At142.秋の魔術祭Ⅶ
今回のお話はちょっと短めです。
「聞いて、マサ君!」
寮へ戻った村正とユウキ。彼女は、村正の正面に座り、村正に迫る。
エレンとアリスの試合が終わって直ぐに、寮へと戻って来た村正は、色々と急すぎてまずは、落ち着くよう、ユウキに促す。
「う、うん。」
スッと椅子に座ると、ユウキは、村正に何を聞いて欲しかったのか話し始める。こんなに前のめりになって、何かを語ろうとするユウキは意外と珍しい。普段の彼女であれば、もうちょっと落ち着いている。今みたに、いきなり行動を起こすようなタイプではない。
「私、自分の進むコース決めた!」
「・・・。」
え、それだけ?
なんか、急に走って寮に戻ってくるからもっと大層な内容かと思ったら、まさか、それだけ?
えぇー・・・。なんて言えばいいの、こういう時。
前から、自分の進むコースは変わらないって言っていたから、改めて言われても、どうすれば良いんだよ。
「因みに、どこに?」
「魔法学コース。」
結局変わって無いじゃん。さっきの試合を見て、何か心変わりがあったんなら、まだ何か言えたかも知れないのに!
「でも、どうしたの、改まって?」
興味ないそぶりを見せては、彼女を怒らすことは目に見えて居る村正。
前から言っている事に変わりはないが、今回はちょっと雰囲気が違うのは理解している。だからこそ、あえて、そこに突っ込んで行く必要がある。
ユウキの方も、村正がそこに興味を持ってくれた事に、機嫌を良くしたのか、語りだした。
「今日までの、アリス先輩の試合を見てて、思ったの。」
「何を?」
「私達の知ってる魔法って、何なんだろうって。」
アリスの魔法の使い方が、他の学生とは違う。その事に気付けたのは、何も村正1人だけではない。ユウキもまた、数少ないその1人だった。
その事にユウキが気付けたのは、アリスの試合の時、側でレベッカの解説を聞いていたからであった。レベッカの解説は、何を言っているのか、最初の内は分からない。その後、掘り下げていくと、しっかりフォローしてくれる。ユウキは、レベッカに色々聞いていった結果、アリスが、過去の技術を知っていく中で、今の魔法の考え方に至ったことを聞いた。
「アリス先輩と同じ方法で魔法を見て行くと、もしかしたら、これまで以上の魔法が生まれるかも知れないって思ったの。」
「でも、どうやって、魔法を見てくの?」
アリスと同じ目線で魔法を見て行くとしても、彼女が何を見て、何を考えているのか、その部分を理解しないといけない。それは、簡単な事に思えてとても難しい。それは、アリスの考えがこの世界では、マイナーにすら届かないからだ。村正であっても、恐らく難しいだろう。いくら村正の元の世界では普通だったと言っても、村正も十分な知識は有していない。
アリスは、現状、村正以上に科学的考え方に強いと言って良いだろう。学んで得た知識に、世界の差など関係ない。考え方について、スタートで差を持てるのは、その事に関して知識をしっかりと持っている者だけ。元の世界で、一学生に過ぎなかった村正には、基礎的な事しか分からない。それは、この世界でもその気になれば得られる知識。なぜなら、アリスがそうであったから。そして、幸運な事に、その知識をアリスに授ける事が出来る人物が居たから。
「アリス先輩が出来たって事は、その目を持った人が居る。」
「まぁ、そうなるのか。」
勢い任せに言ってるようで意外と冷静に物事見てるんだと感じた村正。物事をしっかりと順序立てようとすることが出来る彼女の能力を、ちょっとうらやましく思う村正。自分には、まだ備わってない能力だかた。
しっかりと、自分の事を考えてるんだと思った村正。前にユウキが、村正より前に出れる部分で前に出てないと、彼が遠くへ行ってしまうような気がすると言っていたのを思いだした。
今は反対に、村正の方が、ユウキが自分よりずっと先へ行ってしまうのではないかと思ってしまう。それは、魔法においてもだ。魔法が大雑把になりがちな村正は、小手先の技術をどうしても苦手としていしまう。村正が苦戦している間に、他の皆が、どんどん先へ進んで行って、自分1人が取り残されるんじゃないかと。その時、誰か、手を引きに来てくれるだろうかと。
「私の目標、って言ったら大袈裟だけど、魔法を次の段階へ進化させたい。」
「進化ぁ?」
一体どんな目標が出てくるのかと思っていたが、予想以上の目標が出て来た事に拍子抜けする村正。
魔法を次の段階へ。それが一体何を意味しているのか、とても気になる。魔法が誕生してから、かなりの年月が経過している。その過程で、魔法がこれまで幾つかの進化を遂げてきたのは間違いないだろう。だが、今ユウキが言った進化とは、これまでの物とは別次元の様な気がする村正。
「進化って、どう進化させるの?」
「私は、魔法の新たな考え方を作りたい。」
「新たな考え方って、言うのは、基礎分野とかの話では無く、もっと根本的なってこと?」
ユウキは頷くと、この魔術祭の期間中に考えてた事を教えてくれた。
「私達は、今ある魔法しか見てない。それは、きっとこれから先も続いていくと思う。」
「今ある魔法って言うのは、普通に既存の魔法?それとも、魔法の考え方も含む?」
村正の問いに、少し間を置いてから、
「上手く言えないんだけどさ、私達が普段学んでる魔法ってさ、結果が全てに思えるんだよね。」
結果が全て。イブと同じ事を口にした彼女を見て、ちょっと驚く村正。彼女が、思っている以上に、物事を深く見ていた事に。そして、魔法を学んで1年経っていないのに、その考えに辿り着けたことに、素直に驚いた。村正でさえ、イブに言われるまで気付かなかった事。
たとえ、誰かに言われたとしても、きっとピンとこない人が大多数だろう。魔法は、結果が全てで成立するから。
そして、ユウキが結果が全てと言う事を口にした時点で、彼女が魔法研究の過程をある程度理解している事を伺えた。
「勿論、魔法を組み上げていく過程とか、魔法発動の過程が違うって言ってるんじゃなくてね、もっと根っこの部分を言いたいの。」
多分、ユウキの言いたいこと、僕は分かる。君と同じ事を言っている人が居たから。でも、ここで僕が分かってる事を言って良いのか、良く分からない。
それは、ユウキ自身が、自分の力で辿り着いた場所だから。それに引き換え僕は、昨日イブさんに言われて初めて知った。
僕の中に、初めからユウキの言う考えが備わっているのは、元はこの世界の人間じゃ無かったから。でも、ちょっと考え方を持ってるだけで、中身は殆ど無いに等しい。だから、これから先の未来、もしかしたら、僕や、元の世界の人以上の知識を持つ事さえあり得るのかもしてないと、思ってしまう。もし、本当にそうなってしまったら、僕は君の隣に立って居られのだろうか・・・?
