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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第7章 専門分野の選択
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At145.久しぶりの少女

 学園の裏庭で休んでいた村正の元に現れたのは1人の少女。インディアル王国の隣国であるルマニミで食堂を営んでいる少女。そして、情報屋と言う側面も持つ少女が、村正の前に立っていた。

 何故、彼女がここに居るのか。その答えは1つしかない。


 「どうして君がここに?」

 

 一度言ってみたかったセリフ。別に言わなくても良かったけど、言ってみたかったから仕方ないよね。


 「はあ?」


 村正の軽い冗談を真に受けたのか、ちょっと機嫌が悪くなるリウン。彼女の機嫌を損ねる事が一体何を示すのか、あの時身に染みた村正は直ぐにリウンに謝罪する。

 村正の姿勢を見て、「スン」と息を吐いたリウンに村正は、彼女がこのタイミングで現れた事は自然な事だと考える。

 

 「まぁ良いけど。」

 「ここに来たってことは・・・。」

 

 続きを言おうとする村正の口元に指を押し当てるリウン。その仕草に後ずさってしまう村正。

 どこで誰が見聞きしているか分からない。リウンはその事を危惧したのだ。ただ口元に指を当てるだけで済まされるのは今回だけ。その事を理解するようにとリウンは村正に促す。彼女の言葉に黙って頷いた村正は、この場に彼女が現れた本当の理由を聞く。学園内であの話をするような人物でない事は百も承知。


 「今日の夜8時。この街の真下を流れる地下水道に来な。」

 「地下水道?」


 地下水道があるのは知ってるが、どこから入るのかまでは知らない村正。ネレラル全体に地下水道は張り巡らされているが、街中のどこにもマンホールの様なものは見当たらない。

 

 「地下水道は街中の重要施設に入り口がある。君が入りやすいのは、寮の東側1階の端。そこに入り口がある。」


 淡々と話すリウン。村正は何故彼女がそんな事を知っているのかと聞こうとするが、教えてもらえなかった。それは村正が知るべき事ではないからと。

 そして、今ここで自分と会ったこと、今夜出掛ける事は誰にも話すなと釘を刺される。勿論、夜出る時も、誰にも見られないようにと念を押される。


 「1分でも遅れたらこの話は無かった事になるからね。」

 「分かった。地下水道に入った後はどこに行けば?」

 「私が直接出向く。下手に動かれて迷われてもいい迷惑だし。」


 地上と地下では地図がまるで違うとリウンは言う。それは色々な面で役立つのだと。

 地上と一緒にしては、簡単に賊に侵入される。反対に、地図を熟知しておけば、仮に侵入者が現れても先回りしたり出来て便利だと。だから、外部の人間に地図が知られるのは最も避けることなんだと。その重要な情報を知ってることを話すあたり、今回のリウンは村正をある程度対等に見て居る様に伺える。


 「じゃ、遅れないでよ。」


 それだけ言い残すとリウンは村正の元を去っていく。

 リウンが去った後、村正は彼女に言われた地下水道の入り口を確認しに行く。東側の端、そこには確かに床に蓋の様な物が存在した。都合の良い事に僅かに凹んだ場所に存在し、入る姿を誰かに見られる事はない。


 「ここか。」


 まるでここが隠し通路であることを物語っているようでもあった。勿論、業者の人が邪魔にならないようにと、あえてこの様な設計になったとも考えられなくはない。他の施設に作られた入り口がどうなのかでも変わってくるかも知れないが。

 場所を確認した村正は一度着替えるために部屋に戻る。

 

 「・・・。」


 部屋に戻った村正は机の引き出しを開ける。そこに例の本はしまわれている。ただ引き出しに入ってるだけなので、無防備と言えばそれまでだが、もしもを考えるとすぐに手に取れる場所に置いておきたい。

 闇の書を眺める村正の隣にシロが立つ。彼が今夜、この本をどうしよとしているのかを察したのだ。


 「お兄ちゃん。」

 「だめ、かな?」


 シロが何を言うために出てきたのか聞くまでも無い村正。

 ちょっぴり口調が強めなのが分かるだけに、その先へ進みにくい村正。

 この2ヶ月、村正側の収穫はゼロ。何一つ掴めて居ない。そんな状態でリウンの元へ向かったとしても、大した事は得られない。ならば、現物を持って行くくらいの事しか出来ない。勿論、シロとしては断固反対である。例え相手がリウンであっても。むしろ、リウンだから、と言う方が正解に近い。


 「分かってるなら止めてください。」

 「でも、」

 「あのですね。例え相手がリウンさんであっても、現物を持ち出すなんて言語道断です。」

 

