At143.秋の魔術祭Ⅷ
秋の魔術祭も、いよいよ決勝戦の時がやって来た。昨日行われた準決勝でエレンが敗退した事は、話題になった。特に、試合の終盤、アリスがエレンに勝利した決定的瞬間。あの時、一体何が起きて居たのか、それを多くの学生たちが議論していた。多くは、3年生以上。魔法の知識が浅い、1年生や2年生は、まだまだ、状況を理解するのが難しい。
そんな、難しい事が展開される決勝戦に進んだのは、共に推薦で出場しているアリスとセリス。お互い魔法の腕は高い。特に、アリスは昨日行われた準決勝で生徒会長である、エレンに勝利したと言う実績がある。今では、アリスが今回の優勝候補だ。
セリスもしっかり、優勝が期待されている。とくに、魔法学コースのトップでもある学生だけあって、どんな魔法を繰り出してくるのか、その駆け引きも注目だ。
この決勝戦、学生たちで最も注目しているのは3年生。学生生活が折り返し地点に来ている3年生としては、ここでどれだけ吸収できるかが重要になる。特に、アリスと、セリスの居る魔法研究科・魔法学コースと、魔法技術科・魔法史コースの学生の注目度は高い。
外部からも来賓が大勢来ている。魔法連盟の関係者を始め、各国の魔法使いや、研究者、そして、他の学園の人間。アリス名を知ってか、魔法とは無縁と思われる人の姿も見受けられる。その来賓の中には、当然この人も含まれる。
「今年は、彼が優勝するとばかり思っていたからな、この展開はまた面白い。」
「よく言うわよ。彼が負けたら絶対に面白い事になるとか、言ってたくせに。」
「記憶にないな~。」
試合を特別室から観戦しているのは、この国の国王でもあるギルディスとイブである。今、この部屋には、2人しか居ない。そのため、周りを気にせずに話せる。
ギルディスも、日頃の公務からちょっと解放される為に、わざとこの観戦を公務の1つに居れている。数ある公務の中でも、気を抜ける1つだ。そんな裏があると知られれば、フォルテが容赦なく公務から外すだろう。
そして、競技場には意外な2人が。
「やっぱり、決勝だと人多いな。」
「仕方ないよ。みんな気になるもん。」
「そんなもんかなー?」
「そんなもんでしょ。」
競技場に用意された観戦場に来ている村正とユーリ。何故この2人の組み合わせかと言うと、ユウキは朝起きたら既に居なかった。普段起こしてくれる存在が居なかったので、危うく決勝戦の開始に遅れる所だった村正。
そして、何故村正の隣にユーリが居るのかと言うと、村正が会場に向かう途中でユーリと遭遇した為。そのまま自然な流れでここまでやって来た。
一方の別会場。そこには学生しか居ない。その殆どが4年生と5年生。何が起きてるのか。それを見逃さないように、集中するためだ。
決勝戦は、色んな人が色んな目的で注目している。ただの、学生の力量を披露するだけが目的ではないと言うのが、より色濃く出ているだろう。
多くの人が観戦できる場所に集まっている中で、ユウキ・メアリは学園の図書館に来ていた。今図書館に居るのは、職員を除けば彼女だけだ。そこでユウキは、過去の魔法技術について綴られた書物を広げながら、小さなモニターを見ていた。そのモニターは、シギーがユウキに貸し与えた魔法道具。
ユウキはこの決勝戦、なるべく静かな場所で見たかった。それは、この決勝戦で起こる事全てを見逃さないため。そこには、音も含まれていた。目に見える物だけが全てではない。それを学んだなら、周りに音を書き消されるような事は避けたい。その事をレベッカに相談したら、シギーに話して見ると良いと言われた。レベッカの言う通り、シギーに訳を話すと、彼女はこの小型のモニターを貸してくれた。
「この決勝戦、拾える物は全部拾わなくちゃ。」
この1週間、ただ魔術祭を見てた訳じゃない。それは、ユウキには目指さなければならない場所があったから。ただ目指すだけじゃない、もっとその先の場所へ行かなくてはならないから。そのためには、今出来ること以上の何かをしなくてはならない。
この決勝戦の対戦カードは、ユウキにとって、とても都合が良かった。魔法の事を細部まで知ることの出来る、魔法学のセリスと、他の学生には無い視点を持っているアリス。この2人の戦いを見れるのは、今のユウキに必要な物が一気に出て来る形になる。もう二度と訪れないようなこの機会を無駄にはしたくない。
なにより、アリスの考えを完璧な物にするには、セリスの様に、魔法そのものをどう捉えるかも必要な力。どちらか片方だけでは、ユウキの目指す物は実現させられない。その点から、この決勝戦、ユウキは特別な思いで見ている。どれだけ試合が早く決着したとしても、それなりの理由は転がっている。それを見つける。
「始まった。」