だから、今くらいは、見逃して欲しい。
「根っこって?」
「その結果が起こる理由をしっかりと見たい。そういう物、で終わらせるんじゃなく、そうなる理由を知りたい。そうしたら、魔法は進化すると思うの。」
やっぱり、そうだったか。でも、驚いたよ、ユウキがこんな事に気付くなんて。
先生の解説をずっと聞いていただけで、そこい辿り着くなんて、ね。
「ユウキは、どう進化すると思ってるの?」
「多分、魔法のレベルが大きく変わると思う。」
「レベル?」
「多分、今ある魔法のレベル、殆ど上がると思うの。」
レベルが上がる。これは、村正が考えてる事とは反対だった。科学的考え方を利用すると、魔法はもっと正確になり、自然現象を理解すれば、わざわざ魔法の組み立てなくても、イメージで本物を作り出せる。それは、ある意味、レベルの高い魔法が簡単に使えるようになるから、レベルが下がると考えたのが村正。でも、ユウキは、その先にある魔法がどうなるのかを考えたうえで、魔法の危険性を理解した。
「下がるんじゃなくて?」
「もしも、私がやろうとしている事を多くの魔法使いが出来るようになったら、碌な使い方されないと思う。」
ユウキが何を思っていたのか、理解出来た村正。
これまで上級魔法と言った難しい魔法や、軍事用の魔法で、簡単には扱えないような魔法を、簡単に生み出せてしまう可能性があることに、ユウキは気づいたのだ。
簡単な魔法はより簡単に。難しく、危険な魔法はより危険になっていくんじゃないかと、ユウキは見てる。その部分を自分の目で見たい。そう思った時、魔法学コースがやっぱり、一番だと考え付いたのだ。
「どう、マサ君。私に考え、すごいと思うでしょ?」
「うん。すごくて、最後の方、難しかった。」
嘘だ。本当は彼女が何を言っているのか理解できるし、自分との考えがちょっと違ったのも、普通に考えれば、ユウキの考えの方に辿り着く。
多分、僕が純粋にこの世界の人間だったら、きっと、もっと、ユウキの話に目を輝かせる事が出来たんだと思う。勿論、ユウキが彼女の力でこの考えに至ったのは、本当にすごいと思った。
この世界では殆どの人が知らない事を知ってるって事が、こんなにも心に来るとは考えた事も無かった。
そして初めて分からされた気がした。僕が本当にこの世界の異端児だったんだと。
「じゃあ、私ちょっと図書館行ってくる。」
「調べ事?」
「うん。」
急ぐように出て行くユウキを眺める村正。忙しい奴と思いながらも、ちょっとホッとしてしまった。あのまま、彼女と一緒に居ると、なんだか、空気がおかしくなる予感しかしなかったから。
そして、シーンとした部屋の中で村正は、自分の事を許してくれた存在に礼を言う。
「シロ、ありがとね。」
声を掛けられ、村正の前に現れるシロ。村正の正面に立つシロは、軽く息を吐く。
「今は、聞きません。ですからいつか、きちんと話してくださいね。」
いつまでも、今の、何も語らずに居る状況は限界を迎える。
シロ自身、村正の言葉を聞いていれば、彼が何かを隠しているのは嫌でも分かってしまう。そこに、自分が村正に興味を持った答えがあるのだとしても・・・。
今まで村正がシロにさえ言わなかった事。言おうとしなかった事。それは、別に、言う必要が無いから。村正がこの世界の人間であろうがなかろうが、彼が今生きているのは間違いなくこの世界。その事を否定することは出来ない。
仮に、村正が転生者でこの世界の人間で無かったと話したところで、誰が信じるだろうか?
これが、無理矢理魔法で連れて来られた、という話ならまだ理解を得られる。禁忌の魔法ではあるが、過去に実際に存在した魔法だから。
だが、死者を生まれ変わらせる魔法があるなど、この世界では誰も知らない。正確には、その方法であるが。
「何年後になるかな~。」
次回At143.秋の魔術祭Ⅷ




