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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第7章 専門分野の選択
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At151.費用は倍になりました

 中期の終わりまであとちょっと、と言う所まで来ている11月の終わり。この日、学園の学長室でイブとシギーが、遅くなったルマニミでの話をしている。

 ここ数ヶ月、シギーも色々と仕事が溜まり、中々夏の話をできなかった。イブ自身も、この話を少し避けている節があった。


 「来年度以降の、学園内でのフェアリ様の直接的な警護を行ってもらう人物、決まったのは聞いたけど。なんで、彼女なの?」


 フェアリが王族だとしても、原則国の介入を受け付けていないクレア学園。彼女の警護を国の人間に任せる訳にもいかない。かと言って、下手に警備の人間を雇えば、それだけで外部に目立つ。そこで、上がったのが、来年度、学園に新入生として入学させることだった。そんな人物見つけて来るのは、まず、無理だとされていたが、それを可能とする人物の噂を耳にしたのだ。それがリウンだった。

 そして、なんの因果か、彼女は村正と接触し、村正は彼女に興味を持った。村正がリウンに何か漏らすと考えたイブは、交渉の時間を遅らせ、優位に立つ事を考えた。そこで、村正とフェアリがカムタスの街を巡ってる間に、シギーが、リウンの店に仕掛けをすると言う物だった。これは、結果的にリウンに発見されてしまった。


 「まあ、私達の目論見が露見してしまった、と言うのと、もう1つ。」


 このもう1つをシギーに話すのは気が引けた。それは、本来、学園だけで判断できる物ではないから。だが、シギーも薄々気づいている。イブが、リウンの店に仕掛けを頼んだ時点で、村正が何かするのは、彼女にも分かって居た。


 「紺野君が余計なこと喋っちゃったのよ。」

 「私にあんな事頼むから、よっぽどのことだと思ったけど、そう。」


 ため息しか出てこない2人。何より厄介だったのは、村正が闇の書の事を伝えた事。今何も起きていないのは、リウンが事の重大さを村正以上に理解しているから。でなければ、最悪戦争でも起きている。


 「正直、信用を全部置くのは、私自身、不安はあるわ。」

 「けれど、学園に置いておかなければならない理由がお母さんにはあった。」


 大きく分けて理由は3つ。

 1つ、情報を持っているリウンを監視下に置くため。

 2つ、リウン以上に最適な人材の確保が困難なため。

 3つ、村正の制御だ。


 村正を制御するだけなら、彼を巻き込まなければ良いだけ。だが、実際はそう簡単には行かない。幸か不幸か、インディアル王国と、リウンの考えがある一点で一致した。この一点と言う部分について、理解しているのは、イブのみ。


 「けれど、彼女の身元、どうするの?」

 「身元って?」


 リウンをこの学園に置く以上、求められるのが、魔法連盟への個人情報の提出。

 イブがルマニミ王国で、リウンと話した時の脅しの1つとして、魔法連盟の名前を出した。よくよく考えれば、魔法連盟がリウンのことを認知していないのは、おかしい話。

 リウンが魔法を使って犯罪を行っているのはイブでさえ知っている。そんな情報を魔法連盟が持ち合わせてないのはあり得ない。何か目的があって、リウンは泳がされている。それがイブの見解。

 魔法連盟の手に落ちる前に、何としてもイブの手の届く範囲且つ、どこへも引き渡しが出来ない場所に置きたかった。それも含めて好都合だったのが、フェアリの警護担当。


 「魔法連盟になんて言って出すの?」

 「下手に隠すより、普通に出すわ。それこそ、リウンと言う少女がどんな存在なのか知らないとね。」

 「そんな真似、出来るとは私は・・・。」


 学園の調査能力があれば、リウンの事に辿り着くのは可能だ。だが、それはあくまでも、情報屋という所までに限定される。魔法を使用した犯罪までは行きつかない。


 「魔法連盟が明かしていない内容に、私達は辿り着けない。何より、それ以上の物は得られない。」

 「それ、本気で言ってるの?」


 リウンを隠す目的で入学させたとなれば、学園の信用は大きく傾く。犯罪者を匿う場所だと。それは、そのままインディアル王国の信用にも直結する。学園と不干渉であると言うのに、皮肉な話だ。

 イブの言う事全てに反対するわけでは無い。シギーも、この時期に他の候補者を見つけるのは至難の業だと言うのは理解している。フェアリの周辺の人間に不幸な事に、学園入学の基準を満たす魔法使いの卵が居ない。既に、リウンとは契約済みだとイブは言っている。それをこの時期に破棄するは、色々な意味でリスクが大きすぎる。

 来年曲がりなりにも、王女様が入学することが決まっている。改めて学生の調査の1つや2つ行ってもおかしくはない。そんなこと、誰でも考え付く。何より、この学園にはこの手の事に特化した人間が何人いようか。その事を魔法連盟が見落とすわけが無い。それでも、イブには大丈夫と言う確固たる理由があった。


