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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第7章 専門分野の選択
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At137.秋の魔術祭Ⅱ

 秋の魔術祭の初日は、どの試合も同じ試合運びになった。最初の1時間は、お互い微動だにしないで、魔法を撃ちあう。1日4試合行われるが、その全てが同じ状況になるため、殆どの1年生は試合が動きを見せてから、観戦に現れる様になった。

 一方、魔術祭の流れを把握している上級組は、どっちが先に動くか毎試合ヒヤヒヤしている。初級魔法を始めとする簡単な魔法しか放たないと言うのは、試合に出ている学生としては不本意でもある。だが、オリジナル魔法を持つ学生が増える4年生と5年生。どんな魔法が出て来るか分からないと言うのは恐怖でもある。だからと言って何もしなければ自分の持つ実力を発揮できずに終ってしまう。

 徐々に徐々に魔法のレベルを上げて行き、どちらが先に、詠唱を必要とする魔法を使用するかが鍵となる。同じレベルの魔法でも、詠唱なしや、短縮で放てればそれだけで十分有利になる。自分が危ないと分かれば防御魔法を展開して魔法をやり過ごす。

 同時に色々な状況を想定し、行動する。相手がどう動き、どんな魔法を放ってくるのか。どこで、スタートの状態が変わるのか。それらを見極めるのが、秋の魔術祭で勝ち残る大事なポイントになる。


 「昨日と今日は、殆ど同じ試合運びだったね。」

 「ねぇ。なんか、思ってたのとちょっと違った。」


 2日目の魔術祭が終了した夜、寮の部屋で村正とユウキは見ていた魔術祭について話していた。

 1日目と2日目は1回戦の試合。出場する学生としても、これから勝ち残ることを考えると自分の手の内を早々に明かしたくはないと考えている。特に、明日行われるシード組の試合には、魔法の腕で上位に立つ学生しか居ない。

 3回戦でシード組と試合を行うまでは、この様な状態の試合は続くと試合の解説をしたレベッカは語っていた。

 3日目が普通に2回戦の試合を頭からやらずに、シード組を先に片づける理由は、後ろのシード組が4日も暇になるからだと言う。


 「でも、最後の方は普通にすごいんだよね。」

 「そこは流石上級生、って感よね~。」


 試合終盤は、中級、上級、複合、オリジナル魔法のオンパレード。

 特に村正達の印象に残っているのが2日目に行われた第2試合と第4試合。この2つの試合には、生徒会枠の4年生がそれぞれ出て居た。

 

 「昨日の生徒会の先輩の試合さ、後半すごくなかった?」

 「本当本当、何あの魔法ってなった。」

 「あれ、最初ただのフィールだと思ったら全然違ったし。」

 「でもそれを真顔で遠くに投げる先輩も凄かったわよ。」

 

 第2試合、生徒会枠から出た、4年生の放った魔法。上級魔法でまともに受ければ大ダメージの魔法。魔術祭では、試合終盤によく見られる魔法の1つ。

 見た目は小さな火球だが、実際はとんでもない魔法。何かに触れた途端、大爆発を起こし、激しい閃光、熱風、衝撃波をもたらす。


 「でも、あれさ、どうやって弾き飛ばしたんだろう?」

 「マサ君、別の場所で見てたんだっけ?」

 「うん。」


 2日目も村正はエレンと一緒に行動してた。生徒会メンバーの試合を見るために、2人は観戦会場の1つで見て居た。その途中でエレンが先生に呼ばれたため、何が起きてるのか1年生の村正には、まだ分からなかった。


 「あれは、進んでくる魔法とか物体の進む進路を強制的に曲げる魔法だって。」

 「曲げる魔法?」

 「レベッカ先生が言ってたのは、ある物の進む進路に干渉してその道筋を変更する、だったかな?」


 生徒会の4年生が使用した魔法の名前は”熱裂弾”と呼ばれる魔法。何かに触れるまでどこまでも進み続け、何かに触れたところで大爆発を起こす。

 対戦相手の方は、力魔法と重力魔法を使って進路を変更する物。この魔法の大事な点は、進んでくる”熱烈弾”が()()()()()()()()()()()()わけでは無いと言う事。つまり、”熱烈弾”の進路が予め曲がっていた、と言う状況を作り出したのだ。

 

 「もし、ただ曲げるだけの場合、その衝撃で爆発して、ダメージ判定を受けるだろうって先生が。」

 「なるほどねー。」

 「だから、私がマサ君との試合で使った魔法は、止まった瞬間に爆発するって。」

 「んああ、最後のあれか。」


 夏の魔術祭でユウキが最後に使用した上級魔法。放たれた魔法を、勢いよく押し戻すユウキの魔法は、自身に向かって来た物を無理矢理押し戻す魔法。この、押し戻すと言う内容が、爆発の起爆剤になり得る。

 

