At150.体験授業、(魔法技術科・魔法史コース)
「今から約2000年ほど前に、魔法が誕生したとされる。そして、魔法誕生から暫くして、魔法に戦略的価値を見出した当時の国々によって、魔法兵器の研究などが行われた。画面に注目して欲しい。」
教室の正面に設置されたスクリーンには、古めかしい、球体が映し出されている。
「これは、魔法による戦争が最も激しい時期に使用された物だ。現在使用されている魔法道具と異なるのは、魔法使いにしか使えない、と言う事だ。」
この話は、以前行われた現代技術コースの体験授業で聞いたので、分かっている。
「こういうのは、中世から近世に多くみられる道具である。次に、注目して行くのは、もっと昔。それこそ、魔法が誕生して、500年ほどの頃だ。」
ここまで遡ると、魔法道具と言うのは大きく形を変える。それこそ、目的が全く変わってくるのだ。
村正の考える魔法道具は、ここら辺の形が一番イメージに近い。それは、今自分の手元にある物も含め、ファンタジー要素が濃いからでもあるだろう。
「これらの道具は、現在魔法連盟の博物館に所蔵されている物になる。」
スクリーンに映し出されたのは、それをただ見ただけでは魔法道具とは思わない様な物。見た目はただの剣。
「この時代の魔法道具の特徴して、現在の生命分野にあたる魔法が付与されている。」
分かりやすく言えば、聖剣や魔剣の役割をしていたのだ。当時、これらの剣がもたらす効果が、魔法であると広く知られていない時代、呪いを施す剣として恐れられた。特に、魔剣となる剣は大昔は幾つも存在していた。その魔剣に付与されている魔法は、現在では禁忌に触れる魔法も多く含まれている。そのため、安易に外部へ持ち出せない。管理含め、魔法連盟預かりになっている。効果を全て取り払ってしまうのが一番なのだが、それでは、価値が大きく下がってしまうため、安易にさわれない。
「こうした道具たちは今から1000年ほど前までをピークにしている。」
1000年前に何があったかと言うと、魔法に対する考え方に変化が生じ出した。それこそ、魔法使いその物に価値を見出したのだ。ここから、魔法使い本人が戦場へ投入され出す。
魔法技術や魔法道具の歴史は、この世界の歴史と言っても良い。魔法が世界の中心にあるこの世界では、魔法と言う文明は切っても切り離せない。
だが、不思議な事が1つある。それは、有史の中で、魔法の歴史はかなり浅い方なのだ。
この世界で人類の歴史は1万年以上とされている。それなのに、魔法が確認されたのは、たったの2000年なのだ。
「さて、数ある過去の技術の内、大体ここの学生が興味を持つのは、初期の技術である。」
学園の人間でなくても、同じ反応は持つだろうと、1組の全員が思った。
大昔の魔法技術は現存する物から、存在が不明な伝説級の物まで、多岐にわたる。本当に、そんな物が存在するのさえ怪しい物が。その最たる例が、光の書と闇の書であるが、この段階ではそれについては一切触れない。
「先生。」
「紺野。」
「初期の魔法技術と言うのは、今とは全く違うんですか?」
現在ある技術や考え方も、元を辿れば、過去へ行きつく。全部が全部、昔とは違うとは考えにくい。
過去の技術を全て捨てられる程、人間は単純ではない。
「そうだな。現代技術の体験授業で触れたかどうかは知らんが、全く違うと思ってもらって良い。」
「それは、一般人が使えるからってことですか?」
「残念だが、それは違う。」
どういうことかと、一同首を傾げる。
「大昔の技術は、現在同様、一般人にも使用可能だった。それこそ、魔法が付与された武具などがそうだ。」
あ~なるほど。レアアイテム的な位置づけになるのか。
だとしたら、何故一般人に使用できない時期が存在したんだ?と言うより、何で再び一般人が使えるように戻したんだ?
