At153.女と少女と見た目幼女
「そろそろ本題に入ろうか。」
切り出したのはリウン。要らぬ話で時間を割かれるのを嫌う彼女らしい切り込みだ。
黙って頷くイブとシロ。リウンとイブが並び、正面にシロが座る。この構図はシロが作り出した。シロが、この話の場の主導権を握る為に。とはいえ、開始暫くはお互い、今日まで得た事の状況報告。ここで、いち早く主導権を握る必要がある。そうで無ければ、得られる物も得られない。
「ここは、私からお話しするのが礼儀。でしょうか?」
誰が最初でも良いと言う態度のイブ。リウンは、シロの発言をよく吟味する。今大事なのは2つ。シロからの発言であること。そして、今この場に村正が居ない事。村正が不在と言う状況が一番重要になる。言ってみれば、村正に聞かせられないような内容が飛び出てくる。その予測を立てるリウン。シロに先に喋らせるのが得か、後に喋らすのが得か。これ次第で、シロとリウン、どちらが主導権を握るか決まると言って良い。
シロは、リウンが考えて居る間にイブの様子を伺う。彼女が何か考えているのか。今、この店に居るイブは、普段のイブではない。その事をしっかり刻み込む。
「そうだね。まずはシロちゃんの話から聞こうか。」
この場に居るのが、リウンとシロの2人なら自分が先に出ただろう。だが今はイブが居る。イブの反応を見てからでも遅くはないと判断した。
シロは軽くお辞儀をしてから話し出す。それは、今まで誰も知ることのない、2つの書の事。精霊具にしか知り得ない事。
「まずお話しするのは闇の書の片割れ。光の書についてです。」
光の書に反応したのはイブ。
イブ、いや、インディアル王国としては、何としても光の書の存在を突き止める必要がある。
闇の書と光の書はどちらも伝説級の扱い。存在すらあやふやな両者。そのうち、光の書がどこかに顕現すると言う事は、どこかに闇の書があることを意味する。そして闇の書の所有者は男性に限定される。この時点で、持ち主が必然的に村正に固定される。
闇の書・光の書問題で、インディアル王国が後手に回ることは何としても避ける必要がある。
「光の書は闇の書の主の交友関係の範囲で出現します。」
「交友関係?」
この2冊の書には強い力が秘められている。光の書は闇の書の対になる存在。つまり、闇の書の持ち主と相性が良くないといけないと言う制限が付く。
「はい。光の書は、むやみやたに世界のどこかに現れる訳ではありません。」
「その根拠は?」
イブが問う。
「精霊具に予め備わってる知識、で通させて頂きます。」
世界で最初の魔法使いが生み出した2つの書。それらが揃った歴史は過去1度もない。そんな知識を有しているとなれば、それは、知っている者が与えた意外他ならない。
つい先日まで長い時から解放されたシロの言葉を信じるなら、知識で通すしかない。
「その知識は他の精霊具はどうなの?」
「断言は出来かねますが、知識はあると思います。」
精霊具と2つの書。全てで1つと言う噂を耳にしたリウンはシロの説明に納得する。
闇の書に確固たる意識は感じない。しかし、精霊具はシロの様に動き回る。意思疎通も可能だ。なら、その精霊具に知識を持たせるのは不思議ではない。来たるべき時に助言する為の存在として。
「出来かねる、と言うのは前に言ってた、全ての精霊具と会ったことがないから?」
「はい。それであっています。生み出された順番、でしょうか?」
シロも、それまで深く考えた事はなかった。どうして全ての精霊具と会わなかったのか。生み出した人物の元を離れる理由はないのに。
「私の中の知識では、光の書は、闇の書の主が感情移入するのが1つの条件です。」
「てことは、今の紺野君の交友関係に限定される。」
「はい。但し、それがいつになるか。私の見る限り、現段階でお兄ちゃんが強く感情移入する方は居りません。」
光の書は、闇の書の持ち主が、大切にしたい。そう言った感情を持つ人物の元に現れると、シロが話す。この感情の厄介なのは、村正が好意を抱く人物とは限らないと言う点だ。
