At139.秋の魔術祭Ⅳ
エレンとミウの試合の後も、試合はそつなく進んで行く。エレンの試合の後は、第2試合、5年6組代表のアリス・ステン。第3試合、生徒会枠、マリー・グレンジャー。第4試合、同じく生徒会枠、セリス・リングがそれぞれ次の試合に駒を進める。
村正は今日の試合を見終えると、観戦会場を後にする。
「紺野君、戻らないの?」
「ちょっと、図書館にね。」
村正は、図書館で調べたいことが出来た。秋の魔術祭は夏とは大きく試合の流れが違う。それは、特別な事ではなく、普通の事。だが、いくら普通であると言っても、魔法はまだまだ半人前にも達していない1年生が見ても、何が起きてるのか、中々理解しずらい。理解しようと思ったら、勉強するしかない。
10時に始まった試合も、エレンとミウの試合以外は1時間程度で決着がついた。寮に戻って、エレンに色々聞きたいところなのが、正直なところ。だが、流石に今日は止めることにした。
「う~んと、この辺かな?」
「な~んの本探してんのかな?」
「うわあっ!」
背後から耳元で囁かれて、驚き声を出してしまう村正。そこに居たのはイブだった。
「こら、図書館で大声出さない。」
「誰のせいだと思ってるんですか?」
胸に手を当て、今も強く鼓動を打ち続けている心臓を落ち着かせる。
少しして、ようやく図書館内の空気に馴染む呼吸が出来る様になった。
「ところで、こんなことろで何してんの?」
「僕は、ちょっと調べ事を。」
「魔法の組み立て方?」
村正が手に取っているのは、オリジナル魔法の入門編の書物。魔法を組み合わせる時、どの様にして、組み合わせ、組み立て、1つの魔法に仕上げるか。それを簡単に記した物。この本に書かれている内容で、可能なのは、初級魔法レベルの物だけ。
「オリジナル魔法って、同じ魔法でも組み立て方1つで、変わったりするのかなと思ったので。」
「面白い事に興味持ったわね。」
村正とイブは、そのままの流れで2階の個室へと向かう。下の階で喋るよりかは、まだ話しやすい。
「それで、どうして、魔法の組み立て方に興味を持ったの?」
「今日のエレンさんの試合を見て、ふと思ったんです。」
「何か、気になる事があったって事?」
村正が気になったのは、エレンとミウの試合の流れが変わった、後半にエレンが見せた、光る球が大爆発を起こした魔法。エレンが発した言葉から、何らかの形でアレンジが加えられた魔法なのは、なんとなく理解出来た。それが、エレンが考えたオリジナル魔法なのか、他の誰かがエレンに伝授したかは別にして。
「エレンさんが使ったあの光の球の魔法って、エレンさんが言った言葉の通りに組まないとどうなるんですか?」
「んなるほど。それはね、基本は別な形で効果を現すわ。ただ稀に爆発するだけのこともある。」
「基本は別な形で効果を現す?」
「簡単に言うとね、それぞれがバラバラに発動する。」
炎が出て、熱を持った風が吹いて、熱湯が吹き出し、雷が起き、空気が振れるとなったりする。
エレンが、魔法をきちんと発動させることが出来たのは、しっかりと魔法の仕組みを理解していたから。
「彼の場合、魔法をどう発動させると良いか分かってたから、適当に思える言葉でもしっかり発動出来た。」
「じゃあ、あの魔法でエレンさんが言っていたのは。」
「保険じゃないかしら。きちんと発動させるための。」
詠唱を言わずに魔法を放てれば、それだけ時間を短縮できる。だが、その分魔法を仕組みをしっかり理解していないと、中途半端な物になったり、不発になったりする。
考案魔法より、オリジナル魔法の詠唱がより魔法に直接的になりやすい傾向にあるのがこの為。
「じゃあ、エレンさんはあの魔法を。」
「基本は無詠唱で出来ると思うわよ。彼の腕なら。」
「そうなんですか。」
村正は無詠唱含で魔法を発動することについて考える。レベッカに、初級魔法は詠唱なしで出来るようにしろと、課題を出される程なため、出来る魔法が多い。だが、村正の場合、中級以上になると、それはまだ厳しい。最近、実践の授業の中で、詠唱短縮が出来る魔法が2個だけ増えた。
そして、杖などの補助なしの事も考えていた。今の村正の実力では、殆どの魔法で補助が必要になる。彼の底無しの魔力では、魔法が大雑把になりやすい。そのため、細かい作業を行おうとすると、どうしても杖などの補助が必要になる。これは、時と場合によっては不利になりやすい。
「でもあれですね。」
「あれって?」
「上級生の魔術祭だからもっと、派手なんだと思ってました。」
