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僕の、恥ずかしくて、辛い、おもらし

作者: LiN

 憂鬱なままたどり着いたひさしぶりの校舎はしんとして、なんだかいつもと違う建物のようだった。遠くで部活をする音だけが聞こえる。僕は下駄箱で上履きに履き替えると、職員室へ向かった。校舎の中はむっとして、シャツが肌にはりついた。


 僕が「失礼します。」と言って職員室に入ると、大林先生が一人だけいて、机から顔をあげた。

「こんにちは。ひさしぶり、穂積くん。」

「こんにちは。」それだけ言うのに僕はすごく緊張した。

「心配してたよ。」先生はそう言うと僕の頭をぽんっとなでた。

 僕は何も言わずうつむいていた。

「登校日もお休みしたでしょう。体調が悪いってお母さんから連絡あったけど。」

 そう、僕は夏休みの登校日に学校に行かなかった。体調が悪かったというのは嘘で、お母さんには学校に行きたくないと言ったんだ。

 そしたら何日かして、うちに先生から電話がかかってきた。お母さんが先生と電話で話したあと、僕にこの日に学校に行きなさいと行った。その日は大林先生がいるから、と。

 学校には行きたくなかった。会えばきっと大林先生はあの話をする。でもお母さんから「新学期が始まる前に着替えを返さないといけないでしょ。」と言われ、仕方なく僕は学校に行くことにした。たしかに新学期になってから着替えを返しにいくと、誰かに見られるかもしれないから。


「これ…かしてもらったやつです。」

 僕は先生に紙袋を渡した。

 先生は紙袋の中身を確認した。僕は自分の耳が赤くなるのが分かった。紙袋の中、ビニール袋に入っているのは、保健室で借りた短パンとパンツだった。

「ああ、ありがとう。でも保健室で借りたものだから、保健室に返さないと。保健の先生いないけど、返しに行こう。置いとけばいいでしょう。」

 早く自分の手から離したかったのに。先生に紙袋を返されて、僕は出そうになった涙をこらえた。

 職員室から保健室に大林先生と並んで歩くと、あの日のことを思い出した。あの時も大林先生と並んで、体育館から保健室まで歩いた。



 あの日、体育館での学年集会の途中で、僕はおしっこがしたくなった。どんどんおしっこがたまっていって、我慢するのが辛くなっていった。すごくすごく我慢した。でも我慢できなかった。みんなが校歌を歌っている途中、僕は立ったままパンツの中におしっこをしてしまった。おしっこは下着の中から溢れてズボンの中でハイソックスを濡らし、上履きを濡らし、床に広がった。あっというまだった。

 周りが大騒ぎになる中、駆け付けた大林先生に「保健室行こうね。」と言われ、頷いた瞬間に涙が出てしまった。僕は先生に手を引かれて体育館を後にした。

 保健室に着くと、大林先生は保健の先生に「この子がおしっこを失敗してしまって。」と言った。僕は自分のしてしまったことの重大さに恐怖した。この子は失敗してしまった。この子はおもらしをしてしまったと言われているようで、保健室の床に泣きながら崩れ落ちてしまった。

 結局僕は自分で着替えることができず、保健の先生に身体を支えてもらって、大林先生に着替えさせてもらった。


 僕が保健室の机に紙袋を置くと、大林先生が「穂積くん。」と言った。

「学校でおもらししちゃったの、穂積くんだけじゃないからね。」

「穂積くんみたいに集会でもらしちゃった子もいるし。」

「授業中に我慢できなくてうんちもらしちゃった子だっているんだよ。」

「先生もね、学校でおもらししちゃったことあるんだ。」


「新学期、学校来てね。負けないで。」



 体育館でおもらしをしてしまったこと。

 みんなに見られたこと。

 泣いてしまったこと。

 着替えができなくて先生にパンツをはかせてもらったこと。

 教室に戻ってみんなにじろじろ見られたこと。

 他のクラスにも言いふらされてからかわれたこと。

 家に帰ってお母さんにおもらしのパンツとズボンを渡したこと。

 妹に知られてしまったこと。

 


 新学期が始まった。

 始業式で校歌を歌う時に「またもらすなよ。」とクラスの男子にかわかわれた。

 他のクラスの女子が廊下で僕を見てクスクス笑った。



 僕だけじゃない。

 恥ずかしくても、辛くても、負けちゃいけない。

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