At136.秋の魔術祭Ⅰ
秋の魔術祭スタートです。
10月になり、この学園に熱き戦いの時が訪れた。年4回行われる魔術祭。その第2回目、上級生による魔術祭が行われる。日程は1週間。会場は、下級生の時とは違い、力魔法の中でも空間魔法に長けた教師陣が共同で作り上げた魔法道具による特殊空間で行われる。その特殊空間が使われるのは、秋の魔術祭と、冬の魔術祭の2回。
観戦組は、競技場でライブ映像を通して観戦する。
魔術祭が始まる3日前、当日のトーナメント表が発表された。1回戦~3回戦までは1日4試合。出場する学生は24人。トーナメント表に1~24まで番号が振られており、3~10番と、15~22番が1回戦から。1・2番、11・12番、13・14番、23・24番がシード枠で2回戦から。
初日に行われるのは1回戦3~10番までの4試合。初日は、毎度のように注意事項の説明が行われるので、全員が集められる。注意事項は夏の時の一切変わらない。これは、観戦側も同様だ。
今年の秋の魔術祭は、トーナメント方式。一番遅い人は3日目まで試合が無い。1回戦から試合に出る学生の試合を観戦する人と、自主練する人の2つに分かれた。
先輩たちの魔法技術を見ようと、多くの学生が競技場や、他の場所に設置されたライブビューイング会場に居る。そんな中、彼は学園の図書館に来ていた。
「こんな所に居て宜しいのですか?」
「魔術祭の期間中は、基本自由行動だからね。」
「先輩方の魔法、見なくて良いのですか?」
図書館の2階の個室でくつろいでいる村正。今、この図書館には村正とシロを除けば、他の人は来ていない。学園の図書館と競技場はじめ、観戦会場は距離がある。図書館の職員も魔術祭期間中は最小限しか出て居ない。図書館の職員も、魔術祭は見たい。
「勿論、ちゃんと見るよ。」
「本当ですか?」
「うん。もうちょっとだけ待ってて。」
村正達が居るのは一番奥の個室。今日、ここである人物と待ち合わせて居る。その人物は、今用事で競技場に居る。村正は寮の部屋で待って居ようと考えたが、ユウキにそれは駄目だと言われた。それで、この図書館に来ているのだ。
村正がどうしてここに来ているのか、シロは知らない。いつも村正と行動を共にし、彼が人と交わす会話は大体把握している。そのため、シロが知らないと言う事は、直接言葉を交わしたわけでは無いと、言う事。
「もうちょっとって、どのくらいですか?」
「今、10時過ぎだから、多分15分程かな。」
「・・・はぁ。」
このシロのため息は、村正の言動に嘘がない事が判明した為。自分に嘘をつくことが出来ない、主の言葉に嘘が無いと分かった以上、それ以上追及するのを諦める。
その村正は一冊の本を読んでいた。内容は、補助なしで魔法を上手く扱う方法。補助とは、俗に杖を始めとする、魔法発同時に手に持つ物全体を指す。これは、杖だろうが、剣だろうが、指示棒だろうが関係ない。その気になれば、自分の腕を前に突き出すだけでも良い。
ただ、そうした事が出来るようになるには、猛特訓が必要になる。初級魔法や、自分が使い慣れた魔法であれば、それほど時間は掛からない。まずは、そこから練習を始める。村正は、まだ、杖の補助なしでは魔法を上手く発動出来ない。せいぜい、フィール系統の魔法が良いところなのだ。
「シロは、補助なしでも魔法使えるよね?」
シロは顎に指を当てて天井を見上げる。
「ただ、私は扱うのが生命の基礎分野、特に、治療や回復と言った魔法です。その場合、杖が邪魔になる事もあるので。」
「初めて知った。」
「治療を行うと言っても、ただ傷口を閉じるだけですので、まあ、補助があっても変わらないんですけどね。ですが、身体の内部の傷を塞ぐには、細かい作業になるので、無い方が早い時もあります。」
補助の有無の必要性は魔法の効果によっても変わってくる。その基準は、魔法を繰り出すか、付与するかの違いである。
「詠唱なしで、補助なしって結構すごいのかな?」
「ん~、魔法にもよりますね。重力系統の魔法は、それになりますし。」
「ああ、確かに。」
フユウ魔法なんか特にそうだ。軽くジャンプすれば、体が浮く。詠唱も何も無い。ただ、そうイメージするだけで完成する。
「魔法使いの力量は補助なしや、詠唱なしだけが判断基準ではありませんが、一番目に見える形なのは事実ですね。」
目に見える形、か。複雑な魔法を使えるのも、力量の1つなんだろうけど、完全に自分の力だけで魔法を使えたらなって、最近思うんだよな。上級生を見てると、殆どの先輩が、補助なしでやってる。魔法を使い始めたばかりの僕等なんかは、補助ありが殆どだけど。