ここで、イブは1つの仮説を浮かべる。今のシロの話をそのまま受け止めるのであれば、現状ユウキが筆頭候補になる。ただ、今後村正が他の誰かに強い感情を抱けば、その人物もまた、候補になる。
「因みに、それは魔法使いに限定されるのか?」
「はい。魔法が使えない方では無理です。ですので、リウンさん。あなたも候補の1人です。」
リウンの表情が険しくなる。同時に彼女から強い魔力を感じる。普段は抑えている物が。
今言うべきでなかった。もっと後でも良かったと反省するシロ。それでも、言ってしまった言葉は取り消せない。
「その話は後にしましょ。今は闇の書。」
不用意に空気があれるのを、イブが正す。ここが何処なのか、2人に再認識させる。
「今のはシロちゃんが悪いわよ。もっと他の状況があったでしょ。」
「・・・。」
シロの立場が半歩下がった。
本当の事を言うと、イブの反応で彼女がそうであることが確認できたのは大きい。多少空気が壊れるのは想定内。イブが黙って見てる時点で多少踏み込みすぎたくらい、問題ないと見て居た。
「出過ぎた真似をしました。続けます。」
そのままシロが話を続ける。
次にシロが話したのは、2つの書が存在する目的について。多くを語ることは難しいが、この2人には、話しておいた方が将来的に負うリスクは多少コントロール出来る。
既にシロの中で、現在起きてる状況から導ける可能性は幾つも浮かんでいる。それら全てを村正に話すのは無理に近い。だが、それを理由にいずれ来る災いを指をくわえて待つことはしない。
「次にお話しするのは、2つの書の目的についてです。」
「それ、話す理由は?」
余計なリスクは追わないリウン。大きな情報を得られるのは良いが、それに余計なおまけが付くのなら、ごめんだ。
「保険です。」
「・・・。」
それが一体何に対する保険なのか。イブもリウンも理解する。
知った以上、もう後戻りは出来ない。シロは、自分と村正両方に対する身の安全の保険を掛けた。
口外する事の意味を理解する2人だからこそ、掛けられる保険だ。
「そんな理由で私が聞くとでも?」
「ええ。リウンさんは聞きますよ。」
「なぜそんな事が言える?」
暫しの沈黙。未だイブは会話に深く関わってこない。シロは、そんなイブに注意しながらリウンに向かって呟く。
「私が自分から進んで話した内容で、その人に危害が加わるのはあまり良いとは思いません。」
「ならっ。」
「ですので、その方に関しては、私が身の安全を保障するとお約束しましょう。」
「それはどいう言う意味で言ってる?」
その言葉通りの意味であるとは、リウンは考えて居ない。シロは、リウンを取り込もうとしているのだ。自分達の内側に。
これまで、外側に居る存在だったリウン。だが、村正と関わる以上、身内になってもらわねば困る。ならば、相手が最も危惧している不安材料を取り払う物を差し出すまで。シロは、それを別の形で提示したにすぎない。最も、現在リウンが置かれている状況をより悪化させると言う事によって。
「頭の良いリウンさんなら、2ヶ月前の事を思いだして頂ければ幸いですよ。」
「なら不要だ。私はそこの奴に既に確約を貰ってる。」
リウンはイブに指を指し示す。イブも間違いないと頷く。
分かってはいたこと。そんなの想定内だ。だから、シロは直接的な手段に出る。
「でしょうね。」
「なら、私はシロちゃんの話は聞けないな。」
僅かにリウンに分があるように見えるこの現状。だが、この空間。シロが一番最初に話し始めた時点で、シロがこの空間を掌握している。まだ、その事にリウンは気づいてない。イブが黙っているのは、シロが語った結果、リウンがインディアル側につくことを期待しているら。そうすれば、インディアル王国は、闇の書の情報漏洩の出元を全て監視可能になるのだから。
「それはどうかな?」
「なに?」
ここでイブが口を挟む。