様々な場所で、試合を見て居る全ての人に緊張が走る。秋の魔術祭を締めくくる最後の試合。一体どんな試合運びを見せてくれるのか、期待も高まる。
当の試合会場に居る、2人は、緊張はしていない。これまでやって来た事をしっかりとやるだけ。誰が見てるかなんて関係ない。ここまで来たら、後は目の前に居る相手を倒すだけ。
試合はまず、2人が同時に動きを見せる。杖を相手に向けたまま魔法を放って行く。その際に、杖の先を少しずらしながら、魔法をコントロールして行く。今2人が操っているのは全て中級魔法だ。決勝まで駒を進めただけの事はある。元々、腕がたつとは言っても、並々ならぬ努力の後が見える。そして、魔法の腕だけでここまで来たわけでは無いと言うのも、よく理解できる。
試合が始まって10分が経つと、それぞれの魔法が、変わり始める。セリスは魔法学で学んだことを、アリスは、過去の魔法技術で学んだ事をそれぞれ活かし始める。
ここからね。
図書館で試合を見て居るユウキも、より試合に意識を注ぐ。
アリスがオリジナル魔法を使い始める。レベルで言えば初級程度。だが、初級魔法だとしても、扱い方で十分実力を見せる事が出来る。無理して背伸びする必要はない。勿論、セリスの場合、レベルの高い魔法を使用しても、背伸びにはならない。大きな力を使わなくても事足りる、と言う事を分かってもらえればいいのだ。
アリスは今様子見に入っている。今日までの1週間、生徒会メンバーの試合は特に注意して見て居たアリス。目で見るのと実際に受けるのでは感覚が違う。その違いを埋めるためにも、まずはセリスの攻撃を受ける必要がある。そこからヒントを得ていくのだ。
=================================================
魔法そのものレベルは大したことないけれど、うまく組み合わされている。ただイメージするだけでも、これ程とはね。
いや、ただイメージしているだけじゃないか。原理が簡単であればあるほど、イメージのほうが強くなることもある。初級魔法はその傾向が強いのか?
アリスは攻撃を受けながらセリスの魔法を分析していく。今、セリスは氷の槍を雨のように降らせてきている。それらは何かに当たり砕けることで、再度攻撃してくる。そして、粉々に砕けるまで何度も攻撃を繰り返す厄介な魔法。氷が砕ければ砕けるほど、小さくなり、体内に紛れ込みやすくなる。特に、喉の奥にまで入り込まれると息ができなくなる。そのため、至近距離まで迫った魔法は、消滅させないとダメージが計上されてしまう。すでに、少しダメージを受けているアリス。
「一度、試してみる価値はあるわね。」
どこまでイメージだけで通用するのか。魔法学だけでどこまで行けるのか。そのことを知るというのも、アリスの重要な課題だ。
「灼熱の太陽!」
真夏の特に暑い日の太陽を生み出すアリス。この魔法には、科学的考え方は一切入っていない。真夏の、目が回るような暑い日の太陽をそのまま魔法にしただけ。なぜ、夏の太陽は熱いと感じ、吹く風も熱風と称されるのか。その点は考慮されていない。
それでも、誰もが夏の日差しは暑い。その共通認識が崩れ去ることはない。その覆しがたい前提条件が、魔法をイメージだけでも強くさせる。
「思ったとおりね。」
セリスの氷の槍は、アリスに届く前に溶けて威力を大きく落とす。
灼熱に包まれる空間に放り出された2人の体力は、容赦なく削られていく。夏は暑い。そのイメージが、熱中症という形でダメージ判定されたのだ。
急激な温度変化に体がついてこれない。体にかかる負荷が大きいのだ。
「ちょっと危険だけど、次いかないとね。」
さらにアリスはこの環境を悪化させることを選択する。環境を利用する。それは言い換えれば自然を利用することにもつながる。かつての魔法技術は自然の力を増幅装置に使用していた。それは魔法も同じだった。魔法使いも、自然環境をうまく利用する魔法をしようしていた。いつしか、それは効率が悪いとみられ、徐々に衰退していったとされる。
だが、戦闘という観点で見れば、自然ほど有意義に活用できるものはない。
「乾いた大地」
アリスのオリジナル魔法の1つ。灼熱の太陽とセットで使うことで大きな効果を発揮する魔法。この会場では見た目は変化が起きていないように見えるが、実際は大きな変化が起きている。
「恵みの雨よ」
セリスが場を整えようと雨を降らす魔法を唱えるが、何も起きない。
今、この場は初級魔法では、水を生み出すことができない環境になっている。それは、ある種、イメージだけで完成させる魔法の限界の1つでもあった。
