At148.二者面談
教師と言う仕事をしていると、数年に1回は変なクラスを受け持つ。この学園は2年生以降はクラス替えが無い。また、殆どの科目を1人の教師が受け持つので同じ学生と接することも多い。
この中期は、面倒な事に1年生はコース選択が待っている。今後の学園生活を左右する、大事な選択なのは、私も重々承知しているのだが、25人全員把握しなくてはならないのは本当に面倒だ。ただでさえ、昔の仕事からの縁で面倒事を請け負わされる身であると言うのに。
「はあ~。」
そして1年生は今週、そのコース選択の希望調査を兼ねた面談週間になっている。
どのクラスも特色はある。だが、このクラスはその中でも特に抜けてると思う。私のクラスは、比較的優秀な学生が多い。嬉しい事に、総合成績1位の学生も居る。反対に何故か下の方の順位の奴も居る。そいつも、技能だけで言えば、申し分ない腕を持っている。なぜ、その優秀さが脳ミソに周らなかったのかと、不思議でならない。
「えっと、あとは、3人か。」
面談週間も今日で最後。最後まで残ったのは、紺野、メアリ、そしてヒュンゲルの3人か。
どうしてこの3人が最後まで残った。何の嫌がらせだよ、全く。
コンコンッ!
「入れ。」
「失礼しまーす。」
入ってきたのは紺野村正。あのエレン・ドーチェル以来の男子学生だ。魔法使いとしての素質は十分高く、難度の高い魔法も使えるように成長している。このまま実力を伸ばして行って欲しい所ではあるが、どうも、細かい作業が苦手である様子。魔法を発動する時は、杖が無いと駄目なほどだ。その膨大な魔力量の調整を苦手としている。
周りを女子に囲まれて、さぞ窮屈な思いをしているかと思えば、そうではなく、彼なりに上手くやっている様だ。学園側が何故、彼を私のクラスに入れたのか、色々気になるところではある。今年のこのクラスは、色々な人間が混ざっている。こいつも、その1人なのだろうか?
「まあ、座れ。」
「はい。」
成績は座学、技能共に上位に食い込む。しかも、覚えが早い。勉強は完璧らしいが、私生活はかなりガサツだと聞いている。ルームメイトのメアリに世話になってばっかりだと話に聞く。
私が最初に抱いたこいつの印象は、綱渡りをしている。そんな印象だった。まぁ、こんな環境に放り込まれたら、そうなるのも分からんでもない。幸い、その綱渡りは成功した様だ。
「で、貴様は2年以降、コースどうする?」
現在、私のクラスは魔法技術科・魔法史コースの体験授業を残すのみ。ある程度、候補が決まってきたところだろう。私も、こいつがどのコースに進むのか、興味がある。魔法と言う物には、かなり貪欲であると言うのが、私の評価だ。
他の教師からの評判も悪くない。面白半分であの人に興味を持たれてしまったのは、運のつきだろう。
「まだ迷ってます。」
「なんか、興味のあることとかないのか?」
紺野は暫く唸っている。迷うのは大いに構わない。若い内にしか出来ない事だ。だが、その迷いも、迷い方があると言うのを、こいつは理解しているのだろうか。
普段から色々考えて居て迷うのと、今ここで初めて迷うのでは訳が違う。もし、後者なら今ここで叩き潰す。
「ないわけでは無いんですよ。」
「ほぉ?」
「何と言うか、やりたいことが多すぎて。」
なるほど、こっちのパターンか。
やりたいことが多いと、取捨選択は確かに難しいだろう。特に、研究と技術は別物だ。その点は、確かに悩ましいろう。
「因みに、何を一番やりたいんだ?」
「基本的には、魔法を一番知りたいと思ってるんです。」
「基本的には、と言うのはどういう意味だ?」
何か、空気を掴むような事を言うな。
ただ、こいつの場合、純粋すぎるんだろうな。初めて魔法と言う物を深く学び、魔法に魅せられた。だから、魔法の全てに興味を持つ。過去、現在、未来。全てを知ろうとする。
「魔法の歴史にも興味があるんです。」
「確かに、紺野は魔法史の授業かなり熱心だもんな。」
大きく頷く紺野。
「その割に、成績平均よりちょっと上だよな?」
「先生のテストの問題数が多いんですよ。毎回。」
魔法史は私の専門と言う事もあり、この学年の魔法史の試験の問題は私が作成している。詰め込み教育をするわけでは無いが、学んだ時間数を考えれば、妥当だ。文句は受け付けん。
現に、メアリは紺野より成績は上だ。出来る奴も居る。
「魔法史を学んだとして、何かその先を考えてるのか?」
「歴史と言うのを魔法の側面から研究するのも面白いなって思いまして。」
なるほど、歴史そのものに興味を持ったのか。