「この用意され状況。セッティングしたのはシロちゃん。なら、当然彼女が最も有利に働く状況になるに決まってる。」
「そんなのわからないだろ。これから私が出す物によっては、この状況は一変する。それは、あんたもそうだろ?」
そう。これが、過去2階と同じ状況であれば、シロが有利に働く保証はない。だが、今回に限っては別。イブは、それをシロの言葉から察していた。
「いいえ。シロちゃんが2つの書に関してある程度の知識を有している事が判明した時点で、私達が彼女に差し出せる物は1つしかないわ。」
「――っ!!」
「光の書の所在地。現在、彼女はそれ以外の全てを知っている。そう考えた方がいいわよ。」
先程シロ自身によって語られた言葉。精霊具に予め備わっている知識。
そう。シロには初めから2つの書に関するある程度の情報があるのだ。故に、わざわざリウンやイブから情報を得る必要など、本当は無いのだ。
普段、村正と一緒に居る時は、知らないふりをしてる。その方が、数百倍安全だから。そして、余計なことに首を突っ込むのを防ぐため。
「最初に話すって言うのは。」
「はい。聞いた事を後から知っていたと言っても無理でしょう。ですが、」
「先に話せばそれも信じざるを得ない。」
完全に見誤った。シロと言う精霊を甘く見て居た。そんな自分が居たのは事実だ。だが、過去2回、シロと言葉を交わした。その時学んだはずだ。精霊具と言う存在を。
「ですので、リウンさん。」
「なんだ。」
シロは目を閉じ、発しようとしている言葉を溜めて居る。その言葉に重みを持たせるために。
今のリウンには、シロと言う存在はどう映っているのだろうか?
ちょっと前までは、村正を主にしている小さな精霊。例え、精霊具と言う大きな器であっても、その見た目に惑わされてしまう。けれど今はどうだろうか――。
「この学園に来ませんか?」
「――は?」
それは意外な言葉だった。リウンは思わずイブに顔を向ける。そのイブも、シロの発言に驚いている。
「それはつまり。私がそうであると?」
「だから先程、あんなに機嫌を損ねたのではありませんか?」
それは、リウンが光の書の候補の1人であるとシロに言及された時。その時点で、リウンは自分が魔法使いであるとは公にしていない。
だからこそ、シロに指摘された時、分かりやすい態度を出してしまった。そして、イブもまた、シロの仮説を決定づけてしまった。2人の言動から、リウンは間違いなく魔法使い。
「お兄ちゃん達の部屋であれば、私はこの姿で活動できます。」
「待て。話が進みすぎ。」
リウンの指摘を受け、シロが一度黙る。
「私が魔法使いだと言うのは認めよう。だが、何故私を学園に誘う?」
今、シロが何を考えてるのか読めない。それがリウンには恐ろしく思えた。
そして、来年以降、自分が学園に入学する事を知られていないのを、シロの口ぶりから読み取る。すぐさま、イブに目を向け、余計なことを口走らないように釘を刺す。
「理由は2つです。」
「2つ?」
シロは指を立てながら話して行く。
「1つ。今後起きるであろう事柄ついて、貴方は間違いなく渦中の人間になる。2つ。貴方に死なれては困るからです。」
どちらも、リウンにはピンと来てない。特に2つ目。何故シロは、自分に死なれると困るのか。
その理由を、シロ自身が説明して行く。
「まず1つ目。現状お兄ちゃんと交流を持ってしまった事で、リウンさんは光の書の持ち主の候補の1人になってしまいました。」
「つまり目の届く範囲に置いておきたいと。」
「はい。」
理屈は理解出来る。だが、何故それをシロが行うのか。
「その役目を負うのは国じゃないのか?」
「それとは別です。」
シロはもっと別の理由があって、リウンを学園に引き入れたい。
「リウンさんが学園に入ることで、動く人達が居る筈です。色々な意味で。」
「・・・。」
シロの指摘は間違いではない。カムタスの街では味方が多いリウン。だが、一歩外に出た時はどうだろうか?
