九十六話―クリスティーナと厳島、決着
ドイツ騎士団の目的。
それはやはり水であった。
今やヨーロッパの水質は完全に汚染され、病でばたばたと人が死んでいる。
かってのペストの流行を思わせる事態だ。
故に、クリスティーナは奪いに来たのだ。
汚染されておらぬ、島国の水を奪いに来たのだ。
「主は私を許されぬ。しかし、私は常に十字架の元に戦っている! 厳島君尋、神の御許へ逝け!」
剣を振り上げるクリスティーナに、厳島は高笑いを上げた。
「なんじゃ、お前、十字架だのきりすとだの、そんなもんがなかと戦えんが!?」
「どういう意味だ?」
厳島は高笑いをやめない。
薩摩武士は、日ノ本侍は、ごく、シンプルに歪んだ高笑いをやめない。
「強か奴と戦いたか! それで良か!」
クリスティーナの目つきが鋭くなる。切っ先が真っ直ぐ向く。
「厳島君尋、君は、いや、君達日本人は人でなしだ。神に与えられた命を自らの欲の為に無碍にする、ごく純然たる人でなしだ」
厳島の鋭い歯が口から見える。
「俺共はな、死にたて堪らんのだ。まっこち立派な死が欲しいんじゃ。それが何がおかしか。どうせ人は死ぬものぞ。ならば、誉ある屍ばなりたい事が何がおかしか。嗚呼、死にたか、死にたか、お前を斬って、皇にお褒めの言葉ば貰って死にたか!」
にたり。
「そして、勝って死にたか」
クリスティーナは咆哮した。
「この悪魔があああああああ!」
それは、愛の咆哮。
クリスティーナの高周波による音のカッターである。
一瞬にして、周囲の日本武士がばらばらになっていく。
「全軍! 死ぬなら今ぞ!」
「おおおおおおおおおお!」
厳島の大音声に、日本武士たちが鬨の声を上げ、突進してくる。
「WOWOWOWOWOWOWOWーーーーーーー!」
クリスティーナの音のカッターが、彼らの首を取っていく。
そのまま、クリスティーナと厳島は、真っ直ぐぶつかりあった。
もはや会話の余裕はなかった。
ただ、しゃむに、剣と刀が打ち合った。
「チェストーーーーッ!」
厳島の一撃が、クリスティーナの左半身を割った。
ずるりと、肉骨ごと滑り落ちる左半身。
厳島の顔が笑みに歪む。
その瞬間、右手だけで、クリスティーナは剣を握り。
厳島の腹を刺し貫いた。
切っ先が背中に現れる、見事な貫通であった。
クリスティーナはそのままばったり倒れ、二度と動かなかった。
厳島は、剣が貫通したまま、ふらつく足で躯に近づいた。
そして、その見開いた目を、刀で節くれだった指で閉じてやった。
「お前様が好きじゃ」
それが、厳島の最期の言葉だった。
幕末の志士は、ヴァルハラに散った。
「厳島様お討死!」
通信機と伝令の忍が一斉に叫びだした。
「皇のご命令を!」
そうして駆け出した足が、ふいに止まった。
クリスティーナが下りてきた山から、一人の忍が、足取りもおぼつかぬ様子で下りてきたからである。
「皇に……至急伝令……」
忍は、前線にたどり着くと、大きく喀血した。
「山上から、ドイツ騎士団全軍が進撃してきます……」
「なんと!?」
「その数およそ百……」
一斉に、日本武士団は辺りを見回した。
そして、この絶望的事態を把握した。
五万の日本武士団は、クリスティーナによって、最早二千にも満たない兵数となっていたのだ!
しかも、兵の質が違う。
日本武士団は、飯塚幾之助と厳島君尋の戦力が特出しているが、他は”鍛錬した雑魚”と云った兵しかいない。
しかし、ドイツ騎士団は違う。一人一人が、能力こそないものの、ほとんど戦士に近い技量を持っている。
日本武士団は、この状況を”理解”した。
日本城本丸。
皇は、ドイツ騎士団進撃の報告を聞き、「如何なされますか?」と問われた。
「答えは一つ」
皇は、立ち上がった。
「総員玉砕せよ!」
伝令の忍は、一礼して戻って行った。