村正の抱く感想は、クレア学園に在籍していたり、魔法に詳しくない人が見た時、誰もが通る道。みんな、初めて見るとびっくりする。思ったより地味だと。
「もっと、規模の大きな魔法を出し合うのかと思ってました。」
「うん。1年生で秋の魔術祭知らない子は全員そう言うわね。毎年、その不思議そうな顔してる1年生見て隠れて笑ってるのが、この学園の先生たちだから。」
勿論、イブもその1人だ。
「この学園の先生、そんな事してるんですか?」
「魔術祭を理解してない下級生から、意味を理解している学生に目をつけやすいのも理由だけどね。」
それでも、理解している1年生なんて殆ど居ない。
「魔法でドッカンドッカンやるのは、まだまだ若い証拠よ。」
「普通、そういう物だと思いません?」
「でも、スッキリしてるでしょ?」
「そう言われればそうですけど。」
普通、魔法で試合するってなれば誰だって、ドッカンドッカンやると思うじゃないですか。まさか、ただ立ったまま言葉も発さずに居るなんて思わないでしょ。
しかも、レベルの高い魔法までも詠唱なしで行うし。まあ、難しい魔法は詠唱あっても魔法の詳しい仕組み、理解出来なかったと思うけど。
でも、補助なしや、無詠唱を理解すると、確かにすごいと思えてくるだよな、これが。
しかも、やり取りは目視では確認しずらい魔法ばかり。それでやりあうんだから。
「徐々に徐々に、魔法のレベルを上げて、どっちが先に詠唱が必要な魔法を使うかも見ものだしね~。」
「やっぱりそうなんですか。」
「上級生の場合は注目されるポイントが違うから。」
下級生の場合は、どんな魔法を使用可能なのかが、主な注目ポイントになる。それは、授業で学ぶ内容を理解し、実践を行った上でどれだけ魔法を物に出来たか。
上級生の場合は、魔法以外にも、扱い方、発動方法、どこでどんな魔法を、どう使うかまで注目されている。
「だから、極論、あーっ。」
イブが村正の後ろの壁を指さして声を上げる。それにつられて思わず村正は振り返ってしまう。
「隙あり。」
「あたっ!」
イブが村正の頭を机に置いてあった本で叩く。
村正は、頭をさすりながらイブに文句を言う。
「何すんですか。」
「今みたいにしても良いのよ。」
「嘘でしょ。」
相手の注意を引き、その隙に魔法を撃ちこんで勝利する。勿論、そんな初歩的な事に引っかかるのは1年生程度。
上級生が使うのは、金縛りなどの魔法で、動きを封じるのと同時に、一斉攻撃をする物が主流。そして、1つ主流になればすぐに対策を施して次に繋げる。こうして、年々学生の魔法レベルが上がる。
「後は相手の本当に目の前でいきなり魔法放ったりかな。」
「本当に上級魔法の放ちあったりしないんですね。」
「最後の方にちょっとあるくらいかな。紺野君がイメージしているのは、春の魔術祭がそうなるかな。」
村正はこの場にイブが居るならとせっかくなので、オリジナル魔法について少し聞く事にした。
同じ効果を持つ魔法でもその人によってやり方に違いがあるのではと思ったから。
実際、村正の考え方は正しい。簡単な効果を持つ魔法程、その魔法を扱える人の数だけオリジナル魔法が存在すると言っても良いだろう。
「オリジナル魔法って、なんか難しい物をイメージしちゃうんですけど、簡単なんですか?」
村正は持ってきた本を見ながらイブに訊ねて行く。
「うん。初級魔法を基礎にするのであれば簡単よ。」
イブは、村正の読んでる本を捲って行き、炎を出す部分で止める。これのどこがオリジナルなんだと村正は思うが、そのレベルまで下げた方が説明しやすいとイブが話す。
「例えば、何かに火をつけようと思ったら、着火って言うだけで良いでしょ。」
「はい。」
「これも、わざわざ着火、なんて言わなくても、えい!」
イブが人差し指を立てるとその先に小さな火が灯る。
「こんな感じに出来る。今ある魔法をどれだけ自分の物にアレンジして行くかが、オリジナル魔法の入り口になるわね。」
「例えば、相手を拘束しようとする魔法なんかも?」
「そうよ。こんな風に、はいドン。」
イブが指を机に向けておろすと、村正の顔が机にガンッと音を立てて押し付けられる。
「こうやって動きを封じることも出来る。」
「分かりましたから拘束解いてください。」
急に体を動かせなくなった村正。その慌てぶりを見て笑みを浮かべているイブ。すぐに解除された村正は、一々実験するなと、イブに言い放つ。
「今のは?」
「今のは、拘束ではなく、ただ、相手の動きを一時的に押さえつける、言わば固定する魔法。」
