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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第7章 専門分野の選択
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At138.秋の魔術祭Ⅲ

 試合が始まってから既に45分が経過した。その間、エレンとミウは、何もしていないように見える。だが、実際にこの場に居る2人は何もしてないわけでは無い。

 エレンとミウは現在、使える時間は最大限に活用し、相手に勝つ方法をずっと模索している。何より、腕が固定されて居るため、下手に手を動かすことも出来ない。

 体が完全に固定されたわけでは無いので、動く事は出来る。だが、動くのはあまりにリスクが大きい。

 エレンは今動く事の危険性を分かってる。なぜなら、()()()()()()()()()


 腕が吊るされた瞬間、僕は君の周りにトラップを仕掛けた。なら、当然君を同じ事をしたんだろ、ミウ。

 彼女が僕と同じ行動をとった瞬間から理解している。この勝負、一発の魔法で決まると言う事を。

 試合開始から1時間が経った。


 この間、エレンとミウの間では風魔法のやり取りがずっと行われている。風の刃が、風の槍が、風の壁が2人の間で飛び交っている。それなのに、2人には何の変化も起きて居ない。それは、何故か。

 2人とも、自分の前に壁を作っている。防御魔法の使い方の応用だ。防御魔法を自分の周りに展開するのではなく、盾として使用している。だが、防御魔法など何処にも無いように、見えて居る。

 防御魔法は、それぞれが光魔法を使って、見えなくしている。相手が、防御魔法を使っていないように見せるために。この方法は、エレン達が3年の冬の魔術祭で実際に使用した方法。防御魔法を使ってないのに、魔法攻撃を受けても平然としているので、相手側の衝撃は大きかった。

 腕が固定されていようが魔法は放てる。そして、今腕を固定している魔法も、簡単に自分で解くことさえ可能だ。この程度の魔法に解除であれば、1年生でも出来る。でも、その解除を2人はあえてしない。解除すること自体が罠の可能性があるからだ。

 腕を自由にした瞬間、次の魔法が効果を現さないとも考えられない。現に、エレンはそうしている。ミウが、腕の掛けられた魔法を自分で強制解除すると、次は、体全体の動きが封じられるように仕掛けられている。


 僕は一度この状況をリセットしたいと考えてる。ミウ、君も同じかい?


 この状況を打開する方法は相手が何を考えているのかを、数て先まで読む必要がある。だが、そんな回りくどい事をしなくても良い方法が1つだけある。そう、この考えた時間を水の泡にすること。

 どうせいくら考えたところで、いくらでも作戦の穴を見つけられる。その穴を見逃すほど甘い相手ではない事を2人とも知っている。

 先に相手が動けば、自分も動く。それだけで状況が変わることは無い。ただ、今の状態に動きが尽きただけ。それは、止まってるのと同じ意味だ。

 エレンは、ミウの周辺に仕掛けたトラップの魔法を全て解除する。その事にミウも気付く。自分の周辺で何が変わった。そして、それは、エレンがやったことだと。彼の目を見て、何を考えて居るのかすぐに分かった。

 これは賭けだ。今ミウがエレンに攻撃を仕掛ければ、エレンはトラップに囚われ、ミウの魔法は直撃する。


 そんな事ないか。

 なるほど、君はある程度行動方針が決まった、と言う事か。


 ミウは深呼吸をしている。それは、動きだす時の、なにか大きな事を行う時にミウが行う、自分を高めるための動作。確実に仕掛けてくる。エレンはその事を直感する。

 リセットが行えないのであれば、エレンも、考えた行動を起こすまで。

 時が来た。沈黙の時間を破る時が。それぞれが準備を始めている。何かが起ころとしている。それは、外で観戦している学生たちにも伝わった。

 1時間以上が経過して、ようやく、この試合に変化が起きると。何が起こるのか、大勢の人が息を飲んで見て居る。

 先に動きがあったのはミウ。彼女の周りを風が包む。そして、ゆっくりと彼女の体が浮きあがる。

 ミウは、体が浮きあがるのと同時に、腕にかけられた魔法を解除する。すぐに全体を固定する魔法が発動する。だが、それは大きな問題では無かった。


 たとえ、体が固定されても、それは体の自由が奪われるだけで、設置や、その場に縛られるわけでは無い。なるほど、反重力魔法で、自分を軽くすることで、風魔法で自由に動ける方法を取ったのか。流石だよ、ミウ。


