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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第7章 専門分野の選択
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At141.秋の魔術祭Ⅵ

 秋の魔術祭も、いよいよ大詰めを迎えようとしている。5日目に行われた試合で勝ち残ったのは全員5年生。3回戦に進んだ4年生の生徒会の女子2人も、それぞれ副会長である、マリーとセリスに破れた。

 明日行われる6日目、準決勝に進むのは、偶然か必か、以下の4人になった。

 生徒会のエレン、マリー、セリス、そして、アリスだ。いずれもクレア学園の内外で名前の知られている学生ばかり。各学科・コースで優秀な成績を収めている学生である。そして、全員が推薦の枠で出場している。エレン、マリー、セリスは生徒会枠として。そして、アリスは学園の教師の推薦として。そのアリスを推薦枠で出したのは、なんと学園長であるシギーだった。アリスも、去年までは生徒会の一員だった。だが、この1年は面倒な仕事を請け負う事の多い役職になるのが目に見えていたので、あえて生徒会には入らなかった。それでも、実力はピカ一。その実力を最も買っているのがシギーだった。シギーがアリスに注目するのは、アリスが今後、この世界の発展の中心人物になるかも知れないと思っているから。アリスは、魔法技術科・魔法史コースで学んだ事を徹底的に分析している。そして、今インディアル王国のごく一部の施設で実験中の事柄に注目している人物である。


 「さて紺野君、明日の準決勝の第1試合、エレン会長とアリスさん。どっちが勝つと思う?」

 「なんですかいきなり。」


 5日目が終わった日の夕方、村正はイブの研究室に呼び出されていた。彼女が村正を呼び出したのは、この秋の魔術祭で何を感じて学んだかを知るため。この学園に連れて来たイブとしては、村正に他の学生とは違う目を持ってもらいたいと思っている。

 上級生の魔法の使い方を見てどう感じるか。早い段階で色々な事に目を向けることで、他の学生と差をつけられる。そして、この中期に行う分野選択に役立てて欲しいと考えている。


 「エレンさんは今回の優勝筆頭候補ですけど、相手のアリスさんも、中々ですよね。」

 「そうね。彼女を推薦したのはシギーちゃんだから、かなり先生たちは注目している。」

 「えっ、そうだったんですか!?」


 アリス・ステンという学生がまだどんな存在なのか詳しく知らない村正は、シギーが推薦人と言う事に驚いた。アリスの事は、前の分野選択のガイダンスの時に見た程度。魔法技術科の先輩と言う認識しか持ち合わせて居ない。

 昨日までのアリスの試合を見て居た村正は、シギーが推薦している理由に心当たりがあった。それは、彼女の魔法の使い方だ。


 「なんでシギーちゃんが彼女に興味を持ったか分かる?」

 「アリス先輩、他の先輩達とは魔法の使い方がなんか違うとは思いますけど。それが何なのかまでは。」

 

 村正の指摘に、満足そうにするイブ。村正に、その事を気づいて欲しかった。アリスの魔法の使い方が、他の学生とはどこか違うという事に。アリスが魔法の使い方で他の学生と差があるように見えるのは、彼女の魔法の組み方にあるとイブは言う。


 「アリスさんの場合、魔法の組む時の考え方が紺野君の考え方とほぼ同じなのよ。」

 「どういうことですか?」

 「まだ、この世界では浸透していない考え方を持っているわ。」

 「浸透していない?」


 つまり、考え方そのものは存在するって、事で良いのか?


 「前に、私がこの世界でガスは無いけど電気はあるって言ったの覚えてる?」

 「あ~、なんとなく。」 

 「あれは、インフラとしてガスが整備されてないだけで、ガスそのものはこの世界にも存在している。これは良い?」

 「はい。その程度は。」


 ルマニミ遺跡の近くの火山は今も火山ガスの警戒がされてるって、聞いたし。


 「ガスの傍で着火なんてしたらどうなるか分かるわね?」

 「そりゃわかりますよ。」 

 「じゃあ、可燃性の粉塵の中で火花散らしたらどうなると思う?」

 

 考え込む村正。まだ村正では分からないのも不思議ではない。すこし考えてから村正はお手上げだと告げる。


 「粉塵爆発って聞いた事ある?」

 「名前程度なら。」

 「詳しくは知らない。」

 

 村正は頷く。


 「魔法で爆発を起こすとして、規模の大きな中級魔法以上なのは知ってわね。」

 「なんとなく、そうなんだなって言うのは。」

 「初級魔法で起こせる爆発は良くてもトラップの域を出ない。けど、今言った粉塵爆発の性質を利用すれば、初級魔法だけ規模の大きな爆発を引き起こせるの。」

 