ルマニミ王国を離れた時こそ、リウンを消す絶好のチャンスではないだろうか。シロは、その人物達の中に居るであろう、ある者達を炙り出したい。
「リウンさんに死なれると困ると言うのは、リウンさん。」
「ん?」
「リウンさんは、現状あなた自身に一体どの程度価値があるか理解されていますか?」
それは、彼女個人ではなく、リウンと言う少女が握っている物を指す。
裏側のあちこちから情報が集まるリウン。そんな彼女が万が一殺害されたとなれば、当然裏側で対処されていた事が表ざたになる。中には、国家同士のやり取りも。そんな物が露見したら一体どうなるか?
「シロちゃんほどではないが、かなり危険な位置に居るとは思ってるよ。」
「ならば良かったです。リウンさんが闇の書のを追ってる。そんな情報が露見しては、最悪の事態になりかねないので。」
情報が漏洩するのは主に4つだ。
1.口が軽い場合
2.脅された場合
3.盗まれた場合
4.情報を持つ人物が死んだ場合
リウンは、口は堅いし、盗ませない。それに脅しにも屈さないとシロは評価している。だが、死んだ場合は話が別だ。
死人に口なしと甘ったれた事は言って居られない。リウンの場合、彼女の身に何かあった時が一番危険なのだから。そう言う意味でも、シロはリウンを安全圏に置いておきたいのだ。
「その最悪の事態と言うのは、前に言ってたあれか?」
「はい。」
リウンはシロの言葉をゆっくりと思い返して行く。何か矛盾はないか。真の狙いは別にないか。
闇の書を追うと言ったのはリウン自身だ。そこに潜む危険は理解している。勿論、扱っている物の大きさは理解出来ている。
今ここでシロが嘘をつくメリットは無い。リウンに危険が及ぶと言う事は、それは、村正に危険が及ぶことに繋がる。危険な芽は摘む。理に適っている事だ。それに、シロの申し出を断る理由は無い。既に決まっていることなのだから。
「いいよ。シロちゃんの申し出、飲もう。」
「ありがとうございます。」
「但し。あいつには何も言うな。」
余計なことを口走る可能性の高い少年が扉の向こうにいる。そう言った事柄に対して、ここに居る女性から全く信用されていない彼が。
「畏まりました。その時までは、私から口外することは致しません。」
ここで話が一区切りを迎える。休憩を挟むこともなく、次の話へと進む。
「イブさん。」
「な~に?」
「今、インディアル王国は、お兄ちゃんの扱いをどうしようとしていますか?」
精霊具と闇の書。2つの伝説を持つ少年を放置する国家など、どこにも存在しない事など、シロにだって分かる。だからこそ知って置く必要があるのだ。
「はっきり言って殆ど決まって無いわよ。」
「当然だな。あいつを議論することは、そのままシロちゃんと闇の書を議論するのと同義だ。」
「彼女の言う通りよ。そんなに簡単に決められる物ではないわ。」
今やインディアル王国の重要人物の1人になって居る村正。本人はそんな事微塵にも思っていない。
「今紺野君が普通に生活出来ているのは、学園の情報統制と、国の努力よ。」
「それは承知しています。」
「問題はその彼が現状野放し状態にあること。」
学園の情報統制と言っているが、そもそも学園内で知っている人間が限られている。現在、インディアル王国では、イブによって、最悪シロの事が漏れてもどうにかなるとされている。その理由として、精霊具に人間同様の個人としての意思があることが確認された。この事から、仮にシロの事が魔法連盟などに漏れても、大きな行動にでる可能性は低いと見られている。
村正の行動を制限し、監視すると言う事は表だって出来ない。それは、陰から監視することも含まれる。国が、一般学生の行動を制限し、監視する。犯罪者でもない人間にそんな事する理由が無い。
行動1つで、何もかもが怪しまれるのだ。