「拘束とは違うんですか?」
「拘束は、魔法の使用者が解除するか、若しくは拘束する対象から明確に意識を逸らした時じゃないと解けない。反対に、固定する魔法は受けた側でも解除可能よ。」
魔術祭では、拘束と固定は状況によって使用が別れる。
面白いのは、拘束魔法は数種類存在すること。魔術祭などで使用されるのは、一番レベルの低い拘束魔法。学生の間は、一番レベルの低いものしか扱えない。その中で自分なりにアレンジして行く。
最もレベルの高いのは、主に軍用魔法で、相手の動きを完全に封じることが出来る。魔法使いであれば、魔法の発動が不可能であったり、拘束魔法の射程が伸びたりする。また、無理に動けば、相手に衝撃を与えるものまで存在する。
「紺野君は、どんな魔法を扱いたいのかな?」
「どんな魔法、とは?」
「魔法にも色々あるでしょ。魔法のレベルや、複合、オリジナル、無詠唱、等々。」
イブの今言った物全部、が正直なところだ。それが村正の考える魔法使いだから。レベルの高い魔法を使えることが、魔法使いを評価するわけでは無い。一番、評価が高いのは考案魔法だ。だが、それは長い研究の道のりが待っている。それは、村正のイメージする魔法使いからは、ちょっと道が外れる。
どんな魔法を扱う、となった時、自分なりの魔法を持ちたい、となればオリジナルが一番近いかも知れない。色々考えて見るが、これ、と言うのが見えてこない。
「う~ん・・・。」
腕を組んで悩む村正を見て、なにか、満足そうなイブ。こうして、村正が魔法としっかり向き合って、頭を悩ませるのは、彼をこの学園に導いた事が間違いでなかった証だ。この学園に通う他の少女達と同じ様に悩む。それが、この世界での普通の事なのだから。
「1年生にはまだ早いか。」
「そうですか?」
「紺野君だけが魔法を知らなかった訳じゃないもん。」
その為に専門分野が用意されてるのだから。
「だから、5年間もここで学ぶのよ。」
「納得です。」
学校生活が、3年じゃなく、5年の理由がようやく分かった。
確かに、これだけの事、3年じゃ無理だ。色々と危険な事も多い魔法だし。
そして、子供が使うには大きすぎる力だよ。ほんと・・・。
「それじゃ、私はもう行くわね。」
「あ、はーい。」
イブが図書館を出た後も、村正はずっと、本を読んでいた。
魔法を色々な意味で上達させるには、魔法以外も興味を持ち、そして学んで行かないと駄目なんだと、読んでる本には書かれている。
例えば、自然現象を魔法で起こそうと思ったのなら、まず最初にやることは、その現象を理解すること。そうしないと、いざ魔法にしようとしても、失敗する。
今村正が読んでいる本は、オリジナル魔法の入門編なので、難しい事は書かれていない。まずは、理解する。それは、基本の魔法でも同じだと。オリジナル魔法を作ろうにも、どんな魔法を基準にするかを理解しろと。既存の魔法の仕組み・効果を知らないと、何をどうオリジナルにするかが分からなくなると。
「分かっていたけど、勉強すること多いなー。」
まずは、魔法の足し算から始めるのが、初級編になっている。その後、色々混ぜ合わせて自分だけのオリジナル魔法を作り上げて行こうと。
足し算となって、ちょっと身構えてしまう村正だが、割と単純だ。
基礎分野だけで考えると簡単になる。熱分野の炎と、力分野の風。この2つを併せて炎の竜巻にする。炎の竜巻は既存の魔法で存在しているが、こうして、本当に簡単な物から始めて行くのが、第一歩になる。
「1+1=2から始める様なもんか。」
何に、何を足したらどうなるか。その次に、何と何を掛け合わすとどうなるかを考える。
その作業を繰り返し、複雑な魔法を組み上げていく。複雑な魔法の組み上げ方も、この学園では、各学科・コースの特色を見ることが出来るから面白い。
時々、耳にする、ヒントはそこら中に転がっている。その通りなのだ。その人の目の付け所が物を言う。
この秋の魔術祭でも、上級生の使用する魔法1つ1つに目を光らせることが、成長への近道でもある。そして、この中期で1年生が行う選択の参考になるのだ。
この学園の行われることすべてに意味がある。無意味な事など1つもないんだと言う事に、どれだけ早く気付けるかがポイントになる。
この秋の魔術祭も多くの1年生が、試合の最初を見て居ない間に、どれだけの収穫を得るかで、一歩、二歩、リードできるのだから。それを行ってきた先輩たちが今、秋の魔術祭に立っているのだ。
次回At140.秋の魔術祭Ⅴ