 シギーがアリスに注目したのは、アリスが他の学生が考えもしないような事、全ての事象には、何らかの理由が存在していると、考えた点だ。アリスは、過去の魔法技術を学んでいく過程で、今の考え方とは根本的に違う部分があることに着目したのだ。それは、過去の魔法道具の一部は、自然現象そのものを利用していたと言う点だ。


 「つまり、アリスさんがオリジナル魔法を組む時は、魔法学的な考え方と同時に、()()()()()()()も持っているのよ。」


 魔法は基本、考案魔法、オリジナル魔法関係なく、魔法学に基づいて構築されていく。そこに自然現象など参考にするとしても、その詳しい原理までは追い求めない。雷魔法を例に取ると、この世界の雷魔法は、自然現象で発生する雷に近い物と言う位置づけになる。これは、雷は音が鳴って、何かに当たると燃える、と言う所で止まっているため。

 これを、本物の雷として魔法で実現させるには、魔法学的な考えだけでは駄目なのだ。そこで必要になって来るのが科学的考え方だ。この、科学的考え方、と言う考えをアリスが持てたのは、彼女が魔法メインの東側諸国の出身では無く、魔法以外も発展している西側の国の出身だったから。西側の国は、魔法以外の研究も盛んに行われている。


 「魔法学的考え方と、科学的考え方?」

 「何言ってるのか分からないって顔してるわね。」

 「実際、分からないですもん。」

 

 オリジナル魔法は基本、既存の魔法を元にするので、科学的考え方が介入する余地が無い。なぜなら、科学的考え方自体が存在せず、また、考える方も、自然現象を含めたあらゆる事象に、興味を持たないから。何故、物が燃えるのか。その事自体を考えようとしないのだ。つまり、結果が全てになっている。

 先程の雷で言えば、何故雷は光って、音をたてるのか。それが雷だから、で完結してしまう。では、何故雷は光って、音をたて、物を燃やし、人を痺れさせるのか、と言うのは考えるだけ無駄、と言うのが魔法学的考え方。


 「簡単に言うと、途中の過程を全てすっ飛ばすのが魔法学的考え方。ものごとの過程にまで目を向けるのがこの世界での科学的考え方だと思ってもらって良いわ。」

 「え、じゃあ、みんなは、良く分からずに魔法使ってるってことですか?」

 「そこが、紺野君とアリスさんの魔法の考え方がほぼ同じと言った理由よ。」


 魔法の効果について、分からずに使っているのではなく、分かった気になっている、の方が正しい。途中の過程をすっ飛ばしても、魔法として成立している以上、その魔法自体は理解しているからだ。

 魔法使い達が無視しているのは、そこに至るまでの過程。そもそも、考え方の前提条件が違うと言う点がある。


 「明日の準決勝、アリスさんの魔法をしっかり見てみなさい。多分、紺野君でも学ぶことはきっと多いはずだから。」


 村正はイブから、課題として、明日のエレンとアリスの試合で、気になる部分をまとめて提出するように言われた。これは、イブからの正式な課題となるため、成績に反映される。

 ブツブツ文句を言いながらも、他の人より、成績で一歩前に出れると言われ、仕方なくやることにした。人の多い、競技場の観戦場は避けることにした。

 イブの研究室から寮に戻る途中、村正は自分が今使える魔法を思いだしていた。今自分が使える魔法の中に、科学的な現象に成り得る物が含まれているかどうか。そうすると、重力魔法なんかは当てはまった。重力操作に置き換えることが、出来るが、考えた途端に訳が分からなくなったので速攻でやめた。まだ、村正には早かった。


=================================================


 秋の魔術祭6日目。準決勝が行われる日。多くの一般人も訪れる魔術祭。学園内もいつも以上に賑わっている。

 その賑わいを避けて、人が余り多くない観戦場にやって来る村正。イブに出された課題を行うためだ。

 準決勝の第1試合の開始時間は午後1時。2試合しか行われないので、わざわざ朝から行う必要はない。

 

 「あ、本当にこんな所に居た~。」


 ん?

