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異世界転生したので精一杯頑張ります  作者: 辻本ゆんま
第5章 ルマニミ王国
114/165

At.113.帰路計画

お久しぶりです。

 朝、と言ってもまだ日が昇っていない時間。夏にも関わらずまだ、夜が明けていない。遠くの空が明るくなり始めようとしているか否かのところ。この夏でこの暗さ。昨日の村正の就寝時間から考えれると、ほぼ寝ていないのとあまり変わらない。

 その理由は昨夜の事。村正は昨夜マーシャルの話を聞いて自身の中で色々と思うところがあったと言っても良いのかも知れない。


 「大きな魔法を使える素質のある人にはそれだけ多くの知識を知っておいてほしい。」


 マーシャルのその言葉がいつまでも村正の頭の中に残り続けていた。

 仰向けに天井を見つめる村正。シミ一つない天井がそこにはあった。


 「多くの知識、か・・・。」

 「お兄ちゃん?」


 村正の様子に気付いたシロが村正に声を掛ける。

 

 「どうしたんですか、さっきからずっと寝返りを打ち続けて?」


 自分では動いていないつもりだったけど、シロを起こしてしまう程に僕は動きまわっていたらしい。多分、それほど僕の中では大きな意味を持ったのかも知れない。今まで言われて来た言葉の中でもかなり心に響いた言葉だった。

 僕は体を起こし、シロと面を向かう。


 「実は、マーシャルさんに言われた言葉が頭から離れなくって。」


 村正の言葉を聞いたシロは目を閉じて村正の言葉の意味を探る。


 「確かにマーシャル様のお言葉は、今後のお兄ちゃんに大きな意味を持たせそうでしたね。」

 「大きな意味?」

 

 首を傾げる村正にシロは窓の傍に移動すると、部屋のカーテンを開けた。そこには夜のルマニミ王国の光景が広がっていた。明かりが消えているのにそこにはっきりと街があると分かった。

 もうすぐ朝日が昇ろうとしている街は、少しずつ新たな一日を迎えようとしていた。


 「お兄ちゃんはまだ魔法を多く知りません。」

 「まあ、ね。」

  

 今年まで一度も魔法なんて物、使ったことも見たことも無かったしね。ていうか、住む世界違ったし。

 けど、その事は言い訳にしかならないんだよな。元々魔法なんてない世界から来た人間です。

 それは僕の個人的な事でしかなく、この世界の人達には僕も他の人と同じように見えている。それに、


 「この世界の男子は魔法そのものを知らない人も居る・・・。」


 結局のところ、僕の立っている場所は、この世界の人達と大差ないんだ。違う世界の人間だった。それは、自分に対する自信のなさを肯定するための甘えでしかないのかも知れない。

 そう思うと、余計に自分の頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。


 窓の外を見ながら大きく背伸びをする村正。考えていても、今はどうすることも出来ない。それは、彼が今後の生活の中から最適解を見つけて行くしかない。この、「正解」と言う物が無い問題の中から。

 遠く、東の空の果てからゆっくりと太陽が姿を現す。その瞬間、街が一気に太陽の光に包まれていく。周りに、遮るものが一切ない、こんな世界だからこそみられるこの光景。自分に真っすぐ太陽の光が差し込んでくるなんて、元の世界ではあまり縁のない光景だった。

 眩しいはずの太陽を見て居ても、何故か、眩しいと感じなかった村正。不思議と、その太陽に惹かれる村正を、横に立つシロが不思議そうな眼差しを向けていた。

 窓を開けると、朝の心地よい風が入り込んでくる。真夏と言えどこの時間の風は心地よい。風に乗せられて、王城の兵士たちが剣を打ち合併せている金属音が風に乗せられてやって来る。数が少ないせいか、その音は決して不快な音では無かった。むしろ、異様なくらいに心が落ち着いた。


 「力を持つ者はそれなりの責任を持つべき。」

 「お兄ちゃんは、もっと肩の力を抜いても良いと思いますよ。」

 「え?」

 「周りの人がお兄ちゃんの事を心配して色々と目を掛けてくれているのも事実でしょう。しかし、もし、その事がお兄ちゃんの負担になるようでしたら、無理にそれら全てを背負う必要はないと、私は思います。」


 唐突のシロの発言。それは、昨日までのシロの考えに、僅かな矛盾が生じているように感じられた。


 「何か心変わりでもあったの?」

 

 シロは首を横に振った。


 「これから先、もっとたくさんの人に出会い、その度に多くの意見をいただく事でしょう。その言葉1つ1つに耳を傾けていては、壊れてしまいますよ。」

 「・・・。」


 ――壊れてしまう。

 僕は、シロが他の言葉ではなく、この言葉を選んだのを単なる偶然とは思えなかった。それは、僕に向けられたシロの目がそう言っていた。()()()()()()()()()()()()と。

 ストン、と心に落ちて行くような言葉。僕は、シロの言葉に対して、何も言えなかった。多分、怖くなったんだと思う。その事を察したシロはすぐに、元の優しい表情に戻った。もしかしたら、あれはシロの精霊具としての本当の部分が一瞬だけ表に現れたのかも知れない。


