表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘヴンズ・ドアー  作者: 浮草堂美奈
第十一章 此処は大乱、吹くは神風編
96/112

九十五話―ドイツ騎士団、強襲

「全軍、整列!」

 日本武士団の皆が、刀を、銃を提げて、一斉に敬礼する。

 その目前、日本城の真ん前に、すめらは礼服を整えて立っていた。

「皆の者、ドイツ騎士団の軍勢は、我が国の領土に侵入した」

 重々しい声に、兵達は背筋を伸ばす。

「奴らの狙いは水である。即ち、この日の元の領土である。我々は時代は違えど、国を守って死んだ戦友である。私は、皆が力強く戦ってくれると信じている。よしんば、敵の手にかかる事となれど、一億総特攻の志の元、立派に散ってくれる桜花であると信じている。ヴァルハラには生憎ありはせんが、我らが再び合間見るのは靖国であると信じている。では、皆の者、進軍ラッパを捧げよ!」

 日本武士団から、大声が起きた。

「万歳! 皇御国すめらみくに万歳!」

 ふいに、その列を割って、忍装束の一団が割り込んできた。

「ドイツ騎士団、ただ今山を越えて進撃して参りました!」

「数は?」

 皇の傍らの聡子が問う。

「そ、それが……」

「何です! 早う申せ!」

 汗を垂らして、忍は叫んだ。

「ドイツ騎士団はたったの一騎! 団長、クリスティーナ、単騎でこちらに向かっております!」

 皇は思わず口を大きく開けた。

「阿呆か」

 しかし、思わず冷や汗が流れ出たのも事実だった。

 五万の日本武士団が揃い踏みした中で、たった一騎で攻め込んで来るとは!

「厳島君尋!」

「はッ!」

 帯刀した侍が進み出る。飯塚幾之助が死んだ今、この日本武士団の中で唯一の戦士である。

 彼は、緋の鎧を着こみ、皇に跪く。

「そなたがこの度の総大将だ。ドイツ騎士団団長クリスティーナ、必ず討ち取れ!」

「はッ」

 厳島が下がると、皇は大きく右手を突き出した。

「百戦錬磨の益荒男ますらお達よ! 迎え撃て!」

 

「姉さん、やはり俺達も征く!」

 弟であり、副団長たるハインリヒの言葉に、クリスティーナは首を振った。

「それはならないよ」

「何故ですか団長!」

「俺達も連れて行ってください!」

 ドイツ騎士団団員達に、微笑を向ける。

「この戦は、神の理に反する戦だ。私がやろうとしている事は、「汝盗むなかれ」を破る。それを君達に負わせる訳には行かない」

 その笑みは、あたかも聖母のようであった。

「団長……!」

 団員達の涙を振り切るように、クリスティーナは馬を駆った。

「姉さん……!」


 山を乗り越える間に、木々の濃い匂いがした。

 それが桜の木々である事に気付き、クリスティーナは口角を上げた。

「美しい国だな、此処は」

 馬を暫し止める。

 桜の蕾が小さく木々を彩っている。

 懐からパンを出して齧り、水を飲んだ。

 愛馬は、まだか、というようにクリスティーナを見た。

「ああ、征こう」

 再び馬を駆りながら、クリスティーナは唱えた。

「聖マリア、

私のうちに、あなたの使命を果たしてください。

道・真理・いのちであるイエスを、私にください。」

 山を突っ切ると、あまたの日本武士が銃を向けていた。

「私の魂のうちに光を増し、

私の心の聖なる愛情、私の知性と意志の力を増してください。」

 日本武士の声が響いた。

「構え! 銃(つつ!)」

「私がイエスに従い、イエスを愛し、

天国において、イエスをあがめることができるように、

私にイエスを与えてください。」

 胸元のロザリオを握りしめ、クリスティーナは叫んだ。

「イエスが私のうちにとどまり、

天国で永遠の幸福をいただくときまで、

私が、常にイエスとともにいて、イエスによって歩むことができますように!」

 そして、咆哮した。

「主よ! 私の罪を許したまえ!」

 クリスティーナの姿が変わっていく。

 体に銀色の毛が生え、その頭には獣の耳、尻には尾、更には爪が鋭く伸びる。

 そこに居たのは、誇り高き狼女!

「化けものとて、敵は一騎ぞ! 撃て! 撃てーーー!」

 クリスティーナは剣を抜いた。

「君達の先にマリアの加護を」

 WOWOWOWOWOWOWOWー!

 ついで起きた咆哮が、クリスティーナの”罪の咆哮”である事を知る者はいなかった。

 故に、ただひたすらに驚愕した。

 足元の、土が、無数の狼人間に変わっていったからである。

 これぞ、クリスティーナの秘儀”罪の咆哮”。土に命を与える、神に背いた能力。

「か、か、れーーーーー!」

 クリスティーナの命令に従い、狼人間たちは俊敏な動作で日本武士達に襲い掛かる。

 しかも

「弾が効かない!?」

「撃ってもどうもならんのなら斬れ!」

「駄目です! 斬った先から次々と新しいのが出てきます!」

「なれど我らに撤退無し!」

 狼人間達に、首を喰いちぎられ、腹を引き裂かれながら、日本武士団は果敢に攻撃していった。

「バンザーイ!」

 ついに術無しと知った日本武士団から、「万歳」の雄たけびと共に突撃し、狼人間の餌食となる。

 最早前線は総崩れであった。

 狼人間にはらわたを抉り出された日本武士団の一人が、手榴弾のピンを抜いた。

「君! いけない!」

 クリスティーナが叫んだが、その男は、あえなく自爆した。

 死に際、確かに冷や汗を垂らして笑っていた。

美事みごと! 御美事!」

 戦線を切り開くような大音声と共に、刀を抜いた厳島君尋が突進してくる。

「クリスティーナ・ラインバッハ! 相手にとって不足無し!」

 狼人間を一刀の元斬り捨て、厳島は空中に跳ね上がった。

「厳島君尋!」

おいが相手じゃ! クリスティーナ・ラインバッハ!」

 厳島が刀を構えたまま、跳び下りる。

 それと同時に、クリスティーナの愛馬の脳天が割られた。

 落馬したクリスティーナは咆哮した。

 厳島も咆哮した。

「その首寄越せえええええええ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