 毎日聞いてる声がしたので、顔を上げるとそこには、彼女が居た。


 「良くここに居るって分かったね。」

 「イルミアに聞いたのよ。マサ君なら、多分、こう言う場所に居るって。」

 「で、わざわざここまで来てくれたと。」

 

 村正とは四六時中一緒に居ると言っても過言ではないユウキ。彼女は、この秋の魔術祭で村正を殆ど見かけてないので、どっかで油を売ってるんじゃないかと思っていた。

 

 「まあ、実際はこの場所の方が楽できそうだからってのもあるんだけどね。」

 

 てへっ、と舌を出すユウキ。彼女のは村正の隣に座ると、彼が机に置いているレポート用紙に目が留まった。


 「マサ君、何してんの?」

 「この試合で気になった事まとめろって言われた。」

 「あら~、大変ね。」

 「人事だと思って。」

 「実際に、人事だもん。」


 このやろう、と思うが何か返す気になれなかった。

 そして、試合が始まるのでモニターに、試合会場が映る。外から別会場からの物と思える歓声が聞えて来る。それに対し、この会場に居る人達はそれほど盛り上がって居ない。みんな、冷静に見つめている。

 なんとなく、この場所に集まる人達がどういう人達なのか分かった気がした。

 試合が始まると、これまでとは雰囲気がガラリと変わった。いきなり、エレンさんが仕掛けた。


 「すごいわね。いきなり大地を形成するなんて。」

 「うん。僕にはまだ無理。」

 

 生命の分野をあまり得意としない村正は、このての魔法を苦手とする。エレンの使用した魔法は、全く何も無い場所に、新たに土地を形成すると言う物。そしてさらに自然を形成して行くと言う、上級魔法を2つ同時に展開すると言う離れ業を見せた。

 いよいよエレンが本気を出してきた。ここからは、定石云々言ってられない。求められる魔法のレベルが上がる。

 

 「それにしても、かなり広いな。」

 「試合会場全体に広げた。けど、これはエレン会長ミスったわね。」

 「どういう事?」

 「この状況、相手の先輩に利用される。」


 ユウキが何を言っているのか理解出来ない村正。彼女の言っていることを理解出来る1年生はまず居ないだろう。では、何故、ユウキはアリスがこれからやろうとしている事が分かったのか。それは、これまでのアリスの試合をレベッカの解説付きで見て居たから。そして、アリスだけが考える事についても知っていたから。

 現状誰もがエレンが優勢だと見て居る。だが、アリスの実力を知る者、特に教師陣は、アリスに分があると分かって居る。もしかしたら、エレンが負けるかも知れないと。

 生徒会長だから絶対的な強さを持っていると言うわけでは無い。そこを間違えてはならない。

 ある程度エレンの魔法が完成に近づいたところでアリスも動く。


 「全てに轟く凍てつく声・その声を聞くは氷と化す・冷たき息吹に怯え・我が下に膝ま付け!」


 台地がパキパキと音を立て凍っていく。空気が冷たくなるのが肌で感じられる。吐く息は白くなり、試合が行われている会場は一気に真冬の様になった。

 大地を氷つかせる魔法は存在しても、ここまで大規模な物はそうそう使用しない。せいぜい自分の周りだけ。そうでないと、使用者に掛かる負荷が大きいから。エレンは、まだアリスの狙いに気づいてない。ただ、自分の邪魔をするために、大地を凍らせた程度の認識。他の学生もそうだ。そこには村正も含まれるが、隣に居るユウキは違った。

 ユウキには分かってるのだ。アリスの魔法には、()()()()()()()ことが。


 「すごい、一瞬で凍った。」

 「まだ、次がある。」

 「え?」


 今の氷の魔法で感嘆する村正に、冷静に試合を見続ける様に促すユウキ。これから起こる魔法を絶対に見逃すなと。

 そう言われ、村正も画面に注目する。すると、画面越しだが、アリスの周辺だけ湯気の様な物がたってるのが分かる。


 「熱風!」


 ”熱風”。ただの初級魔法だが、侮って居られない魔法でもある。風魔法の類なので、まず目に見えない。そして、防御魔法を展開したとしても別の弊害が生まれる。それは、蒸されると言う事。

 防御魔法が完璧に機能しない可能性がある、数少ない魔法の1つ。そして、今まさにアリスによって放たれた”熱風”もそうであった。そして、この熱風が、アリスの持つ頭脳が活かされる。


 「すごい、水の膜に包まることで、熱風の影響を抑えてる。」

 「ユウキ、分かるの?」

 「防御魔法を使うのが普通だけど、そうしたら、あの熱風だと、一瞬で蒸し焼きになりかねない。」

 「だから、水の膜。」


 だが、それはあくまで一般的な熱風の話。アリスのはそんな軟な物じゃない。

 凍った台地から放出される膨大な熱エネルギー。その熱エネルギーを丸々熱風に利用している。それは、見た目初級魔法でも、威力は上級魔法を軽く上回っている。それは、水の膜でさえ、蒸発するもの。