インディアル王国とて、他国の人間が探りを入れて来る国だ。そう言った諜報員を見つけるのは至難の技。自国の人間が完璧に仕事をこなす以上、相手国も同様であると考えなくてはならないのだから。
「やはり、学園内であってもですか?」
「当然よ。学園には色んな身分の子が居る。」
「――そうですね。」
イブが遠くを見ながら言う。それは、表には出せない何かを背負った人物も居ると言う事。
何もなければ普通に生活出来たかも知れない。そこに、何かが生まれてしまう事で、簡単に崩れる物を持った学生も居る。
「私なら、間違いなく接触するね。」
好奇心、と呼ぶべきものだろうか。現状、クレア学園にもシロの存在を知る学生も居る。その人達全員の口が堅いとしても、漏れる可能性は零ではない。どこかしらで漏れて、一気に広まる。そこから、あれこれ聞かれる。
「ですから私は毎日肝を冷やします。」
「あいつ、まだやってんの?」
直接的にな行動に出る事はなくなったが、まだまだ知ろうとしている村正。その事を知ろうとする明確な理由が無いため、共に行動するシロは内心冷や冷や。もし、これでバレたらどうするんだと。
「ここで次のお話しになります。」
「「次?」」
話しは何も闇の書だけではない。
第一の目的、リウンの獲得を達成したシロは、もう1つの目的も達しようとする。
「これは私からリウンさんへの正式な依頼として受け取っていただきたいです。」
「それは、情報屋としての依頼と受け取って良いんだね。」
シロは、5秒程黙ってから頷く。
「内容は?」
「現在、私の事がどの程度広まっているかを知りたいです。主に、インディアルとルマニミ以外の国で。」
「個人単位ではなく、あくまで今の2国以外でシロちゃんの事が知られてるか、で良いの?」
「ええ。もしこの2国以外で広まってれば、事態は悪い方に傾いている事になるので。」
リウンは依頼内容を承諾する。承諾したとなれば、当然次は報酬の話だ。
「さて、何を出してもらおうか?」
「私に出来ることであれば、どのような事でも。」
「それ、本気で言ってるの?」
「それだけのことを依頼してる自覚はあります。」
出せる物に対し、なんでもすると答えたシロ。それは、リウンがシロに自分の物になれ、と言う事を許した事になる。
「2つ、要求する。」
「構いません。」
「1つ。今後、国家レベルの情報を知り得た場合、全て私に教えろ。」
その要求に大きく反応したのがイブ。イブにしてみれば、シロとリウンの個人的な依頼など、どうでも良い。だが、それが国家機密の漏洩となれば話は別だ。今、ここで国家機密の売買契約が結ばれようとしているのだから。
「待ちなさい。そんなの、私が許すわけないでしょ。」
かなり怒っているのか、イブがリウンに刃物を向ける。
「構いませんよ。」
リウンの要求を呑んだシロ。当然、イブの表情はさらに険しくなる。
「ふざけないで。自分がなに言ってるか理解してるの?」
「ええ。勿論です。」
シロは至って冷静。だが、その表情は何故か冷たい。
「自分の身を守る方法を取って何が悪いんですか?」
「情報を売る。それのどこが防衛なの。」
「この世界には、人より恐ろしい存在だって居るんです。」
人より各上の存在。この世界の頂点に君臨し、歴史の中心に居るとされる存在。その存在が動きだす事の方が、精霊具であるシロには重要なのだ。
「仮にも王に仕えた事のある者が言う言葉とは思えなんだけど。」
「今の主はあの人です。過去は関係ありません。」
イブとシロの言い合いを黙って見て居るリウン。リウンは、インディアル王国の情報を報酬にすることで、イブの出方を伺った。今後、自分の命を握られる存在の出方を。意外だったのはシロの方だ。てっきり拒否すると思っていただけに、あっさり了承しようとした事に内心拍子抜け。