「魔法技術が魔法使い専用になった最大の理由は、戦争だ。」
戦争に備えた結果、魔法使い専用にした方が効率が上がるから。
「つまり、それが今から約1000年前の事だ。」
歴史の大きな分岐点と言っても良い場所で、技術は大きく発展する。
そして今から800年ほど昔、古代(1500年以上前等)の魔法技術が各地で発見されたり、魔物や魔獣被害が大きくなる時期に突入する。この時代は、魔法使いの扱いの差が最も大きかった時期に被る。
では、1000年前、魔法技術を魔法使い専用にする国家が増えたとする。だが、ここで次の疑問に行きつく。
「でも、それって変じゃないですか?」
ユウキが手を挙げて質問を続ける。
「当時も、全員が全員魔法を使えたわけでは無いんですよね?」
「その通り。だが、数としては今よりずっと多かったと思ってもらって良い。」
「それでも、魔法使いも、結局はどこかの国に居る以上、一国家あたりの魔法使いの人数には限りがあるはずです。それなのに、魔法技術を魔法使い専用にしては、デメリットしか無いように思えるのですが
。」
ユウキの質問に、全員がユウキの質問の意図を理解した。それは、今講義をしているレベッカも同様。
「成程。だが、それでも十分数としては足りて居たんだ。何故だと思う?」
レベッカに問われ、首を傾げるユウキ。魔法使いそのものの人数は少なくても、魔法道具を専用に出来るその理由は、一体何か。
その答えは、1人あたりの戦力差にあった。
「魔法使い1人で、一般人の戦力、そうだな、場合によっては、中規模にまで相当することもある。」
結局のところ、そこへ行きつくのだ。魔法使い1人居るだけで、複数の戦力と同等の力を持つのだ。それなら、わざわざ多くの一般人をかき集めるより、少数の魔法使いが居る方が、全体の被害としては小さい。
その考えが消えるのに、長い時間を掛けたから、魔法使いの扱いは酷くなって行った。誰も気に留めなかった。同じ方法を多くの国が取れば、それだけ必要になる魔法使いの数が増える事。だが、それ以上に勝ってしまった。便利であることが。
「つまり、魔法使い専用にすることで、戦略的効率を上げ、かつ、大規模兵器として運用することを可能にしたのだ。」
「じゃあ、魔法の戦争が減ったのは。」
「いくつか理由はあるが、その1つは、魔法使いが減った、と言う事だ。」
魔法使いの減少。魔法研究科・魔法史コースの時に少し、触れた、魔力が関係してくる。
魔力に注目出来るのは、魔法使いだけ。魔法が上手く発動出来ない、長時間持続しない。その理由を、知るのは、魔法使いしか居ない。その声に耳を傾ける国が、果たして一体幾つあっただろうか?
「最初は1人で扱う道具が多いが、時代が進むにつれ、複数で扱う魔法兵器が姿を現す。」
そんな事が可能なのか、と皆不思議がっている。
反対に、村正は、何故他のみんなが、不思議そうにしているのかが、分からない。それは、村正と彼女等で前提条件が違うからだ。村正の脳内には、最初から、複数人で使用する魔法や、魔法道具の存在を自然と認識している。なぜなら、それらが存在する物語があったから。
一方の、この世界の人間である彼女等は、この世界での考え方しか知らない。初めから、複数人で1つの魔法を扱うと言う考えを持ち合わせて居ない。
「それを、戦略的魔法具と呼んでいた。」
戦略的魔法具。魔法戦争の中期から後期にかけて量産された物。魔法使いの減少は、戦力の衰退そのものであった当時、魔法使いが物理的に減るのを防ぐ目的とした物。前に出して、駄目なら、後ろから使う。そんな考えに至ったのだ。
