アオネ・ジュール。ミレーネ・リオネ。シアン・メルト。キシキ・ネイト。シウネ・マイル。アテナ・イズン。ソニア・マハル。メアーノ・シンク。スオカ・ハロイ。アンナ・ストローム。


 以上が、総勢25人の内訳である。

 そして、攻撃側は、村正と、カロ、ルイス、リナで別動隊が組まれる。この4人に与えられるのは、奇襲と、即座に撤退。つまり、相手に混乱を与え、引っ搔き回す役割。


 「こっから先は、メアリとネオラオティ中心に話を進めろ。これは、本番でも同様だ。」


 レベッカに言われた通り、ユウキとイルミアを中心に、本日の摸擬戦の作戦が練られていく。

 ここで、イルミアが、守備側から2人、偵察組を作ることを提案した。


 「偵察を守備から?」

 「うん。攻撃陣営から人員を割くのは難しい。だったら、こっちから。」

 

 現在の最終決定権はユウキにある。そして、作戦の立案を行うのはイルミア。


 「みんなの意見はどう?」

 

 2人に、全てを任せるのが良いわけでは無い。そんな事、このクラスの人間であれば、誰でも分かる。だから、次々と案が出て来る。その浮かんだ案を取捨選択するのが、ユウキとイルミアの役割り。

 攻撃側の作戦であれば、そこにリリィも加わる。


 「なら、偵察を攻撃と守備から1人ずつ出すのは?」

 「そうね。それならそれぞれの陣営に報告も出来るわね。」

 

 上がった案をユウキが吟味して行く。


 「攻守の連絡は?」

 「それは、伝言魔法で行うわ。それが一番じゃない?」


 伝言魔法以外にも、何か連絡手段が欲しいという声が出た。例えば、緊急時に使えそうな物。

 守り側がピンチであることをいち早く知らせる方法など。

 

 「お互いの陣地って、その位離れてるの?」


 村正の質問にクラスの皆が、地図に目を向ける。森林ステージ、市街地戦。どちらも、両陣地の距離は約2000m。学生が使用可能な長距離魔法の最大射程が約700mなので、かなり近づく事になる。

 500m以上の長距離魔法は、威力が落ちたり、相手に感知されやすいと言うデメリットもある。その魔法の発射位置から自分の位置が割れる可能性もある。

 反対に、無理に接近すれば、即囲まれる。


 「なら、奇襲役を使うまでね。」

 「は?」


 ユウキが何を言おうとしていうのか、僕にはすぐに分かった。僕が最も恐れて居たあれだ。


 「マサ君を中心に奇襲を仕掛ける。そして、マサ君は無視して、他3人が全速で離脱。」

 「おいっ。」

 「別に、マサ君1人、敵の手に落ちたって別に何ともないし。」


 僕の価値って一体・・・。


 「でも、ユウキ。」

 「うん?」

 「本当に、紺野君良いの?」

 「むしろ、その方が都合は良いと思う。」


 村正はある種イレギュラー的な存在。村正が居るのと、居ないのでは、相手側の出方が大きく変わる。

 村正は良くも悪くも目立ちすぎる。村正が出るだけで、罠かも知れないと警戒されてしまう。だから、村正を敵の手に落す場合、上手く落とす必要が生まれてくる。


 「イルミアはどう思う?」

 

 ユウキにふられ、イルミアも自分の考えを伝える。


 「紺野君が出て来たら、普通は囮だと思う。」

 「つまり、マサ君を囮に使うのは想定内、か。」

 「うん。だったら、紺野君以外の方、あ、でも駄目か。」


 一瞬浮かんだ、案を直ぐに引っ込めるイルミア。

 村正以外の誰かが、落ちた方が、相手を油断させるのに有効だと思った。だが、それは、余計相手に警戒を与えるだけだとすぐに察した。

 村正が敵に落ちた。その方がよっぽど、1組へのダメージは大きく見える。自分達だけでなく、相手側にどう見えるか。そこまで考えられるから、彼女が作戦長に選ばれた。


 「なら、囮はなしね。」

 「良いの?」 

 「まず、マサ君にそこまで器用な事は出来ない。すぐに、ボロを吐いて、私達が潰される。」


 それをどうにかするのが、攻撃担当のリリィの役目。だが、リリィにそんな難しい事を指揮できるか不安な、ユウキとイルミア。単に攻撃チームの指揮をするだけなら問題ないが、村正救出を行いながら、相手を殲滅、または、陣地の旗を奪うのは難しい。


 「僕、そこまで口軽くないよ?」


 自分の口の堅さを示す村正だが、ユウキとイルミアには全く信用されていない。それに、尋問の方法はいくらでもある。何も、馬鹿正直に吐かせる必要はない。


 「はあ。紺野君、私の目を見て。」

 

 イルミアが村正に目を併せる。彼女目を真っすぐ見つめていると、不思議な感覚が村正を覆う。


 「紺野君、ユウキの体重は?」

 「は?」

 