 「ただ、あの”熱烈弾”を避けられたのは、上級魔法だったからだって。」

 「オリジナル魔法より、その魔法を理解しやすいからって事か。」

 「そうみたいだね。」


 上級魔法を使えることが魔法使いの技量ではない。それ以外にも、それぞれの学科・コースで学んできた内容を生かすことも出来る。戦術研究に長けている魔法研究科・魔法史コースの学生は試合運びがどんどん上達する。魔法学コースであれば、手持ちの数が増える。魔法技術科とて同じだ。街中で機能している魔法を詳しく調べれば、魔術祭で使える魔法に改造できる。

 自分が学んできたことをどれだけ活かせるか。その実力を見せるのが、魔術祭だ。


 「明日は、どんな感じなの?」

 「明日は、エレンさん始め、生徒会5年生が居る。」

 「エレン会長は、今回の優勝候補筆頭だもんね。」


 エレンさんと昨日今日、一緒に居て色々聞いたけど、明日のエレンさんの相手は同じクラスの人で、良く知っているって言ってた。自分の手の内を明かすのを最小限にするために、試合開始早々に仕掛けるか、これまでの先輩達と同じように最初は動かずに居るか、かなり悩んでた。

 判断1つ間違えれば簡単に足元すくわれるって。お互いを知り尽くした間柄だから、警戒して、何も起きない状態が続けば、自分の物だってエレンさん言ってた。


 「でも、相手の先輩も中々やるって。」

 「エレン会長と対戦相手の、ミウ先輩は、去年、一昨年の冬の魔術祭で、クラスを優勝にした2人だからね。」

 「なんでそんな事知っているの?」

 「今日レベッカ先生に聞いた。」


 あ、納得。



 秋の魔術祭3日目。この日から2回戦がスターと。3日目に行われる試合は、外側シード枠の4試合。この3日目は生徒会の5年生3人が出るとあり、1日目と2日目以上に盛り上がりを見せている。

 3日目第1試合に出場するエレンの試合を見るため、この日は、村正も朝から競技場に来ていた。この日は注目カードが多いので人も多い。人混みを避けようと、村正は別会場に作られた観戦場へ向かう。その場所は学生しかいないのと、設置されている画面が小さいので人の数は多くない。


 「あれ、紺野君もここ?」

 「ん?」


 やってきたのはイルミア。イルミアもまた、人混みを避けてこの場所にやってきた。いつも、一緒のリリィは居ない様子。

 

 「イルミアも混雑避けて?」

 「うん。そのほうが、集中できるかなって・・・。」


 イルミアは1人でいる村正を不思議に思いあたりを見回す。


 「ユウキは一緒じゃないの?」

 「いつも一緒とは限らないよ。」


 そう言うイルミアも、リリィ一緒じゃないよね?


 「――そっか。」


 村正とイルミアは観戦会場に用意された、テーブルに座る。

 第一試合は生徒会、エレン・ドーチェルと5年生のクラス代表。5年4組クラス代表、ミウ・ロウ。昨年の冬の魔術祭で、4年4組を優勝に持ち込んだ2人の試合の注目度が高い。

 試合開始前に、2人の姿がそれぞれ映し出される。その映像に映ったエレンに違和感を覚える村正。それは、エレンがいつも持っている剣がない。その代わりに、少し長めの棒が握られている。エレンはその棒を縦に強く振って感触を確かめている様だった。


 「エレンさん、あんなの持ってたんだ。」

 「いつもは違うの使ってるの?」

 

 イルミアは、エレンとはあまり関わりがないので、村正の気付いた違和感に気づかない。

 村正は、普段はエレンが持っている券があると話す。


 「もしかしたら、邪魔なのかも。」

 「邪魔?」

 「うん。会長さんが何をしようとしているのかは、まだわからないけど、たぶん今持ってる棒じゃないと都合が悪いのかも。」


 対戦相手のミウもまた、エレンと同様に、棒を持っている。こちらはすぐに杖だとわかる。

 この試合、今までの補助なしで試合を行ってきた学生とは違い、最初から杖を使用している。だが、お互いをよく理解しているもの同士。この状況が生まれたのは必然だった。

 初日、杖をはじめとする補助なしで魔法を出し合って以降、どの試合もそうなった。この流れを見たエレンと、ミウは、補助ありで魔法を連発するさせるほうが、有利だという結論に達した。

 2日目の試合では杖を持ち込む学生もいた。持ち込んだのは、生徒会メンバーの4年生2人。補助なしで魔法を発動させる事の意味を理解していても、先へ進めなければ何の意味もない。昨日の1回戦、生徒会の4年生は2人とも突破している。結局、補助ありが、一番魔法を丁寧に発動しやすい。