 風に包まれたミウは、エレンに高速で魔法を放って行く。その魔法をエレンは次々と打ち消して行く。

 魔法を落されたミウは、自分の体を高速で移動させる。風の力を使い、エレンをあらゆる方向から攻撃して行く。

 エレンは、たとえ背後から魔法が飛んでこようが、問題なくその魔法を消して行く。まるで、後ろに目でも付いてるのではないかと思わせる。


 「やれやれ、この状態で魔法を後ろに放つと言うのは思ったより、苦労するね。」


 エレンは杖が一方しか向いていないのに、様々な方向に飛ばしている。それは、難易度が高い。対象、若しくは目標とは違う方向に杖を向けてると、魔法が思うように飛ばない。

 反対に、目を閉じた状態でも、杖の向いている方向であれば、簡単に、魔法を放てるのだ。

 エレンは自由に動く左手で杖を持とうとした時だった。


 「おっと?」

 「――ぅふ。」


 杖を取ろうと左手を上げたら、その左腕まで固定されてしまった。

 エレンは冷静に、両方の腕にかけられた魔法を解除する。意外だったのは、魔法を解除しても、特に異変は起きなかったこと。

 ミウは今もエレンの魔法によって、体が固定されたまま。本来であれば、とっくに解除出来てもおかしくないが、ミウはあえて今の姿勢を保っている。

 エレンの周りを回りながら魔法を仕掛けていくミウ。正十二角形に魔法陣が配置され、その中心にエレンが立っている。エレンは冷静にその魔法がどんな魔法なのかを見極める。

 魔法陣はそこまで大きくない。つまり、大規模な魔法ではないと言う事。

 ミウが杖を握った右腕を引き、前に強く押し出す。それを合図に魔法陣から炎がエレン目掛けて放たれる。


 「では、これは使わせて貰おう。」


 エレンは炎が迫って来ても表情一切変えずに、ミウの魔法によって放たれた炎を自身の杖で絡め取るようにして行く。

 エレンが杖をクルクルと頭上で回すと、それにつられ、ミウから放たれた炎は1つに纏まり、大きな炎になった。そこに、エレンが別の魔法を重ねる。

 エレンに炎を横取りされたミウは、次の行動に入る。エレンが人の魔法を横取りするのはよく使う手段。想定内だ。


 「炎・水・雷・光・音・熱・振動・風・そして、集束。」


 初めて、エレンが詠唱の様な物を行う。その魔法をミウは過去に1度、見たことがある。その魔法がどんな魔法か。エレンが放とうとしてる魔法の危うさを知っているミウは、距離を取って、魔法を撃ち消すことに集中する。そのミウの行動もエレンは想定している。


 「響け。」


 ミウの杖から、空気の振動が伝えられる。その振動によって、エレンが発動しようとしている魔法を消そうとする。空気のやり取りは目に見えない。それにも関わらず、ミウの魔法はエレンに届かない。エレンに届く前に、空気の振動はエレンによって同じ魔法で相殺される。

 流石に、この事態も想定はしていたが、ミウはさらにエレンから離れる。エレンが準備をしているのは、規模の大きな魔法。こんなに速く規模の大きな魔法を使うとは思ってなかった。

 会場となった特殊空間の進める限界まで離れた場所で、防御魔法を展開する。この状況では、下手に動くより、防御に徹するのが正解。これ以外に道が用意されていない。


 「大分離れたようだね。」


 エレンは遠くに見えるミウを見つめる。

 エレンの杖の先には小さな光の球が付いている。眩しく輝くその球は、稲妻を帯びている。


 「さて、届くと良いんだが・・・。」


 投げる様にして、その球をミウに向かって放つ。それと同時に、ミウまでの直線状の摩擦を極限まで小さくし、機を伺う。

 ミウも、エレンの魔法に耐えるため、防御魔法に大量の魔力を注ぐ。光の球は、ミウの防御魔法の壁に当たると、跳ね返る。その跳ね返ったところで、激しい閃光を伴いながら大爆発を起こす。

 エレンの魔法は、火山の爆発の衝撃をあの球に込めた魔法。その衝撃を力の集束で無理矢理抑え込んだ。そして、その抑え込みをミウの元で解き放てば、火山の噴火の衝撃のほぼ全てを間近で受けることになる。