「まだ私、中身話してないんだけど。」
「その通りです。リウンさんはまだ、何も言ってないのと同じです。」
「ふざけないで。例え、シロちゃん含めた精霊具や闇の書の事であっても、ホイホイ情報売られてたまる訳ないでしょ。」
リウンが要求しようとしている中身を理解していたイブ。リウンが具体的に何を要求するのか、分かっていたせいで、先に潰されてしまう。
だが、これにシロが反論する。
「はっきり申し上げますけど、リウンさんから得られる物の方が大きいです。」
「何故?」
「国は、知り得た情報全てを私にくれますか?」
「・・・。」
そう。シロは現状村正に付き従う存在。つまり、村正に情報が入らない以上、それ以上の情報は得られない。仮に得ようとしても、素直に教えてもらえるとも思っていない。ならば、個人で情報収集するしかない。だが、シロは自由に行動出来ない身。それならば、別の手段に出るしかない。
「そんな事言ったら、もう、シロちゃんにも、紺野君にも何も渡さないわよ。」
当然である。堂々と情報漏洩を公言する人物に、情報を渡す馬鹿は居ない。
「それは無理です。」
「どうして言い切れるの。」
「お兄ちゃんには、絶対に話しますよ。話さない方がリスクが大きすぎます。」
何も知らない村正が暴走しない可能性など零だ。それならば、危険抑止の名目で、村正には知識として教える必要がある。つまり、全て隠すと言う選択肢は、初めからインディアル王国に無い。
「もういいか?」
イブが黙ったのを見て、この話し、シロが勝ったと見たリウンが会話に入り込む。
リウンの質問に、イブが黙って頷く。
「2つ目の要求だ。私とシロちゃんの2人だけの時の会話の内容は、私が許可しない限り他言無用。」
「分かりました。」
リウンからの要求が通ったことで、シロとリウンの依頼の契約は結ばれる。
「イブさん。」
「なに。」
「勘違いしないで下さい。私はこの国を売ったわけではありません。」
この期に及んで何を言うか。そう言いたげなイブ。
「じゃあなんなの?」
「今後の事態に備えて、味方を増やす必要があります。」
何故、リウンに話す事で味方が増えるのか理解出来ないイブ。
「今は、地盤を整備する段階です。固めるのはもっと後です。」
地盤を固める段階で動くのでは遅いと、シロは考えて居る。今から整備を行わないと、整備されてない場所から何が飛び出て来るか分からない。その時になって、慌てても遅いと語る。
「それは、私の全てを信頼すると言うのか?」
「はい。この依頼は、リウンさんを信じないと成立しません。」
もっと他にやりようがあったはず。その方法を模索してばかりも居られない状況が訪れようとしている。その現状に目を向ける為には、余計なことに時間を割いていられない。
リウンと言う少女は、実績もある。それだけで、シロは、リウンに信頼を置いた。
「良いよ。私も、シロちゃんの期待に応える。」
「ありがとうございます。」
それからシロはイブに顔を向け、
「私は何も、インディアル王国の転覆を図ろうとしているのではありません。」
「ならどうして、国家機密まで話す必要があるの。」
「他国の国家機密仕入れようとしているんです。それに、下手に隠すと最悪の自体が発生した時のダメージが大きすぎます。」
なぜ、シロが了承したのか理解したリウン。
「なるほど。シロちゃんは、この2つの秘密は、いずれ表に出ると思ってるんだ。」
「はい。闇の書は隠し通せるでしょうが、私は難しいでしょう。そうなると、魔法連盟以外の味方が必要です。」
今回の依頼は、その敵味方を探る目的も含まれている。
「分かったわ。今回はもう、それで納得してあげる。だけど、これだけは覚えておいて。」
「何でしょうか。」
「何かあったら、その責任。紺野君と一緒に取ってもらうわよ。」