こいつなら、丁度良い先人が居るな。
「紺野、ドーチェルの奴とは良く話すよな?」
「まぁ、良くって程でもありませんけど。」
「もし、魔法史関係に進むと言うのであれば、奴に聞くと言い。ガイダンスの時に話していたが、今の貴様には、いい刺激になるかも知れん。」
ドーチェルの奴は、魔法史の授業では、良く私に質問をしてくる。かなり歴史好きなのが伝わって来る。
「でも、やっぱり王道も良いなって思うんですよ。」
思いっきり仰け反る紺野を見て、私は、贅沢な奴だと思う。
こいつが魔法学コースに進む理由が不純だったら、どうしてやろうか。
「確かに、紺野がそう思うのは自然かも知れんな。」
「やっぱり、自分でオリジナルの魔法を組むのって、考えてるだけで楽しいって言いますか。」
「だが、それだけだと、後々ヒィヒィ言うぞ?」
実際、毎年そんな学生が多い、多い。あれだけ、よく考えろと言われているのに、適当に決めるから苦労すんだよ。自分の力になる苦労ならまだ救いがあるが、嫌々やる苦労は何の得にもならん。ただ、魔法を学ぶのが苦になるだけだ。それでは、この学園に来た意味がない。
「やっぱそうなんですか?」
「そらそうだよ。最も魔法を追究すんだから。」
常に頭をフル回転させてるような場所だ。のんびりしようと思うなら、このコースは向かない。
ま、この学園にそんな場所無いがな。
「ただ、貴様はもしかしたら、魔法学コースが一番良いかもしれんな。」
「そう思います?」
「貴様の特性を考えるとな。それを直すと言う点でも、私はありだと思うぞ。」
こいつの場合、どういうわけか魔力が無尽蔵に供給され続ける。そのため、ちょっとした魔法でも火力・威力・効果が大きくなりやすい。特に杖などの補助なしは危険な物もある。
そのせいか、魔力を多く使用する魔法の会得は早いが、細かい作業、詠唱を短縮したりするのは苦手らしい。実践の授業で見て居ても、他にも、細かい作業を苦手としているように見える。
「魔法で細かい作業を苦手にしているのなら、オリジナルで補う方法もある。」
「あ~、成程。」
勿論これはその場しのぎの面が強い。後は、こいつ自身がそれに甘えるか、必死こいて努力するかだ。
ここまで、紺野のコース選択の話をして来たが、この面談はこれで終わりではない。もう1つ、話す事があるのだ。
「一応、今日は聞き取りしなくてはならんのでな。紺野は今、魔法研究科の2つで迷ってるで良いのか?」
「はい。」
「分かった。もし、魔法学コース行くなら、希望調査票注意しろよ。」
紺野は一度頷くと、息を吐いてリラックスする。
「さて、もう1個あんだよな、この面談。」
そのもう1つと言うのが、この学園での生活について。中期も後半になり、色々と慣れて来ること。そろそろ、思う事も出て来るだろう。特に、こいつの場合。
なんせ、寮のルームメイトが女子だ。事故の1つや2つあるだろうし、ここいらで聞き出すか。
「紺野、この学園の生活慣れたか?」
「慣れませんよ。この学園は。」
ほお~。ちょっと意外な回答が出てきたな。
「そうなのか?」
「そうですよ。だって、やること多いですし、色んな人に振り回されますし。」
確かに、紺野程、絡まれる人間はそうそう居るもんでは無いな。
「振り回されるのは、魔法使いになってしまったからな。それに、メアリとの関係もあるだろ?」
「もう、先生にそれ言われたら、僕の逃げ場完全になくなるじゃないですか。」
「むしろどこへ逃げようとしてんだ。貴様は?」
1年どころか、学園中で知らぬものは居ない、紺野とメアリの関係。今でも週1で紺野がやらかしているらしいが。
この話は今期になってからよく聞くようになった。前期の間、紺野からそう言った、言ってしまえば、社会的にアウトな噂が一切湧いてこないのが学園中で不思議になって居た。
あのエレンでさえ、昔はあったと言うのに。そんな話も、しっかり紺野から浮いてきて、それが普通だと認識している。私に言わせてもらえば、それもどうかと思う。
「紺野の、休日の話はしっかりと耳に届いてるぞ。」
「それは・・・。」
「目を逸らすな。目を。」
もはや言い逃れできないのは承知の上か。一体、どれだけ世話してもらってんだか。
「羨ましいじゃねーか。メアリは、あれでハイスペックだから。なんでもしてくれるだろ?」
「はい。本当、申し訳なくなる程に。」
自覚はあるようだな、こいつ。なんか腹立ってきた。
「てか、貴様さ。」
「はい?」
「今何股してんの?」
私の質問に、ぎょっとした紺野。この慌てぶり、マジでやってんのか?