 「既にこの学園には2人も居るのよ?」

 「あの2人とは訳が違うの。隠された存在じゃないじゃないのよ。それくらい、お母さんだって分かってるでしょ。」


 シギーの懸念は最もだ。それでも、()()()()が今学園で生活出来ているのは、イブの力であった。


 「シギーちゃんの懸念通りなら、もうあの子は捕まってる。」

 「・・・。」


 イブの言う通りだ。イブが接触した時点でリウンが自由に動き回っていると言う事は、魔法連盟側が静観していることになる。或いは、本当に、リウンを認知してなのか。後者であれば、これほど都合の良い事はない。イブとしては、これからももっと、リウンには動いてもらわねばならないのだから。

 シギーも、リウンが他の手に落ちるのは避けたいと思っている。リウンの持っている情報の大きさは、計り知れない。リウンを通して、学園ひいては、インディアルに火種が飛びかねない。そうなっては、国の介入云々言ってられない。最も、恐れて居た事態に発展する。


 「彼女の身の安全、保障出来るの?」

 「契約の条件だもの。しっかりやるわ。」

 「本当に大丈夫なの?」

 「学園内、いいえ、学園の人間である間は、彼女も私の管轄よ。」


 窓の外の、もっと遠くを眺めるイブ。彼女が見て居るのが何なのか、シギーには分からなかった。

 自分の母親であると言うのに、何を考えて居るのか全く分からない。普段は、ガサツで、だらしなく、おまけに礼儀を堂々と欠く人物。それなのに、本当の意味で仕事を行う時は、完璧に行う。村正を見出したのも、イブだった。イブが村正を見つけるまで、誰も、彼の噂を聞きつけなかった。はっきり言えば、そんなこと、あり得ない。


 「はぁ。分かったわ。それで王城側には話をつけておくわ。」

 「いいえ。この話は私が直接行うわ。」

 「お母さんが?」

 「忘れたの?彼女はうち(王国)が何としても抑え込みたい情報を持ってるの。これは、私の領分よ。」


 完全に学園の人間であるシギー。それとは別に、王国の人間としても活動するイブ。これを持ち出されては、シギーは何も言い返せない。

 そして理解した。イブは、何か大切な事をシギーに隠していると。それを問い詰めたところで吐かない。今のイブは、普段のイブではない。仕事をする時の顔をしている。この状況にシギーは納得するしかなかった。


 「それで、ちょっと言いにくいんだけど・・・。」


 これまでの空気とはうって変わって、何か後ろめたさを覗かせるイブ。その態度に、シギーの背筋に悪寒が走る。この態度は、間違いなく普段の、だらしない時のイブだ。このタイミングで、それを覗かせると言う事は、間違いなく碌でもない話だ。それも、とびっきり面倒な。

 さっきまでの仕事モードは、これから話す内容について、シギーの怒りを最小限に抑えようとするためだった。


 「な、なに?」


 一体、何を言われるのかと構えるシギー。


 「その、来年からの費用の事なんだけど・・・。」

 「あ、うん。警護の費用でしょ。もう確保したけど。」

 

 来年以降のフェアリの警護担当者への報酬はかなりの額である。それこそ、この学園の教師の年収を軽く超えるほど。しかし、その事をまだイブは伝えて居ない。シギーは、予め、この学園の教師の年収と同じにしていた。つまり、年間金貨100枚。5年間で500枚で考えてる。のだが・・。


 「うそ、もう確保したの!?」


 想定外。

 まだ確保していないと思っていたイブとしては、大誤算だった。既に高額の費用を抑えたとなった今、その額が倍になったと言ったらどうなるか。想像に難くない。


 「え?」

 

 イブの驚き様に、シギーの脳裏に嫌な予感が過る。この状況、イブの慌てよう、そしてイブの先ほどの態度。導き出される答えは1つしかない。


 「ね、ねえお母さん。」

 「その・・・。」


 シギーの表情も引きつっている。

 その場の状況で来年度掛かる費用を、インディアル王家、それも国王、自費で出させることに成功した。それなのに。


 「ちょっと費用がかさんじゃって。」


 含みのある言い方だが、それほどでは無いように聞こえる。


 「どのくらい?」


 言いにくそうなイブ。しかし、黙っているわけにもいかず。


 「に、2倍。」

 「――え?」


 右手で指2本立て、顔を逸らすイブ。

 シギーは耳を疑った。今、自分の母親は何と言った。既に金貨500枚と言う高額を抑えたのに、まだ増えるのかと。聞き間違いであって欲いと、もう一度訪ねる。


 「今、なんて?」

 「合計で、金貨1000枚になりました。」


 年間200枚。村正の世界の金額で、年間2000万。5年で1億だ。そんな金、学園でねん出するには、大きすぎる。

 てへっ、と舌を出して見せるイブ。それに対し、頭の中が真っ白になるシギー。


 「ちょ、ちょっと待って。」


 冷静に状況を整理する。来年度以降の、フェアリの警護費用は予め、金貨500枚で人を雇うはずだった。それは、学生であると言う身分とは別に、学園で雇う人間であるため。学園の人間の年収は金貨100枚になる教師も居る。言ってみれば、新たに教員を採用したのと変わらない。だが、これが倍になったとなれば話は別だ。