でも、もう補助なしで魔法を使える子だって居る。この事をイブさんに相談したら、僕の場合、魔法が大雑把になりすぎだから、補助なしで扱うのはまだ無理だと言われた。出来ても、無詠唱までだと。
「紺野君、待たせたね。」
村正達の居る個室に、村正が待つ人物がやって来た。
「いいえ、全然大丈夫ですよ。」
村正と待ち合わせをしていたのは、生徒会長であるエレン。彼は、今回の魔術祭、シード枠に振られているので、今日と明日は暇になる。そんなエレンは村正を連れて学園校舎の屋上へと向かう。
学園の屋上は、一部が庭園になっており、学生であれば出入りは自由だ。
「誰も居ませんね。」
「っはは。今日は魔術祭だからね。みんなあっちさ。」
エレンがここへ来たのは魔法のテストをするため。村正を選んだのは、単なる興味から。
「それで、今日はどうして僕を?」
「紺野君には、ちょっと魔法の手合わせをお願いしたいと思ってね。」
「魔法の、ですか?」
エレンは屋上の隅っこに設置されている設備に手を翳す。すると、周辺に結界が展開される。
「エレンさん、これは?」
「おや、見るのは初めてだったかい?」
普段屋上へ来ることのない村正は始めて見る機能。この学園には、村正が知らないだけで、色んな機能が備わっている。エレンがこういった設備の事を把握しているのも、生徒会長ならではかもしれない。
結界が張られた事で、外に魔法が漏れ出る事はない。ただ、強力な魔法には、耐えられない設計。学園の校舎の上で使う様な魔法なのでそこまで、想定されてない。
「今から僕が簡単な魔法を紺野君に向かって放つから、それを受けながら紺野君は僕に攻撃して欲しい。」
「わかりました。」
シロが審判役に指名されてしまったので、村正は予備で持っていた杖を取り出す。最近、物を大きくしたり小さくする魔法を覚えた。シロが杖になれない状況でも魔法を使う事が増えつつあるので、通常の杖を持ち歩く回数が増えた。
2人が適度に距離を取ったタイミングでシロが開始の合図を出す。
エレンはただ、突っ立ったまんま。村正が不思議に構えていると、急に体が後方へ弾き飛ばされた。村正はこの感覚を知っている。よく、寮で事故った時にユウキが放つ風魔法の1つ。エレンは詠唱も、発動させる素振りも見せることなく魔法を放った。
エレンの魔法を見て驚いたのは村正だけではない。シロも同様に驚いていた。今のは簡単な初級魔法。だが、いきなりだったので、思わずびっくりしてしまった。
「エレンさん、今のは。」
「そ、詠唱も何もせずに魔法を発動させた。攻撃系統の魔法の中でも、風魔法の属する力分野は特にこの効果が大きいんだ。」
「目に見えないからですね。」
何故、エレンが風魔法を選択したのかを直ぐに理解するシロ。
村正に気を取り直すように促し、エレンはさらに魔法を繰り出して行く。
エレンを中心につむじ風が発生する。それは風の壁となっていく。土煙を巻き上げないその風は、本当に、そこに壁があるのかと思わせた。だが分かる。風の圧とでも呼ぶべきだろうか。風の勢いが村正まで届き、彼にプレッシャーを与える。
「さあ、紺野君。君はこの状況をどうする?」
「お兄ちゃん。これは初級魔法です。驚いている間に、詠唱在りでもこの状況まで到達しますよ。」
シロは、初級魔法の無詠唱で驚いては駄目だと言う。初級魔法を無詠唱で行うのは、前期に課題でも出されている。もう、誰でも出来る技術。だが、それを対戦する相手に出されるのは意味が違う。その魔法が何なのかを見極める必要がある。
「なら、こうします。」
村正がエレンに杖を向ける。
杖を向ける。それは、相手にこれから攻撃しますと言うサインを送っている様な物。当然、エレンも、そして審判として見て居るシロも理解できること。
エレンは、村正が杖を向けた瞬間に次の行動に出る。
「えっ!?」
風が村正の横を吹き抜ける。その後すぐだった。村正の体が後方へ大きく吸い寄せられる。
踏ん張ろうと杖を地面に強く突き立てる。だが、地面は土ではない。そして、村正を引き寄せる力は強まる一方。このままでは屋上のフェンスに張り付けられる。そうなる前に、村正は次の行動を取らなくてはならない。
この状況で、村正が使える魔法は1分野しかない。他の基礎分野の魔法は発動させるために、ほんの一瞬だけ隙が生まれる。その隙が出来た瞬間、一気にフェンスに叩きつけられるだろう。
「重化。」
重化。人や物体の重さをより重くし、その場に留まらせるのに使う魔法。あまり使い勝手の良い魔法ではないが、泥棒対策では効果抜群だったりする防犯用の魔法。
村正は、自分の体重を重くして引き寄せられる力に耐えようとした、のだが・・・。
バタン!