 水の膜に包まれているエレンは、今、熱湯の中に放り込まれた状態にある。そして、水の膜を解除すれば、強烈な熱風に当てられ、即試合終了に追い込まれる可能性も高い。


 「ものの見事に蒸発している。」

 「完全にエレン会長、嵌められたわね。」

 「どういう事?」

 「魔法では、水を纏うと言う事は、液体が体に付着している、と言う考えで動くの。」


 普通、水に触れた時は当然、その場所が濡れる。水の膜も例外ではない。但し、状態がそうなだけであって、完全に水中と同じ状態と言うわけではないのが、水の膜を魔法で作る時のポイント。

 もしも、水中と完全に同じにした場合、息が出来なくなる。この水の膜を作り出す魔法は、周囲を水の膜で覆い、自信は、濡れた状態に居るのだ。

 

 「今、エレン会長は、蒸発した水によって、熱を奪われてる。」

 「すると、どうなるの?」

 「体が一気に冷える。」


 完全に環境を含め場を支配されたエレン。これが、魔法学的考え方以外の考えを持つ、アリスの強み。アリスは、この科学的考え方をようやく物に出来たのだ。


 「でも、何でエレンさん、ずっと耐えてるの?」

 「耐えるしか、無いのよ。エレン会長が最初に、会場全体に大地を形成してしまったのが、間違いだったのよ。」

 「どうして?」

 「あれだけ広大な土地を一気に凍らせたら、それなりの熱エネルギーが奪われる。それを熱魔法に転用した事で、通常を遥かに上回る熱風が吹き荒れている。そして、対策として、水の膜を張った。」

 「すると今度は体温を奪われる。」


 完全にアリスが立ち回りやすい状況を作ってしまったエレン。反撃しようにも、熱風が止むまでは、絶えず、水の膜を操り続けなくてはならない。適度に、調節し、奪われる体温を調節する必要がある。

 アリスの攻撃が収まるまでは自分の事に集中するだけで手一杯に陥る。エレンはなるべく防御に集中して、自分とアリスの差を大きくしないようにしている。

 熱風の勢いが弱まり始める瞬間が訪れた。それが両者にとって次の行動の合図。それぞれ、次に何を行うがこの時間を使って考えて居る。


 「消えた!」


 エレンとアリスは互いに姿をくらます魔法を使用した。試合会場には、アリスの熱風と、エレンの水の膜がぶつかり合って出来た水蒸気が、視界を悪くする。それでも、今、2人は姿を見せて居ないと言うのは直ぐに分かる。状況をリセットしたいエレンとしては、この方法が最善策。アリスも、エレンからの反撃を想定しているのであれば、今の場所に留まるのは良くないのは分かって居る。

 まだまだ試合はこれから。村正は、そう感じているが、隣に居るユウキは違った。もう、勝負はついたも同然だと、ユウキは感じていた。

 先に姿を現したのはアリスの方。1分もしないで再び姿を現した。周囲を経過しているのか、直立して神経を研ぎ澄ましているように見える。すぐにエレンが、アリスの背後に現れ、彼女に魔法を放った。激しい光が試合会場を包み込み、観戦会場のモニターは真っ白になる。誰もがエレンの勝利、そう思った。

 

 「――え?」


 画面が徐々に見え来ると、そこに映っていたのは、アリスに背後を取られたエレンの姿だった。

 そして、そのまま、エレンが膝をつき、彼の体力ゲージがゼロになった。

 何が起きたのか、多くの人が理解出来ていない。今さっき、アリスは、確かにエレンの魔法を受けた。それは、間違いないはずだ。避けた素振りは一切見せてなかった。それなのに、どうして、と。


 「さっき、エレンさんの魔法を確かに・・・。」

 「全て、あの先輩の計算通りだったのよ。何もかも。」


 全てわかっていたかの様な口調のユウキ。その彼女の目は、アリスに対する尊敬の眼差しと、彼女の使った、魔法の組み合わせ、魔法の流れに感動してるようだった。

 アリスが最後に使った魔法。幻惑の類の魔法ではないかと、多くの学生は見ている。だが、エレンが幻惑程度に引っかかる様な男でない事も、見て居る方は分かって居る。どうして、エレンがミスをしたのか、アリスが何をしたのか、多くの議論が学生の間で行われた。


 「あの先輩の考え方、私、覚えたいかも。」


 何か、目指すべき物を見つけたユウキは、立ち上がると、村正の手を引いて、観戦会場を出る。

 いきなり手を取られた村正は訳が分からないまま、彼女に手を引かれながら走る。ユウキは、村正を寮へ連れて帰る。


 「聞いて、マサ君!」


 机にバン、と手をついたユウキの目はとても輝いていた。



次回At142.秋の魔術祭Ⅶ

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