「な、何を言うんですか!!」
「え、違うの?」
教室どころか、外にまで聞こえるほどの大声を発した紺野。
だが、私の元に届いている情報によれば、少なくとも、メアリを含めた二股は確定しているらしいが。そこを問い詰めるか。
「違いますよ。ってか、どっからそんな噂聞きつけたんですか?」
「噂じゃねーよ。」
「――え?」
確かにこれまで、紺野に関わる女性関係の話は常に、噂が端を発していた。だが、今回はそうじゃない。噂なら色々と誤魔化せると思っていたのだろうが、今回は違う。
「タレこみがあった。」
「誰から?」
そりゃ、誰からか気になるよな。だが、教えるかバーカ。
「さあ、誰だろうな?」
いつもみたいに、反論してこないあたり、何かしらの心当たりはありそうだな。
面白そうだから、もうちょっと、遊んどこ。
「あの、僕本当に、そんな事してませんよ。」
「でも二股は確定してるらしいじゃねーか?」
「そもそも、僕まだ誰とも付き合ってないんですよ?」
こいつ、毎日あれだけメアリと一緒に居て、まだそれを言うか。
マジで、腹立ってきた。
「周りは貴様らの事、そうは思ってないだろ。」
「それは、仕方ないじゃないですか。部屋同じですし、ユウキの性格もあるんですから。」
世話好きと言うのか、家事仕事が得意と言うのか、確かに、彼女の正確からしたら、紺野の様なだらしない男子は放って置けないだろう。特に、自分と同じ部屋で生活しているとなれば。
にしても、良くこいつの事、投げ出さずに居ようと思えるな。こんな性格の奴。
「貴様。それ、完全に、甘えてるやつの発言だぞ。」
「そ、そんなことないですよ。」
「ほお~。では、聞かせてもらおうか。貴様の私生活。」
で、聞けば聞くほど、こいつの私生活、メアリに完全に依存してんじゃねーか。
休みの日は、昼前まで寝て、掃除中のメアリに起こしてもう。料理が趣味の彼女の好意に甘え、飯を作ってもらい、出掛けてると思えば、こいつの掃除までやってる始末。んで、こいつがやる事と言えば、ノックなしで部屋に入ると、高確率でメアリの着替え現場に遭遇。そして今回の、浮気のタレこみと来たか。なんだこいつ。
一回、性根叩き直した方が良いんじゃないのか?
「貴様、取りあえず、メアリにはちゃんと、感謝しろよ。」
「いつもしてますよ。色々迷惑掛けてるんですから。」
「まだ、あんのかよ。」
今出た以外に、何があるんだよ。
紺野は、ここ卒業したら、マジで紐になるんじゃないのか心配になるわ。
「まぁ、僕と一緒に、色んな噂に振り回されるし。」
「そうだな。今回は、貴様の浮気と来た。」
「だから違うって言ってるでしょ!」
チッ、自然な流れなら認めると思ったんだがな。意外と防御硬いな。
「大体、僕にそんな度胸があると、本気で思ってます?」
言われれば、そうだ。こいつに、そんな度胸まずないな。
ないが、そう言った事が起こることを、こいつは平然とやってのけるって事だ。それも、悪気なく。
「貴様の度胸よりも、状況がそうなんだろ。」
「それはいくらんでも、あんまりですよ~。」
「嘆いたところでどうしようもないだろ。幸い、このクラスの女子共は、貴様に対する評価は高い。それが、せめてもの救いだと思え。」
「あらぬ噂のせいで、みんなが僕から離れて行かないか、心配ですよ。」
そうなったら、それはそれで面白そうだな。メアリがいつまで、こいつの傍に居るのか。
「じゃ頑張るんだな。」
「いつも必死ですよ。」
「とてもそうは見えんが?」
だがま、紺野なりに色々頑張ってるだろ。そこは、評価しておくべきか。
「なんか言っておきたいことはあるか?」
「別に僕は浮気もしてなければ、まだ誰とも付き合ってませんからね。」
最後に言うセリフがこれとは。よほど、今の居場所が心地良いみたいだ。今はそれで良いが、今後は、周りから与えらるんじゃなく、自分で見つけてもらいたいものだな。
「分かったよ。もう行って良いぞ。」
紺野は不満げながらも、私の元を後にする。
紺野は、ある意味、このクラスで一番変化のない人物かも知れない。多くの学生がこの半年で変化を起こした。それは、魔法の事以外で。だが、あいつは、最初にこのクラスで出会った時のままだ。環境の変化を恐れているのか、それとも、周りが紺野の今の立ち位置に拘っているのか。
今はまだ、大した変化を起こさなくても良いかも知れないが、下手に今の状況に固執するのは、一教師の意見としては、あまり良いとは、言えんな。
「あと2人も居んのかよ。」
めんどくさ。
次回At149.生徒会選挙