この空間には雨を降らせるために必要なものが圧倒的に少ない。魔法が発動しないことに、驚きを隠せないセリス。それでも何が起きているのかは直ぐに理解できた。その頭の回転の速さは、さすが魔法学コースのトップといえる。
ここでセリスが考えなくてはならないのは、魔法の内容。それは、操作型か、放置型か。操作型なら、アリスを、魔法の意識から外せばそれで済む。問題は後者のほう。放置型特に、設置するタイプの魔法に多い、この型は、解除が難しい。
放置型の魔法は、発動した時点で魔法を使用した人の意思を離れる。何より厄介なのは、放置可能でありながら、そこにあれば魔法として再度利用可能な点だ。こうした放置型の魔法は、手遅れになる前に解除するか、消滅させる必要がある。これが、下級生の魔術祭なら、魔法の解除等に時間を割けるが、セリスの場合、相手が違う。そんな事に割ける時間は無い。この局面をどう乗り切るのか注目される。
一方、この状況を作り出したアリスは、セリスがどんな行動に出るか、予測を立てる。
この暑さで彼女が取るのは恐らく3つ。
1、この場を打開するために、相殺系の魔法を使う。
2、この状況でもお構いなしに魔法を撃ってくる。
3、この環境を利用する。
=================================================
「・・・。」
試合の中で起きた事を必死にメモして行くユウキ。メモされているノートの文字は、半分近くは読めそうにない物だった。それだけ、ユウキが多くの事を拾った事が伺える。
そして、今何が起きて居るのかも予測を立て、どんあ状況なのか。そして、短い時間で自分ならどうするかも考え、その上で、2人がどう動いたのかを答え合わせしている。その集中力は並みの物ではない。
ユウキが何故、ここまで魔法と言う物に必死に食らいつくのか。そこには、きっと、彼女なりの考えがあっての事。
「乾燥、か。雨が降らないと言う事は、現実に置き換えると・・・。」
雨ごいが失敗したセリスを見て、今の試合会場の状況を現実世界に置き換えるユウキ。そうることで、今まで見えてこなかった何かが見えて来るのだ。持ってきた参考資料から、自然環境の本を捲っていく。自然を多く利用するアリス。きっと今の魔法も何か、自然にある何かをヒントにしたと推測。
「――砂漠。」
気温が高温で乾燥した環境。砂漠地帯と雰囲気と似て居ることを突き止めたユウキは、試合の状況を見ながら、砂漠に関する内容に目を通して行く。そこに書かれてた内容は、砂漠での降水量は、かなり少ないと言う事。年間でも僅かな間しか雨は降らず、振るのも、日数を分けるのではなく一気に振ると書かれている。
この本の内容を見てユウキは知らなかった事を知る。それは、砂漠にも雨は降ると言う事。
だがここは自然界ではない。つまり、現実の砂漠は他の地域などの環境的要因も含めて雨が降ると言う状況が生まれるが、あの試合会場は別だ。あの試合会場には雨を降らせるための環境が無い。
ユウキは考える。自分ならどうするか。もし彼がこんな魔法を使ったら、どうするのが正解か。この後、2人が取る行動は今後、彼の中には予測できる事として残るだろうと考える。だから考えるのだ。不正解の中の正解を。この後起きる正解は、今後不正解になるかも知れないのだから。
ユウキは借りて来た小型モニターを操作して、アリスとセリスの表情をアップにする。それは、2人の表情を良く観察していれば、何が起きるのかすぐに分かるから。表情と言うのは、良い考えと、悪だくみを思いついた時ほど正直になるものなのだ。
=================================================
参りましたわね。この暑さのせいで、考えが上手くまとまりません。
今期の生徒会にあえて入らなかっただけの事はあります。やはり自由に使える時間は、与えあられる環境よりも物を言うのでしょうかね?
先程から、気温を下げようと色々小細工はしてはいますが、全く効果が無いですね。自分自身にも反ってくると言うのに、良く思いつきましたね。
セリスは一度考えを変えてみようと、風魔法で竜巻を起こす。熱を含んだ、熱の竜巻。それは、見方を変えれば炎が迫って来るような物だ。下手に分散させようとしても、もわ~っとした風がゆっくりと流れていく。それだけでもダメージになる。
極限の環境を作り出すと言うのはまさに諸刃の剣。相手を翻弄することが出来るが、相手を乗せてしまう事もある。それは、相手のレベルが上がれば上がるほど。仮に、本人がその極限の環境を得意としてもだ。
「そうですね~、あまり使いたくない手ではありますが、この環境ならば、手段の1つ、としては有効でしょう。」
セリスが目を閉じて呟くその様は、余裕さえ感じさせていたと言う。
次回At144.秋の魔術祭Ⅸ