この戦略的魔法具の誕生は、歴史の中で最も大きな罪の1つに数えられている。これらの誕生で、この世界に与えたダメージはあまりに大きすぎた。唯一幸いだったのが、竜の介入が無かった事。この世界では、頂点に立つ存在である竜が、世界の危機とも呼べる当時の争いに介入しなかった。勿論、人間同士の争いごとに興味が無かったのかも知れない。だが、それでも当時の状況を無視するには、被害が大きかったとされている。
「そして、魔法を戦争の道具として使用するのは禁止されていく。」
それだけじゃない。ある時を境に、魔法使いは、女性しか居なくなった。だが、これがどのタイミングなのかは、いまだに分かって居ない確実に言えるのは、かつて、男性も使えたと言う事実だけ。何故、この事実が存在しているのか。それは、過去の文献に記載されていたから。その文献の正確性は、魔法連盟での鑑定で保障さている。
「ここまで、今後このコースでやる内容を駆け足でやってきた。さて、過去の技術について聞きたいことがある奴手を挙げろ。今日だけなんでも答えてやる。」
村正の頭を過る、自分のパートナーの事。本人は、自分から何かを語ろうとはしない。それが、何なのか、彼女に聞くのが一番早い。なのに、それが出来ない。
今まで、そうしようとしなかっただけなのかもしてない。なのに、今この場で聞こうとしている。後で、何を言われるのか分からないが、何故か、聞きたくなる。
「じゃあ質問。」
「ヒュンゲル、貴様は駄目。」
「なんでー!?」
即答で拒否され困惑するリリィ。
「嘘だよ。大声出すな。」
「先生の嘘は、嘘に聞こえないんだもん。特に私に対して。」
「それは、普段の貴様の態度の問題だろうが。」
それとこれは違うと訴えるリリィと、速く言えと催促するレベッカ。
「大昔の技術で、伝説級の扱いをしているもについて、知りたいです。」
「伝説級か。」
おいおいおい、何でリリィがここでそれ聞いちゃうの?
「ま、貴様なら知ってても不思議じゃないか・・・。」
――え?
ポツリと確かにそう呟いた。言葉としてきちんと聞こえた訳じゃない。でも、僕は確かに先生がそう言ったように見えた。
知ってて不思議じゃないって、どういう事なの。
「あっ。」
リリィが軽く僕に目を向けたのを、見逃さなかった。でも、その事に対して触れるのを、リリィが許して無かった。今の質問は、あくまでも、リリィが自分の意思で動いた事を、僕に理解させるためだった。
入るなって、ことなのか?
「そうだな、貴様等、精霊の存在は知ってるか?」
レベッカの質問に、半分くらいの学生が頷く。エレンが精霊を携えてるのを知ってる学生も居る。また、魔法使いの家系の場合は、精霊の話も耳にしやすい。一般人でも、精霊と契約を交わすのは可能であるが、相性が良いのは、魔法使いの方とされている。
「精霊の中でも、高位の存在がいる。」
精霊具の事だ。文献でのみ語らえる伝説的存在。精霊術と言う、魔法とは違った物を扱い、世界の均衡を保つ者と言う存在である。世界に13存在し、1000年以上前からこの世界に居る存在だ。それぞれに、紋章が存在している。
「それを精霊具と呼んでいる。これらが伝説級の扱いを受けるのは主に2つの理由がある。」
1つは、その存在が文献でしか明らかになって居ないため。何より、契約者が余りにも少ない。
2つ、その大きすぎる力。もし、今所有者が現れたら、様々な勢力がそれを狙って動きだす。何より、魔法連盟に至っては、大義名分を持ち出してくるだろう。
「精霊具は、その大きすぎる力から、実在を疑う声も少なくない。」
「実在を疑うって事は、百年単位で誰も見てないってことですか?」
「それで良い。」
僕って、一体いつぶりの契約者なんだ?