 「あ、始まる。」


 秋の魔術祭3日目第1試合スタート。

 試合開始の合図が出た瞬間、すぐに両者はお互いに、杖の先を相手に向ける。昨日までの試合と違うのは、始まってすぐに、魔法を放っていない点。

 お互い、杖を向けたまま微動だにしない。その異様な空気間に、観戦会場も、その空気に包まれる。まだ、魔法は1つも放たれていない。完全に会場は沈黙に包まれる。その沈黙が10分、続く。あと10分、この状態が続けば、2人ともペナルティで、体力を削られる。

 エレンと、ミウが何をしようとしているのか、誰にも想像出来ない。最初、2人そろって、無詠唱で上級魔法を出すんじゃないかと、思われたが、それでも時間がかかり過ぎ。他に何か、別の考えがあるんだと思われている。

 さらに5分が経過し、このまま何も起こらないかのかと、思われたとき、動きがあった。


 「あ、動きが。」


 エレンに向かって炎が突き進んでいく。その炎を見ても顔色1つ変えずに、水魔法で消火する。

 次に、エレンが氷柱を飛ばすと、ミウは、その氷柱を燃やして行く。

 その後も簡単な魔法のやり取りは行われるが、それだけ。他には何もない。ちょっとの魔法のやり取りが終わると、また、お互い、杖を向けたままの状態に戻る。魔法を使用している間も、その状態は維持され続けていた。


 「もう、30分近くあの状態だけど、よく腕持つな。」

 「腕?」

 「だって、あの状態でずっと居るのって相当きつくない?」


 それなのに、2人は顔色1つ変えずに今も立ち続けている。その状態を知ったイルミアは1つの仮説を村正に話した。

 

 「あれ、ただ伸ばしてるんじゃないのかも。」


 2人が杖を向けあったのは、試合が始まってすぐ。1秒掛かってない。もし、杖を向けたのではなく、腕の自由を奪われたのだとしたらどうだろう。


 「もし、2人が同じ魔法を使ったとしたら、見え方変わるかもしれない。」

 「同じ魔法?」


 イルミアは頷くと、村正に力魔法をお互いが使用した可能性を話す。試合開始直後に、お互いの杖が握られている腕を力魔法で、吊し上げるようにして、その状態で固定する。一見、両者が杖を相手に向けたと見えるが、実際は腕の自由を奪われた形になる。


 「2人そろって同じ魔法で自分の腕が固定された。だから、不自然に長時間同じ体勢で居られる。」


 エレンもミウもお互いのことを知り尽くし、どんな戦術を練ってくるかも想定している。

 そして、昨日までの試合を見た2人は、きっと、すぐに魔法を放ってくるだろうと考えた。杖を持ち込むことも想定内。あとは、腕の自由さえ奪えば良い。そして、2人そろって同じ行動をとった。

 

 「たぶん、2人とも、自分と同じ考えをしていると考えたんじゃないかな?」

 「でも、それだけで、膠着状態になるの?」

 「知らない?あの2人、去年と一昨年の団体を優勝に導いた知略の2人だよ。」


 イルミアは、昨日、一昨日とレベッカのもとに居なかった村正が2人のことを知らないと思っている。

 村正も、そのことは昨夜ユウキから聞いたことを話す。


 「いきなり自分と同じ行動をとった。なら、どこまで自分と同じことを考えてるか、当然気になる。」

 「じゃあ、今は何しるの?」

 「先の読みあい、かな~?」


 こればっかしは、イルミアも仮説でしかないから、絶対に正しいとは言えない。もしかしたら、もっと別の状態が2人を包んでいるのかもしれない。

 どっちにしろ、試合会場にいる2人が、ただ何も考えずに立っているわけでは無いことだけは、言える。


 そして、このイルミアの仮説は的中していた。今もエレンとミウの腕は、お互いの魔法によって吊るされた状態で維持されている。その腕を今も魔法で固定させている。自分と同じ行動を相手もとった。という事は、その先の流れも、同じ事を考えている可能性が高い。普通の人ではまず、そんな事はない。だが、エレンとミウは違う。2人は、阿吽の呼吸で、お互いの考えが言葉にしなくても通じるほど。エレンのクラスメイトは、この試合を決勝戦で見たかったと言うほどの好試合。

 先ほど起きた魔法の打ち合いは、エレンとミウがお互いの考えを確認するために行ったもの。その魔法の打ち合いで、相手と自分の考えがほぼ一致していることが分かった。相手がどう動くかわかっている。エレンがミウの動きを理解しているように、ミウもエレンの動きを理解している。

 今、2人の頭の中では、この試合をどう運ぶか、入念に計画が練られている。自分が動くと、相手はどう動くのか。そこをしっかりと予測していく。そして何度も、自分で検証する。自分が思い描いた考えは、相手も考える。それではだめだ。何度も計画を立案しては破棄の作業が繰り返されている。

 この試合、先に行動計画が完成したほうが勝利を掴むと言って良いだろう。


 試合時間、残り、75分。



次回At138.秋の魔術祭Ⅲ

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