 空間がその爆発の一瞬、無に包まれる。そして、爆発から数秒後、エレンが体を低く屈める。


 「――っ!」


 爆発の衝撃で、ミウの防御魔法は力で破られる。その結果、ミウに大きなダメージが与えられる。すぐに、態勢を立て直す。

 その時だった。爆発の閃光と、煙の僅かな隙間から本の一瞬、エレンが身を屈めて、自分を真っすぐ見て居るのが見えた。

 エレンは、自分とミウの一直線上の摩擦係数を低くしたことで、一瞬でミウとの距離を詰めようとしている。弓矢の原理で自分の体を矢に見立て、ギリギリまで体を引き、一気に放つ。

 エレンの身体は、摩擦係数が低くなった場所を、一直線にミウ目掛けて進む。


 「おわっ!?」


 真っすぐ、線の上を滑るように進んでいたエレンの体が、ミウの手前で大きく前に飛んだ。

 一瞬、エレンも何が起きたのか分からなかった。だが、そこはただでは転ばないエレン。転ぶ瞬間に、ミウの表情と、その位置を見た。そして表情ですぐに分かった。ミウが魔法で、自分のルート上の一点だけ、摩擦を強くしたと。だから、エレンは吹っ飛んだ。

 エレンが転んだのを、彼の声で確認すると、位置も把握せずに、声のした方向に魔法を放つ。

 それと同時に、エレンは、一瞬だけ見えた、ミウの足下付近の摩擦を完全にゼロにする。

 2人の魔法が同時に発動し、同時に2人を襲う。


 「きゃあ!」

 「くっ!」


 先にミウが倒れ、その後、エレンがミウの攻撃を受ける。エレンは攻撃を受けた横腹を抑えている。

 だが、ミウはうつ伏せの状態で倒れたまま。エレンによってミウの周辺は摩擦がゼロになった。これにより、彼女は動けるのに動けない状態になってしまった。そして、うつ伏せと言う、最悪の体勢になってしまった。これが、仰向けの状態だったら、また結果が違ったかも知れない。

 立ち上がったエレンは何とか起き上ろうとするミウの上空に杖を向ける。


 「我が力に答え・我が力を示せ・我が力にひれ伏す者を・我の恐怖で押しつぶせ」


 ミウの上空に立方体の質量体が形成される。それは、真っ黒でミウの周囲に暗い影を落とす。その影に気付いたミウは、後ろ手に防御魔法を展開する。かろうじて、展開に成功するが、不安定な状態に変わりはない。今は、この体勢のままで耐えるしかない。無駄だと分かって居ても。

 エレンは杖を下から思いっきり上に振り上げる。それに合わせて、黒い質量体は上空へと振り上げられ、ある一点で落下へと切り替わる。そこへすかさず、エレンが魔法で力を付与する。


 「重化!」


 重化。人や物体の重さをより重くし、その場に留まらせるのに使用する魔法。主に、物を置いておくのに使用する泥棒対策だが、空中にある物体の重さを重くする。それも落下中に。

 元々の重さに、魔法でさらに重さが加わる。そこに、落下の衝撃。この三重の衝撃を今の体勢のミウの防御魔法では耐えられない。


 ドーーーーーン!


 落下音の音と、その衝撃が空間を駆け抜ける。

 暫くして、魔法の効果が消え、黒い質量体からミウが現れる。質量体は、霧状に消えていく。魔法が、通常の手順で解除された事を意味する。中から現れたミウが起き上る。摩擦の魔法も解除された。

 そして、ミウの体力ゲージは底をついた。


 「そこまで!」


 3日目第1試合、エレンの勝利で終了。


 開始1時間、殆ど動きが無かったかと思えば、そこからは早かった。それでも2人とも殆ど何も喋らずに試合を進める。最後は、エレンが囮として放った魔法に、ミウが見事に引っ掛かった形だ。

 エレンの目的は、大規模な魔法が来ると分かり、遠ざかったミウに最接近すること。それも、かなり近くに。ここで大事なのは、ミウに、エレンの姿をどんな形でも良いので、見せる事。エレンが攻撃に失敗することで、心理的隙を強制的にこじ開ける。そうすることで、エレン自身がミウの正確な位置を把握することが出来る。後は、彼女の足下とその周辺の摩擦をゼロに出来ればエレンの勝ちとなる。

 エレンがこの、摩擦をゼロにする方法を最初に取らなかったのは、なるべく魔法を使わないでミウに勝つため。エレンとしては、もう少し綺麗に勝ちたかったと思っていた。

 次の試合では、早々に仕掛けることも念頭に置くエレンだった。



次回At139.秋の魔術祭Ⅳ

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