シロは僕が1000年ぶりの契約者だし、過去には一度も契約した事が無い精霊も居ると聞く。
全部で13あるとして、今日現在情報が1つもない事を考えると、相当昔なんだろう。少なくとも。魔法連盟が誕生するよりもずっと前だろう。でないと、主を失った精霊具を、話しに聞く魔法連盟が放置するとは思えない。
「順位の違い、か。」
「何か言ったか紺野?」
「いえ、何も。」
どんだけ耳良いんだよ。
「だが、この精霊具は、数ある魔法道具の頂点に君臨すると思ってもらって良い。」
あらゆる道具の頂点。その言葉を聞かされて、興味が沸かないわけもなく。
「それって、他のとはどれくらい違うんですか?」
「さ~な。」
あえて濁すレベッカ。それは、1年生が知るには早すぎること。もっと色々な事を知って初めて、精霊具について知れる。村正は、ただの例外。持ってしまった以上、知識を与えなくてはならない。
シロが村正と契約する時、イブや、エレンが止めなかったのは、精霊具の方が位が上であるため。特別な理由が無い限り、それを拒む権利は、本人以外与えられない。
「ここまで聞かせてそれは酷くないですか?」
知識にどん欲になるのは、魔法使いとしての性。その事を悪いとはレベッカも言わない。
知りたいことがあるのなら、自分の力で追及して行くのみ。精霊具の事を本気で知りたいと思うのであれば、自分の力で追い求めるしかない。本来は、そうなのだから。
別ルートを通ると言う事は、それなりの危険も待ち受ける。なんでもかんでも、近道をするのが正解ではない。回り道したところにしか、ない何かもあるのだから。
「精霊具なんてもの、実際にあるかどうか誰にも分からん。ただ、私達は知識として有しているだけだ。」
物がない以上、精霊具が何なのか、レベッカにも知る方法はない。歴史を研究しようとしている魔法使いとしては、いつか巡り合いたい存在。
伝説に惹かれるのは、誰だって同じなのだ。
村正の世界の伝説と違うのは、伝説は現実になると言う事。伝説が現実になった時、人はどう感じるのか。長い歴史の謎を紐解けると喜ぶのか、それとも、災いの前触れと恐れるのか。
「だが、古い技術を研究する以上、もしかしたらヒントにであるかも知れない。」
だが、精霊具と他の技術は決定的に違う。その事を知るのは、ごく一部の人間のみ。
「その辺に落ちてるってことですか?」
「もしかしたら、そうかも知れないな。」
精霊具が具体的にどんな物なのか。それを知る者は、会ったことのある人間のみ。
話を聞くだけだと、絶対に辿り着けないのだ。誰も、自ら意思を持って歩きまわるとは、想像していないのだから。
「精霊具以外にも、今では考えられない道具は幾つもある。」
過去の技術全てが兵器利用されていたわけでは無いと、レベッカは話す。
「過去の技術の内、もっともくだらないのが、これだ。」
レベッカが今回の為にわざわざ資料として持ってきた道具。見た目は、普通のペン。
くだらないと、レベッカが言うのだから、本当にくだらないんだろうなと思う面々。
「このペン、炙り出しようのペンなんだがな。」
一見、目的の人物以外には見られず、便利そうに思えるが、重大な欠陥がある。
「開発したまでは良かったが、炙り出してから、1分もしないで読めなくなるんだ。」
うん。それは、使えないね。
「当時は、これでも結構重宝されたらしい。機密文書を送る時は途中で読まれる心配もないからな。」
情報漏洩防止としては優秀だった道具も、後に、伝言魔法の発達で使われなくなった。
魔法を進化させるか、道具を進化させるか。魔法の技術の歴史を遡ると、どっちを選択したのかが分かる。それだけじゃない。何故、その道を選んだかまでに目を向けると、当時の情勢なども見えて来る。そこから意外な物が見えて来るのだ。道具ではなく、魔法が進化した時、道具はどうなったのか。その答えが今、魔法研究にヒントを与えているのだから。
「魔法道具も、立派な魔法研究の1つだ。今の時代に合う物を開発するには、過去を学ぶのが一番だ。結局のところ、全て繋がっている。」
全て繋がっている。レベッカが一番その事を理解している。ただ、順番が違っただけ。
置いてきた物を拾い上げる誰かが居ることで、思いもしない結果に辿り着く事もある。
「まだ誰も拾ってない何かを見つけられれば、この先、貴様等の魔法人生は、大きく変わるかもな。」
既に、大きく変わり始めている村正は、知らなくてはならないとしたら、このコースが一番だと考えて居る。だが、ここに進むことが、絶対の正解ではない。他の道が、周り周って、一番得たい物に辿り着くかも知れない。
今日で全ての体験授業を終えた村正。残りの期間で、今後4年間、自分がやることを定めなくてはならない。
次回At151.費用は倍になりました