それは、実質村正が人質に取られた形。そんな要求、シロが飲むはずないと思ったリウン。
「良いでしょう。もしも、国王陛下が、そう下すのであれば、私は受け入れますよ。」
「良いのか?」
シロはリウンの正面に向かうと、しゃがみ、彼女の腹部に手を当てる。
「勿論です。それに、リウンさんの命に危機が迫れば私がお守りします。ですから、御願いです。私の信頼を、悲しい形で裏切らないで下さいね。」
懇願とも、脅しとも取れる、シロの動作。シロの見てる景色は、一体何が映っているのだろうか?リウンと、イブには、全く見えなかった。
「私からは以上になります。御2人は何かありますか?」
今回、シロに呼ばれた名目は、闇の書関連の話。だが、実際は、シロが要求を通す場だった。正直な話、2つ目の要求は通ろうが、通らなかろうがどっちでも良かった。
「シロちゃん、良い?」
「はい。構いません。」
イブが、手をあげる。
「どうして予め持ってる知識を、あえて調べさせるの。」
イブの指摘通りだ。元々持ってる知識がある。それなら、たとえ隠すとしても、他人に危険な橋を渡らせる必要まではない。
「歴史認識のズレを確認するためです。」
「ズレ?」
「はい。既に、2000近く昔のことを調べるんです。長い歴史の中で、真実・事実が変わっていても不思議はありません。もし、変化があったとして、それは自然に変わったのか。それとも、故意に変えられたのか。もし、故意なら私はそれを追わなければなりません。」
「なんでシロちゃんが?」
「火種の内に、消火するためです。」
そこも、シロの口にする、均衡を保つ者に繋がるんだと、理解を示すリウン。
もし、歴史のズレが故意だったらとっくに火柱になってると、指摘するイブ。それでも、まだ消化は間に合うとシロが言った。
「私達の事が知られた時は、火の海ですよ。文字通り。」
そうならないために、自分が出来ることをしている。シロの言い分は、それだけだった。
「では、私とイブさんはこれで失礼させて頂きます。」
「どうして、私もなの?」
「その方が自然です。」
シロが個室に入る前に、村正に見られている以上、一緒に行動しないと不自然だ。
「余計なこと勘ぐられるよりは、良いかと。」
イブは、ため息を付くと、シロの申し出を受ける。
「では、リウンさん。いずれ。」
「ああ。」
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「お兄ちゃん、お待たせしました。」
「結構、長くなかった?」
店のカウンター席で、テスト勉強をしていた村正。
「そうでしたか?」
そこに居たのは、さっきまでとは別人のシロだ。精霊具では無く、与えられた姿かたちの、幼い少女のシロだ。純粋で、主を大切に思っている。
「女の子には、色々あるの。」
「僕には難しいです。」
イブもまた、いつもの調子に戻っている。
「紺野君は、もっとその辺りに気を配りなさい。」
「努力します。」
イブとシロが出てきたので、村正も、帰り支度を始める。
2人が話し込んでる時間が長かったのと、店の雰囲気もあってか、テスト勉強はかなり進んだ。集中力が一番だったと感じている。
「じゃあ、行きましょうか。」
「うん。」
村正とシロは、店の店員に、お辞儀をして、店を後にする。因みに、村正が飲んだ飲み物代は、イブ持ちになった。
「ところで、どんな話をしてたの?」
「お、お兄ちゃん。それはいくらなんでもデリカシー、無さすぎですよ。」
「ええ!?」
引き気味に訴えるシロ。村正は、今の発言の何が駄目だったのか、シロに訊ねるも、教えてもらえない。
シロは、今日の本当の目的は誰にも言うつもりは無い。
今日の本当の目的が、リウンの獲得であることを――。
次回At154.一泊二日秘密強化合宿
次回で第7章終了です。