 シロが危惧しているのは、万が一リウンによって奪取された場合、世界のバランスがひっくり返る事。

 リウンがあらゆる危険事項のトップに立つこの本に手を出すとは考えていないが、億が一と言う可能性もある。それより先に、村正以外の人間が闇の書を手にする危険性が分かってない現状で、他人の手に持たせるのは絶対に避けなければならない。

 シロなりにこの2ヶ月間、色々考えて居た。もしかしたら、他の精霊具が動きだしているかも知れない事。事態は既に動きだしているのかも知れないと。表向きは伏せられている闇の書。それは、ありもしない物を巡って争いが起きることに繋がる。

 他の精霊具が動きだせば、精霊具の存在そのものが表に出る。そうなれば、魔法の負の歴史の再来だ。精霊具には均衡を保つと言う役割が与えられている。そこに、精霊具自体の力も入っているのであれば、村正が契約した事で、インディアル王国が他国より頭一つ分出ている事になる。ただでさえ、魔法は他国より発展しているインディアル王国。この事が均衡が崩れたと、他の精霊具達が判定すれば、のこり12の精霊具が主を探して活動するかも知れない。そうなっていは、このインディアル王国は一体幾つ敵を作るか想像できない。少なくとも村正は個人で世界を敵に回すかも知れないのだ。


 「闇の書は兵器利用も可能なんです。そこに記された魔法でこの世界を消し去ることも出来ると言われてるんです。そんな物をホイホイ持ち出すのは止めてください。」

  

 頭では分かっているが、相手は自分よりも遥かに上の人物。礼儀を欠いては話すらしてもらえない。その事と世界の危険を天秤にかける程、釣り合うのかとシロは村正に問う。

 天秤にかけるもの。そんな事を言われてしまえば、何も言い返せない。彼女の事をずるいと思いつつも、シロが正しいのは間違いない。闇の書に関して、無理に村正が動く必要など何処にも存在しない。何も出来ない村正の為に、インディアル王国と言う一国家が秘密裏に動いてくれている。今ここで村正が不用意に行動を起こすのは、迷惑以外の何物でもない。ただでさえ、村正にはルマニミ滞在中にリウンに話したと言う前科がある。村正もシロも、その事が誰かに知られている事を知らない。今はまだ、リウンが内に留めていると思い込んでいる。だが、事態は彼等が想像しているよりも先を進んでいる。それでも、ギリギリのラインで留まっている。あと一歩、歩みを進めればもう後戻りは出来ないかも知れない。


 「何が大切なのか、良く考えてください。」

 「はい。」

 「お兄ちゃんは一般人なんです。特別な力を与えられた訳でもなければ、物語の主人公でもないんです。」


 ――。

 物語の主人公でない、か。

 どこかでそんなことを考えて居たのかも知れない。特別な力を与えられていない。それはなんとなく理解してる。けど、『転生者』と言う言葉が僕をそう思わせていたのかも知れない。

 シロの言う通り、僕はこの世界では一般人に過ぎない。他の物語に出て来る主人公とは違う。それは、この半年程で知ったはずだ。

 ちょっと他の人よりも経験することが多いだけで、こうなるんだな。


 「ねぇ、シロ。」

 「何でしょうか?」

 「・・・なんでもないや。」


 シロは「そうですか。」と言うと部屋のキッチンへと向かった。

 村正は今自分が彼女に聞こうとした事をしまい込んだ。怖かったのだ。シロが村正の事をどこまで知っているのかを問う事が。もしかしたら、シロは村正の正体に気づいており、彼が何を考えてるのか、その考え方が何処から来ているのかまで知っているんじゃないか。

 シロが村正の事を知ったとして、関係が変わるとは思ってない。シロはその程度では村正に対して態度を変えたりはしない。それは村正自身が一番理解している。それでも、聞く勇気を持てなかった。


 「待ってくれてるのかな。」


 キッチンで飲み物を入れている彼女の背中を見つめる村正。その小さな背中に自分が何を背負わせようとしているのか。考えさせるには十分な小ささだった。

 さっきシロの言っていた言葉はもしかしたら、シロ自身に言い聞かせていたのかもしれない。そう思うと、彼女にそんなことをさせてしまった事が本当に申し訳なく思えた。

 精霊具と言う特別な存在であり、世界の均衡を保つと言う使命を追っている。それだけに、余計に前に出ようと反射的になってしまう。


 「一度、相談してみよ。」


 本当に闇の書を自分が手にしていて良いのか、大人に判断を仰ぎたくなった村正。このままで本当に良いのか。



=================================================


 夜8時前。村正は寮の東側にある地下水道の入り口の上に立っていた。ここまでは、リウンに指示されたとおり、誰にも見つからずに辿り着いた。再度周囲を確認し、入り口の扉を開ける。