 「大丈夫ですよ。もしもの時は、私が責任を持ってお兄ちゃんを止めますから。」

 「止めるって、息の根じゃあないよね?」

 「冗談が言えるようになったのであれば問題は無いですね。」


 にこやかなシロの表情に救われた気分になった村正。

 今彼に出来ることは、与えられたものとしっかりと向き合う事。学生である村正にはそれ以外の方法は無いのだから。

 シロと話して気持ちが落ち着いた村正は、朝食を食べに向かうために、着替えを済ませ部屋を出た。朝食の場所に向かうと丁度、シギーも来ていた。


 「おはようございます。」

 「あら、紺野君。早いのね。」

 「ええ、まあ。なんだか寝付けなかった物で。」


 村正はシギーの向かいに座り、シロが村正の分の朝食も取りに行く。


 「帰りも長旅なんだし、休める時に休まないとよ?」

 「そうなんですけどね。」


 眠ろうと下手に意識してしまうと、何故か反対に目が醒めてしまう。

 

 「何か、気になる事でもあった?」

 

 村正の僅かな表情の動きを読み取ったシギーは村正に訊ねる。


 「いえ、そう言うわけではないんです。多分ですけど、色々な事がありすぎで、頭が整理できていないんだと思います。」

 「整理できていない?」


 なんて言ったら良いんだろうな~。

 思い浮かばない訳ではないんだよ。ただ、この世界の人達には多分通じない。


 村正が頭に思い浮かべたのはパソコンの更新時の事。シャットダウンしようとすると、更新が入って、暫く電源が落ちないあのタイミング。今の彼にはその時が訪れているのかも知れない。そう思ったはいいが、その事を理解できるのは今のところこの世界では恐らく1人だけ。それが、あの人と思うと、村正からため息がこぼれ落ちた。


 「また、随分と大きなため息ですね。」

 「あ、見られた?」

 「ばっちりです。」


 朝食を貰って来たシロが合流し、村正の隣に座った。

 

 「大分中が深まったみたいだね。」

 

 村正とシロの会話を見て居たシギーが、そんな事を言った。そんなシギーの言葉に、村正とシロは首を傾げる。


 「なんと言うか、こういう場では主従関係ってよりも、兄妹に見えるなって。」

 「「・・・。」」


 端から見れば、普通の兄妹に見えるのも当然だろう。実際、村正達も最近はそんな関係にあろうとしている。立場を問われるときはしっかりと主従の関係に戻る。

 シギーみたいに、初めから村正とシロの関係性を知っている人から見て見れば、二人の仲が深まるのは良い傾向だと思いたいのだ。


 「この関係がいつまでも続いてもらいたいしね。」

 

 シロが村正の様子を伺ってから、


 「私はそのつもりです。主がその生涯を終えるまでは。」


 その時のシロは一瞬だけ、神々しかった。揺れる真っ白な髪が、そう思わせたのかも知れない。

 シロが、僕の事を主と呼ぶことは滅多にない。そして、僕はシロの覚悟みたいなものを聞いた気がした。

 シロの言葉に何か満足した様子のシギーさんは立ち上がると、ギル殿たちと帰りについての話があると言って、席を立った。


 「じゃあ、紺野君、シロちゃん、後でね。」

 「はい。」



==============================================



 ルマニミ王城の一室、会議室として使用されているこの部屋に、ギルディスを始めとする三人の人間が集まっていた。その部屋にシギーが四人目として入室した。

 

 「お待たせいたしました。」

 「別に構わんさ。」


 ギルディスが片手を上げて返事をした。

 シギーが来たところで、会議が始まった。内容は勿論、帰路について。行動指針に大きな変更はないが、帰りはイブが居ないという点で魔法面での警備体制に問題が生じるか、についてだった。その事については、シギー、テンの両名の見解としては特に問題は無い、との事だった。


 「今のところ道中で賊等が現れた、と言う様な情報もないですし、さして大きな問題は無いかと思われます。」

 

 現段階では、問題ない事を改めてシギーが伝える。イブの存在と言うのがどれだけ大きいかが、この会議で改めて強調されていた。


 「本国からの情報でも、特に何も無かったし、問題はないだろう。」


 彼女たちの意見に理解をしめすギルディス。但し、イブが欠ける分、警戒を強めるて欲しいとの要望があり、その事をシギーたちは了承する。また、いざという時の魔法使い側の指揮権は、テンに任されることになった。全体の指揮権はケベックが担う。

 会議自体はものの10分程度で終った。会議と言っても出発前の役割確認の様な物だった。そのためか、特に座って行われる物でも無かったので、会議が終了すると、皆早々に部屋を後にする。それぞれの支度が残っているためだ。

 支度と言っても、基本的には荷物の整理や、人員の配置について、各々が各部隊と打ち合わせをするだけで大掛かりな何かがあるわけではない。

 ただ来た道を戻ると言う一見簡単な行程であっても、それを行う人物や人数が変わればそれもまた、ちょっとして事になる。念を入れておいて損することなど特にない。石橋を叩きすぎなければそれでいいのだ。


 「仕事は戻ってからの方が大変なのではないですか?」


 シギーはギルディスに対してそんな事を言った。

 今回の会談は、インディアル王国が未来に起こり得る可能性の事を相談しに来た。そう考える人も中には居た。そこで決まったことを今後どうしていくか。自国内で考えなくてはならない事もある分、確かにシギーの言った事は当たっては居る。ギルディスにしてみれば、耳を塞ぎたい話題だったのか、遠くを見ながらそっけない返事をするにとどまった。


 「まあ、それは仕方ないさ。」

 

 国王の仕事は大変でなんぼと言わんばかりだった。




次回At114.な~んにもない帰り道

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