「うわっ!?」
加減を誤った村正は耐え切れずに地面に倒れ込む。流石に、これでは引き寄せられないので、エレンは魔法を止める。
「すいません、助けてください。」
地面に張り付いた村正は、シロとエレンに助けを乞う。エレンが笑っている横で、シロが村正に掛かった魔法を解除する。
立ち上がった村正は、制服についた埃をはらいとる。
「大丈夫かい?」
「はい。ちょっと加減を間違えたみたいです。」
「だが、あの状況では今みたいな魔法が対応策かな?」
エレンは、村正の反応を見て、今回の魔術祭で使用する魔法で相手がどんな対策を取るのかを検証していた。他の人に目立たないようにしたのは、他の人に使う魔法を悟られないため。
「でも、初級魔法は殆ど突破されると思うんですが。」
上級生同士の試合。初級魔法なんて使われないんじゃないかと考えてる間は、まだまだとエレンは言う。
上級生になるほど、魔法の使い方は上手くなる。不意打ち系の魔法は殆ど初級魔法。初級魔法を上手く組み合わせ、相手を翻弄する。そして、オリジナルは、初級魔法からヒントを得て行く。
オリジナル魔法を持つが学生も多い、秋の魔術祭。下手にレベルの高い魔法を出しても、持ちてが少ないのが分かってるので、簡単に対策が取られる。
「初級魔法は、使いこなせば十分力になる。それに、無詠唱で出せば、相手を牽制出来るしね。」
村正も、いきなり吹き飛ばされた時のことを思いだす。急に体が飛ぶと言うのは確かに、相手に与える影響は大きい。
それに、力分野の魔法は、目に見えない効果を持つ魔法ばかり。それを躱すのは感覚が物を言う。
「今は本当に簡単な物しか見せていない。次は、ちょっと違う魔法を出して見るから、頑張って反撃してみて。」
「分かりました。」
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村正が屋上でエレンの魔法を受けて居る頃、魔術祭の会場では、既に1回戦、第1試合が始まっていた。
第1試合は、4年生と5年生の試合。共にクラス選抜の学生。今回の秋の魔術祭は、各クラスの代表者以外にも、教師による推薦がかなり多い。と言うより、クラス代表の数を推薦が上回っている。ただ、生徒会に所属するメンバーが5人居るので他の推薦は7名。
生徒会以外の推薦は、5年生4名、4年生3名だ。
「特殊会場で行われているが、貴様等1年が見るともしかしたら、つまらんかも知れんな。」
秋の魔術祭も1組の学生の傍で解説を行ってくれるレベッカ。
1年生がつまらないと思うのは、変化という変化、動作という動作が殆どない事を指している。レベッカの指摘通り、解説なしで見ている1年生はちょっと物足りなさそうにしてる。
5年生の学生は手ぶら。4年生の学生も指先をちょっと動かす程度に留めて居る。
「なんか、お互いただ立っているみたいに見える。」
「私も。」
ユウキとリリィには、現在先輩達が何をしているのか、さっぱりの様子。さっぱりな理由は、使用されている魔法が目視確認しずらい、力分野の魔法だから。だが、この力分野の魔法こそ、こうして特殊空間で行われる理由になっている。
力分野の他に、もう1つ、波分野の魔法も理由に含まれる。この2つの魔法は学園の所有する結界を通り抜けやすい。特に、波分野は、音と光が基本の為、結界が無力。そのため、外部に漏れる被害をなくすため、こうして別に空間が設けられているのだ。
「魔術祭も経験する回数を重ねると、ああして、目に見える様な魔法は殆ど使わない。」
「じゃあ、実際は・・・。」
「かなり魔法の打ち合いをしている。今は1回戦。タイムリミットギリギリまではこの状況だろう。」
ルールの1つに、何もしないと体力を削られると言うのがある。だが、何もしていないように見えて、実は、攻防が続いているので、そのルールには抵触しない。
この殆ど動きのない状態が長続きするので、1年生は飽きて来る。その反対に、魔法に長けてきている上級生にしてみれば、どっちが先に動くかハラハラする試合になる。
15分経過したところで動きがあった。と言ってもちょっとしたもの。5年生が攻撃に徹し、4年生が防御に徹している。一瞬、4年生側に隙が生まれた。その隙を見逃さなかった、5年生の先輩は、そこに、攻撃を加える。守りに入る方は、飛んで来る魔法を即座に消して行く。それでも使用しているのは初級魔法のみ。と言うのも、中級魔法の欠点として、発動する際の魔法陣が大きいと言う欠点がある。初級魔法であれば、魔法陣が小さいので、魔法で隠せると言う利点もある。
「先生、質問。」
「なんだ?」
「なんで初級魔法ばっかなんですか?」
「初級しか使わないのは、これが1回戦の第1試合だから。そして、中級以上では、たとえ無詠唱で発動出来るとしても、魔法陣が大きすぎで格好の的だ。威力のある初級魔法を撃ちこまれ続ければ消滅する。」
発動までの時間の短さも行かせるのが初級魔法。中級魔法でも、中の下の魔法なら、使い勝手が良い。
それでも、自分の手の内を簡単に開かさないのが上級生のやり方。そして、簡単な魔法しか使わない事で魔力消費も抑えられる。終盤、魔力不足で負けると言う事も少ない。
「これから起きる出来事、しっかり見ておけ。夏とは全く違う魔術祭になるからな。」
上級生によるハイレベルな秋の魔術祭がこうして始まった。
次回At137.秋の魔術祭Ⅱ