 中には垂直に伸びる梯子が下まで伸びている。下は見えない。不気味な空気が下から昇って来るのが肌で感じられる。

 村正は急いで身を沈め、入り口の扉を閉める。

 梯子を一番下まで降りると、そこは薄暗い地下水道。両サイドに人一人が立てるほどの通路が伸びている。


 「ん?」


 足元に何かあるのに気づいた村正は、念のため周囲を確認してから、小さな明かりを灯す。

 足元には封筒が置かれており、明らかに村正宛であった。

 

 「ここについたら何があっても声を出さずに待ってろ。」


 この一文だけが書かれている。

 村正が手紙に目を通した直後にリウンが現れた。村正が手紙を読んだのを見計らって現れた。

 リウンが現れた瞬間思わず声が漏れそうになる村正。リウンの表情が険しくなったのを見て、慌てて言葉を飲み込む。そのままリウンは黙って村正に近付くと、黙るようにジェスチャーを送る。村正は頷くと、彼女について来るように目で合図される。

 地下水道を歩き続ける事5分。今自分が何処に居るのか、もう分からない。いい加減、リウンが何をしているのか教えて欲しいと思うが、口を開こうとすると、リウンの冷たい視線が村正に突き刺さる。ここに居るのは、間違いなく()()()()()()()()

 さらに5分歩いたところで、地下水道から地上に出る。地上と言っても、そこはどかの施設。


 ここは、空き家?

 

 施設と言うには程遠い造りをしている空間。そんなイメージだろうか。そこが地下室だと言うのは村正でも分かった。そこには、あの場所と同じように机と椅子が置かれている。村正はリウンに椅子に腰かける様に促され、腰を下ろす。その時だった。


 「え、ちょっ!」


 村正の手足が椅子に拘束される。どういうつもりなのか、リウンに問いただそうとした時には、すでに彼女はナイフを村正に突きつけている。息を飲む村正にリウンは間髪入れずに言葉を話す。


 「誰が動いて良いって言った?私が良いと言うまで、喋るな、動くな。」


 リウンのナイフは確かに村正に向かって突きつけられている。しかし、彼女の本当の狙いは彼の腰に携えられた剣。即ちシロだ。

 リウンは鞘から刀身だけを抜くと、床に突き刺す。そして村正の体を調べ始める。漏れそうになる声を必死に堪える村正。暫くして、ようやくリウンの許可が下りる。


 「シロちゃん、良いよ。」


 リウンの言葉と共にシロが実体化し、リウンに詰め寄る。


 「リウンさん、これは何の真似ですか?」


 怒りが沸点を超える寸前のシロ。そんなシロを前にしても平静を保ってるリウン。シロからは今まで感じた事のない、冷たい空気が漏れ出ている。それは比喩では無かった。リウンのつま先が僅かに凍っている。


 「そ、そうだよ。」


 思わず村正もリウンに問いただす。

 

 「ああ?」


 リウンの厳しい視線が村正に突きささる。それは、シロに向けられたものよりも遥かに鋭い。


 「言いつけ一つ守れない奴が何を言っている!」


 リウンが部屋の奥にある地下水道の入り口に石を投げ込む。その穴から眩い閃光と一緒に人の悲鳴が聞こえた。

 そのままリウンは穴に飛び込む。その直後に、人を殴る鈍い音が微かに聞こえ、リウンがその人物を連れて戻ってくる。


 「そんな、どうして・・・。」

 「こいつは?」

 「・・・クラスメイト。」


 リウンが引きずりあげたのは、イルミアだった。

 全く気付かなかった。まさか、イルミアに付けられていたなんて。そんな気配、一瞬も感じなかった。何より、今日は彼女と一回も顔を併せて居ない。それだけに、衝撃は大きかった。

 リウンの攻撃を受けて気を失っているイルミア。彼女を見たシロが、乱暴に扱わないように懇願する。村正以外にも、こんな態度を取ると知ったリウンは意外そうだった。

 シロの申し出を受け、リウンはイルミアを部屋の隅に寝かせる。


 「こいつの名は?」

 「彼女はイルミア。シロの事を知ってる数少ない人物。もう一個の方は知らない。」

 「結構。」


 納得したリウンは、村正の拘束を解くと、自分も椅子に座る。

 村正は床で寝かされているイルミアに視線を向ける。


 「一体いつから・・・。」

 「最初からだよ。」

 

 誰にも見られていない自信はあった。何度も確認したし、なにより、あの場所で誰かを尾行しようとしたら反って目立つはずなのに。

 

 「イルミア・・・。」


 今イルミアにはシロが付いてる。何かあってもシロなら対処可能だ。偶然か必然か、シロもまたイルミアと同様に生命分野の魔法を得意とする。

 そして村正とリウンは本題に入ろうとしていた。


 「さて、じゃあ、始めようか。」




次回At146.背後

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