 「何で勝手に費用上げてるのよ!」

 

 勢いよくイブに詰め寄るシギー。それは、自分の母親と言うより、学園長の許可なく費用を上げたことへの怒りの方が強い。シギーは既に学園の職員会議で、フェアリの警護を任せる人物への費用は話をつけてあった。危険が伴う分、教師陣と費用が変わらないのは、多少思うところはあったが、そこは、シギーが言葉巧みにねじ伏せた。

 これ以上、それも倍になったと知れれば、流石に反対意見を無視できない。


 「それも、倍?倍って何?私より多いじゃん!」

 「そ、そこ?」

 「そもそも、あの500枚だって、陛下の実費よ。実費。もう陛下、お金ないのよ!」

 「そ、そうなんだ。」


 色々暴露されていく、ギルディスの懐事情。本来はインディアル王国の公費を使うところだが、いささか公私混同が過ぎるのでは?との声もあった。学園の予算から捻出しようにも、国の介入を受けないと言う以上、下手に予算を使えない。何より面倒なのは、国からの援助を受けられない事。受けてしまうと、国の介入を許す口実になるからだ。故に、クレア学園は国立と言う名目でありながら、その金銭事情は完全に国から独立している。

 

 「今から来年度の警護の費用下さいって言っても、怪しまれるわよ!」


 シギーが以前奪い取った金貨500枚。その使用用途は国に明かしていない。王国の費用では無く、ギルディスの個人的なお金で受け取った。なので、自由に使えると言う点では有り難い。その上でまだ請求できるほど、学園の力は強くない。

 今手元にある500枚を使い途中で追加申請するのも怪しい。唯一の救いは、警護に掛かる費用を国へ提出する必要がない事だった。


 「しかた無いじゃない。金貨100枚じゃ無理だったもん。」

 「そこをどうにかするのがお母さんの仕事でしょ。普段詐欺師みたいな事平気でするのに、何で今回に限って弱腰なのよ。」

 「詐欺師?」


 一体私の何が詐欺師?とシギーの言葉を疑うイブ。

 

 「相手が相手だったし。」

 「お母さんなら、その詐欺師の才能でいくらでも丸め込めたでしょ。」

 「ねえ、シギーちゃんひどくない?」


 もう完全にイブを詐欺師としか見ていない。

 確かにシギーの言う通り、言葉で丸め込むことは出来たかもしれない。だが、イブはリウンと言う少女がこの話を降りるのを何としても防ぎたかった。その為には、多少の費用増額も目を瞑れた。

 

 「残り半年ないのにどうやって、金貨500枚抑えるのよ。」

 「そこをなんとか、シギーちゃんの力で。お願い。」


 両手を併せるイブ。お願い、と言われてもシギーにも出来ることは限られてくる。

 これから先、学園側から面倒事を依頼する数が増えるのは目に見えている。その上で費用増額は頭の痛い話だ。

 

 「私は無理よ。」

 「そこを何とか。」

 「無理!」


 人選をイブに任せたのはシギー。だが、そこで費用交渉を勝手に行ったのはイブだ。そこの後始末はイブ本人に行ってもらうしかない。


 「残りはお母さんが直接取って来て。」

 「ウソでしょ~。」

 「さっき自分で言ってたでしょ。これは私の領分だから直接話をつけるって。」 

 

 そう。先程、リウンが警護担当であることを伝える役目を自ら買って出たイブ。なら、当然費用の話も出る筈だ。


 「いつも、王城に堂々と入り込んで好き勝手やってるんだから、何とかして。年末までに。」

 

 期限が残り僅かに設定され、言葉を失う。残り1ヶ月程度しか猶予がない。ギルディスとて年中暇ではない。特に、これからの時期は、各街の報告などで忙しくなる時期。そんな時期に頭を抱えたくなる様な話が出来る筈がない。

 

 「もし出来なかったら?」

 「お母さんの給料から抜く。」

 「私無給じゃない。」

 「嫌ならどうにかして。」

 「この学園、ブラックだって言いふらすよ。」


 その直後、シギーが物凄い勢いでイブの喉元に刃物を突き付ける。


 「何馬鹿な事言ってるの?」

 

 笑顔が怖いシギー。


 「はい。すいません。」

 「分かったら、さっさと王家からお金取って来て。」

 

 強盗みたいな発言をするシギー。そんなシギーを見て、一体どこで育て方を間違えたのかと自問自答するイブだった。




次回At152.不自然な会談

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