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ヘヴンズ・ドアー  作者: 浮草堂美奈
第一章KGB対抗編
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三話「―今こそ、滅私奉公の時」

『臨時休業』がかかったドアを眺めて、アンドレアは葉巻を灰皿に押し潰した。

「おいサム」

 エスプレッソを淹れてきたサマンサがルージュの塗られた唇で返す。

「何かしら?」

「本当に小娘どもだけで行かせて大丈夫だったのか?」

 コトリ、とアンドレアが背を預けたカウンターにカップが置かれる。

「ふふ、私、貴女のそういう意外と母性的なトコロ、好きよ」

「NoNoNo!」

 顎に手を伸ばして、耳元でに囁かれたのを必死で払いのける。密着して軽く潰れていた胸が離れると、「何しやがんだ!」と怒鳴った。

「いいじゃない」

「何が良いんだ! 何一つ良くねえよ! 真面目に聞け! あの海域はなあ!」

「そうねえ……」

 サマンサは軽く頬に手を当てる。

「でも、貴女が行ったら真っ赤なカーニバルになってしまうわ。あの子たちくらいが適任じゃないかしら」

「真っ赤な……な」

 呟きながらエスプレッソを口にした。苦い。


 海図を見ながら紅玉がポリポリと頬を掻いた。

「此処で合ってるか?」

「合ってるつってんだろうが」

 ダイビングスーツを着込んだエミリーは、乱暴に返す。

「海に関してはエミリーが達人です。お任せしましょう」

 そう、此処まで小型の漁船を運転してきたのもエミリーだ。

「お前が浮かんでこないと我達も陸に帰れないある。気を付けるよろし」

「前置きいらねえよ」

 ボンベを背負うと、依子も軽く眉を寄せて「お気をつけて」と言った。

 軽く親指を立てて、海に飛び込む。

「やれやれ、日焼けするし揺れるしロクな事ないね」

 日焼け止めを塗りなおす紅玉に、水筒の麦茶を差し出す。

「私は少し楽しいです。船に乗れる機会なんてめったにありませんから」

 紅玉はため息を吐いたが、「お前が楽しいんなら上等ある」と言った。

 波飛沫がきらきらと碧い海に光る。

 海猫がミャアミャアと鳴く。

「本当に……綺麗」

「あんまり日向に出ると熱中症なるあるよ」

 和服娘に声をかけるが、「船が見えますー!」とはしゃいだ声が返ってきたので諦めた。

「漁船あるか?」

 船室から出ていく。その表情はすぐに強張った。

「引っ込むね! 巡視船ある!」

 慌てて、船室に飛び込むと、無線を手に取る。

 すぐに雑音交じりの通信が入った。

「CQCQ……貴船の所属と……ザザ……目的を問う」

 紅玉は早口に伝える。

「当船は商店ヘヴンズ・ドアーの個人船だ。この付近で行方不明になった当商店所属の船を探している」

 船の外で水音がする。

「エミリー、無事でしたか!」

 シュノーケルとボンベを外すと、エミリーは叫んだ。

「くっそ、有り得ねえ!」

 水中カメラを依子に押し付ける。

「あのイタリア野郎の船」

無線機は語る。

「当方はソビエト連邦の巡視船だ。こちらの領海で得た情報を提供する」

エミリーは叫ぶ。無線機は語る。

「沈んでやがった!」

「そんな船は来ていない」

紅玉は静かに目を閉じる。

「了解。情報提供感謝する」

エミリーが無線機を奪おうとするも、紅玉は通信を切る。

「おい! どうしたんだよ! 船は沈んでたって言っただろうが! その写真だってバッチリ撮ってるんだぜ!?」

紅玉は冷静な声を返す。

「分からないあるか? 船が沈んでいるにも関わらず、奴らはそんな船は来ていないと言って来たね。何故、船が沈んでるか、此処まで分かり易い事もないある」

 双眼鏡を覗いていた依子が、巡視船の窓の向こうに見た人影を見て言葉を漏らす。

大尉(カピターン)……」」

「知ってる顔か?」

 双眼鏡を覗きながら、依子は叫ぶ。

「自信はありませんが、スチールブルーの陸軍軍服、あの方には見覚えが! 名前も何も分かりませんけれど、お兄様ならご存知かと!」

 波音で声を消されながらも確認するのを、紅玉は引っ張り込んだ。

「エミリー、早く船を出すある! あのイタリア男の二の舞になりたいか!」

 エンジン音を立て、船は唸りを上げて海上を逃げ去る。

 赤い旗が嘲るかのようにそれを見送った。


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