 ユウキはイルミアの訊ねた事に驚く。しかし、それ以上に、


 「51.3」

 「あ゛あ゛!?」

 

 ユウキの驚きようから、正解なんだと思う1組の面々。満足げに村正から離れるイルミア。それと入れ替わるように村正の前に立つユウキ。ユウキは右手に持った杖を思いっきり上げる。イルミアは耳を塞いでる。これから何が起きるか分かってるのだ。


 「マサ君の、バーーーーーカ!!」

 「ギャアアアアアアァァァァァ・・・。」


 最近体重を気にし出したユウキ。先日、体重を測った時の履歴が、たまたま残っていたのを、村正が見てしまった。

 目に涙を浮かべたユウキの、渾身の魔法が村正に放たれる。

 断末魔の様な悲鳴を上げた村正はそのまま気絶して、床に倒れ込んだ。

 

 「ユウキ、ちょっとやり過ぎ。」


 イルミアがそれを言っちゃ駄目でしょと、みんなが思うがそれよりも、村正がユウキの体重を知っていた事に興味深々。2人は、もうそこまで行ったのかと。


 「あんたも、なんてこと聞いてんのよ!」

 「自白魔法。効果絶大だったでしょ。」

 「もっと他の質問あったでしょ。」


 今ので、自白魔法の強さが良く分かったのは事実だ。ただ、イルミアが今使ったのは高度な魔法。普通に、学生が使うとまでは考えてないが、念のためにと伝えて置く。どこにどんな魔法を使う魔法使いが居るか分からないのがこの世界。

 今も床に倒れている村正を解放しているリリィ。レベッカは、呆れて物も言えない様子。


 「話の続きだけど、紺野君は前に出すとして、その後ろに3人つける。これは?」

 「奇襲が成功したとして、その後どうする?」

 「紺野君達の後方に、リリちゃん達も付いて行く。途中で分かれて、本体は奇襲の結果を待つ。失敗した時は、3人を回収して、一度本陣に戻る。」

 「それで、防御を固める、か。」


 簡単に言うが、両陣営は2000m離れている。往復で約4000m。体力的な限界もある。


 「最初の摸擬戦。ステージは、市街地戦か。」

 「ユウキ、どうする?」


 クラスメイトから、判断を仰がれる。

 

 「私達守備組も予備隊を作ろう。」

 「予備隊?」


 ユウキの考える予備隊は、奇襲が失敗した段階で行動開始。今回の市街地戦では、罠を仕掛けやすいと言うメリットがある。予備隊は、奇襲失敗と同時に陣地を離れ、攻め込む相手を待ち構える。

 そこで、ある程度の数を減らしたうえで、そのまま相手陣地に接近。


 「守備が攻撃にまわるの?」

 「攻撃メンバーが戻って来てるなら、それも出来る。守りの指揮はイルミアに任せる。」

 「つまり、ユウキが出るんだね。」


 攻撃組が戻って来た時点で、攻撃組の体力は残り僅か。なら、動ける守備側から人員を出すのは自然である。


 「けど、長距離魔法だと、防御魔法で防げない?」 

 「それは大丈夫。生命分野の魔法を使えば、なんとかなる。」

 「まって、すぐにユウキが動くのは危ない。」


 問題は、ユウキがその場を離れることで、全体指揮に乱れが生まれる可能性。奇襲失敗と同時に動くと言う事は、攻撃組が戻る前に動くことになる。そのタイムラグが命取りになる可能性もあるのだ。

 その問題に対し、解決策を提案したのはリリィ。彼女は、相手側が攻め込むのは多くても、8割程度の戦力までしか出さないと見立てた。その根拠として、それ以上出すのは、自殺行為に近い。守りをゼロにするのは論外。反対に、追手が来ない事もあると言う。

 そこで、彼女が提案するのは、奇襲失敗と同時に、撤退する攻撃組の半数は途中で待機すると言う物。残り半数で自陣に戻り、ユウキ達に報告。残り半数は、再度行動可能な状態で待機。


 「だから、別動隊じゃなく、伝令で良いと思うよ。ユウキとイルミー達で私達攻撃組の指針を決める。そして、私達は準備ができ次第行動開始。」

 「それなら、魔法でも。」

 「そこは心理戦。」


 魔法で出来ることでも、人が動けば、別の意味を持つ。その心理を利用し、相手の行動を遅らせる。その人物が意外であれば尚更。


 「今日はこれでやってみよう。先生もどうなるか気になる様だし。」

 「そうね。プロ相手にどこまで出来るか、やってみようじゃない。」


 ユウキの声に、1組のみんなが頷く。


 「いつまで寝てんのっ。」

 「いって!」


 杖で頭をどつかれた村正が勢いよく体を起こす。顔を上げると、そこにはユウキが立っていた。


 「マサ君、仕事の時間よ。」







次回At155.手加減なし


すみません、もうちょっとだけ、今の章続きます。

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